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しおりを挟む誰が、誰のお金で、別荘を購入したのか。考えると頭が痛くなりそうだとレーヴェルは現実から目を逸らす。逸らし、やはり気になり、戸惑いながら目の前の男を見つめる。
「その別荘の購入資金はどこから?」
「父からの誕生日プレゼントです。ちょうど貴方様と再会した年の、ですね。それまで特にないとしか言わなかった私が強請ったので父が狂ったように喜び、大変張り切って建てました」
王弟殿下が張り切って建てた息子の為の別荘となれば、かなりの規模になっていそうだ。その建てた場所を考えると更に頭が痛くなる。レーヴェルを逃がすつもりなど、再会した当初からなかったということなのだろう。
「わかった。結婚するよ。お前の執着には敵わない」
レーヴェルがイエスと言わなくても既に結婚せざるを得ないほど外堀は埋まっている。それでもあくまでレーヴェルの意志で受け入れて欲しかったケイニードは両目を潤ませた。仕方ない奴だとレーヴェルは苦笑する。
「お前、本当に俺の事が好きなんだな」
「あいしてます」
震えた声では格好がつかなくて、ケイニードは唇を噛み締めた。そこまで見届けたレーヴェルは照れたように笑い、ケイニードの頬を撫で、目尻に溜まった涙にキスをする。
「可愛いヤツだな、俺の旦那は」
「しあわせに、します」
「───あぁ、うん。なんかわかったかも。神子っていうのは万人を愛さなきゃならない。きっと前世の俺が力を失ったのは心からお前を愛してしまったからなんだ」
だから、もう誰かを憎む必要はないんだよ。そう伝えてやりたいけれど、レーヴェルは口にしなかった。伝えたい相手は前世の彼にであって、今世の彼では無い。
前世のレーヴェルは恐らく力を失った原因に気づき、悩んで、追い詰められて、抱いた愛を捨てるくらいならと死を選んだのだろう。彼を一方的に愛して、残された彼の愛が行き場を失い苦しむことなど気づかずに。酷い奴だと、前世の自分を憎みたくなる。とはいえ、前世を恨む暇があるなら、その分、目の前の男を愛した方が賢いだろう。
「お互い幸せになろう。どちらか片方だけなんてバランスが悪くて気持ち悪いだろ?俺もお前を幸せにしてやりたい」
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「ぜっっったい、嫌だ!!」
「レーヴェル、そう仰らずに!!」
ようやくレーヴェルの名前を呼ぶようになったケイニードだが、相変わらず敬語は抜けない。その辺りも追々変わっていけばいいとレーヴェルは思っている。思っているが、それはそれだ。
「誰が積極的に恥晒すかっ!ぜったい、結婚披露宴なんてやらない!!」
招待客が王族関係者で埋まるのが目に見えている。そんな中でいつものようにケイニードに向かって暴言を吐きでもしたら…、考えただけでゾッとする。ケイニードといると周りが見えなくなるのはレーヴェルとしても自覚しているのだ。困る。とにかく困る。
「是非美しいレーヴェルを自慢したいのです。うちの父も是非にと申しておりますし、どうかお願いします!」
「俺を美しいって言うのはお前だけだからな!?自慢になんてならないからな!!」
「───いや、まず教室で痴話喧嘩するんじゃない」
クラスメイトの中で一番お人好しな世話焼きが仲裁に入る。
恥ずかしいことに、今では仲の良い婚約カップルとして学園中に知れ渡っているらしく、レーヴェル達に向けられる視線は生暖かい。
「思いつきました。学園祭のクラスの出し物で、私達の婚約式を提案します」
生徒達の視線に応えるようにクラスメイトに向かってケイニードは宣言した。
「やめろ!!頼むからやめてくれ!!」
「では結婚披露宴を───」
「何で2択なんだ!!どっちもやらない!!」
結局まだ騒ぐのかとクラスメイト達は苦笑する。そして、結婚披露パーティが大々的に行われるのだろうなと予想し、各々礼装の準備に思いを馳せる。
今日も平和だと、そっと笑った。
[完]
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