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しおりを挟む「ツバメ!あーそーぼーって、あれ?」
この離れに来て、もう2ヶ月。
(いい加減やることがなくなって来た……)
掃除も料理も全て完璧。
日用品だって作って、生活を楽にする為工夫し尽くした。
結果、もうやることがない。
「ねぇツバメ生きてる? 死んでない?」
「エーリースー……」
「わぁ大変、死にかけだ」
机に突っ伏す俺にツンツンしてくる手。
相変わらずこいつは呑気に毎日通ってくる。
(は、そうか。
俺もうエリスの話し相手しかすることないんじゃ)
え、この意味のわからない奴の話し相手?
いや無理だって俺にそんなの務まるわけが。これまでも全部右から左で何喋ったか覚えてねぇし。
でも本当にもうそれしかすることがない。けどそれ言ったらこいつすげぇ喜びそうだし……
(いや、喜ぶのならいいのでは?)
「え?」
「ん? どうしたのツバメ?」
「ぁ、いや」
今俺何思った? 喜ぶならいいじゃないかって?
よくねぇよ何考えてんだ。
こいつを喜ばすのは俺じゃない、皇帝だ。
だってこいつは皇帝の結婚相手で、俺とは全然違う。
フェガロスも整った顔してんだし美男美女でお似合いじゃん。ん、美男美男? なんか語呂悪いな。
(ってか、なに俺言い訳みたいなことしてんだ)
皇帝とエリスは、大勢の前で祝福されたんだ。
現実的に考えて2人が結ばれるのは当たり前だろ。
なのに、なんでーー
「ツバメ」
「え?」
「今日どうかした? なんで泣きそうな顔してるの?」
「は、泣きそう……?」
座ったままの俺を立ったまま抱きしめる体。
俺より背が低いのに、今は覆われるように頭も全部包まれた。
「なんか今日のツバメ消えちゃいそう。
大丈夫だよ? 僕がいるからね」
「……ちげぇだろ、お前は皇帝の隣だろ?」
「んーん、僕はツバメの隣にいるよ?」
「いや、だからーー」
「だって、こんなに近くで抱きしめてるんだもんっ。
僕は今、誰よりもツバメの近くにいるんだよ?」
「ーーっ」
嗚呼本当、何なんだよお前。
今の話してんじゃねぇよ。距離の話でもないし立場の話なんだよ。
ちゃんと分かってんのか? その自己中心的な頭で。
いや、そもそも立場とかどうでもいいと思ってんのか?
(はぁぁ……もう、わけわかんねぇ)
お前のことも、自分のことも。
こんなに現実が理解できないこと、なかった。
もう、どうしたらいいか……
「あ、そうだ乗馬しに行こうよ!」
「乗馬……?」
「うん、ここから歩いた先に乗馬できる場所見つけたんだよね。訓練するためのとこだと思うんだけど。
きっとこんなところにいるから煮詰まっちゃうんだよ。気分転換に走ったら少しはスッキリすると思うな」
名案!というように輝く顔。
それを眺めながら、おもむろに立ち上がる。
(乗馬か……出身国じゃ随分乗ってたのに、此処じゃ全然だな)
乗ってもいいのなら是非乗りたい。
久しぶりに言葉の通じないものと触れ合うのもいいかもしれない。
…いや、もう既に言葉通じねぇ奴と一緒に過ごしてんじゃん。
けど違う、違うんだ。こいつは言葉は通じないし意思も通じない。だから言葉が通じずとも意思の通じる馬へ会いに行くんだ。そう、そこが違う、大事大事。
「んーツバメ? 目開いたまま寝てない?」
「大丈夫大丈夫、行こうぜ!」
「うんっ、こっちだよ!」
グイッと引かれた手。
その温度に何故かギュッと胸が締め付けられながら、一緒に走って行った。
***
「わぁ、ツバメ上手だねぇ!」
「まぁな」
もう幼い頃からやってきた分、馬に乗るなんて朝飯前。
風を切るのが気持ちよくて何周も作られた道を走ってしまう。
(にしても、随分落ち着いた馬だな)
小屋の中で1番大きなのを貸してもらった。
体の大きなものは暴れやすいが、こいつは静かに指示を聞いてくれる。
日頃の訓練の成果なのか、流石は大国の馬なのか……
どっちにしろかなり乗りやすい。
「ねぇツバメー!そろそろ日が落ちてきた!」
「あぁそうだな、もう帰るか」
「また明日も来ようよ!今日のツバメ楽しそうだったし」
「な、俺じゃなくてお前はどうだったんだよ」
「僕? すごーく楽しかったよ!だってツバメが楽しそうだったからね!」
「いや、だからそういうんじゃなくて……」
(俺やっぱこいつと意思疎通できないのか?)
何故なんだ…やはり人種そのものが違うのでは……
「ーーぁ」
並んで馬小屋を目指していた途中、エリスが小さな声をあげた。
「フェガロスだっ!」
隣の馬が走っていき、小屋の前で佇む人影に向かう。
「フェガロス!迎えにきてくれたの?」
「いや、近くの建物で仕事をしていな。声が聞こえたから立ち寄っただけだ」
「そうなんだ。あ、手貸して?」
馬から降りようとする小さな体を、力強い手が支えるよう手伝う。
その仲睦まじい様子に、ギリッと手綱を握った。
ーーずっとずっと、エリスに聞けなかったことがある。
「俺のことが好きなら、皇帝はどうなの?」
「俺と皇帝を引き離す為自分のものにしたって言ってたけど、結婚したってことは皇帝のこと好きなんだろ?」
「俺と皇帝、どっちのほうが好きなんだ……?」
心を覆う黒いモヤモヤ。
これがなんなのかはわからない。けど、現実を見るためには多分これを理解して綺麗に晴らさなくちゃいけない。
俺は、皇帝が好きだ。
あの人のために努力を惜しまなかった。
離れに来てからもずっと国の勉強や刻々と変わる世界情勢に対応できるよう頭の回転を落とさぬようにしてきた。
なのにお前は、エリスの手を取る。
そしてエリスも、あいつの手を取る。
(なぁ、なんでだよ)
あぁもう嫌でもわかる、これは〝嫉妬〟だ。
俺は何に嫉妬してんだ?
なぁ、俺の心は
「っ、ツバメ!!」
ーーどっちに、嫉妬してるんだよ?
強く握りすぎた手綱の所為で、苦しくなった馬が暴れ出す。
その大きな体でふるい落とすように、身を投げ出されて。
(……あぁ)
真っ逆さまに落ちる手前。
見えたのは、こちらへ全力で駆けてくるエリスと
無表情でただただ見つめる、皇帝だった。
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