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第2章 若き刑事の苦悩
第4話
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事態は受け入れた。前に進むためだ、致し方ない。しかし、四六時中プライバシー皆無の生活はいかがなものか。
「こんなんじゃ、遊びにもいけない」
「俺は構わないけどな」
「僕が構うんですよっ。何が悲しくて幽霊の相棒に見張られながら女の子を……うぅぅ」
「消えることも、まあできるんだろうけどな」
「じゃあ、お願いしますよ。二時間くらい……いや、三時間」
「まだキャリアが浅いせいかな、やり方がわからない」
「五年前から幽霊してたんでしょうがっ」
「女房任せだったからなあ」
「怠慢ですっ」
葉桜家の力関係はわかってきたが、連れ歩く自分の身にもなってもらいたい。
「おかしいですよ。幽霊として新米なら、何でいきなりテレポーテーションできるんです」
庁舎から謎の空間、そこからさらにアパートへと運ばれたのは、彼の力だ。
「仮説は三つある。いや、四つかな。その一、新米でもいきなり使える種類の能力である。その二、俺がもともと有する能力だった線。ただし自覚なし。その三、お前がもともと持ってる能力だから」
「僕は普通の人間ですっ」
この上、特殊能力の持ち主にされては、たまったものではない。その点、彼は大抵のことは柔軟に受け入れるたちであるらしい。歯ぎしりしたい気分で続きを促した。
「それで、四つ目は?」
「……琴絵が、俺に力を分けてくれた」
葉桜は、遠くに何かを探すような目をした。葉桜夫妻に散々怖い思いをさせられた大崎でさえ、その目には感じるものがあった。
「奥さんは……今は?」
そばにいないんですか。いると言われても困るが。両手に幽霊なんて嬉しくも何ともない。
「わからない……」
会いたくてたまらない、と。瞳の中に、狂おしいまでの恋の炎が燃えていた。
翌日は休みの予定だったが、出勤することにした。幽霊同伴で休日を満喫できるほどの余裕は、まだない。
気が休まらないというのとは違う。体調も気分も安定している。波長が合うとはこういうことなのだろうか。とにかく仕事をして、普段の自分のリズムを取り戻せば、案外悪くない状態かもしれない。
(元刑事で、東雲警部の信頼も厚かったと聞くし、事件のヒントを教えてもらえるかもな)
「それは反則ってもんだぞ」
「思考を読まないでください」
「勝手に流れてくるんだよ。まあ、無視しようと思えばできるけどな」
「じゃあ、僕にも自動的にあなたの考えが流れてくるんですよね? それを活用するなら反則ではないと思います」
「残念ながら、逆はない。あれば俺だって、女房相手に苦労しないさ」
「不公平の極みだ……」
不服を唱えたい点はほかにもある。葉桜の声はほかの者には聞こえないから、大崎が一人でしゃべっているようにしか見えない。考えていることを読まれるなら、黙っていても会話になりそうなものだ。しかしこの性悪男は、こちらの都合の悪い時にしか読んでくれない。向こうから話しかけてくるタイミングも勝手なものだ。
彼は今、大崎の斜め上に浮かび、デスクに広げられた資料を眺めている。
「それで、と。……ああ、ちょうどいい。上から二番目の事件」
言われた資料を、思わず手に取った。
「そう、それだ。あと、今、画面に表示されてるやつな。俺に依頼が来てたんだ。お前に手柄を立てさせてやるよ」
「って、じゃあこれっ」
幽霊案件なんですか! と叫びかけて、周りの目に気付いた。見えないものと会話をしている危ないやつと思われてはたまらない。それが事実にしてもだ。
「うぅ、行きたくない……」
「大崎、何言ってんだ。刑事が事件、選り好みしてんじゃねーよ」
「ムラさん、そういうんじゃなくてですね。ええと、僕の第六感が」
先輩の村山に活を入れられて、ごにょごにょとごまかした。反対側では、古巣を感慨深げに見渡していた幽霊が自由に振る舞う。
「村山も立派になったなあ。んじゃ、行くか。ここじゃろくに話せないもんな」
「うぅぅ」
泣きたい。
「こんなんじゃ、遊びにもいけない」
「俺は構わないけどな」
「僕が構うんですよっ。何が悲しくて幽霊の相棒に見張られながら女の子を……うぅぅ」
「消えることも、まあできるんだろうけどな」
「じゃあ、お願いしますよ。二時間くらい……いや、三時間」
「まだキャリアが浅いせいかな、やり方がわからない」
「五年前から幽霊してたんでしょうがっ」
「女房任せだったからなあ」
「怠慢ですっ」
葉桜家の力関係はわかってきたが、連れ歩く自分の身にもなってもらいたい。
「おかしいですよ。幽霊として新米なら、何でいきなりテレポーテーションできるんです」
庁舎から謎の空間、そこからさらにアパートへと運ばれたのは、彼の力だ。
「仮説は三つある。いや、四つかな。その一、新米でもいきなり使える種類の能力である。その二、俺がもともと有する能力だった線。ただし自覚なし。その三、お前がもともと持ってる能力だから」
「僕は普通の人間ですっ」
この上、特殊能力の持ち主にされては、たまったものではない。その点、彼は大抵のことは柔軟に受け入れるたちであるらしい。歯ぎしりしたい気分で続きを促した。
「それで、四つ目は?」
「……琴絵が、俺に力を分けてくれた」
葉桜は、遠くに何かを探すような目をした。葉桜夫妻に散々怖い思いをさせられた大崎でさえ、その目には感じるものがあった。
「奥さんは……今は?」
そばにいないんですか。いると言われても困るが。両手に幽霊なんて嬉しくも何ともない。
「わからない……」
会いたくてたまらない、と。瞳の中に、狂おしいまでの恋の炎が燃えていた。
翌日は休みの予定だったが、出勤することにした。幽霊同伴で休日を満喫できるほどの余裕は、まだない。
気が休まらないというのとは違う。体調も気分も安定している。波長が合うとはこういうことなのだろうか。とにかく仕事をして、普段の自分のリズムを取り戻せば、案外悪くない状態かもしれない。
(元刑事で、東雲警部の信頼も厚かったと聞くし、事件のヒントを教えてもらえるかもな)
「それは反則ってもんだぞ」
「思考を読まないでください」
「勝手に流れてくるんだよ。まあ、無視しようと思えばできるけどな」
「じゃあ、僕にも自動的にあなたの考えが流れてくるんですよね? それを活用するなら反則ではないと思います」
「残念ながら、逆はない。あれば俺だって、女房相手に苦労しないさ」
「不公平の極みだ……」
不服を唱えたい点はほかにもある。葉桜の声はほかの者には聞こえないから、大崎が一人でしゃべっているようにしか見えない。考えていることを読まれるなら、黙っていても会話になりそうなものだ。しかしこの性悪男は、こちらの都合の悪い時にしか読んでくれない。向こうから話しかけてくるタイミングも勝手なものだ。
彼は今、大崎の斜め上に浮かび、デスクに広げられた資料を眺めている。
「それで、と。……ああ、ちょうどいい。上から二番目の事件」
言われた資料を、思わず手に取った。
「そう、それだ。あと、今、画面に表示されてるやつな。俺に依頼が来てたんだ。お前に手柄を立てさせてやるよ」
「って、じゃあこれっ」
幽霊案件なんですか! と叫びかけて、周りの目に気付いた。見えないものと会話をしている危ないやつと思われてはたまらない。それが事実にしてもだ。
「うぅ、行きたくない……」
「大崎、何言ってんだ。刑事が事件、選り好みしてんじゃねーよ」
「ムラさん、そういうんじゃなくてですね。ええと、僕の第六感が」
先輩の村山に活を入れられて、ごにょごにょとごまかした。反対側では、古巣を感慨深げに見渡していた幽霊が自由に振る舞う。
「村山も立派になったなあ。んじゃ、行くか。ここじゃろくに話せないもんな」
「うぅぅ」
泣きたい。
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