召喚したのは『男体 Ω(オメガ)』の幽霊でした

ひづき

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 どうやら、9610クロトにとって、アルクは有益な召喚主だったらしい。

「3000年って、そんなナリしてジジイかよ!」

『歳を取らないんだから仕方ないだろー。年上を敬え!ま、いい。飯な、飯』

 そう言って地面に降り立った9610クロトは足元から上へと順に色を濃くして行くかのように存在感を帯びていく。舞い上がった黒髪の先まで艶と重力を得て、確かにそこにいた。

 改めて見ると、9610クロトは、色白ながらも黄色味を帯びた健康的な肌色をしている。どうやら東の民の特徴が濃いらしい。黒髪も黒目も、ここまでしっかりと黒いのをアルクは初めて目にした。双眸は男にしては大きめで、幼さが滲む。身体付きはステータスの脆弱さから察せられる通り華奢である。その辺の花売りの少女の方がしっかりしていると思う。

 孕ませようと───

 脳裏に蘇った先程の話に、アルクは思わず口元を覆ってしゃがみ込んだ。

「…なるほど、理解した」

 見た目は少年だが、中身は3000年生きている。妙な大人の色気を纏う少年は、アンバランスで物珍しく、何よりその大人びた表情が見た目相応に泣かせてみたいと思わせるのだ。

「何を?」

 実体化した9610クロトの声は幽体の時とは異なり、脳ではなく鼓膜を揺らす。その感覚に、ますますアルクは頭を抱える。男にしては少し高めの声に、不覚にもドキドキしてしまったなど言えるはずがない。

「お前、絶対俺から離れるなよ。路地裏にでも引き込まれそうで怖い」

「そん時は幽体化して逃げるよ。それとも、返り討ちにして慰謝料請求しちゃう?」

 ニヤリと悪どい笑みを目の前にしたアルクは急激に冷静さを取り戻して立ち上がる。

「…行くか」

「手でも繋いであげよっか?」

「やめろ」





 昼過ぎの町はそれなりに賑わっている。

「食べたい物あるか?」

 普段ソロでの活動が有名なアルクが小柄な少年を連れているのが珍しく、周囲の人達は振り返る。しかもその少年の容姿に娼年か!?とギョッとするという二段構えで周囲は酷く動揺したし、狼狽えた。

 アルクは、9610クロトの服装が珍しいから注目を集めているのだとしか思っていない。それをわかっていながらアルクの腕にしがみついている9610クロトは性格が悪かった。

「3日間寝込んでたんだよ?胃に優しいものにしなよね、アルク」

「ただ寝てただけで大袈裟な…」

「だぁめ!特にお酒は禁止!昼間からなんて絶対ダメ!」

 世話焼き女房さながらの9610クロトのセリフも当然わざとである。アルクが気づかないところで、ますます人々はザワついた。

「酒は別腹………」

「アンタに早死にされたら…、僕また独りぼっちになっちゃう…」

 両目を潤ませて俯く9610クロトに、アルクはようやく9610クロトの陰謀に気づいた。慌てて周囲を見渡すも、全員不自然なほど顔を勢いよく逸らしてしまう。

「うーん、さすがにわざとらしかったか」

 ちッと可愛くない舌打ちが聞こえ、腕にしがみついたままの9610クロトが非常に悪どい顔をしているのを、アルクは目撃してしまった。慌てて腕を振りほどこうとブンブン振り回すが、9610クロトはニッコリと微笑むだけ。

「そんなに照れないで、アルク」

「お前なぁぁぁぁぁ!!!!!」

 アルクは、ぶっきらぼうなのが災いし、今まで恋人と長続きしたことがない。特にこの5年はフラレ続けて色々・・とご無沙汰である。

 ふと、アルクは珍しく直感が冴え渡った。

「まさか───、この5年間全敗だったのって」

 9610クロトは、ふふふと笑うだけ。

「やだなぁ、知らない方がいいこともあるんだよぉ」

「お前のせいかぁぁぁぁぁ!!」





 普段なら昼間だろうと関係なくギルドに併設している酒場で酒を煽る。しかし、見た目が少年の9610クロトを連れていくのは躊躇われた為、東の郷土料理の屋台に行き、2人で粥を食べた。鶏ガラ出汁の利いたスープに、細かく刻まれた薬草の数々。この地方では敬遠されがちな米という植物も、粥なら柔らかく煮込まれており、抵抗なく食べられるだろうと。

 その選択は正解だったようで、9610クロトは目を輝かせて口に運び、ひと口食べた途端、突然泣き出したのだ。

「お、おい」

「ごめん、久しぶりの故郷の味だったからさ。沁みちゃった」

 ボロボロ泣きながら、それでも9610クロトは笑おうとする。無理に笑う必要なんてないのにバカな奴だな、とアルクは両手で涙を拭ってやる。生憎、ハンカチなんてモノは人生で一度も持ち歩いたことがない。

「大袈裟だな。久しぶりって、3000年前でもあるまいし」

 冗談めかして言いながらも、3000年ぶりなんだろうなと、アルクは悟っていた。

「…ふは。それ以上かもよ?」

 未だに涙で濡れた顔で、9610クロトは吹き出して笑う。作られた笑顔ではない、心の底からの笑顔は、泣き顔と相俟ってブサイクだ。でも、こちらの方が良いと、アルクは安堵して笑う。


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