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第1章 幽霊探偵
第12話
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「うぅ、生きてる……?」
「ああ、そのようだ……」
相模湾の日の出を、地面に突っ伏して見ることになるとは思わなかった。昇る朝日。何事もなかったようにさざ波の音を聞かせる海。辺りが濡れた様子はなく、氷柱によって開いたはずの穴もない。
「幻覚……ですかね」
「わからん。何しろ幽霊のやることだからな」
腰を押さえて立ち上がる部下に手を貸し、夢のような気持ちで空を見上げた。白いドレスの女はいない。自然と二人の目はペンションへ向く。金縛りは解け、障壁もない。入ろうと思えば入れる。
「い、行きます? 中……」
「当たり前だ。何のためにここまで来たと思ってる」
昨夜は閉ざされているように見えた玄関の扉は、行ってみるとわずかに開いていた。東雲が手を触れる前に、ギィ、と耳障りな音を立てて大きく開いた。
「ひぇっ」
「騒ぐな」
「だって、自動的にっ」
「風だろう」
大崎を正気づかせるために言ってはみたものの、手のひらにじっとりと浮かぶ汗は警戒信号だ。
何か、ある。
何年も前に閉鎖されたペンション。その割には荒れ果てた感じはしないが、空気は淀んでいる。一歩進むごとに、足が重くなる。大崎は、半分泣きべそをかきながらついてくる。昨夜のことで神経が参ったのだろう。
客室は六室。ひとつひとつ見てまわる必要はなかった。明らかにほかとは違う、禍々しいものを漂わせる部屋がある。霊力ではなく、長年の刑事としての勘だ。
「二階の真ん中だな」
階段を上り始めると、大崎が渾身の力でしがみついてきた。
「けーぶ! 行っちゃ駄目ですっ」
立ち止まって振り向いてみた。部下の体は半分、玄関の方へ逃げている。
「あ、やめますか? ですよね! 帰りましょう!」
「いや、行く」
「えーっ!」
二階に着き、目指す部屋の手前まで来ると、またしがみつかれた。
「だめだめだめっ」
「なるほど、ここに間違いなさそうだ。君、便利だな」
「じょーだんじゃないですよぉっ」
じんわりと、冷たい汗が全身を濡らす。泣きわめく大崎を引きずって扉に手をかけ、息を止めて開けた。
雨戸が閉まっているため、中は暗い。しかし、いやなものほど真っ先に目に入るものだ。入口からの明かりでぼんやりと見えてきた白いもの……ベッドの上に無残に残されているのは。
「ヒトの白骨だな」
二十代男子の絹を裂くような悲鳴が、海辺の朝の眠りを破った。
「ああ、そのようだ……」
相模湾の日の出を、地面に突っ伏して見ることになるとは思わなかった。昇る朝日。何事もなかったようにさざ波の音を聞かせる海。辺りが濡れた様子はなく、氷柱によって開いたはずの穴もない。
「幻覚……ですかね」
「わからん。何しろ幽霊のやることだからな」
腰を押さえて立ち上がる部下に手を貸し、夢のような気持ちで空を見上げた。白いドレスの女はいない。自然と二人の目はペンションへ向く。金縛りは解け、障壁もない。入ろうと思えば入れる。
「い、行きます? 中……」
「当たり前だ。何のためにここまで来たと思ってる」
昨夜は閉ざされているように見えた玄関の扉は、行ってみるとわずかに開いていた。東雲が手を触れる前に、ギィ、と耳障りな音を立てて大きく開いた。
「ひぇっ」
「騒ぐな」
「だって、自動的にっ」
「風だろう」
大崎を正気づかせるために言ってはみたものの、手のひらにじっとりと浮かぶ汗は警戒信号だ。
何か、ある。
何年も前に閉鎖されたペンション。その割には荒れ果てた感じはしないが、空気は淀んでいる。一歩進むごとに、足が重くなる。大崎は、半分泣きべそをかきながらついてくる。昨夜のことで神経が参ったのだろう。
客室は六室。ひとつひとつ見てまわる必要はなかった。明らかにほかとは違う、禍々しいものを漂わせる部屋がある。霊力ではなく、長年の刑事としての勘だ。
「二階の真ん中だな」
階段を上り始めると、大崎が渾身の力でしがみついてきた。
「けーぶ! 行っちゃ駄目ですっ」
立ち止まって振り向いてみた。部下の体は半分、玄関の方へ逃げている。
「あ、やめますか? ですよね! 帰りましょう!」
「いや、行く」
「えーっ!」
二階に着き、目指す部屋の手前まで来ると、またしがみつかれた。
「だめだめだめっ」
「なるほど、ここに間違いなさそうだ。君、便利だな」
「じょーだんじゃないですよぉっ」
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雨戸が閉まっているため、中は暗い。しかし、いやなものほど真っ先に目に入るものだ。入口からの明かりでぼんやりと見えてきた白いもの……ベッドの上に無残に残されているのは。
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