アネモネの花

藤間留彦

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陽川花火編

第三話 再会⑥

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 何だか訳が分からなくなってきた。どうやら芳慈さんの中で俺は帰宅するものだということになっているらしい。

「いや、俺も泊まりますから良いですよ。今無職なんで、明日も暇ですし」
「そういう訳にはいきません。間違いがあったら困りますから」

 間違いって……生娘でもあるまいし。しかし、俺が決めたことを尊重してくれようとしているのが分かって、少し嬉しい。

「大丈夫ですよ。ベッドこれだけ広いんで」

 と言うと、芳慈さんは俺の正面に向き直った。笑みを浮かべているが、何となく目の奥が笑っていないような感じがして、思わず身構える。

「君は私を男として見くびっているようですけれど、私は君が思うよりも欲深いんです。あまりそうやって煽らない方がいいですよ」

 ベッドの上でしか見せない雄の部分を垣間見て、心臓が跳ねる。

「俺が……芳慈さんと、一緒に居たいだけなんで……また、会えなくなると思うと……」

 何を言っているんだ、馬鹿なのか俺は。墓穴を掘るどころか、穴に頭からダイブするようなことを口走っている。自業自得だが、あまりの羞恥に顔が熱い。

「すみません。私は自分の都合ばかりで、思慮に欠けていました。私も、脩君と過ごす時間は一秒も惜しい」

 出会った頃からそうだが、この鳥海芳慈とりみよしじという男は、唐突に他人の心臓を鷲掴みにしてくる。本人は特に意識していないところが余計に始末が悪い。

「では、私はソファで眠ります。それでも構いませんか」
「それなら逆の方がいいと思いますけど。……あまり眠れないと思うし」

 芳慈さんはふっと息を吐くように笑い、「私もです」と言った。

「では、眠くなるまでは話をしましょうか。そのまま朝を迎えてしまうかもしれませんけれど」

 芳慈さんはきっと冗談のつもりで言ったのだろうが、俺はそうなることを確信していた。この数年の話は、千夜一夜ほどではないにせよ、互いにあると思うから。

「じゃあ、シャワーどうしますか。先入ります?」
「いえ、脩君からどうぞ」
「それなら暇潰しに部屋の設備見てみてください。結構面白いですよ」

 そう言って俺は出入り口の近くにあったシャワールームに入る。このホテルに入るのは初めてだが、できたばかりなのか綺麗だし、浴室にもテレビが備え付けてあって、光るジャグジーもある。バスタブ内の照明を変えられたので、面白くて色を変えて遊んだ後、適当にバスタオルで身体を拭き、バスローブに着替えて歯磨きをして戻る。

 と、何のボタンを押したのか部屋の照明がピンクになっていて、テレビではアダルトチャンネルが点いていた。芳慈さんが慌てた様子で、テレビを消す。

「ええと……刺激的で、驚きました……」

 アダルトビデオくらいで頬を赤らめているのが面白く、つい笑ってしまった。

「ああ、ではシャワーを浴びてきます。眠たかったら寝てくれて構いませんから」

 と半分逃げるようにして部屋を出ていく。寝てていいというようなことを何回も言われた記憶があるが、俺が寝ていたことが一度でもあったか考えて欲しいところだ。
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