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しおりを挟むわかったことと言えば。
一昨年くらいまでは熱心に活動していたということ。顧問の先生が定年退職したことで、昨年から活動が急激に下火になり、文化祭の時くらいにしか人が集まらず、現在はほぼ活動していないこと。ちなみに文化祭は3年に1度だけだ。次の文化祭は徹時が三年生になる年の予定である。
活動していた頃の美術部では、定期的にテーマを決めて活動し、部員全員が年に一度は何らかのコンクールに出展することを努力義務にしていたらしい。先輩は元・美術部員で、自分の描きたい時に描きたい物を描くと言っていた。美術部のテーマ縛りにうんざりしたのかもしれない。だったら趣味で描こうという発想に至ったのだろうか。この予想が正しければ、少なくとも先輩は三年生ということになる。
冬休みを間近に控えたこの時季、一部の三年生は早くも自由登校になっているらしい。受験やそれぞれの進路に応じてらしく、進路が確定している生徒は申請さえすれば自動車学校を理由に学校に来ないのもアリなのだと聞いた覚えがある。
先輩も受験の為に美術室に入り浸るのをやめ、姿を消したのかもしれない。仮にそうだとしても、美術室の鍵使用者記録に名前が無いのは説明がつかない。
戸棚の資料を片っ端から開くも、残念ながら部員の集合写真などは見当たらなかった。
そして、ふと思う。先輩が描いたキャンパスはどこに行ったのだろうかと。キャンパスのサイズ規格など徹時にはわからないが、初恋の絵も、病院の絵も、先輩が両腕を広げてようやく抱えられるくらいの幅だった。果たして持ち帰れるものだろうか。持ち帰ったところで家に置き場などあるのだろうか。
美術準備室には複数のキャンパスが押し込められた大きな木製の棚があった。上下二段になっており、いちいち引っ張り出さないと中の絵が確認できない。一応枠の脇には名前やら日付やらが記入してあるが、そもそも先輩の名前を知らないので手がかりにはならない。おおよそのサイズをターゲットに、片っ端からキャンパスを確認すべく、徹時は息も白くなる室内で腕まくりをし始めた。
「先生、美術室の鍵を返しに来ました」
「どう?美術部として活動できそう?」
女教師の問いに眉根を寄せる。そう言えばそんな言い訳をしたのだったと思い出して、返答に窮する。
「その…、先輩方はだいぶ熱心だったようで、俺みたいな軽い気持ちの奴が足を踏み入れていいのか戸惑いました。ちょっと色々考えたいです」
「あはは、そっかー。ま、気楽にね。部活をやるとなると正直私も時間的に拘束されちゃうから、ぶっちゃけあんまり熱心に活動されると婚期逃しそうで怖いんだよー」
美術部が衰退した理由は担当教師の婚期が原因らしい。なるほど、と徹時は頷いた。
「先任の先生って、どの辺に住んでるかわかります?話を聞いてみたいんですけど」
「えぇー。知ってても教えられないよ。個人情報だからね」
「そうっすか…」
それもそうかと納得し、落胆する。
「あ、でも。確か先任のヒロセ先生って、毎週日曜日に公民館とか福祉施設とかで、子供向けとかお年寄り向けの絵画教室をボランティアで開いてるはずだよ。家の回覧板に挟まってくる広報を確認してみたら?」
「! ありがとうございます!早速ネットで検索してみます!」
回覧板なんて自宅に届いているのだろうか。徹時が把握していないだけかもしれないが、広報ならネットでも公開しているはずだ。
「現代っ子だねー」
案の定先生には嘆息されたが構わない。辿り付ければ問題ない。
「湖の水面に映り込む景色が特徴的な絵を描いた生徒って覚えてますか?」
絵画教室は事前の申し込みが必要だった。しかし別に徹時はそのイベントに参加したいわけではない。ただ話したいだけ。絵画教室が終わるのを公民館の前で待ち伏せし、それらしい男性に話しかけた。
話しかけてから、急ぐあまり名乗りもせず、直球で用件をぶつけてしまったことに後悔して天を仰ぐ。
「えっと…?」
「すみません!その、あの、ヒロセ先生ですよね!?ちょっと俺、人を探してて!その人が描いた絵しか知らないんですけど、どうしても知りたくてですね!あ、俺、えと、一年の仙崎 徹時って言います!」
「えっと、うん、落ち着いてね?」
定年退職したというヒロセ先生は、のほほんとした空気を纏っている。拒む様子が見られないことに安堵した徹時は肩の力を抜いた。
「………マジで、すみません」
同時に自分の至らなさがグサグサ刺さる。穴があったら入りたい。
「寒いから、歩きながら話そうか。駅まで行くけど、いい?」
「はい。お時間をとらせて申し訳ありません」
立ち止まって大声を出していた徹時のせいで、道行く人達の視線が集まっており、何とも気まずい。場所を変えるのは有り難い提案だった。先生は可笑しそうに笑っている。
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