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第2話 運命の出逢い14
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服を着替えて部屋を出ると、外で従者が待っていた。状況を尋ねると、このように語った。
夜中に怪我の様子が心配になった男爵の従者が部屋に行くともぬけの空だったそうだ。ただ、オイレンベルク卿が部屋を空けるのはままあることだそうで、他の部屋にいるのだろうと考えた。従者は仔細を語らなかったが、まあ小姓や召使いの部屋に夜這いに行くということだろう。
夜明け前にもう一度部屋を訪ねたが戻っておらず、何やら可笑しいと思い、オイレンベルク卿が可愛がっている小姓や召使いの部屋を順番に訪れて、ようやくどこにもいないことが判明したのだ。
警備兵もまさかオイレンベルク卿が部屋を抜け出すとは思っておらず──恐らく僕の警備に人を割いたせいだろう──、外に出たところを見ていないそうだ。
「その様子だと少なくとも夜中のうちに城を出たことになりますね……」
「御小姓をお探しになっているとしたら、森に向かわれた可能性があります。月の明るい夜でしたので、灯りを持たずに飛び出したとしても、可笑しくはないかと」
僕の誘導が効いたのか、城の者達は総出で森に向かったらしい。
「野犬のことがあるので心配です。私達も森に向かいましょう」
ここまで上手く事が運ぶとは。気を抜いたら嘲笑を浮かべてしまいそうだ。計画通りに進むことが、これほど愉快な気持ちにさせるとは思わなかった。
城を出て馬車で森に向かう。従者は僕が森に入るのは危険だと言ったが、「オイレンベルク卿が命の危険に晒されているのは、私がお城をお訪ねすることにしたためでもあります。私にも責任があるのです」。そう説得すると、ランプと剣を携え、数人の兵を連れていくこととなった。
「昨日野犬に襲われたところからミロはさらに奥に行ったようでした。オイレンベルク卿が探しに行ったとしたらその先の方でしょう。森の反対側からこちらに抜ける道があれば、そこの可能性が高いのですが」
城下街の自警団も捜索に加わっていて、彼らの情報だとちょうど城から森を通り、この街道に至る獣道があるのだという。
街道から森を通って城に向かう抜け道があることは、大昔この地に攻め入った騎士の自伝に書かれていたので初めから知っていたが、今知ったかのように演技をしてその獣道に入ることにした。
「旦那様! 人影が見えます!」
森に分け入って一時間ほどして、とぼとぼと歩く人の姿を目撃し駆け寄った。それはオイレンベルク卿ではなく、上半身裸の土まみれの服を着た彼の小姓ミロだった。
「君は……! 無事だったのですね!」
僕は羽織っていたローブを脱ぎミロに掛けてやると、彼は安堵したように大きな溜息を吐いてその場に座り込んだ。
体力的にも精神的にも限界だったのだ。警備の目を掻い潜り城を抜け出し、夜通し森の中を走り回って、オイレンベルク卿が野犬に襲われたように思わせるための偽装工作をして、僕がこの辺りを探しにくるのを今までじっと待っていたのだから。
「今までどうしていたのです?」
「……野犬が彷徨いていたので、匂いを消すために土を身体につけて今まで木の上でじっとしていました。人の声がしたので、こちらの方に歩いてきて……」
「そうでしたか……無事で何よりです」
脚本通りの台詞だった。全て筋書き通りにいってしまった。最後の一つは人間の感情がどう動くかだが、まあ簡単な誘導でどうとでもなる。
夜中に怪我の様子が心配になった男爵の従者が部屋に行くともぬけの空だったそうだ。ただ、オイレンベルク卿が部屋を空けるのはままあることだそうで、他の部屋にいるのだろうと考えた。従者は仔細を語らなかったが、まあ小姓や召使いの部屋に夜這いに行くということだろう。
夜明け前にもう一度部屋を訪ねたが戻っておらず、何やら可笑しいと思い、オイレンベルク卿が可愛がっている小姓や召使いの部屋を順番に訪れて、ようやくどこにもいないことが判明したのだ。
警備兵もまさかオイレンベルク卿が部屋を抜け出すとは思っておらず──恐らく僕の警備に人を割いたせいだろう──、外に出たところを見ていないそうだ。
「その様子だと少なくとも夜中のうちに城を出たことになりますね……」
「御小姓をお探しになっているとしたら、森に向かわれた可能性があります。月の明るい夜でしたので、灯りを持たずに飛び出したとしても、可笑しくはないかと」
僕の誘導が効いたのか、城の者達は総出で森に向かったらしい。
「野犬のことがあるので心配です。私達も森に向かいましょう」
ここまで上手く事が運ぶとは。気を抜いたら嘲笑を浮かべてしまいそうだ。計画通りに進むことが、これほど愉快な気持ちにさせるとは思わなかった。
城を出て馬車で森に向かう。従者は僕が森に入るのは危険だと言ったが、「オイレンベルク卿が命の危険に晒されているのは、私がお城をお訪ねすることにしたためでもあります。私にも責任があるのです」。そう説得すると、ランプと剣を携え、数人の兵を連れていくこととなった。
「昨日野犬に襲われたところからミロはさらに奥に行ったようでした。オイレンベルク卿が探しに行ったとしたらその先の方でしょう。森の反対側からこちらに抜ける道があれば、そこの可能性が高いのですが」
城下街の自警団も捜索に加わっていて、彼らの情報だとちょうど城から森を通り、この街道に至る獣道があるのだという。
街道から森を通って城に向かう抜け道があることは、大昔この地に攻め入った騎士の自伝に書かれていたので初めから知っていたが、今知ったかのように演技をしてその獣道に入ることにした。
「旦那様! 人影が見えます!」
森に分け入って一時間ほどして、とぼとぼと歩く人の姿を目撃し駆け寄った。それはオイレンベルク卿ではなく、上半身裸の土まみれの服を着た彼の小姓ミロだった。
「君は……! 無事だったのですね!」
僕は羽織っていたローブを脱ぎミロに掛けてやると、彼は安堵したように大きな溜息を吐いてその場に座り込んだ。
体力的にも精神的にも限界だったのだ。警備の目を掻い潜り城を抜け出し、夜通し森の中を走り回って、オイレンベルク卿が野犬に襲われたように思わせるための偽装工作をして、僕がこの辺りを探しにくるのを今までじっと待っていたのだから。
「今までどうしていたのです?」
「……野犬が彷徨いていたので、匂いを消すために土を身体につけて今まで木の上でじっとしていました。人の声がしたので、こちらの方に歩いてきて……」
「そうでしたか……無事で何よりです」
脚本通りの台詞だった。全て筋書き通りにいってしまった。最後の一つは人間の感情がどう動くかだが、まあ簡単な誘導でどうとでもなる。
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