TOKOSHIE

一条咲穂(花宮守から改名)

文字の大きさ
5 / 59
第1章 幽霊探偵

第5話

しおりを挟む
「葉桜さんですね? お電話しました、ライターの加賀です」
「どうも。昨日は留守にしまして失礼しました」
「いえ。大活躍でいらっしゃいますものね」
 双方、「初めまして」とは言わなかった。加賀一咲は、あの日、公園のベンチで達した葉桜を見ていた女に間違いない。今日もベージュのコートに身を包んでいる。その下は動きやすいパンツスーツだ。襟が大きく開いたブラウスで強調された白い喉元には、血のようなルビーが光っている。清潔感の中に下心をちらりと覗かせる装いは、こちらの狙いと合致する。
 庁舎の入口で名刺を交換し、外へ出てぶらぶら歩いた。琴絵は、二人の間にふわふわと浮かんでいる。妻は洋風、記者は和風の美人だ。目元は似通っている。
(さて。向こうから来るか、こっちから切り出すか)
 一咲の下心は、話題の探偵から自分だけのネタを聞き出すことだ。そのためなら大抵のことはやってのけるだろう。うまく隠してはいるが、獲物にいつでも飛びかかれる獣の目だ。
 葉桜の下心は二種類ある。ひとつは、東雲に近付いた一咲と接触し、警部が自分のことをどこまでつかんでいるかを探る。もうひとつは肉体的な意味での接触だ。「特ダネを話すからと関係を迫られました」と訴えられる事態は避けたい。
 いきなり公園の出来事を持ち出すか。それとも、ざっと読んでおいた、一咲の過去の記事をほめそやすか。若さゆえの甘さはあるが、全体としてはシャープな文章で、なかなかの着眼点。葉桜を題材にどんな記事を書くのか、純粋に興味が沸いてくる。
 沈黙に堪えかねたのは、女の方だった。
「葉桜さん。その後、お体の具合はいかがですか」
「特に悪いところはありませんよ。相手が相手なので、消耗しやすくなってはいますがね」
「公園で見かけてから、気になっていたんです。ご気分が悪そうなのに、声をかけずに通り過ぎてしまったから……」
(直球で来たか)
 内心ほくそ笑み、足を止めた。一咲は一歩後ろで止まった。自分の背に幽霊の女が忍び寄り、葉桜に向かって頷いていることなど、気付くはずもない。高いヒールを履きこなしている小柄な女を、邪心にまみれた探偵はじっと見下ろした。
「ほんとに?」
「ええ。心配で」
「ほんとに、気分が悪くてうめいたように見えましたか? なら、なぜ慌てて走り去ったのかなあ」
「あら。私、走ったことは覚えていません。気が動転してたのかな」
「かわいい小走りでしたよ。動転もするでしょう。公共の場で、してはならないことをしている男がいればね」
「何をおっしゃっているのか……」
 その場はそれで引いた。悪い感触ではない。ほつれ毛を直してやると、目元を赤く染めた。
「明日、連絡しても?」
 囁くと、こくんと頷いて罠にかかった。

 翌日、宿を押さえてから一咲にメッセージを送った。
『少し遠出になりますが、昼食をご一緒しませんか。以前訪れた印象深い事件の現場にも近い。あなたに協力したいんです』
 見え透いた文面に対して、五分後に返信があった。
『朝いちの取材を済ませてから向かいます。それはどうしても動かせないので、遅い昼食になるかと思いますが』
了承の旨と、待ち合わせの場所、時間を送った。楽しみにしています、と返ってきたのは誘惑か、またはよほどの世間知らずなのか。
「両方かな」
 肩に手を置き、メッセージのやり取りを見守っていた妻は、謎めいた笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します 掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。 改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 2026/2/17:『うしろまえ』の章を追加。2026/2/24の朝頃より公開開始予定。 2026/2/16:『おちば』の章を追加。2026/2/23の朝頃より公開開始予定。 2026/2/15:『ねこ』の章を追加。2026/2/22の朝頃より公開開始予定。 2026/2/14:『いけのぬし』の章を追加。2026/2/21の朝頃より公開開始予定。 2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...