純情天邪鬼と、恋

花町 シュガー

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社会人編

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(待ち合わせ場所は、ここであってるよな……)


よく晴れた日の、朝。
動きやすいラフな格好をして、駅前で一ノ瀬を待つ。

テーマパークで改めて(?)想いを通じ合わせてから、1ヶ月ほど。
何回か飲みには行ってるけど、こうして1日出かけるのは初めてだ。

(緊張は……する、かな。でも別に泊まりではないし)

「唯純ー!悪い、遅れた!」

「一ノ瀬」

人混みを掻き分けて長身がバタバタ走ってくる。

「おーいいな。動きやすそうじゃん、靴も疲れないやつ履いてきた?」

「一応。ライブとか初めてなんだけど、これで大丈夫?」

「問題なし!行こうぜ」


『なぁ、俺が高校の頃買ってやったCDのバンドまだ好き?
実は前々からライブのチケットが当たってたんだけど、一緒に行く予定だった奴が行けなくなって。
せっかくの機会だし、良かったらどうかなって』

先週こんなLINEが届き、二つ返事で行くことを決めて今日。
大きなドームへ来ること自体初めてなのに、ライブとかどんな感じなのか予想もつかない……

(誘われてから一応いろいろ曲は聴いたけど、ほぼ付け焼き刃みたいなもんだしガチのファンに怒られないかな…)

っというか、

「人、多っ」

「あはは、こんなもんだって」

どこもかしこも人・人・人。
みんながみんな楽しそうにワクワクしていて、まるで先月行ったテーマパークのよう。

「開演までまだまだ時間あるし、取り敢えずグッズの列並んでいい? 買いたいものあるんだよね」

「あ、あぁいいけど」

(これに並ぶのかよ……まじか)

先頭が見えないくらい長い列。
1番後ろのスタッフが持ってる看板を見ると、大体3時間待ち……?

こんなに大変なのかと思いながら、並ぶため列に向かった。








「唯純サイズどう? 丁度いい?」

「うん。一ノ瀬は?」

「俺もいい感じ。ちょっと大きめ買って良かったかも」

着替える用の個室はちゃんとあるらしいけど、俺たちは別に男だし会場の隅っこでTシャツにパッと着替える。
そのままその場に座った。

「いいね、やっぱこの色にして正解。後はラババン腕に着けて、はい」

「あ、ありがとう……というか、本当に金出さなくていいのか?」

「いいって、誘ったの俺だし」

「でもチケット代も払ってるんだろ? グッズくらい俺が買っても」

「俺が買いたかったの。だからいいから」

「……わ、かった」

至れり尽くせり。
帰りの飯とかいろいろ絶対俺が出そう。

「なぁ唯純。
俺さ、お前との初めてのデートがライブで良かったよ」

「はぁ? な、なんで」

「周り見てみて」

「?」

このバンドは、ファンの年齢幅が広いらしい。
学生から歳が上の人たちまで沢山の人が楽しそうに行き交っている。
客層は1人や男女のカップルは勿論、男同士・女同士・家族連れなど様々なグループでーー


「俺たちが男2人でいても、浮かないだろ?」


「ぁ……たし、かに」


「それに」


「わっ」


グイッと肩に手を回され、引き寄せられる。


「こうしてペアルックして密着してても全然おかしくない。
それって、結構すごくないか?」


「ーーっ」


普通に考えて男同士のペアルックとか出来るはずがない。
けどこれはグッズだから、必然的に被ってしまう。だからペアルックができる。
会場には男同士肩を組んで写真を撮ってる奴らもちらほらいるし、くっ付いていても「どうせライブに向けテンションが上がってるんだろう」となんら変哲もなく受け入れられてて。
だから、俺たちのことを変に見てくる視線もない。

「俺が買った服でペアルックしたかったから、唯純が金出すの断ったの。分かった?」

「っ」

至近距離でニヤリと笑われて、一気に体温が上がった。

「こんな場所がさ、俺たちが知らないだけでまだまだ沢山あると思うんだよね。
だから、俺たちは俺たちの過ごしやすい環境を見つけていければいいと思うよ」

「過ごしやすい、環境?」

「そう。こんな感じで、自然体でいても変に思われない場所」

みんながみんなこれから始まるライブにワクワクしていて、他のことを一切気にしてない。
そんな、俺たちがこうしていても何も言われることのないような場所を……他にも。

「まぁ俺は別にどう思われてもいいんだけどな。唯純が嫌そうだから」

「当たり前だだろ!一ノ瀬がおかしいんだ……」

「おかしくないって。周りがなんて言っても隣にお前がいるならそれで十分幸せだよ、本当に」

「っ、うっざ」

「あ!今ちょっと杠葉が出たぞ」

「もういいだろ!? 黙れよ!」

「あはははっ!」

こんな言い合いして笑っても、何も言われない環境。


(そっか、こんな場所もあるんだ……)


付き合っても、明るい日の下を歩くことなんてできないと思ってた。
ずっと隠れたまま、ひっそりと生きていくんだろうって。

けど、実際にできる場所はちゃんとあって。
「こんな場所をもっと探していこう」と言ってくれる、パートナーがいる。


「~~っ」


なぁ一ノ瀬。
それにどんなに救われるか、お前は知らないだろう……?


「お、そろそろ会場入りの時間だ。
向こう行って並ぼうぜ!」


立ち上がって手を差し伸べてくれる一ノ瀬を眩しそうに見つめながら、

その手に自分の手を重ねた。








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