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第4章 元カレとお世継ぎ問題
第3話*
人だけでなく、たくさんの不思議な生き物たちとも知り合いになった。ドラゴン、妖精、人魚、ペガサスにユニコーン、グリフォン、ヴィーヴル……地球では空想の生き物とされているけど、ここでは当たり前に存在している。人間は、彼らの邪魔をしないように細心の注意を払って共存しているんだ。
鉄道が敷かれていないのも、それが大きな理由だと思う。移動手段は主に馬、馬車、船。大きな川が多いから、少しばかりの遠出なら、船と馬車を利用するのが早い。地球と比べて、技術力が下回っているわけでもない。風力、太陽光、水力、地熱を活用する設備は完璧に整っている。電気自動車の実用化も楽しみだ。
スリルを味わいたければ、ドラゴンやペガサスと友達になって、機嫌のいい時に乗せてもらうという手もある。けっこう怖そうだから、僕はまだ試していない。友達になるところまでは、いい線いっていると思う。みんなやんちゃで、跳ね回りすぎてけがをする子が少なくない。しゅんとしてうずくまっているのを、「またかい? しょうがないなぁ」って、何度か手当しているうちに心が通った。中でも常連は、銀の毛並みが見事な牡のペガサスだ。
「次は気を付けるんだよ」
パタパタと翼を動かすのは僕へのお誘い。背中へ乗れと言っている。
「ありがとう、そのうちにね。今はけがを治すことの方が先だよ」
できればいつか、ラトゥリオ様と一緒に乗って空を飛びたい。
僕がここへ来てから、もうじき二か月になる。一日の日照時間は、随分と長くなった。暦は日本と同じだから、今は七月。向こうじゃ真夏日に悩まされる頃なのに、ここは日差しも気温も、過ごしやすく保たれている。風の力を持つ人や火の力を持つ人が、エネルギーを無意識に発電所に誘導しているのだと聞いた。人口構成によっては気候が微妙に変化する、何とも不思議なシステムだ。魔力と科学の融合。普段は、こんなにもうまくいっている。
この一か月、十五年前のことを何度も考えた。アントス様の存在が、頭から離れない。嫉妬……というのとは違う。アントス様はアントス様、僕は僕だ。その上で、思ってしまう。二人はあれから一度も顔を合わせていないそうだけど、そこまで徹底しないといけないものなんだろうか。恋人である前に、誰よりも親しい友人だったのに……。
「レオ、どうした」
「あ、いえ……何でも」
僕はごまかすのが下手だ。ラトゥリオ様に嘘をつきたくないというのもある。ぼんやりして、見抜かれて、抱きすくめられる。
「アントスのことか」
返事をしないのは、この場合、肯定と同じだ。どう言えばいいんだろう。僕たちの恋を、絆を、これっぽっちも疑ってはいない。それとは別の問題なんだ。説明できないまま、彼の情熱に溺れていく。執着と言い換えてもいい。僕の方は、彼を不安にさせるのは本意ではないし、独り占めしたい、されたいという欲が強くなっている。お互いの想いを信じていても、深まるからこそ感情に混ざってくるいろんなものがあって、隙間なく触れ合うことで乗り越えようと……執拗に、相手を求める。
「愛している。俺を生かすのはお前だ。お前しかいない……」
その言葉は、嬉しくて切ない。世界を統べる手が、縋るように、許しを請うように僕の体をなぞる。一人になってから十五年間、必死で抑え込んできたものを、全部僕にぶつけてくる。情が深いのに、愛し愛される芽を摘み取られてしまった人。世界に突き付けられた現実。
大丈夫だよ、ラトゥリオ様。大丈夫。僕が受け止めるから。行き場のなかった愛情。興奮すると少しだけ流れ出す魔力。怖がらないで、解放して……僕の中に、注ぎ込んで。
「ラトゥリオ様っ……あ、あっ――」
「レオッ……」
熱いものが迸る。僕のお腹を満たし、じんわりと、指先、足の爪先まで幸福を行き渡らせる。
「はぁ、はぁ……」
収縮する体が彼を締め付ける。つかまえていたい、離したくない。あなたと永遠に繋がっていたい。
「僕も、あなただけ」
吐息に乗せて囁くと、とろんとした目で抱きしめてくれる。その様は、かわいらしくさえある。十四歳も年上なのに、変なの……。
好き、ラトゥリオ様。
鉄道が敷かれていないのも、それが大きな理由だと思う。移動手段は主に馬、馬車、船。大きな川が多いから、少しばかりの遠出なら、船と馬車を利用するのが早い。地球と比べて、技術力が下回っているわけでもない。風力、太陽光、水力、地熱を活用する設備は完璧に整っている。電気自動車の実用化も楽しみだ。
スリルを味わいたければ、ドラゴンやペガサスと友達になって、機嫌のいい時に乗せてもらうという手もある。けっこう怖そうだから、僕はまだ試していない。友達になるところまでは、いい線いっていると思う。みんなやんちゃで、跳ね回りすぎてけがをする子が少なくない。しゅんとしてうずくまっているのを、「またかい? しょうがないなぁ」って、何度か手当しているうちに心が通った。中でも常連は、銀の毛並みが見事な牡のペガサスだ。
「次は気を付けるんだよ」
パタパタと翼を動かすのは僕へのお誘い。背中へ乗れと言っている。
「ありがとう、そのうちにね。今はけがを治すことの方が先だよ」
できればいつか、ラトゥリオ様と一緒に乗って空を飛びたい。
僕がここへ来てから、もうじき二か月になる。一日の日照時間は、随分と長くなった。暦は日本と同じだから、今は七月。向こうじゃ真夏日に悩まされる頃なのに、ここは日差しも気温も、過ごしやすく保たれている。風の力を持つ人や火の力を持つ人が、エネルギーを無意識に発電所に誘導しているのだと聞いた。人口構成によっては気候が微妙に変化する、何とも不思議なシステムだ。魔力と科学の融合。普段は、こんなにもうまくいっている。
この一か月、十五年前のことを何度も考えた。アントス様の存在が、頭から離れない。嫉妬……というのとは違う。アントス様はアントス様、僕は僕だ。その上で、思ってしまう。二人はあれから一度も顔を合わせていないそうだけど、そこまで徹底しないといけないものなんだろうか。恋人である前に、誰よりも親しい友人だったのに……。
「レオ、どうした」
「あ、いえ……何でも」
僕はごまかすのが下手だ。ラトゥリオ様に嘘をつきたくないというのもある。ぼんやりして、見抜かれて、抱きすくめられる。
「アントスのことか」
返事をしないのは、この場合、肯定と同じだ。どう言えばいいんだろう。僕たちの恋を、絆を、これっぽっちも疑ってはいない。それとは別の問題なんだ。説明できないまま、彼の情熱に溺れていく。執着と言い換えてもいい。僕の方は、彼を不安にさせるのは本意ではないし、独り占めしたい、されたいという欲が強くなっている。お互いの想いを信じていても、深まるからこそ感情に混ざってくるいろんなものがあって、隙間なく触れ合うことで乗り越えようと……執拗に、相手を求める。
「愛している。俺を生かすのはお前だ。お前しかいない……」
その言葉は、嬉しくて切ない。世界を統べる手が、縋るように、許しを請うように僕の体をなぞる。一人になってから十五年間、必死で抑え込んできたものを、全部僕にぶつけてくる。情が深いのに、愛し愛される芽を摘み取られてしまった人。世界に突き付けられた現実。
大丈夫だよ、ラトゥリオ様。大丈夫。僕が受け止めるから。行き場のなかった愛情。興奮すると少しだけ流れ出す魔力。怖がらないで、解放して……僕の中に、注ぎ込んで。
「ラトゥリオ様っ……あ、あっ――」
「レオッ……」
熱いものが迸る。僕のお腹を満たし、じんわりと、指先、足の爪先まで幸福を行き渡らせる。
「はぁ、はぁ……」
収縮する体が彼を締め付ける。つかまえていたい、離したくない。あなたと永遠に繋がっていたい。
「僕も、あなただけ」
吐息に乗せて囁くと、とろんとした目で抱きしめてくれる。その様は、かわいらしくさえある。十四歳も年上なのに、変なの……。
好き、ラトゥリオ様。
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