純情天邪鬼と、恋

花町 シュガー

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社会人編

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「この辺でいいかな?」

「見えるんじゃね?」

「えー私もうちょっと前行きたいです!」


ザワザワと人が集まる、夕方のショー前。
ぼうっとしてるうちに、気づけばもうこんな時間だった。

(あぁ……やっと終わりか)

さっき言われたあの質問。
なんとかかんとかごまかして、向こうも「ですよねっ、すいません本当忘れてください~」と笑顔で返してくれ、何事もなく終われた。

けど、あれから心臓は冷えたまま、会話も上の空。
勝手に顔が笑顔を作り口を動かしてる。

久しぶりに、危なかった。
〝違う〟ということがバレそうで。
一ノ瀬にまで被害が及びそうで、怖かった。

もう一ノ瀬と話をしたいとかそんなの何処かへ行ってしまって。
ただただ、隣から自分を見つめる視線やみんなの視線から、逃げだしたい。

(もう少し……もう少しの辛抱だから……っ)


パッと周りの街灯が消えて、暗くなる。
視線の先で煌びやかに光りはじめたネオンとショーの音楽に、周りが「わぁ!」と一気に騒がしくなってーー

ふと、右手を強く引かれた。


「シッ、黙って着いて来て」


「っ、な」


暗がりに安心した途端、耳元で囁かれる声。
歓声に紛れるようそっと動き出す。

ぼうっとした頭のまま「そう言えば前来た時もこうして抜け出したな」と思いながら、引っ張られるまま走りだした。







「はぁ…は、はぁ……」

思い出の中にある記憶と同じく、階段を上りきる。
たどり着いた先では、やはりキラキラ輝くショーの光と楽しそうな観客の声が柔らかく響き渡っていた。

「あぁ、やっと息ができる」

肩で息をする俺の隣で、一ノ瀬がグググっと伸びをした。

「やっぱこの穴場知られてないのか、誰もいないな」

「お前、なんで……」

「ん? 話がしたかったから。
もともとお前と話すために来たのに、全然できないから前みたいに抜けようと思って」

「っ、おい、今すぐ戻るぞ」

「はぁ? なんでだよ」

「変な風に考える人がいるかもしれないだろ」

ただでさえさっき疑われたのに、お前何考えてるんだ?
そのまま着いて来てしまった俺も俺だけど、今ならまだトイレとかで誤魔化せsーー

「嫌だ」

「なっ、あのな一ノ瀬、俺は」

「嫌だって言ってる。話をさせろ、唯純」

「ーーっ」

名前を呼ばれグッと黙る俺に、ふわりと笑った。


「なぁ、あれから俺のこと考えてくれた?」

「……考えるもなにも、意味がわからなくて最低だ」

「あははっ、そっかそっか。

ここ、懐かしいな」

「……あぁ」

高校生のあの日、この場所で告白し合って、泣いて。
ほろ苦くて切なくて、そんな地にまさかまた2人で来るとは思ってもなかったけど。

「あの時ここで杠葉に言ったこと、全部本当だったよ」

「嘘だな。だってゲームだっただろ、あれ」

「やっぱ知ってたのか。
だから次の日朝早くに転校したのか? 放課後の呼び出しも種明かしだと思った?」

「……っ」

「図星、か。そうだったのか」

「はぁぁ…」とため息を吐き、一ノ瀬がガシガシ頭を掻いた。


「あのな、唯純。
あの日放課後、お前の目の前で奴らに言おうと思ってたんだ。

ーー〝俺は杠葉が好きなんだ〟って」



「…………ぇ?」



ヒュッと、自分の喉から音が聞こえた。


「此処で話したよな? 高校の入学式で話しかけてくれて、そっからだって。
入学式終わってすぐ杠葉のこと調べたんだ。1年の頃はクラス違ったけどさ、それでも見てたよ、ずっと。
だから、2年で同じクラスになったときすげぇ嬉しくて」

でも、話す機会が本当に無かった。
杠葉はいつもひとりでいて、警戒感も強くなかなか近づけない。

「そんな時、いつもの奴らからゲームを持ちかけられたんだ。
これならお前と話せるし、寧ろ誰にも邪魔されず近づけると思った。
だから、俺はやることを承諾したんだ」

一緒に過ごしてみて、杠葉の我儘の裏にある優しさに気づいた。
トゲのあることを言う時は必ず顔に「言ってしまった」と書いてあるし、それで俺がヘコむと焦ったように見つめてくる。
それが可愛くて可笑しくて、気がついたら前よりもっと杠葉にハマる自分がいて。

「〝あぁ、やっぱり俺は杠葉が好きなんだなぁ〟って思った。
お前が俺の買ったCD聴いてくれてたのも嬉しかったし、一緒に此処来たのも本当に楽しかったよ。

だから俺はーー」


「もう、止めろよ」


(やめろ、やめろやめてくれ)

嘘だと思ってたのに本当だった? 一ノ瀬が俺のことを本当に好き? はっ、意味がわからない。

そんなの今更言われたって、もう……

「お前は、女が好きなんだろ」

「それは、そうかもだけど……でも俺は」

「何も知らないくせに!」

いきなり出た大きな声に、一ノ瀬が目を見開いた。

「男が男を好きなんだぞ? 一般の常識と外れてなんの生産性もない……なのに、お前何言ってるんだ?
変な目で見られて、周りにも溶け込めず孤立して、社会に出ても生き辛くて……そんなのに耐えられるか?
一ノ瀬は普通なんだから、もっとまともに選べるだろ。もうやめr」

「ーー〝普通〟って、なんだ?」

「っ、だから」

「普通や世間体は確かに大事かもしれない。けど、そんなのよりも俺はお前を優先したい。
この考えがまともじゃなくても、変な指を刺されたとしても、俺はお前がいいんだ。
唯純がいなくなってから、本当に後悔したから……」

一歩踏み出され後ずさる俺の手を、大きな手が包み込む。

「こうやって手を握るのは、お前だけがいい。
触れて、髪を撫でて、抱きしめてキスをして……そんなことをするのは、お前とがいい。
今までずっと考えてた結論が、これだ。
女とか男とかそんなのは関係ない。俺は〝唯純〟という人間が好きなんだ」

「な、やめろ、って」

「やめない。はっきり言ってもう俺のことは忘れてると思ってた。
けど、出会ってすぐにわかるくらい覚えてるんなら、もう引かない。
誰にも譲りたくない。俺は、お前が欲しい」

(そん、な)

信じられない言葉が、どんどん頭に入ってくる。
目の前がぐらぐら揺れて、思わず下を向くとゆっくり抱きしめられた。


「なぁ唯純、教えて。

お前は、転校してから今まで何を考えてた?」


「…………おれ、は……」


転校先では当然俺の変な噂は流れておらず、快適に過ごせた。
性格はあのままでも割りかしみんな話しかけてくれて、まぁまぁ楽しい学生生活だったと思う。
けど、どうしても一ノ瀬を忘れることは出来なかった。
あんな別れ方をしたくせに、一ノ瀬よりもっといい奴を見つけられなかった。

変化があったのは、大学時代。
知らない学部の先輩がゲイという噂が流れた。
俺も隠してはないが特別言う必要もないから何もしてなかったけど、先輩は何処からかバレてそのまま孤立した。
まるで前の高校の自分みたいで、思わず話しかけようとした。
けど結局、その先輩はそれが原因かはわからないが就活に失敗し大学も辞めていった。
それを、周りはさも「当然だ」と言うように話していて、気づいたんだ。

ーー嗚呼、自分は〝普通〟ではないのだと。

それからは、必死に普通になろうと努力した。
普通にならなければ、生きていけない。社会にすら出られないかもしれない。
そんなのは駄目だ。どうにかしなければ。

周りをよく観察し学び、うまく溶け込めるよう努力して努力して……
けど、そんな中でも時々思い出すのは一ノ瀬のことだった。

好きな同性から「好きだ」と言われて。
多分、あんな奇跡最初で最後。
全てが嘘だったとしても、自分はきっと幸せ者で。


(なのに、何してくれんだよ)


ずっと俺のことが好きだった? そんなの全然普通じゃない。
それなのに、お前はなんでそんなに強いんだ?
知らないんだろ、どんな目で見られるか。
どんなに恐ろしいか…知らないだろ……?

「ーーっ、怖い、よ」

「大丈夫」

つい、思ったことが漏れると間髪入れずに返事がきて、抱きしめられる腕に力がこもった。

「正直、あんな性格のお前がここまで変わるくらい俺は大変なことを選んでるんだと思う。
けどさ、お前合コンにも参加して今日もこうして女性に好意を向けられながら過ごして、ちょっと頑張りすぎ。無理してんの見てられない。

これからは、俺が守るから。
お前がひとりで抱えてたもの、俺も持つから。
だから、お願い。

ーー俺に、お前を愛させて」



「ーーーーっ」




……嗚呼、もう駄目だ。




「す、き」


「っ」


絞り出すように呟いた声は、小さかったけど確かに一ノ瀬へ届いた。

「好き、おれも……ずっと、お前を、忘れられなくて」

「唯純」

「けど、まさか会うとは思わなかった、から……それにあの時の告白も、嘘だと思ってて、だから」

「うん、落ち着いて。大丈夫」

頭の中がぐちゃぐちゃのまま話す俺の背中を、ポンポン優しく撫でる手。
じんわりと涙が浮かんでくる。

嫌だ、この歳になって泣くとか恥ずかしすぎる。
なのに、ポロリとひとつ溢れた途端止まらなくなって。

(いいの?)

本当に、こいつをこっち側に連れてきていいのか?
絶対後悔することになる。
俺みたいに沢山悩むと思う。辛い思いもする。

ーーけど、


「も、ひとりは……嫌だっ」


ずっと孤独だった。
誰にも相談できなくて、ひとりで現実と戦って。
正直……これが永遠に続くと思うと生きていけなかった。

(ねぇ、一ノ瀬)

好きな奴にこんなこと言われて、もう離せる自信がない。
お前は、本当に俺でいいの……?

「…お前に〝杠葉はもういない〟って言われたとき、本気でどうしようかと思った。
でも、」

グッと、肩口に顔を埋められる。


「諦めなくて、良かった……!」


一生懸命思い出にしようとした、声と体温。

それが今、自分を大きく包み込んでくれていて、


「~~~~っ」


ただただ言葉が出なくて、その背に手を回した。









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