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第1章 新生活
新生活(2)
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引っ越しは、業者さんがどこも混んでて、ほんとにギリギリになった。入社日の前日。当日じゃないだけマシかも……と思いながら、荷物より少し遅れて実家に到着した。
「すみません、遅くな……って」
業者さんの車まで謝りながら走っていく途中、違和感を覚えて声が小さくなった。ありがとうございましたー、って誰かに言ってる? 大きな車があって、まだ見えないけど。ひょっとしてお母さん、帰ってきてるのかな。
「御苦労様でした」
……え? 男の人。っていうか、知ってる声。この五年間、何度も夢に出てきては私を甘く呼んだ――。
業者さんが私に気付いて、ぺこっとお辞儀をした。私もお辞儀を返した。車が走り去るのを呆然として見送り、できることならいつまでもそうしていたかった。背中に、強烈な視線を感じるから。
五分経過。いつまでもここに立ってるわけにはいかない。深呼吸をして振り向いた。
「お帰り、衣純」
高校の時に付き合っていた担任の先生が、私の家の前に立っていた。「あらご主人、どうも」と声をかける近所のおばさんに、会釈なんかして。
「大変ねぇ、奥さんの留守にお一人で。あら、衣純ちゃん! 帰ってきてたのね。元気?」
「ええ、まあ……」
呆然として曖昧に返した私に、おばさんは追い打ちをかけた。
「いいわね~、こんなイケメンがお義父さんで! 勉さんも素敵だったし、お母さん見る目あるわよねぇ」
「お……」
とう、さん?
単なる彼氏じゃなくて? 再婚したの? 天城恭一郎っていうやたら名前がかっこいいこの人と?
頭の中が沸騰してきた。何? 何で?
聞いてません!
「お母さん、これどういうこと!?」
もう時差なんか構っていられなかった。玄関を入るなり、電話した。
『あー、今日引っ越しだったよね。お疲れ様』
「私の知らない間に終わってるっておかしいでしょっ。しかも、しかも……空き家状態じゃないしっ」
今日の午後いっぱいかける覚悟をしていた段ボールの山は、庭にも玄関にもなかった。「自分の部屋」「物置」「押し入れ」など、行き先をサインペンで書き殴っておいたから、それぞれの場所へ業者さんが運んでくれていた。先生――恭一郎の指示で。
『メールに書いたでしょ、彼も一緒だって』
「いやいやいや、それでこの状況分かる人はいないからっ。大体あれは、帰ってきた時に食事にでも行こうって、それに対するお母さんの返事じゃないっ。ここに住んでる説明にはなってないよ!」
再婚のことも問い詰めたいのに、ブレーキがかかって言えない。怖い。先生は、そばで腕組みして、うんうんって頷いてる。お母さんのマイペースぶりをよく知っているみたい。こんな状況なのに笑いそうになって、同時に、胸がチクッと痛んだ。
『ごめんね、びっくりさせて。でもあんたの高校の時の先生で、人柄も分かってたから、話がトントン拍子で進んでね。じゃあ、お母さんもうちょっと寝たいから。またね~』
電話は一方的に切れた。我が親ながら自由すぎる。長身の先生を見上げて、言葉を探した。
「すみません、遅くな……って」
業者さんの車まで謝りながら走っていく途中、違和感を覚えて声が小さくなった。ありがとうございましたー、って誰かに言ってる? 大きな車があって、まだ見えないけど。ひょっとしてお母さん、帰ってきてるのかな。
「御苦労様でした」
……え? 男の人。っていうか、知ってる声。この五年間、何度も夢に出てきては私を甘く呼んだ――。
業者さんが私に気付いて、ぺこっとお辞儀をした。私もお辞儀を返した。車が走り去るのを呆然として見送り、できることならいつまでもそうしていたかった。背中に、強烈な視線を感じるから。
五分経過。いつまでもここに立ってるわけにはいかない。深呼吸をして振り向いた。
「お帰り、衣純」
高校の時に付き合っていた担任の先生が、私の家の前に立っていた。「あらご主人、どうも」と声をかける近所のおばさんに、会釈なんかして。
「大変ねぇ、奥さんの留守にお一人で。あら、衣純ちゃん! 帰ってきてたのね。元気?」
「ええ、まあ……」
呆然として曖昧に返した私に、おばさんは追い打ちをかけた。
「いいわね~、こんなイケメンがお義父さんで! 勉さんも素敵だったし、お母さん見る目あるわよねぇ」
「お……」
とう、さん?
単なる彼氏じゃなくて? 再婚したの? 天城恭一郎っていうやたら名前がかっこいいこの人と?
頭の中が沸騰してきた。何? 何で?
聞いてません!
「お母さん、これどういうこと!?」
もう時差なんか構っていられなかった。玄関を入るなり、電話した。
『あー、今日引っ越しだったよね。お疲れ様』
「私の知らない間に終わってるっておかしいでしょっ。しかも、しかも……空き家状態じゃないしっ」
今日の午後いっぱいかける覚悟をしていた段ボールの山は、庭にも玄関にもなかった。「自分の部屋」「物置」「押し入れ」など、行き先をサインペンで書き殴っておいたから、それぞれの場所へ業者さんが運んでくれていた。先生――恭一郎の指示で。
『メールに書いたでしょ、彼も一緒だって』
「いやいやいや、それでこの状況分かる人はいないからっ。大体あれは、帰ってきた時に食事にでも行こうって、それに対するお母さんの返事じゃないっ。ここに住んでる説明にはなってないよ!」
再婚のことも問い詰めたいのに、ブレーキがかかって言えない。怖い。先生は、そばで腕組みして、うんうんって頷いてる。お母さんのマイペースぶりをよく知っているみたい。こんな状況なのに笑いそうになって、同時に、胸がチクッと痛んだ。
『ごめんね、びっくりさせて。でもあんたの高校の時の先生で、人柄も分かってたから、話がトントン拍子で進んでね。じゃあ、お母さんもうちょっと寝たいから。またね~』
電話は一方的に切れた。我が親ながら自由すぎる。長身の先生を見上げて、言葉を探した。
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