休眠Ω、強制覚醒

ひづき

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 この部屋にある物は全て入念に和佐かずさの匂いを、αのフェロモンを染み込ませてある。青砥あおとを覚醒させる為だけに準備を整えてきたのだ。青砥あおとがいることでようやく完成した、大切な、二人だけの巣。

「俺に見つかっちゃうなんて、本当に青砥あおとさんは可哀想」

 横になり、青砥あおとを腕の中に抱き締めた。本当は今すぐ犯したいが、獣に成り下がりたくはないと必死に理性で自重する。微かに香る甘い匂いに鼻を寄せて、深く息を吸い込んで。そしてようやく少しだけ安堵する。

 αは捕食者だ。獲物と決めたΩへの執着は一際ひときわ強い。それが運命なら尚更。青砥あおとがいて、初めて安堵することが出来る。今までの自分がいかに不安定だったのかを思い知らされた。

 本能だけではなく、和佐かずさは心から青砥あおとに惚れている自覚がある。

 運命とはいえ、相手は休眠状態のΩであり、平凡なサラリーマン。放置して覚醒済みの血統書付きΩとのお見合いを重ねることも出来た。

 まず素行調査をして情報を集め、和佐かずさ自ら青砥あおとを尾行して観察していた。青砥あおとは面倒な仕事でも、それが明らかに嫌がらせのような押し付けでも、頼まれると嬉しそうな笑顔で引き受ける。タカリやユスリとしか思えないような恋人のオネダリに、困りながらも喜んでしまう。そんな愚かな人。誰かに必要とされることに喜びを見出してしまう、他人ありきの危うい存在。お人好しとは違う、他人を軸にしないと自身の幸せを見出だせない、哀れな人。利用されて捨てられても後悔せず、浮気した過去の恋人達を恨む事すらしない。自身の手柄を横取りして出世した同期には怒りすら覚えていない。

 愚かで哀れで、可哀想な人。

 αを獲物として見ているΩとは違う。男のスペックを値踏みする女とも違う。こちらのコネクションをあわよくば都合良く利用しようと企む男とも違う。

 きっと、だ。和佐かずさが本気で縋れば青砥あおとは哀れんで受け入れてくれる。青砥あおとの世界に和佐かずさしかいなければ、和佐かずさだけを見て、和佐かずさの存在だけに幸せを見出して笑ってくれるだろう。横暴な真似で閉じ込めても青砥あおと和佐かずさが望む限り突き放せず傍にいてくれるはずだ。それは酷く滑稽で、考えるだけでゾクゾクした。

 どんな手を使ってでも青砥あおとを自分のツガイにする。



 いつの間にか眠っていたらしい。ふと和佐かずさは目を覚ました。腕の中に運命がいるからだろうか、熟睡出来たという満足感が指先まで漲っている。

 胸に抱き込んでいる青砥あおとの顔を覗き込むと、青砥あおともまた目を開いていた。ただしその瞳は幻か何かを見ているかのように焦点が定まっていない。顔も紅潮しているようだ。

青砥あおとさん?」

「んん…、あつい」

 子供のような拙い口調で呟くなり、彼はもぞもぞと身体を捩ってバスローブを脱ぎ始めた。脱ぎ始めたといっても寝惚けているようで、結び目を解くという発想には至らないらしく、合わせ目をはだけて肩を露出させていく。

「脱いだら襲っちゃうよ?いいの?」

「ん」

 和佐かずさの優しい声音は届かないらしく、不満げに眉を顰めた青砥あおとは何を思ったか、和佐かずさのシャツのボタンを弾き飛ばす勢いで胸倉を掴み、必死に和佐かずさの首元に顔を寄せる。くんくんと首元の匂いを嗅ぎ、深く息を吸い込んで、嬉しそうに笑う。和佐かずさはいつの間にか青砥あおとに組み敷かれていた。抵抗せず、シャツのボタンを自ら外して肌を晒し、青砥あおとに身体を差し出した。

「いいにおい」

「きもちいい?」

「きもち…、もっとほし…」

 和佐かずさの素肌に鼻を寄せ、抱き着いて、うっとりと目を細める。

 首筋ではすぐに物足りなくなり、より濃いものを求めて青砥あおと和佐かずさの身体を弄っていく。脇の下の濃さに陶酔するも、やはりすぐに物足りなくなり、移動を始める。目覚めた本能のまま熱に浮かされた青砥あおとは、ひたすら濃い“何か”を求めて匂いを嗅ぐ。最早必死だ。

 青砥あおとのΩとしての本能を目覚めさせ、計画的にヒートを誘発させた犯人である和佐かずさは、愉悦を浮かべながらベルトを外し、スラックスをずらした。その音に反応した青砥あおと和佐かずさの股間に鼻を寄せる。

「これ…、すき…」

 匂いを嗅ぐだけでは飽き足らず、ボクサーパンツごと硬くなった熱い雄芯を口に加えて舐め回し始めた。これには流石に和佐かずさも苦笑するしかない。

「美味しくないでしょ」

「?」

 涎で濡れた布地が冷たい。青砥あおとの口の中との温度差が露骨に伝わり、気持ちの良いものではない。

「脱ぐから離して」

「やらぁ」

 下着の窮屈さに抑えつけられて股間が痛い。自分も下着をつけずにバスローブ姿になっておけば良かったと後悔しながら、和佐かずさは困惑しつつ、青砥あおとの髪を撫でた。青砥あおとの顔も頭も、興奮のせいか熱が上がっているようだ。

青砥あおとさん」

 諌めるように呼ぶが、彼は無視して下着越しに責め立ててくる。

青砥あおと 優也ゆうやさん」

「?」

 フルネームを呼ぶと不思議そうに青砥あおとが顔を上げる。

「もっと濃いの、欲しくない?」

「ほしぃ、ちょうだい」

 期待に満ちた視線を向けてくる青砥あおとの前に、生身の勃起した男性器を突きつけた。待ち望んでいた開放感に和佐かずさは荒く息を吐き出す。

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