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エピソード4-4
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いつも通りに出勤し、職場の隣のコンビニでコーヒーを買って席につく。
簡単な朝礼があり、週が始まる。
ここまでは毎週初めと同じ流れ。
休憩室以外で飲食を禁止する会社もまだまだあるが、匡尋が働く会社は適度を守ればお菓子も許されている。
飲み物も、こぼれにくい環境を整えられていれば問題ない。
最近できたコンビニのお陰で駅前にあるショップで買って来ていた手間が減り、最近はもっぱらここで買って済ませる。そして若干安いのもいい。
自席で始業までの時間に、買ってきたばかりのコーヒーを飲みながら休み中に届いたメールやメッセージを流し見た。
毎年恒例のレクレーションの案内もある。
(もうそんな時期か…)
そんなことを思っているうちに、始業の音が流れた。
この朝礼タイミングで、4月の新入社員ならそれぞれ配属前に挨拶させられるのが毎年の恒例だが、中途入社にはそういう習慣がない。
つい数日前まで別な企業で働いていたりする人も多いので、入社が決まると準備の時間を新入社員ほど取れないことが多いので、行わないことになっている。
だから、今は総務で手続きの真っ最中だ。
といっても、書類の受け渡しや簡単な社内案内とルール提示、社員証用に写真を撮るとかくらいしかないので1時間後くらいに迎えに来るようにと言われている。
それぞれ仕事をしだして落ち着いた頃、教育担当を任されることになって嬉しくて仕方がない高橋から、
「そろそろ指定の時間じゃないですか?」
と言われて、慌てて二人で向かった。
そこには、スーツを来ていてもメリハリがわかる女性が立っていた。
相手をしていた総務の担当者も年齢的には近いはずの女性だが、通年冷え性で悩まされているらしく、少し地味めな格好でいつも過ごしているので、彼女をより引き立たせる。
ふと、目があった。
女性は一瞬驚いた顔をしていたがその表情はすぐに引っ込み笑顔を向けてくる。
匡尋も一瞬、琴線に引っかかった気がしたが、その気持も引っ込んでいる。
そう、匡尋は気づいていなかった。
こういう役割が慣れていなくて、少しばかり緊張していたから。
その時は自分の役目を果たしていたし、それに迂闊にもあの日のことをすっかり忘れていたからだ。
簡単に自己紹介が進む。
彼女は「森あかり」と名乗った。初め匡尋の顔を見ると気まずそうにしていたが、匡尋がはじめましてを貫いていたので、彼女もそれに倣って何事もないことに徹することにしたらしい。
高橋の表情がやけに明るいのは、好みの女性といっしょに働けることだとばかりに思っているから、後から考えたら本当に大馬鹿者だ。
すっかり忘れているので、じわりじわりと匡尋はあとでお約束のように踏む地雷に燃料を継ぎ足し続けているとも知らずに自分たちの場所に戻るまで、資料を事前にもらっていて知ってはいたがコミュニケーションの一貫で簡単な経緯なんかを話した。
しかし、好みの相手を目の前にすると人はいろんな能力を発揮するものだ。
正直、このタイミングで種明かしされたとしてもあの時の女性と目の前の女性が同一人物だなんて、ぼんやりしている匡尋は言われてもなかなか信じられなかっただろう。
あの日のあの出来事が起きた時の匡尋は繁忙期の真っ只中で仕事に忙殺されているさなか。正直最初の小一時間くらいは、恥ずかしいことをバラされるのではないかとドキドキしながら仕事をしていたが、そんなこともすぐに忙殺されてしまうような時期。
昼に何を食べたかも忘れてしまうくらいの日のこと。逆に、当事者でもない高橋が覚えていることのほうが匡尋にとって驚きなことなのだ。
高橋が「もしや!」と気づいたのは、軽く会釈をした時の仕草。
人のクセというのは、割と無防備に外に出てしまうのだ。
あの日の森はわりかし派手目なワンピースで、髪は下ろしていたが、巻いていたらしくその派手な服と合っていた。
今は職場だから化粧も服も控えめで、パンツスーツを着こなし今日でいえばカッコいいという言葉が似合う。
なので本当に同一人物だと結びついてなかった。
女性はずるい。服装と化粧で本当に何通りの人間になれるのだ。
簡単な朝礼があり、週が始まる。
ここまでは毎週初めと同じ流れ。
休憩室以外で飲食を禁止する会社もまだまだあるが、匡尋が働く会社は適度を守ればお菓子も許されている。
飲み物も、こぼれにくい環境を整えられていれば問題ない。
最近できたコンビニのお陰で駅前にあるショップで買って来ていた手間が減り、最近はもっぱらここで買って済ませる。そして若干安いのもいい。
自席で始業までの時間に、買ってきたばかりのコーヒーを飲みながら休み中に届いたメールやメッセージを流し見た。
毎年恒例のレクレーションの案内もある。
(もうそんな時期か…)
そんなことを思っているうちに、始業の音が流れた。
この朝礼タイミングで、4月の新入社員ならそれぞれ配属前に挨拶させられるのが毎年の恒例だが、中途入社にはそういう習慣がない。
つい数日前まで別な企業で働いていたりする人も多いので、入社が決まると準備の時間を新入社員ほど取れないことが多いので、行わないことになっている。
だから、今は総務で手続きの真っ最中だ。
といっても、書類の受け渡しや簡単な社内案内とルール提示、社員証用に写真を撮るとかくらいしかないので1時間後くらいに迎えに来るようにと言われている。
それぞれ仕事をしだして落ち着いた頃、教育担当を任されることになって嬉しくて仕方がない高橋から、
「そろそろ指定の時間じゃないですか?」
と言われて、慌てて二人で向かった。
そこには、スーツを来ていてもメリハリがわかる女性が立っていた。
相手をしていた総務の担当者も年齢的には近いはずの女性だが、通年冷え性で悩まされているらしく、少し地味めな格好でいつも過ごしているので、彼女をより引き立たせる。
ふと、目があった。
女性は一瞬驚いた顔をしていたがその表情はすぐに引っ込み笑顔を向けてくる。
匡尋も一瞬、琴線に引っかかった気がしたが、その気持も引っ込んでいる。
そう、匡尋は気づいていなかった。
こういう役割が慣れていなくて、少しばかり緊張していたから。
その時は自分の役目を果たしていたし、それに迂闊にもあの日のことをすっかり忘れていたからだ。
簡単に自己紹介が進む。
彼女は「森あかり」と名乗った。初め匡尋の顔を見ると気まずそうにしていたが、匡尋がはじめましてを貫いていたので、彼女もそれに倣って何事もないことに徹することにしたらしい。
高橋の表情がやけに明るいのは、好みの女性といっしょに働けることだとばかりに思っているから、後から考えたら本当に大馬鹿者だ。
すっかり忘れているので、じわりじわりと匡尋はあとでお約束のように踏む地雷に燃料を継ぎ足し続けているとも知らずに自分たちの場所に戻るまで、資料を事前にもらっていて知ってはいたがコミュニケーションの一貫で簡単な経緯なんかを話した。
しかし、好みの相手を目の前にすると人はいろんな能力を発揮するものだ。
正直、このタイミングで種明かしされたとしてもあの時の女性と目の前の女性が同一人物だなんて、ぼんやりしている匡尋は言われてもなかなか信じられなかっただろう。
あの日のあの出来事が起きた時の匡尋は繁忙期の真っ只中で仕事に忙殺されているさなか。正直最初の小一時間くらいは、恥ずかしいことをバラされるのではないかとドキドキしながら仕事をしていたが、そんなこともすぐに忙殺されてしまうような時期。
昼に何を食べたかも忘れてしまうくらいの日のこと。逆に、当事者でもない高橋が覚えていることのほうが匡尋にとって驚きなことなのだ。
高橋が「もしや!」と気づいたのは、軽く会釈をした時の仕草。
人のクセというのは、割と無防備に外に出てしまうのだ。
あの日の森はわりかし派手目なワンピースで、髪は下ろしていたが、巻いていたらしくその派手な服と合っていた。
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