終わらない夜-溺愛の果てに-

花宮守

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第2話 名前を呼んで*

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「ん、ふ……」
 唇の端から漏れる息。歯の間から探り当てた舌は、甘い。生き返った自分の体が、心が、疼いている。叫んでいる。この子が欲しいと。
(目を覚ませ。私を見てくれ。私だけを……!)
 経験したことのない独占欲。自分は一体どうしてしまったのか。答えを探すようにキスを深めると、彼の体がびくっと震えた。
「ん、んぅっ!?」
 戸惑い。驚き。残酷なほど澄んだ瞳に射抜かれる。
「やあ……気分はどうだ?」
 唇はいったん離すが、逃がしはしない。鼻が触れそうなほどの至近距離で尋ねた。頬に手を添え、眼差しで愛を注ぎ込む。
「え、と……何て言ったらいいか」
 快い声だ。
「君は海で溺れた。足首をひねってもいる。そういう意味で聞いたんだが」
「あ……はい。それなら……何ともない、です。足も……うん、ちょっと痛いけど平気です」
 まじめに自分の状態を確認し、教えてくれるのがいとおしい。
「そうか。よかった」
 安心してにこっと笑ってみせると、頬をほんのり染めた。彼の出会いの印象からいって、この状況に異論があるなら、蹴り飛ばすか殴りかかるかされそうだが、その気配はない。
 かわいい額にキスを落とし、「一度、体を起こしてみようか」と促した。背を支えて起こすと、彼は自分の胸元を見てますます赤くなった。大きくなった乳首にしゃぶりつきたいのを堪え、呼吸や表情を観察する。本人の申告通り、体調に問題はないようだ。ペットボトルの水を口に含んで、口移しで飲ませると、ごく自然に受け入れた。初々しい反応と、流れるように身を任せる妖艶さ。
(慣れているのか、それとも……私だから、なのか?)
 こくん、と喉が動き、彼の体内へ水が送り込まれていく。顎に垂れたのを舐め取りながらまたキスをした。
「ンッ……」
「性急かもしれない。いや、分かっている。こんなのはまともな大人の行動ではないと。それでも……このまま、ここにいてほしい」
 瞳が揺れたのは、仕事のことを気にしているだけだと思いたい。
「支配人とは話した。明日からのことはまた相談しながら決めていこう。だが、今夜は……」
 声がわずかに震える。懇願と確信と……恐れ。彼の唇が、何か言おうとして開き、閉じた。肩を抱き、思わず直球で聞いた。
「嫌か? 私とこういうことをするのは……」
「僕は……浜に出た時、あなたが真っ先に目に入って。あんなにたくさん人がいたのに、あなただけ……。だから騒ぎにすぐ気付いたんです。かえって迷惑かけて……ごめんなさい」
「迷惑だなどと、思ってはいないよ。助けてくれてありがとう。あの時のことだけを言っているのではないんだ」
「え? あ、んっ」
 唇を寄せ、舌を絡めた。唾液が混ざり合い、触れ合う舌は逃げ場のない性感を呼び起こしていく。キスだけで完勃ちしたのは初めてだ。もう意味のなくなった自分の水着を、キスを続けながらずり下げた。
「もう一度聞く。嫌ではないのか?」
 彼の太腿に手を這わせ、内側へ指を忍ばせていく。
「や、じゃない……ン、ぅ」
「そうか……嬉しいよ」
 窮屈そうな股間を撫で上げると、彼もガチガチになっているのが分かった。
「凄いな……全部見せてもらっても?」
 はみ出している先端を手で包んでかわいがると、腰をくねらせた。
「ン、わか、んない……こういう、の、したことない、からっ……」
 その言葉で十分だった。脳内が歓喜で大変なことになった。処女信仰やら童貞信仰やら、気にしたことはなかったのに、この子に初めて触れるのが自分であることが、たまらなく嬉しい。誰にも渡しはしない。誰にもだ。
「見せてくれたら、もっと気持ちよくなれる……」
「ほん、と? あ、アッッ」
「ああ、本当だ」
「はぁ、はぁ……あっ……」
 彼はOKの合図のように、腕をまわして抱き着いてきた。
「いい子だ……優しくする……大事にするよ」
 口づけを深め、彼を生まれたままの姿にしながらシーツに沈めていく。
「ん……あなたの、名前……呼びたい」
 その声には、かわいい甘えの色がある。
「雅彦……国見雅彦だ。君は?」
「かいと……海の音って書きます。汐沢海音です」
「綺麗な名だ……海音」
 首筋に痕をつけ、乳首を口に含んだ。
「あっ……雅彦さんっ……」
 ころころと卑猥な飾りを転がしながら、久方ぶりに下の名前を呼ばれる心地よさに、静かに溺れていった。

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