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第1章 幽霊探偵
第6話
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「加賀さん、ここです」
平日の昼とはいえ、新幹線への乗り換え口はそれなりに混み合っている。きょろきょろする一咲を見つけ、声をかけた。パッと明るい表情になり駆け寄ってきた愛らしい様子に、罪悪感が芽生える。
「この人もそのつもりよ。利害が一致してるんだからいいじゃない」
琴絵の言葉は悪魔の声。引き返すことを許さず、ずるずると二人を引きずっていく。一咲の服装を見れば、その言葉も尤もではあるのだが。
「お待たせしてすみません! 取材先で服を汚してしまって、着替えに戻っていたもので」
パステルカラーのニットのワンピースは、綺麗な体のラインをアピールすると同時に、上品で無垢に見せる効果も発揮している。
「とても素敵ですよ。しかし……まずいな」
「え?」
「私が職務質問されるかもしれない。いや、逮捕かな」
「まあ」
切符を渡して改札を抜け、新幹線で隣同士のシートにおさまる頃には、下の名で呼ぶことを許されていた。二人がけのシート。琴絵は、葉桜が座る通路側の席の背もたれに腰かけていた。
山間の静かな町へ降り、地元の料理がうまい店に連れていった。この町で起きた事件のことを話し、一咲が聞きたがるほかの事件についても可能な限り話した。本心は、すでに二人とも別のところにあった。タイミングを見極めるために会話を続けているようなものだった。
食事のあと、それと知らせず宿の方へと歩いた。秋の景色に目を輝かせていた一咲は、だんだんと言葉少なになり、前方にホテルが見えてきたところでピタッと立ち止まった。最後のためらい。葉桜は、気付かない振りをして、道路を横断した先にある小道を指さした。
「あそこから登っていくんです。今からなら、現場を見て日暮れ前にここまで戻れますよ」
一咲は、小道から足元の地面へと視線を移した。顎に手を添えて上を向かせると、濡れたような瞳で葉桜の決断を促した。
道路は、渡らなかった。
ダブルの部屋へ入り、扉を閉めた。琴絵はすぅっと離れ、天井近くで寛いだ。「さあ、始めて」と挑発する態度だ。
(いいんだな? 俺がお前以外の女を抱いても……)
抑えた照明の中、たった今血を舐めたばかりのように赤く光る唇は、言葉をくれない。進むしかないのだ。
後ろから裾をつまんだのは、この部屋に二人きりだと信じて疑わない女性。振り向いて抱き寄せれば、柔らかなふくらみと生命の温度にたやすく陥落した。体内がカッと熱くなる。
「葉桜さん……私、シャワー浴びてきましたから」
箍が外れた。
(罠にかかったのは俺の方かっ……)
五年ぶりの感覚に、溺れた。とどまるところを知らない欲を、一咲は細い腰をくねらせ何度も受け止めた。
「悪い、止まらないっ……」
「全部、ぶつけてください……康平さん……」
自分以外の、それも生きた女に夢中になる夫を、琴絵は表情を変えることなく見つめ続けた。
ようやく満たされて体を離したのは夜半過ぎ。一咲の上に倒れ込み、頭を抱きしめられて安らぎを感じた。甘い汗の香り。爪を綺麗に切りそろえた指が、物言いたげに髪を梳く。好きにさせていると、彼女ははにかみ、「私の康平さん」と夢見るように呟いて、眠りに落ちていった。
平日の昼とはいえ、新幹線への乗り換え口はそれなりに混み合っている。きょろきょろする一咲を見つけ、声をかけた。パッと明るい表情になり駆け寄ってきた愛らしい様子に、罪悪感が芽生える。
「この人もそのつもりよ。利害が一致してるんだからいいじゃない」
琴絵の言葉は悪魔の声。引き返すことを許さず、ずるずると二人を引きずっていく。一咲の服装を見れば、その言葉も尤もではあるのだが。
「お待たせしてすみません! 取材先で服を汚してしまって、着替えに戻っていたもので」
パステルカラーのニットのワンピースは、綺麗な体のラインをアピールすると同時に、上品で無垢に見せる効果も発揮している。
「とても素敵ですよ。しかし……まずいな」
「え?」
「私が職務質問されるかもしれない。いや、逮捕かな」
「まあ」
切符を渡して改札を抜け、新幹線で隣同士のシートにおさまる頃には、下の名で呼ぶことを許されていた。二人がけのシート。琴絵は、葉桜が座る通路側の席の背もたれに腰かけていた。
山間の静かな町へ降り、地元の料理がうまい店に連れていった。この町で起きた事件のことを話し、一咲が聞きたがるほかの事件についても可能な限り話した。本心は、すでに二人とも別のところにあった。タイミングを見極めるために会話を続けているようなものだった。
食事のあと、それと知らせず宿の方へと歩いた。秋の景色に目を輝かせていた一咲は、だんだんと言葉少なになり、前方にホテルが見えてきたところでピタッと立ち止まった。最後のためらい。葉桜は、気付かない振りをして、道路を横断した先にある小道を指さした。
「あそこから登っていくんです。今からなら、現場を見て日暮れ前にここまで戻れますよ」
一咲は、小道から足元の地面へと視線を移した。顎に手を添えて上を向かせると、濡れたような瞳で葉桜の決断を促した。
道路は、渡らなかった。
ダブルの部屋へ入り、扉を閉めた。琴絵はすぅっと離れ、天井近くで寛いだ。「さあ、始めて」と挑発する態度だ。
(いいんだな? 俺がお前以外の女を抱いても……)
抑えた照明の中、たった今血を舐めたばかりのように赤く光る唇は、言葉をくれない。進むしかないのだ。
後ろから裾をつまんだのは、この部屋に二人きりだと信じて疑わない女性。振り向いて抱き寄せれば、柔らかなふくらみと生命の温度にたやすく陥落した。体内がカッと熱くなる。
「葉桜さん……私、シャワー浴びてきましたから」
箍が外れた。
(罠にかかったのは俺の方かっ……)
五年ぶりの感覚に、溺れた。とどまるところを知らない欲を、一咲は細い腰をくねらせ何度も受け止めた。
「悪い、止まらないっ……」
「全部、ぶつけてください……康平さん……」
自分以外の、それも生きた女に夢中になる夫を、琴絵は表情を変えることなく見つめ続けた。
ようやく満たされて体を離したのは夜半過ぎ。一咲の上に倒れ込み、頭を抱きしめられて安らぎを感じた。甘い汗の香り。爪を綺麗に切りそろえた指が、物言いたげに髪を梳く。好きにさせていると、彼女ははにかみ、「私の康平さん」と夢見るように呟いて、眠りに落ちていった。
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