聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

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 部屋に戻った慧吾は、ベッドに腰かけてまずは身体の点検をした。特に前と変わりはないように思える。

 犬の痕跡は何もない。多分ないと思う。肉球ももふもふの耳もしっぽもないし。
 筋肉がついたり老けたりということもないようだ。身体の時間は経過していないのかもしれない。
 
 それからこれは絶対やってみなければ。
 

『ステータスオープン!』


【名前】 水原慧吾(聖獣シスイ)
【レベル】 四十五
【スキル】 (浄化魔法Ⅲ) 時空魔法Ⅰ(時空魔法Ⅱ) 氷魔法Ⅰ(氷魔法Ⅱ) 結界魔法Ⅰ 言語理解 毒・瘴気・状態異常無効 身体強化 (人化)


 この世界でもステータスを見ることができた。

 レッドドラゴンを倒したせいか、大幅にレベルが上がっている。
 しばらく見ていなかったので、討伐前の経験値も含まれてはいるが、それでもレッドドラゴンの経験値もかなりあるはずだ。

 スキルは浄化魔法が上がっている。レッドドラゴンを倒す前に上がっていたから結界が使えたのかもしれない。
 時空魔法はレベルアップで何が使えるようになったのか不明だ。帰ってこれたことと何か関係が? 結界魔法と、魔獣を爪で倒していたからか身体強化が生えていた。

「あ……」


 人化。


 人化って!?慧吾は立ちあがった。いや、今は人だから確かめられないのだ。慧吾は座った。
 恐らくだがカッコの中のスキルはこの世界では無効なんじゃないだろうか、と慧吾は考えた。


『収納!』


 氷魔法は部屋では心配で収納を試してみると、パネルが開き一覧が表示された。
 シスイが狩った獲物と、それから大事モノ――ガラクタとも言う――がしっかり入っていた。
 慧吾は感激して大事モノを出して手に取ってみた。マリーザがくれたモノが一番多い。ボールとか。あと拾ったペンなんかも入っている。完全に犬だ。

(また行くことがあるんだろうか。条件はなんだ? 行っているときはこちらの時間は完全に止まっているのか?)

 ――――自由に行ったり来たりできたらどんなに楽しいことだろう!

 慧吾はバタリと後ろに倒れた。
 片足をブラつかせて天井を見ながらなんとなく胸のネームタグを握る。ユークリッドのぬくもりが感じられるような気がした。


「ユークリッド……元気かな」

 寂しい。飼い主と離れた犬とはこんな気持ちなのかもしれない。
 ネームタグは収納に入れてもいいが、なんとなくつけていたかった。
 普段は服の下につけるつもりだ。幸い見られても字は読めないし、銀色の鎖と銀色のタグはオシャレなネックレスみたいに見える。
 学校に登校するときはポケットにでも入れて行くことにした。見つかって没収されたら困る。

(でも帰っても魔法が使えてうれしいかも。氷魔法を使って夏でも涼しくなったりして)

 浄化はこの世界にいるときの聖獣ではない慧吾では、きっと使えるようにならないだろう。結界は……事故のとき?
 そこで慧吾はハッとした。

(そういや言語チートってヤツか!? これが一番凄くない!? 苦手な英語が!)


 ほかにもあちらの世界のことに色々考えを巡らせたが、どうせ答えは出ないのだ。
 そもそも、なぜ自分が聖獣になったのかというところからして全くの謎だ。神様に会った訳でもないのに。

 気分を変えるように大きく肩を揺らしながら息をつく。
 そのとき祐吾の起きだす音が聞こえてきた。バッと立ちあがって廊下に繋がるドアを開けた。

「おはよー……」
「おはよ、なんか髪がすごいことになってるんたけど」

 慧吾は眠そうに挨拶する祐吾の寝癖を直してやった。朝のうちに祐吾に会えて良かった。気が済んだので戻って出かける準備を始めた。

 涼介には夢の話として話をしてみよう。きっとおもしろがるだろう。涼介に会えるのも楽しみだ!





 時間少し前に慧吾は歩いて家を出た。十分ほどで目的の本屋に到着する。
 早く出たというのに涼介はすでに本屋にいた。きっとオススメを選んでいるに違いない。
 久しぶりの涼介だ。駆け寄りたい気持ちを抑えてのんびり近づいた。

「おう、お待たせ」

 涼介はこちらに気がついてにっこりした。両手に本を持っている。
 やっぱりおっとりした涼介に会うと癒やされる。イケメン眼福。


「早かったね。今、どっちにしようかと思って悩んでたんだよ~」

 涼介は二冊の表紙を並べて慧吾に見せた。

「『異世界に呼ばれたオレ、ペットになっちゃったんですけど!?』と『嫌われ悪役令息は三度人生をやり直す』だよ。オレTueee系とざまぁ系。どっちがいい?」


「ペット」


「はやってるんだよね。もふもふと婚約破棄もの」


「もふもふ」


 慧吾は力が抜けてがくりと膝をつきそうになった。

「と、取りあえずペットのほうを読んでみるよ」

 と、受けとってレジに『異世界に呼ばれたオレ、ペットになっちゃったんですけど!?』を持っていった。当然? のチョイスである。





 店をあとにして、コンビニに向かう。弁当と飲みものを買って、涼介の家にいっしょに行った。今日は両親も妹もおらず、のんびり遊べそうだ。
 先に弁当を食べた。コンビニで温めてもらったチキン南蛮弁当だ。学校のことを話しながら食べ終わる。

「涼介、今日俺さ、ラノベっぽい夢見たんだよね。さっき買ったやつみたいな夢」

 と、簡単に夢として語った。

「いいな! 面白い夢見たね。俺も見たい! エルフはいなかったのかあ」

 予想通り羨ましがられてしまった。

「ドラゴンにも会ってみたい! 夢でも怖かった?」
「めちゃくちゃ怖かったよ!! もう会いたくないよ! みんなやられて死ぬかと思った」

 慧吾は涼介の言葉に猛抗議した。

「あはは。そうかもね」


 それから二人は様々な検証をしたが、涼介でも明確な答えは出せなかった。何かヒントになるかも? と慧吾は買った本を取りだし、お互い好き勝手に過ごした。
 本の内容は――――異世界に渡った主人公が追放された聖女を助けていちゃいちゃする話だった。おもしろくなかったとは言わないが、おもしろかったが、メンタルはごっそり削られた。





 短い休みは終わり、学校へ登校し、たまに友人たちと遊ぶいつもどおりな毎日が始まった。
 平凡な日々の中でユークリッドのことは本当に夢だったような気さえしてくる。時々優しい声で呼ばれた気がして、喪失感を埋めるようにポケットのタグに触れることが癖になっていた。


 三年になり、ついに受験シーズンが到来した。休み時間に涼介がやってきて空いていた慧吾の隣の席に座った。話題は気になる進路のことだ。

「慧吾はどこの大学を受けるの?」
「それが国公立大の校内推薦がもらえそうなんだ」
「え、そうなんだ。俺ももらえるか相談してくる!」

 と、涼介は先生に相談しに行ってしまった。そして同じ大学の、別の学部の推薦をお願いしてきていた。別の学部なら慧吾と競合しなくていいからだ。
 校内選考の結果、無事に二人とも推薦を貰えた。そして見事合格したのだった。

 同じグループの面々も、私大の推薦に受かった。涼介と仲のいい佐山さくらは女子大に行くそうだ。


「あーあ、高校で彼女できなかったなあ」
 
 休み時間に慧吾の席に遊びに来た涼介がぼやく。

「何言ってるの。イケメンで性格もいいし、モテてたくせに! 佐山さんともいい感じだし! 贅沢だ!」

 慧吾がぷんぷん文句をつけると、涼介は半目で慧吾を見た。

「慧吾だって……優しくて当たりが柔らかくて癒し系とかさ、そりゃ女子受けするよ。女子だけじゃないけど」
「うぅ、ありがとう、親友よ。女子受け……いつかできると期待だよ」

 今まで女子受けなるものをした覚えなどとんとなく、遠い目になる慧吾だった。





 結局涼介と佐山さくらの二人は、仲はいいが進展がない状態のまま、卒業を迎えた。慧吾はちょっと期待していたので残念な気持ちだった。

 
 慧吾の行く大学はぎりぎり自宅からも通えたけれど、国公立に受かって家計に余裕が出たということで、大学近くの1DKのアパートを借りることになった。
 朝食はパン、昼食と夕食は学食を利用する予定で食事の心配がないのは助かる。
 
 アパートには入学式の一週間前に入居した。引っ越しにはこっそり『収納』を使った。引っ越し時になくても不審がられない、重い本や割れものの食器類も入れられ大変便利だ。面倒なので使う分だけ出すことにした。散らからなくていい。
 ひとりの生活は寂しくもあったが、今はSNSもあるし、何より家の中では何をしても構わないのでのびのびした開放感がある。
 もちろん魔法の練習も欠かさない。ひとりということは思う存分練習できるのだ!


『浄化!』


(おお! ピカピカだ!)

 アパートに入居してすぐ、浄化をかけると部屋がキレイになることに気づいた。自分にもかけてみた。キレイにはなった気がするし、臭いもしないがなんとなくちゃんと入浴している。
 夏になったら氷で部屋を冷やすのもやってみようと思っている。

 一度アパートに弟の祐吾が訪ねてきた。自分も卒業したら独り暮らしをしたいと息巻いていて、微笑ましく思った。
 最初だからまだ片づいていて、オシャレな暮らしに見えたのだろう。これを維持しなければ。いや、散らかったら一度すべて収納して、もう一度いるものから出す方式もアリだ。
 
 一方、涼介は自宅通学することになった。大学が始まっても、学部が違うことや、涼介がサークルに入ったりしたことでなかなか会えない。涼介は勉学のため高校入学と同時にやめていた剣道をまた始めたのだ。剣豪が集まっている大学だったらしい。昼食も新しい友人グループと食べていた。
 なのでSNSで連絡を取ったり、たまに家に寄ってきたりしている。

 
 大学生になったら慧吾はアルバイトをするつもりだったが、履修一覧を見て諦めた。一年生のうちはバイトせず、頑張って単位を取れるだけ取ってしまおうと思う。
 両親はアルバイトはしなくて良いから勉強しろと言っている。時間に余裕ができたら、短期で入れてもいいかもしれない。





 そうしてゴールデンウイークを数日後に控えたある日、慧吾は誰にも連絡なく大学を休んだ。
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