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エピソード13-1
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匡尋はまたタバコに逃げていた。
妻が思い悩んでいることを薄々感じていながら。
でも場所はいつもと違う。
珍しく一緒について来たスーパーの喫煙所。といっても、簡単な仕切りと筒状の灰皿が一つ。すでに先客もいる。
世の父親はこんなものなんだろうかと嘆かわしく思う。
(まあ、僕も同じなんだけど。)
せっかくなんとか勇気を振り絞り三人で出かけたのに、なんとなく僕は蚊帳の外にいるんだと感じ取っていた。
ネットスーパーが便利なのに、と思いながらも買い物に行くというので、この後家に来るのが自分の会社の人間だと思うと申し訳なくなり、荷物持ちをかって出た。
妻の驚いた顔が、どのくらい珍しいかを物語っている。
昨日、森さん騒動の前後のこと。
汐音の寝顔を見ながら考えてた。僕はこの子のことをきちんと知らない。
まあ、もちろん自分の子だから誕生日だとか、今幼稚園に行っているとかは知っている。
でもなんとなくカレーが好きで、気に入ったことがあれば積極的になれて、僕が知らないうちに色んなことができるようになっていたことを知らない。
そしてその前に、妻のことが更新されていない気がする。
匡尋が一目惚れして、好きになってもらって結婚した。
たくさん苦労してきているのを知ったから、楽にさせてあげたいというのが心の奥底にある。
一応、こんな僕でも女性はお金がかかることは知っている。
自称倹約家と言う母(母世代はかのバブル期を経験していることもあり、周囲はわりとよく使うらしいが自分はそういう使い方とは縁遠いと言っている)と妹でさえも、化粧品や服に一定のお金をかける。
化粧水という基礎の基礎で1万超えていると知ったときは、驚いたものだ。
会社の先輩や同僚なんか、ジムとかヨガとかエステとかなんとかかんとか言って、爪の先まで意識しているのを見てきた。
でも、妻は出自を差し引いてもあまりそういうところにお金を使わない。
まあ、1年ちょっとで子どもを授かったというのもあるのかもしれないけれど。
だから、今からでも知っていこう。そう思っていた翌朝に、チャンスがやってきたと思った。
起きるのは一番遅かったけど、朝ご飯はまだ食べてないようで一久しぶりに一緒にたべれそうだ。
匡尋が座ったので、妻が朝ご飯の準備を始めたその近くで汐音が何かしている。
どうやら自分でトーストしたらしく、トングをうまく使って皿に取り出すところだった。
(もう、そんなことまで出来るのか!)
驚いているうちに自分の席まで運んで、はちみつのディスペンサーから注いでいる。
妻が用意した1かけのバターを最後にのせて、上手に広げている。
それを見ていたら、久しぶりにトーストを食べたくなった。
トースト作成係を汐音にお願いすると喜んで作ってくれた。途中まで和食の朝ご飯のつもりだったから、トーストと味噌汁とハムエッグとよくわからないラインナップになったが、美味しく感じたのはなぜだろう。
でも、妻の表情は見逃していたのだった。
そう、そうやって少しずつ妻の事を見るのを忘れてしまっているのだ。気づかずに。
妻が思い悩んでいることを薄々感じていながら。
でも場所はいつもと違う。
珍しく一緒について来たスーパーの喫煙所。といっても、簡単な仕切りと筒状の灰皿が一つ。すでに先客もいる。
世の父親はこんなものなんだろうかと嘆かわしく思う。
(まあ、僕も同じなんだけど。)
せっかくなんとか勇気を振り絞り三人で出かけたのに、なんとなく僕は蚊帳の外にいるんだと感じ取っていた。
ネットスーパーが便利なのに、と思いながらも買い物に行くというので、この後家に来るのが自分の会社の人間だと思うと申し訳なくなり、荷物持ちをかって出た。
妻の驚いた顔が、どのくらい珍しいかを物語っている。
昨日、森さん騒動の前後のこと。
汐音の寝顔を見ながら考えてた。僕はこの子のことをきちんと知らない。
まあ、もちろん自分の子だから誕生日だとか、今幼稚園に行っているとかは知っている。
でもなんとなくカレーが好きで、気に入ったことがあれば積極的になれて、僕が知らないうちに色んなことができるようになっていたことを知らない。
そしてその前に、妻のことが更新されていない気がする。
匡尋が一目惚れして、好きになってもらって結婚した。
たくさん苦労してきているのを知ったから、楽にさせてあげたいというのが心の奥底にある。
一応、こんな僕でも女性はお金がかかることは知っている。
自称倹約家と言う母(母世代はかのバブル期を経験していることもあり、周囲はわりとよく使うらしいが自分はそういう使い方とは縁遠いと言っている)と妹でさえも、化粧品や服に一定のお金をかける。
化粧水という基礎の基礎で1万超えていると知ったときは、驚いたものだ。
会社の先輩や同僚なんか、ジムとかヨガとかエステとかなんとかかんとか言って、爪の先まで意識しているのを見てきた。
でも、妻は出自を差し引いてもあまりそういうところにお金を使わない。
まあ、1年ちょっとで子どもを授かったというのもあるのかもしれないけれど。
だから、今からでも知っていこう。そう思っていた翌朝に、チャンスがやってきたと思った。
起きるのは一番遅かったけど、朝ご飯はまだ食べてないようで一久しぶりに一緒にたべれそうだ。
匡尋が座ったので、妻が朝ご飯の準備を始めたその近くで汐音が何かしている。
どうやら自分でトーストしたらしく、トングをうまく使って皿に取り出すところだった。
(もう、そんなことまで出来るのか!)
驚いているうちに自分の席まで運んで、はちみつのディスペンサーから注いでいる。
妻が用意した1かけのバターを最後にのせて、上手に広げている。
それを見ていたら、久しぶりにトーストを食べたくなった。
トースト作成係を汐音にお願いすると喜んで作ってくれた。途中まで和食の朝ご飯のつもりだったから、トーストと味噌汁とハムエッグとよくわからないラインナップになったが、美味しく感じたのはなぜだろう。
でも、妻の表情は見逃していたのだった。
そう、そうやって少しずつ妻の事を見るのを忘れてしまっているのだ。気づかずに。
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