生贄王は神様の腕の中

ひづき

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よん

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 目の前の男に腕が何本あろうと、目が何色に光ろうと、例え彼の陰茎が太い蔦のような形状で伸びようと、そこに魚介生物のような吸盤が無数についていようとも、アジェルにはどうでもいいことである。アジェルを、未知の世界に、絶頂の彼方に連れて行ってくれるのは彼だけ。アジェルに価値があるかのように扱ってくれるのも彼だけ。

「ふ、ぎ…っ」

 引き裂かれる痛みに、潰れる蛙のような音を出してアジェルは目を見開いた。容赦なくアジェルの直腸をズルズルと進み、太い径で骨盤を内側から開いて。だらり、とアジェルの四肢が力無く投げ出されると、何かを思い出したかのように、入ってきた道をズルズルと戻っていく。内側の敏感なところを擦られ、まるで粗相をしているかのような違和感に、ぎゅっと異物を締め付け、アジェルは呻く。締め付けられた異物の主も呻く。

 人間ではないはずなのに、額に汗を滲ませる様は実に人間のよう。うっすらと目を開けたアジェルは、目の前の唇に接吻を贈る。

「大丈夫か、アジェル」

「……………、」

 答えたいのに声が出ない。代わりに上手く笑えただろうか。今までどうやって動かしていたのかを疑問に思うほど、手足の感覚がない。荒い息を繰り返すので精一杯だ。

 これ以上彼を心配させるわけにはいかないと、全身の感覚に集中する。酒精の匂い、水温、地につかない足、アジェルを捕らえる腕の数。胎内で動かずじっとしているはずの凶器が、ちゅ、ちゅ、と内側の粘膜に吸い付いて───

「あ!ぁあ、そんなっ、ぅ、く、」

 認識した途端、ゾワッと全身が粟立つ。びくんびくんと痙攣が止まらなくなる。

 ずちゅっずちゅっと揺さぶられる頃には、最早何も考えられず、子供のように泣き喚くだけ。

「ひ、っふ、んああ」

「はぁ、あぁ、出そうだ」

 何を、なんて。問いかけるほど馬鹿になってはいない。

「!…して!だしてぇ!ほしい、ほしいっ」

 ぎゅうぅと締め付け、欲望のまま強請る。

「いくらでも!どうぞ!!」

 ビリビリとした何かが、胎内を駆け巡る。臓器の内側、襞という襞の隙間まで、意思を持って駆け巡る。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」

 喉が張り裂けそうな勢いで獣のような悲鳴を上げて身を捩るアジェルを、複数の腕が、突き刺さった凶器が逃がしてくれない。どぷどぷと注がれ、細胞の隙間まで犯しに犯しても飽き足らず這い上がり、アジェルはゲホッと白い粘液を口から大量に吐き出す。喉に絡まった濃厚なそれが蓋となり、息が出来ずに二度三度と咳き込む。

 嗚呼、とうとう死ぬんだな───

 酸欠の中、アジェルは神の温もりに包まれ、安らかな心持ちで目を閉じた。





 □□□□□□□□



 これはどこそこの国から献上された絹、それはどこどこの砂漠の民から奉納された宝玉…。止まらない解説を聞き流し、アジェルは嘆息する。絵巻物でも見たことがないというくらいに豪華絢爛な衣装で飾り立てられたアジェルを、旦那様はまだ飾り付けたいらしい。

 祖国で婚礼といえば赤だが、生前妻と婚礼を挙げた時に一度袖を通しているから赤は見たくないと旦那様が主張した為、アジェルは頭から足の爪先まで純白の衣装を身にまとっている。首飾りには見たこともないサイズの、見たことも無いほどに透明感のある石たちが色彩豊かにキラキラと輝いている。今まで宝石といっても、透明感など欠けらも無い色のついた石しか見た事がなかったアジェルは、恐れ多くて動けない。金色の細い線が幾重にも雫を描いたような繊細な耳飾りなんて、その加工技術に目を白黒させるばかりである。更に腰紐は無色ながらも光を受けて見た目を変える見たことも無い糸で織られているし、頭飾りに至ってはアジェルにはよく見えないが、恐ろしい程価値の高い物が付けられているのは想像に容易い。

「あの、旦那様、これ以上は、重いです。重くて身動き出来ません」

 旦那様は神様だ。幾つもの国や世界を兼任しており、信仰の数だけ姿を変えられる。その証拠が無数の財宝であるらしい。とはいえ、旦那様はあまり金銀財宝には興味がないようで。溜め込むだけ溜め込んだそれらを全てアジェルに似合う似合わないで選別し、ああでもない、こうでもないと悩んでいる。

 アジェルの弱々しい主張に手を止めた旦那様が、目を細めて微笑んだ。

「ああ、とても綺麗だ」

 何を言い出すのかと、反論したいのに、真っ直ぐな視線に恥ずかしくなってアジェルは俯く。

 女性のように扱わないで欲しいと苦言を呈しても、性別関係なく最愛を愛でているだけだと言われてしまう。そんなことを言われたら抵抗も反論も出来なくなってしまい、されるがままだ。今まで想像したこともないような絶景を見せたり、見たこともない宝石で飾り付けられたり、毎晩のように全身を愛撫されたりと、とにかく甘やかされている。

 そんな日々の中でアジェルはふと思う。自分は妻にそんな風に接したことなどなかったな、と。政略結婚だと割り切っていたし、血を繋ぐという役割だけの関係だった。愛や恋を知らぬまま、ただ家族として大切にしたいと思っていた。その程度の情しかなかったことを考えれば、彼女を責める気持ちは全く湧いてこない。彼女の産んだ子の父親が自分でないと知った時はむしろ安堵さえ覚えた。

「君が望むなら、いくらでも復讐に手を貸すのに」

「不誠実だったのはお互い様ですから」

 どの道アジェルが手を下さなくても、敗戦国の王族に未来は無い。アジェルを捨てた妻も、弟も、皆処刑されるだろう。

「それに私は贄として死んだ身。生者に干渉するのは望ましくないかと」

 肉体は神様に咀嚼され、目に見えぬ力となり、そのまま吸収されて跡形もない。あるのはアジェルという人間の残像を真似る魂だけだ。そのうち何もかもが曖昧になって男も女もなくなり、アジェルもまた神のように姿を変えられるようになるらしい。口付けも、その先の快楽も、毎回新鮮に思うのに、実際は魂の記憶を再生しているだけだというから不思議だ。

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