元カレに囲まれて

一条咲穂(花宮守から改名)

文字の大きさ
65 / 80
第4章 四つ目の恋

第1話

しおりを挟む
 出勤二日目。王子が会社に現れた。迎えに走ったのは私。
「返礼の訪問だ。当然だろう?」
 いたずらっぽい目に、ピンときた。来ると連絡は入っていたものの、一応聞く。
「そんなこと言って、私が淹れるコーヒーを飲みに来ただけなんじゃ……」
 普通はやらない。考えられない。
 でも、王子ならやる。
「無論、それだけではないさ。いくつかの打ち合わせと……これを、君に」
 空気から作り出すかのように手の中に現れたのは、昨日もくれた真紅の薔薇。ちょうど、部署に着いたところで、みんなの前で。独占欲丸出し……十九歳の時から変わってない。女性陣はキャーっと声を上げ、男性陣は目を丸くしている。
 二人だけ例外。榊さんは、昨日と同様の温かい眼差し。真は、眉をちょっと上げて瞳を閃かせた。「好敵手発見!」とでも言いたげな様子。「ありがと……」と薔薇を受け取りながら、王子と真の親和性にハッとした。感動したと言ってもいい。この二人、絶対仲良くなる。榊さんも気付いたらしく、思案顔で唇をなぞっている。色っぽいなあ。……見とれてる場合じゃないっ。仕事、仕事!

 全員が興味津々だった、カリーダカンパニーCEOとの顔合わせは、そんな風にして始まった。就任の正式発表の日程が知らされるなど、これからの取引上、重要なことを確認した。細かい点は、私を含めたチームとの間で、随時詰めていくことになる。緊張していたみんなの顔は、一様に明るくなっていった。
 世界は広すぎる、と言っていた人。その中から何を掴み取るかを常に考え、怯まない。一緒にいると、新しい季節が見えてくる。
 王子、頑張ったんだね。今も頑張ってる。
 みんなが王子に惹かれていく様が、とても嬉しかった。
 
 社会に出て最初の二か月は、宝石のようにキラキラと輝きながら、あっという間に流れていった。会社では、そのまま榊さん直轄の部署にいられることになった。カリーダカンパニーとの窓口、という意味合いが大きいのだと思う。何しろ王子が頻繁に、私のコーヒーを飲みに訪れるんだもの。次々に花をつける、いろいろな種類の薔薇を携えて。もちろん、仕事もきっちりしていく。
 王子と真との相性は、思った通りぴったり。二人とも、気が向いたらいつでもどこでも飛んでいってしまうイメージがある。どこへ行っても結果を出せるタイプ。自由で、何に従うのかは自分で決めて、覆さない。仕事での決断もぶれないから、話が合うみたい。
 要は二人とも頑固なんだよねー、と。帰っていった王子の専用カップを洗いながら、苦笑した。そこへ、見送りついでにほかの用を済ませてきた真が、戻ってきた。
「お疲れ様。コーヒーまだあるけど、飲む?」
「いいのか? あとで王子に怒られそうだな」
 口ではそう言いながらも、彼は嬉しそうに受け取った。
「衣純も休憩だろ。屋上行かないか」
「うん、行く」
 彼と私が連れ立って屋上へ行くのも、みんなにとって見慣れた光景になった。私たちは会社でも、高校の時と同じように「双子みたいに仲良しだね」って言われてる。

 夏に向かう日差しが眩しい。抜けるような青空。
 屋上では、仕事のことはほとんど話さない。榊さんの話は、よく出る。真はあの人の大ファンだから。榊さんが気になっている私としては、憧れの存在のことなら何でも知りたい。好きなアイドルの新たな情報が、雑誌に数行載っているだけでドキドキした、子供の頃の気持ちに似ている。
 真の心情は崇拝に近くて、本当にファンなんだなって感じる。けれどこの日は、榊さんではなくほかの人の話になった。
「この間、王子とちょっと話したんだ。衣純のこと……大学の頃の」
「えっ」
「付き合ってた、って聞いた」
 うっ。聞いちゃったのか……。
「うん……あの……お見合いでね。不意打ちの」
「ハハッ、不意打ちか。それ、王子じゃなくておばさんのせいなんだろうな」
「当たり」
 さすが、よく分かってる。
「また全然違うタイプだよなあ」
「そうかな?」
 真の中で、先生は「逆立ちしたって勝てるわけねー」相手。王子は、私の元カレとしては真の目にどう映っているんだろう。
「こんなこと言ってたぞ。『彼女は大輪の薔薇だ。僕は、それをより美しく咲かせるための太陽には力不足だと思った。手折って自らの窓辺に飾る、一人の男としてもな。彼女のおかげで今の僕があるんだ』って。不覚にも聞き惚れた」
「うん……そういうとこ、ある」
 大きなことを次々やってのけるけど、謙虚で、常に次を見ていて。それは、世界を驚かせることよりも、自分と周りの人間の向上のため。小さなことが、大きな結果を生むこともある。それを体現して、決して忘れずに生きている。そこが好きだった。
「再会したらいい仕事一緒にしようね、って。約束したの」
「そっか。じゃあ……いい仕事、していこうな」
「うん」
 コーヒーで乾杯して、微笑み合った。同じ空を見上げて、隣にいられる。元気に、笑ってる。本当によかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...