TOKOSHIE

一条咲穂(花宮守から改名)

文字の大きさ
21 / 59
第2章 若き刑事の苦悩

第7話

しおりを挟む
「で、ベンチが設置されたのが今から一年前だ」
「関係があると?」
「当たりはつけてた。去年のうちに見に来るつもりでいたんだが……ああいうことになったからな。今日、彼女が座ってるのを見て、神隠しのからくりはわかった」
「からくり……」
 彼女は、何かを夢想するように二人から視線を外した。幸せそうだ。
「お前も一度見ただろ。消えた人間は、あの空間をさまよっている……多分な」
 うねうねと形を変える、気持ちの悪い空間のことを言っているらしい。
「あそこですかぁ……」
「情けない声出すなって。さて……ここからは、お嬢さんに話を聞こうか。隣に座っても?」
 葉桜の問いに対する返答として、彼女はわずかに横へずれた。ひとつひとつの所作が美しい。
「ありがとう。俺は葉桜康平。こっちは大崎孝信。君は?」
「なつと申します」
「おなつさんか。よろしくな。ここで何を?」
 見事なものだ。幽霊同士のよしみもあるのだろうか。ベンチで肩を並べる二人の間に、早くも兄妹のような親密さが生まれている。なつは葉桜の方へ体ごと向き、「待っているの」と言った。
「好きな男か?」
 なつの青白い頬に朱がさした。図星のようだ。
「これを……お返ししたくて」
 袂から取り出したのは手拭いだった。なつは、話を聞いてくれる者が現れて嬉しいのだろう、その男のことを語り始めた。
「私がお侍に斬られそうになったところを、助けていただきました。その時にこれを。洗ってお返ししますと申し上げたのですが、これから遠くへ行くから気にせずともよいと……」
「ふむ……それで?」
 大崎は耳を疑った。
(斬られそうにって……刀!? この子、現代の幽霊じゃないのか!? 一体何百年、幽霊やってるんだよっ)
 そう思って見れば、なつの服装も髪型も、まるで時代劇から抜け出してきたかのようだ。葉桜はとっくに気付いていたのか、和やかに話を続けている。
「その男と出会ったのが、ここだった?」
「はい。ちょうどこんな風に並んで腰かけて、少しお話を。あの方は……お役目を終えて戻ってくることがあれば、ここで会おうとおっしゃいました」
 何て適当な約束。いや、約束にもなっていない。それを真に受けてずっと待っているのか。葉桜がこっちをちらりと見た。「お前にはわからねーだろうな」と顔に書いてある。わからなくても一向に困らないので放っておいてほしい。
「それで……君は、いつ?」
「あの方が江戸をお発ちになった翌月……文久三年三月の末でございました」
(ぶんきゅう? いつだっけ)
「西暦一八六三年か。よし、大体わかった。あとは、その御仁の名前はわかるか?」
「はい」
 なつが名前を教え、葉桜が素っ頓狂な声を上げたが、大崎は時代の方に気を取られていた。
(江戸時代の幽霊!? 勘弁してくれっ)
 一体この世には、どれだけの幽霊が跋扈しているのか。レベルとやらで感知できないだけで、隙間もないほどうようよいるのかもしれない。想像して、気が遠くなった。
「おーい、聞いてんのか? 行くぞ」
「へっ? あ、あの異空間ですか!? ぼ、僕は行かなくてもいいんじゃっ」
「安心しろ、あそこじゃない。おなつさんの想い人のところだよ。な?」
 なつは恥ずかしそうに頷いた。
「行き先は……まあ、行けばわかるからいいよな。ついてこい」
「それって絶対、僕が行きたくない場所ですよね!?」
 十中八九、墓場だろう。江戸時代の人間なら間違いなく死んでいる。憧れの君が死んだと教えるのは不憫だから、墓を見せてから対処を考えるという魂胆か。
(ショックで暴れ出したらどうするんだよっ)
「ほら、急げって。俺はいいけど、お前はここに長居すると骨になるか、よくても神隠しだぞ」
「は!?」
 慌てて公園を飛び出した。冷や汗がすごい。振り返ると公園の敷地内は、昼間だというのに薄暗がりに沈んでいた。
「な、な、な……」
「ん? ああ……そうか。暗く見えるんだろ?」
 首を縦に振って肯定した。言葉が出ない。
「この子自体は無害なんだけどな。いろいろ積み重なって、やばい空間になってる。おかげでお前は急成長の過程にあるが、まだ不安定だ。似たような場所が見えたら近付かないようにしろ」
 急成長とは。不安定とは。説明は、聞きたくもなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します 掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。 改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 2026/2/17:『うしろまえ』の章を追加。2026/2/24の朝頃より公開開始予定。 2026/2/16:『おちば』の章を追加。2026/2/23の朝頃より公開開始予定。 2026/2/15:『ねこ』の章を追加。2026/2/22の朝頃より公開開始予定。 2026/2/14:『いけのぬし』の章を追加。2026/2/21の朝頃より公開開始予定。 2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...