煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード5ー4

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千草が慌てて準備をしようとすると、
「千草さんは、大変なんだから休んでて。」
義妹が用意をしようと立ち上がる。

その日はほとんど何もしてないから大変でもないのだが、なんだかんだと義母と義妹二人が揃うとあまり何もさせてもらえないのがパターンだ。

「いえ、私が…。」
「いいんだよ、やらせておけば。」
 そう言いながら癖でタバコを取り出し口にくわえたところで、義母に止められていつもの定位置へと向かう。
外回りでは、食事中に吸うのかもしれない。義家族がいないときはそういう失敗をすることはないのに。

どうもこういう気遣いが慣れない。

ふと見ると誰が出したのか、テーブルの上にタブレットが置いてあった。
ロックが解除され、何か写真が映し出されていた。
よく見ると、どこかの店での集合写真のようだった。

それに気づいた義母が、
「先日の大学時代の人との飲み会のときの写真だそうよ。」
と教えてくれた。

夫は真ん中よりに座っていた。
千草は自分が映り込む場合との立ち位置の違いを単純に羨んだ。

いつもだいたい自分は端の方に納まる事が多い。
この人は税理士で、この人は事業を立ち上げたらしいなどと教えてくれた。
面子に歯科医や医者もいるらしいので、ゼミ仲間じゃなくサークル仲間なのかもしれない。

その医者の一人は、学生時代にたまに義実家に遊びに来ていたくらい仲の良い友人らしい。
「あー、そいつは心療内科医だよ。でも、そう呼ぶなっていう変わり者。」
夫がいつのまにか定位置から戻ってきて話に乗っかってきた。心療内科医だが堅苦しいからカウンセラーと呼べというとこの飲み会で言われたとかなんとか。

「あらいい先生じゃない。千草さん、匡尋の悪口言いたくなったらここに言いに行くと良いかもしれないわよ。」
と言って笑っていた。

そんなことでなんだかんだと盛り上がっていたが、千草はそのことで頭がいっぱい人なった。他に写っているひとの話がされていたようだったが、頭に入ってこなかった。

そっか、カウンセラーか。

理由を自分の事から夫への愚痴と転換するだけで、敷居が高く感じていたカウンセラーへの相談に行ってみようという気になるのが不思議だったが、急に興味が湧いてきた。

それがあの場所へ行った数日前の出来事。

そして、その夫の友人であるカウンセラーがほんの少し話を聞いてくれてなぜか紹介してアポまで取ってくれた人が、何でも屋という職業をしているという「御幸 来夢」というあのビルの一室の主だったのだ。

だから胡散臭い職業の人の元へ向かおうと思ったし、心も折れずちょっと古めかしいビルの中まで入ることができたのだった。

実は千草が見たその写真に御幸も一緒に写っていたなんて夢にも思っていなかった。

会場近くのバスで回収してもらえる最寄り駅のアナウンスが流れ、千草は現実に引き戻される。
運良く快速に乗り換えられたのもあり、30分くらいの電車旅だったがこの快速は帰り時間には運行していないので各駅停車にのることになる。

30分くらいなら起きていられるが、それを超すとちょっと自信がない。
多分、夫は付き合いでお酒を飲むだろうし、汐音は場合によっては眠ってしまうかもしれない。
(帰る時は、念の為アラームつけておかないと乗り過ごしそう…。)
と、気が早いが心配になった。

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