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第5章 嵐
第5章 嵐 第3話
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さっぱりとした下着と寝間着を身に着けると、ぐるぐる頭の中で渦巻いていたものが、少し遠のいた。
お風呂場を出ると、斜め向かいが、先生が寝室にしている和室。彼は部屋の前で、腕組みをして立っていた。私を待ってた……んだろうな。
「何があった」
厳しい声だけど、叱られてるわけじゃないのは感じ取れた。私は、和室の手前の柱に刻んだ、幼い頃からの自分の身長を見ながら話した。
「会社の取引先の人に、何か誤解されちゃって。私が男の人と、その」
「仕事を取るために寝てるとでも言われたのか」
びくっとした。強い口調。ここまで怒ってる声、聞いたことない。
「そんなの考えたことなかった。でも……『汚れた女』って言われちゃった。そう思わせるようなこと、しちゃってたのかな……」
涙混じりの声になっていく。先生の前では感情を抑えきれない。
「衣純」
後ろから抱きしめられた。体の力が抜けていく。
「自信を持て。名前の通りだ。お前を見るとな、人はみんな思うんだ。純粋、純真としか言いようのないまっさらな綺麗な衣が、キラキラ、ひらひらはためいてる。その衣を脱がせたのは俺だけどな……だからって、お前は何にも汚れてなんかいない。輝いててほしい、笑っててほしいって、何かしてやりたいって……自分も頑張らないとなって、自然に周りがそう思うんだよ。俺も含めて周りが勝手にやってることだ……」
一生懸命、励ましてくれる。誠実な声、つかまえててくれる腕。先生こそ変わってないよ……好きだったとこ、何ひとつ。
「思って、ない」
「ん?」
「自分では一回も思ったことない……汚れた、なんて。先生とのことも」
「うん」
腕に力がこもった。
「先生とじゃなきゃ、あの頃ああいう関係になってないよ。先生だから私、私……」
「衣純っ……」
顎をとらえられ、顔の向きを斜めにさせられて、あっと思った時にはもう……唇が重なっていた。
「ん、ん……」
熱い。甘くて、激しい。情事の時にしかしないような口づけ。五年ぶりに、本気で私を溶かしにかかってくる。
「はぁっ……」
やっと息ができるようになったので声を漏らすと、ぐるっと体を回転させられて、正面から唇が迫ってきた。何て切ない目。あの頃、そんな風に見てくれたことあったっけ……。
先生と比べて自分がものすごく子供に思えて、誰かと先生が普通にしゃべってるのを見るだけで苦しくてたまらなくて……頭も心もぐちゃぐちゃになった。このままじゃ駄目になる――そう思ったから、「勉強に集中したい」って言って別れた。
ほんとは、ずっとそばにいたかった。
「ん、はぁっ……ん、ふ」
「衣純……」
キスと抱擁に応える私を、先生は意志を確認するように見つめている。頷きたい。大人になったから、きっと今ならもっと上手に好きでいられる。見てみたかった先生とのハッピーエンドを、実現できるのかもしれない。
「せん、せ……」
「泣きそうな顔してる……」
「先生だって……」
怖かった。夢みたいで。あの恋が、終わっていなかったなんて。
――いつか突然目の前に現れても怒らないでくれるかい……君が好きなんだ……。
抱き合ったまま和室に入り、生まれたままの姿で愛された。五年前、高校三年の夏に別れて以来の、彼の唇……吐息……指。頭を抱き寄せると指の間から零れていく短い髪もいとおしくて、私から「来て」とねだった。
「誰も抱くつもりなかったから用意してないけど、次からちゃんとするから。今日は勘弁な……避妊はする」
「うん……あ、あっ」
ひとつになれて、私は泣いた。
「せんせ……恭一郎っ……」
「やっと名前呼んだな……衣純」
先生と呼び、家族の距離を保つことで堰き止めていたもの。その堰が壊れて、どっと気持ちが溢れ出す。好き、恭一郎……ごめんなさい、竜司さん……。
私の体は、先生を覚えていた。そのことが、たまらなく嬉しくて悲しかった。
お風呂場を出ると、斜め向かいが、先生が寝室にしている和室。彼は部屋の前で、腕組みをして立っていた。私を待ってた……んだろうな。
「何があった」
厳しい声だけど、叱られてるわけじゃないのは感じ取れた。私は、和室の手前の柱に刻んだ、幼い頃からの自分の身長を見ながら話した。
「会社の取引先の人に、何か誤解されちゃって。私が男の人と、その」
「仕事を取るために寝てるとでも言われたのか」
びくっとした。強い口調。ここまで怒ってる声、聞いたことない。
「そんなの考えたことなかった。でも……『汚れた女』って言われちゃった。そう思わせるようなこと、しちゃってたのかな……」
涙混じりの声になっていく。先生の前では感情を抑えきれない。
「衣純」
後ろから抱きしめられた。体の力が抜けていく。
「自信を持て。名前の通りだ。お前を見るとな、人はみんな思うんだ。純粋、純真としか言いようのないまっさらな綺麗な衣が、キラキラ、ひらひらはためいてる。その衣を脱がせたのは俺だけどな……だからって、お前は何にも汚れてなんかいない。輝いててほしい、笑っててほしいって、何かしてやりたいって……自分も頑張らないとなって、自然に周りがそう思うんだよ。俺も含めて周りが勝手にやってることだ……」
一生懸命、励ましてくれる。誠実な声、つかまえててくれる腕。先生こそ変わってないよ……好きだったとこ、何ひとつ。
「思って、ない」
「ん?」
「自分では一回も思ったことない……汚れた、なんて。先生とのことも」
「うん」
腕に力がこもった。
「先生とじゃなきゃ、あの頃ああいう関係になってないよ。先生だから私、私……」
「衣純っ……」
顎をとらえられ、顔の向きを斜めにさせられて、あっと思った時にはもう……唇が重なっていた。
「ん、ん……」
熱い。甘くて、激しい。情事の時にしかしないような口づけ。五年ぶりに、本気で私を溶かしにかかってくる。
「はぁっ……」
やっと息ができるようになったので声を漏らすと、ぐるっと体を回転させられて、正面から唇が迫ってきた。何て切ない目。あの頃、そんな風に見てくれたことあったっけ……。
先生と比べて自分がものすごく子供に思えて、誰かと先生が普通にしゃべってるのを見るだけで苦しくてたまらなくて……頭も心もぐちゃぐちゃになった。このままじゃ駄目になる――そう思ったから、「勉強に集中したい」って言って別れた。
ほんとは、ずっとそばにいたかった。
「ん、はぁっ……ん、ふ」
「衣純……」
キスと抱擁に応える私を、先生は意志を確認するように見つめている。頷きたい。大人になったから、きっと今ならもっと上手に好きでいられる。見てみたかった先生とのハッピーエンドを、実現できるのかもしれない。
「せん、せ……」
「泣きそうな顔してる……」
「先生だって……」
怖かった。夢みたいで。あの恋が、終わっていなかったなんて。
――いつか突然目の前に現れても怒らないでくれるかい……君が好きなんだ……。
抱き合ったまま和室に入り、生まれたままの姿で愛された。五年前、高校三年の夏に別れて以来の、彼の唇……吐息……指。頭を抱き寄せると指の間から零れていく短い髪もいとおしくて、私から「来て」とねだった。
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「うん……あ、あっ」
ひとつになれて、私は泣いた。
「せんせ……恭一郎っ……」
「やっと名前呼んだな……衣純」
先生と呼び、家族の距離を保つことで堰き止めていたもの。その堰が壊れて、どっと気持ちが溢れ出す。好き、恭一郎……ごめんなさい、竜司さん……。
私の体は、先生を覚えていた。そのことが、たまらなく嬉しくて悲しかった。
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