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2 街に出よう
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シスイはユークリッドのベッドで目を覚ました。いつの間にか運ばれていたようだ。
ベッドから降りてユークリッドの寝顔を覗きこむとユークリッドの瞼がゆっくりと開いた。ぱちぱちとニ、三度瞬きをする。
「……ああ。驚いた。シスイのアップか」
ふっと幸せそうに目尻を下げて微笑みながらシスイの頭に手を伸ばす。
(おおう……寝起きのイケメンの破壊力)
ユークリッドの色気に居たたまれなくなり、焦って数歩下がった。これは同性でもドキドキしても仕方がない。仕方がないったら仕方がない。
今ユークリッドを間近で見たとき、何か違和感を感じたのだが、すっかり忘れてあちこち視線をさまよわせた。
「なぜ下がる。触られるのが嫌か?」
手をだらんとしたまま、ユークリッドはしょんぼりしてこちらを見た。
(ええ……)
シスイはぶんぶんと頭を振った。
「ん? お前、言葉がわかるのか? ……今までも通じていた?」
今度は縦に頭を振った。そして通じたかな? とユークリッドを見上げて違和感の正体に気がついた。
(あれっ!? ユークリッド目の色が、目!)
美しい薄めの水色だったユークリッドの目の色が、紫になっている。シスイと同じ色だ。驚いたシスイはわんわん吠えた。
「どうした?」
金色の髪をさらりと揺らして首を傾げ、しゃがんで顔を近づけてくる。
(イケメンのアップ再び! そうじゃなくて目!)
シスイは大きな肉球でそっとユークリッドの瞼を押さえ、それから自分の瞼も抑えてうなった。
「目がどうかしたのか」
ユークリッドは立ちあがって壁の鏡を見に行った。しばらく観察したあとシスイに振り向いた。
シスイの前まで戻り、角度を変えながら目を観察する。
そしてうん、と一度頷いた。
「お前の瞳の色とお揃いになったな」
(かるっ!!)
ユークリッドの見解では、聖獣の加護がついたんだか眷属になったんだか何なんだかだろうと言うことだった。自分ではわからないので、信用できる魔術師に調べてもらうそうだ。
てきれば加護くらいで収まってもらいたいものだ。
それにしても、家にも帰りたいし、家族にも友達にも会いたいが、ユークリッドとも離れがたくなってきている。
自分で選べるのか、そもそも帰れるのかもわからないけれども、結局はつらい思いをしそうで憂鬱になるシスイだった。
次の休日、ユークリッドとシスイは、日課の鍛錬を行ってから、ユークリッドと同い年の幼馴染で魔術師のリスベルに会いに行った。
腰まで伸ばした黒髪の、黒目の細身の美女だ。魔術師の黒いローブを着ている。
「おう、どうした。久しぶりじゃねぇか。相変わらずの男ぶりだな。おや? この犬は何だ。飼ってるのか?」
儚そうな見かけと違い存外口が悪く、たて続けに喋りまくる。
「オイ、お前なんか変わったな? 犬飼って丸くなったか? いや?」
ユークリッドに急接近して身体のあちこちを触り始めた。
ユークリッドはさすがにちょっと引き、口を挟むことにした。
「いや、少し話せるか。それも含めて」
リスベルはふんと鼻を鳴らしてついて来いと身振りで示した。
案内されたのはリスベルの研究室らしい。彼女はいつもここに篭っているのだ。
ユークリッドがソファに座り、シスイはその足元に座った。
無意識なのかユークリッドはひたすらシスイの首の辺りを撫でている。
「で? 話とは?」
「実はこのシスイ、犬ではないのだ」
(あっ! そうか。聖獣だよな。ははっ。自分でも犬のような気がしてたわ)
「犬ではない!? どう見てももふもふな愛らしい犬だが」
リスベルは当たり前だが不審そうだ。
ユークリッドは少し逡巡してからおもむろに口を開いた。
「これは神獣だ。浄化を使える。言葉もこちらからの言葉は通じているようだ」
「なに!?」リスベルはガタッと立ちあがってズカズカと歩いてきた。
「ふむ、触ってよいか?」
シスイが頷くと、リスベルはシスイの身体を先ほどのようにベタベタ触りはじめた。
シスイは少し身じろぎしたが、じっと我慢している。
「やはり犬と変わらんな」
ようやく離してくれたリスベルにスッパリ言われ、ええっと一緒思ったが確かにと同意して頷く。ユークリッドは今までの経緯を話した。リスベルは腕を組んで、シスイの首に下がっているネームタグに視線をやった。
「私の目の色がシスイと同じ紫になっている。ここにある鑑定の道具を使わせてくれ」
「なるほど、外見の違和感はそれか。ちょっと待っていろ」
リスベルは、奥から家庭科で使うデジタル型のスケールのようなものを持ってきて、机の上に置いた。ユークリッドが手をぞんざいにその上に乗せる。
【名前】 ユークリッド・アングレア
【レベル】 五十二
【スキル】 火魔法Ⅱ 水魔法Ⅱ 風魔法Ⅰ 氷魔法Ⅰ 毒・瘴気・状態異常無効
【称号】 聖獣シスイの加護
「やはり聖獣か。加護のおかげで氷魔法と毒無効も増えている。それに私の目の色が紫になったのは、加護の影響ではないか?」
「恐らくそうだろうな。聖獣がお前を主人と認めたことで、加護がついたのかもしれねぇな」
リスベルはユークリッドのステータスに感心しているシスイを見やると、悪女っぽくニヤリとした。
「お前なかなかやるな。そんなにかわいらしいのに聖獣なのか。どれ、お前もやってみろ」
と、床に鑑定の道具を置いた。シスイはリスベルが怖かったのと、自分のステータスは知っていて必要ないのとで、ズリズリお尻で後ずさりをした。
すかさずユークリッドが道具を拾う。
「良い。下手にスキルが知れると利用される。シスイは、いてくれるだけで良いのだ」
「ええ~、残念。だがお前、目の色が変わったのを聞かれたらどう説明するつもりだ。それに聖獣が犬好きの陛下に見つかってみろ。返してはもらえんぞ。気をつけろよ」
リスベルは極力感じ良く微笑み、怯えるシスイの片手を持ちあげて、にぎにぎしながら問うた。シスイのご機嫌取り……のつもりだ。
ユークリッドはさり気なくシスイの手を取りかえして不機嫌に答えた。
「これは私のだ。私の目の色は初めから紫だったのだ。誰も私の顔などじっくり見ておらぬ」
「呆れた奴め」
だが外見のことでもあるし、騎士団長のユークリッドにそう言われれば、大抵の者はひき下がらざるを得ないだろう。
(俺も俺も! ユークリッドがいい!)
シスイは尻尾をふりふりして主張していた。加護を与えたほうなのではなく、貰ったほうなのではないか、という感がある。しかし、ユークリッドのシスイへの執着の仕方はやはり加護が関係しているかもしれない。
それから数週間、シスイは平和に過ごした。魔獣もユークリッドが向かうほどの大物が出なかった。
朝、ゴハンをマリーザにもらい、ユークリッドと鍛錬場で鍛錬をする。シスイは少し身体が大きくなった。そのお陰か鍛錬が捗って強くなってきた。
氷魔法も攻撃用だけではなく、飲みものに入れる氷を作れるようになった。
そのあとはユークリッドは書類仕事をすることが多く、足元に丸くなってたまに撫でてもらったり、退屈になって騎士団棟をうろついたりしている。
知り合いもかなり増えてきた。気軽に声をかけてきたり、頭を撫でてくれたりする。
中庭に良くいる文官っぽい優男は、シスイを見ると喜んでたくさん遊んでくれる。暇なのかもしれないが、その割にはいつも疲れている感じだ。
ただ、その男性はシスイをなかなか離してくれなくて、それだけは頭痛の種だ。あまりに疲れていそうなときは近寄らないようにしている。
ユークリッドの休日には、街にも連れていってもらった。初めて街に出たシスイは大興奮で、尻尾を千切れそうに振って周囲の人を和ませた。
(人がいっぱいいる!!)
シスイは目を瞠って道行く人々を観察した。どうやら全員人族のようだ。ラノベ好きの涼介に話すとがっかりするかもしれない。
(ふう、お店もいっぱいあるなあ。あ! 冒険者ギルドあるのかな!? 定番だよな!)
わくわくしながらユークリッドを見上げたが、当然通じるわけがない。若干尻尾の振りが小さくなったが、気を取りなおしてユークリッドにぴったりついて歩いた。
「どうした? 何か食べるか? しかし何でも食べさせていいもんかな? まあ犬ではないしな」
等と立ち止まってぶつぶつ言っている。そこに後ろから来た馬車が速度を落として停まった。
「ユークリッド!!」
窓から顔を出したのは、品の良さそうな三十歳を少し過ぎたくらいの、ユークリッドと同じ色合いの男性だった。
「兄上。ご無沙汰しております」
ユークリッドは表情を変えずに丁寧に礼をした。
そんなユークリッドを胡散臭げに見た男性は不満げに上から声をかけた。
「一年ぶりか。たまには屋敷に顔を出して父上と母上を安心させろ。ルイーズも会いたがっていたぞ」
「はい。近々寄ります」
「ふん、口先ばかりの奴め」
男性は忌々しそうに窓をピシャリと閉め、馬車は走り去った。
「驚いただろう。あれは一番上の兄だ。見ての通り折り合いが悪い」
ユークリッドは金色の髪に手を突っ込み、苛ついたようにくしゃくしゃっとした。
「ろくに会ったこともない両親も兄も、騎士団なんぞ辞めて隣の領地のルイーズの婿になれと。ルイーズが会いたがっているなどとバカなことを。あれは私とは合わぬ」
そしてその手を下ろしシスイの頭を撫で、心配そうなシスイに気がついて苦笑を浮かべた。
「心配かけてすまないな。せっかく街に来たんだから、美味いものでも食おう」
なんとか笑みを浮かべる。シスイはユークリッドの手を舐め、慰めるような仕草をした。ユークリッドは同じ紫色になった瞳を揺らし、首にガバリとかじりついてきた。
「私の家族はお前だけだ」
(苦しいよユークリッド! そしてみんなが見てるから!! クールな外見なのに以外と熱い)
「わふ! わふぅ……」
シスイは何とかユークリッドを立ち直らせてから、屋台で食事を買うのを眺め、噴水の縁に腰かけて二人で食べた。
(そういや犬連れで食堂なんて難しいよな。でも美味しいよ! この肉! 何の肉なんだろう)
シスイのはお皿に入った焼いただけの肉だ。ユークリッドは大きなボウルに入った何かと、肉とスープだ。騎士だからたくさん食べるらしい。
食べ終わって一息つくと落ち着いたらしく、シスイの耳をニコニコしながらふにふにしている。気が済むまでふにふにし、ひとりと一匹でブラブラと帰った。
そして夜、家(仮だけど)もいいなと思いながら、ユークリッドの方を向いてソファで眠りについた。
ベッドから降りてユークリッドの寝顔を覗きこむとユークリッドの瞼がゆっくりと開いた。ぱちぱちとニ、三度瞬きをする。
「……ああ。驚いた。シスイのアップか」
ふっと幸せそうに目尻を下げて微笑みながらシスイの頭に手を伸ばす。
(おおう……寝起きのイケメンの破壊力)
ユークリッドの色気に居たたまれなくなり、焦って数歩下がった。これは同性でもドキドキしても仕方がない。仕方がないったら仕方がない。
今ユークリッドを間近で見たとき、何か違和感を感じたのだが、すっかり忘れてあちこち視線をさまよわせた。
「なぜ下がる。触られるのが嫌か?」
手をだらんとしたまま、ユークリッドはしょんぼりしてこちらを見た。
(ええ……)
シスイはぶんぶんと頭を振った。
「ん? お前、言葉がわかるのか? ……今までも通じていた?」
今度は縦に頭を振った。そして通じたかな? とユークリッドを見上げて違和感の正体に気がついた。
(あれっ!? ユークリッド目の色が、目!)
美しい薄めの水色だったユークリッドの目の色が、紫になっている。シスイと同じ色だ。驚いたシスイはわんわん吠えた。
「どうした?」
金色の髪をさらりと揺らして首を傾げ、しゃがんで顔を近づけてくる。
(イケメンのアップ再び! そうじゃなくて目!)
シスイは大きな肉球でそっとユークリッドの瞼を押さえ、それから自分の瞼も抑えてうなった。
「目がどうかしたのか」
ユークリッドは立ちあがって壁の鏡を見に行った。しばらく観察したあとシスイに振り向いた。
シスイの前まで戻り、角度を変えながら目を観察する。
そしてうん、と一度頷いた。
「お前の瞳の色とお揃いになったな」
(かるっ!!)
ユークリッドの見解では、聖獣の加護がついたんだか眷属になったんだか何なんだかだろうと言うことだった。自分ではわからないので、信用できる魔術師に調べてもらうそうだ。
てきれば加護くらいで収まってもらいたいものだ。
それにしても、家にも帰りたいし、家族にも友達にも会いたいが、ユークリッドとも離れがたくなってきている。
自分で選べるのか、そもそも帰れるのかもわからないけれども、結局はつらい思いをしそうで憂鬱になるシスイだった。
次の休日、ユークリッドとシスイは、日課の鍛錬を行ってから、ユークリッドと同い年の幼馴染で魔術師のリスベルに会いに行った。
腰まで伸ばした黒髪の、黒目の細身の美女だ。魔術師の黒いローブを着ている。
「おう、どうした。久しぶりじゃねぇか。相変わらずの男ぶりだな。おや? この犬は何だ。飼ってるのか?」
儚そうな見かけと違い存外口が悪く、たて続けに喋りまくる。
「オイ、お前なんか変わったな? 犬飼って丸くなったか? いや?」
ユークリッドに急接近して身体のあちこちを触り始めた。
ユークリッドはさすがにちょっと引き、口を挟むことにした。
「いや、少し話せるか。それも含めて」
リスベルはふんと鼻を鳴らしてついて来いと身振りで示した。
案内されたのはリスベルの研究室らしい。彼女はいつもここに篭っているのだ。
ユークリッドがソファに座り、シスイはその足元に座った。
無意識なのかユークリッドはひたすらシスイの首の辺りを撫でている。
「で? 話とは?」
「実はこのシスイ、犬ではないのだ」
(あっ! そうか。聖獣だよな。ははっ。自分でも犬のような気がしてたわ)
「犬ではない!? どう見てももふもふな愛らしい犬だが」
リスベルは当たり前だが不審そうだ。
ユークリッドは少し逡巡してからおもむろに口を開いた。
「これは神獣だ。浄化を使える。言葉もこちらからの言葉は通じているようだ」
「なに!?」リスベルはガタッと立ちあがってズカズカと歩いてきた。
「ふむ、触ってよいか?」
シスイが頷くと、リスベルはシスイの身体を先ほどのようにベタベタ触りはじめた。
シスイは少し身じろぎしたが、じっと我慢している。
「やはり犬と変わらんな」
ようやく離してくれたリスベルにスッパリ言われ、ええっと一緒思ったが確かにと同意して頷く。ユークリッドは今までの経緯を話した。リスベルは腕を組んで、シスイの首に下がっているネームタグに視線をやった。
「私の目の色がシスイと同じ紫になっている。ここにある鑑定の道具を使わせてくれ」
「なるほど、外見の違和感はそれか。ちょっと待っていろ」
リスベルは、奥から家庭科で使うデジタル型のスケールのようなものを持ってきて、机の上に置いた。ユークリッドが手をぞんざいにその上に乗せる。
【名前】 ユークリッド・アングレア
【レベル】 五十二
【スキル】 火魔法Ⅱ 水魔法Ⅱ 風魔法Ⅰ 氷魔法Ⅰ 毒・瘴気・状態異常無効
【称号】 聖獣シスイの加護
「やはり聖獣か。加護のおかげで氷魔法と毒無効も増えている。それに私の目の色が紫になったのは、加護の影響ではないか?」
「恐らくそうだろうな。聖獣がお前を主人と認めたことで、加護がついたのかもしれねぇな」
リスベルはユークリッドのステータスに感心しているシスイを見やると、悪女っぽくニヤリとした。
「お前なかなかやるな。そんなにかわいらしいのに聖獣なのか。どれ、お前もやってみろ」
と、床に鑑定の道具を置いた。シスイはリスベルが怖かったのと、自分のステータスは知っていて必要ないのとで、ズリズリお尻で後ずさりをした。
すかさずユークリッドが道具を拾う。
「良い。下手にスキルが知れると利用される。シスイは、いてくれるだけで良いのだ」
「ええ~、残念。だがお前、目の色が変わったのを聞かれたらどう説明するつもりだ。それに聖獣が犬好きの陛下に見つかってみろ。返してはもらえんぞ。気をつけろよ」
リスベルは極力感じ良く微笑み、怯えるシスイの片手を持ちあげて、にぎにぎしながら問うた。シスイのご機嫌取り……のつもりだ。
ユークリッドはさり気なくシスイの手を取りかえして不機嫌に答えた。
「これは私のだ。私の目の色は初めから紫だったのだ。誰も私の顔などじっくり見ておらぬ」
「呆れた奴め」
だが外見のことでもあるし、騎士団長のユークリッドにそう言われれば、大抵の者はひき下がらざるを得ないだろう。
(俺も俺も! ユークリッドがいい!)
シスイは尻尾をふりふりして主張していた。加護を与えたほうなのではなく、貰ったほうなのではないか、という感がある。しかし、ユークリッドのシスイへの執着の仕方はやはり加護が関係しているかもしれない。
それから数週間、シスイは平和に過ごした。魔獣もユークリッドが向かうほどの大物が出なかった。
朝、ゴハンをマリーザにもらい、ユークリッドと鍛錬場で鍛錬をする。シスイは少し身体が大きくなった。そのお陰か鍛錬が捗って強くなってきた。
氷魔法も攻撃用だけではなく、飲みものに入れる氷を作れるようになった。
そのあとはユークリッドは書類仕事をすることが多く、足元に丸くなってたまに撫でてもらったり、退屈になって騎士団棟をうろついたりしている。
知り合いもかなり増えてきた。気軽に声をかけてきたり、頭を撫でてくれたりする。
中庭に良くいる文官っぽい優男は、シスイを見ると喜んでたくさん遊んでくれる。暇なのかもしれないが、その割にはいつも疲れている感じだ。
ただ、その男性はシスイをなかなか離してくれなくて、それだけは頭痛の種だ。あまりに疲れていそうなときは近寄らないようにしている。
ユークリッドの休日には、街にも連れていってもらった。初めて街に出たシスイは大興奮で、尻尾を千切れそうに振って周囲の人を和ませた。
(人がいっぱいいる!!)
シスイは目を瞠って道行く人々を観察した。どうやら全員人族のようだ。ラノベ好きの涼介に話すとがっかりするかもしれない。
(ふう、お店もいっぱいあるなあ。あ! 冒険者ギルドあるのかな!? 定番だよな!)
わくわくしながらユークリッドを見上げたが、当然通じるわけがない。若干尻尾の振りが小さくなったが、気を取りなおしてユークリッドにぴったりついて歩いた。
「どうした? 何か食べるか? しかし何でも食べさせていいもんかな? まあ犬ではないしな」
等と立ち止まってぶつぶつ言っている。そこに後ろから来た馬車が速度を落として停まった。
「ユークリッド!!」
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「兄上。ご無沙汰しております」
ユークリッドは表情を変えずに丁寧に礼をした。
そんなユークリッドを胡散臭げに見た男性は不満げに上から声をかけた。
「一年ぶりか。たまには屋敷に顔を出して父上と母上を安心させろ。ルイーズも会いたがっていたぞ」
「はい。近々寄ります」
「ふん、口先ばかりの奴め」
男性は忌々しそうに窓をピシャリと閉め、馬車は走り去った。
「驚いただろう。あれは一番上の兄だ。見ての通り折り合いが悪い」
ユークリッドは金色の髪に手を突っ込み、苛ついたようにくしゃくしゃっとした。
「ろくに会ったこともない両親も兄も、騎士団なんぞ辞めて隣の領地のルイーズの婿になれと。ルイーズが会いたがっているなどとバカなことを。あれは私とは合わぬ」
そしてその手を下ろしシスイの頭を撫で、心配そうなシスイに気がついて苦笑を浮かべた。
「心配かけてすまないな。せっかく街に来たんだから、美味いものでも食おう」
なんとか笑みを浮かべる。シスイはユークリッドの手を舐め、慰めるような仕草をした。ユークリッドは同じ紫色になった瞳を揺らし、首にガバリとかじりついてきた。
「私の家族はお前だけだ」
(苦しいよユークリッド! そしてみんなが見てるから!! クールな外見なのに以外と熱い)
「わふ! わふぅ……」
シスイは何とかユークリッドを立ち直らせてから、屋台で食事を買うのを眺め、噴水の縁に腰かけて二人で食べた。
(そういや犬連れで食堂なんて難しいよな。でも美味しいよ! この肉! 何の肉なんだろう)
シスイのはお皿に入った焼いただけの肉だ。ユークリッドは大きなボウルに入った何かと、肉とスープだ。騎士だからたくさん食べるらしい。
食べ終わって一息つくと落ち着いたらしく、シスイの耳をニコニコしながらふにふにしている。気が済むまでふにふにし、ひとりと一匹でブラブラと帰った。
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