煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード13-5

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ほんの少し、父親とか夫としての自覚が匡尋に芽生えている頃。
妻は驚きとともに視線の端で、普段とは違う光景が展開していくさまをどう受け止めていいかわからずにいた。

昨日の悶々とした問いかけのような光景が、今、目の前で繰り広げられていて、千草は焼いていた卵を少し焦がしてしまった。

さっき美味しそうに焼き鮭も出来上がり、魚焼き器の中で出番を待っている。

ここに越してきてから、朝パン食になったことなんて数えるくらいな気がする。
というか、希望を言わないので和食的なご飯が好きだ言っていたし、出せば黙々と平らげていたからだ。

まあ、煮魚は事前に用意しておくけど、焼き魚はたいてい朝焼くことが多い。
目玉焼き、甘い卵焼き、だし巻き、煮玉子、温泉卵。
納豆、豆腐。
漬物、和惣菜。
時々、目玉焼きがハムエッグになるか付け合せにソーセージがつく。
そんな毎日の繰り返しだった。

そんななか、汐音にトーストをハチミツとリクエストしている。
妻は魚焼き器をちらっと見た。
(さすがに、これは合わないな。)

ハチミツトーストに、卵焼き、そして味噌汁。
変な組み合わせになった。
でも、なんだか汐音と楽しそうに食べている。

焼いた鮭は、今日おかずが足りなかったらほぐして鮭チャーハンにでもすればいい。朝の分のご飯もあまりそうだ。

汐音は固焼きのハムエッグを食べている。味噌汁の代わりに、牛乳が置いてある。
サポート付きの箸を上手に使って。

汐音の一つ一つの行動にいちいち関心している。もっともっと褒めてあげればいいのに、と口に出さずに思っていた。

しかし、そんな珍しい事は長くも続かず、さっさと食べ終わった夫はまたあの定位置にタバコを持って行ってしまった。
このほんの少しだけの変化は、どう受け止めればいいのだろう。お客さんが来るからだろうか。

無邪気に牛乳を飲み干す汐音の仕草に、こんな風に微笑みかけている自分を俯瞰してみられるのは、いつ以来なのだろうか。

(タバコをやめるか減らせない?)
そんなたった一言で解決しそうな悩みだと気づけ無いままに、食べ終わった食器を持って、台所へと足を運んでいる自分がいた。

でも変化はそれだけにとどまらなかった。
夕食への準備に取り掛かる前に、足りない食材や飲み物などを買い出しに行かなければならない。
「今から買い物に行くから準備して。」
そう言うと朝食後にテレビを見ていた汐音は自分の部屋に走っていった。

それが聞こえていたらしく汐音に外出の準備をさせていると、いつもより買うものが多くなるだろうからと、珍しく夫が申し出てくれて久しぶりに汐音と2人きりじゃない買い出しとなった。

「たまには、お父さんと手をつなごうか?」
と、匡尋が声をかけた。

せっかく朝食で歩み寄りがあったのにそんな申し出があっても、汐音は匡尋と手を繋ごうとしない。
ずっとそんなことをしてこなかったので、急にはどうしていいのかわからないのだ。

夫はすぐに諦めたようで、少し後ろから付いてきた。
この光景は他の誰かからは仲のいい家族に見えているだろうか。

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