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「あしゅ、」
動揺に震える声音に呼ばれ、吸い込まれるように舌を差し入れる。舌を噛まれるのも覚悟の内だったが、予想に反してレクスはアシュートの横暴を受け止め続ける。このまま押せるかもしれない。そんな希望が見えてきた時、不意にガタンッという物音がした。反射的に唇を離し、2人揃ってそちらを振り返れば、いつの間にかドアを開けた女が尻もちを着いている。服装からして侍女ではない。令嬢だろう。
「「……………………」」
「き、きゃあああああッ」
レクスが滞在しているという噂を知らずに来たのか、青ざめた侵入者の女は絶叫して走り去る。何故護衛がいないのか、誰が仕組んだのか。考えることはたくさんあるが、犯人は情報収集能力が乏しいらしい。護衛に関しても今回は買収ではないだろう。利益を得たところで作戦が失敗すれば共犯者として処罰されるのは目に見えている。城内ではアシュートとレクスの噂で持ちきりなのだ、そんな泥船に乗らないだろう。
「まさか噂を広める為にわざと侵入者を見逃した…?あ!噂に信憑性を持たせるためにキスしたのか!」
混乱するレクスの脳は、アシュートの狙いから逸れたところに着地した。恋愛対象として意識して欲しいのに、どうしてそうなった、と歯噛みする。でも嫌われた様子もなくて良かったと安堵する気持ちもあって、アシュートの心境は複雑である。
「違う!俺は───」
勢いに任せて告白しようとした。が、それより先にドアが再び勢い良く開いた。
「ご無事ですか、殿下!」
息を切らした騎士達が飛び込んでくる。彼らは職務に忠実なだけ。怒るに怒れない。怒れないが、悔しさは押し隠せず、アシュートはするどい眼光を騎士達に向けた。
「問題、ない」
本当は問題しかない。ただしそれはアシュート個人にとって、だ。
「顔が強ばってますよ、アシュート殿下。落ち着いてください」
騎士達の前なのでレクスが敬語で話しかけてくる。お互いの間にある溝を明確に線引きされるようで、レクスが敬語を使うとアシュートの心は痛む。必要なことだと理解しているのに、いつもいつも痛みを訴える。
「レクスは随分と落ち着いているんだな」
多少の嫌味を込めて呟くと、レクスは艶のある笑みを浮かべた。レクスが相手の下心を利用する時に、意図的に浮かべる笑みだ。
「ふふ、私達の仲を見せつけられて自滅した女狐如き、矮小過ぎて怒る要素など欠片もありません」
そうでしょう?と、首を傾げながらレクスの指がアシュートの唇を撫でる。騎士達を利用して噂を更に加速させようという腹積もりらしい。
「………お前達、下がれ」
「は!ですが───」
騎士達は動揺を隠しきれずにあたふたする。まだ賊がいるかもしれないのに良いのだろうかと戸惑っているのだろう。その一方で彼らの視線がレクスの色香に引き寄せられるのがアシュートとしては非常に面白くない。
「下がれ」
嫉妬に駆られるままアシュートが凄めば、騎士達は一礼して退室して行った。全員退室するのを見送り、アシュートはドアに内鍵をかける。在室中、基本的に鍵をかけることはしない。賊が窓や天井から侵入するなどの異常があった時でも護衛達が突入出来るよう、あるいは火災などの時に迅速に逃げられるように、など理由は様々だ。が、今はそんなことどうでもいい。アシュートにとって大切なのはレクスとの関係を進めることだ。
「どうした、アシュート。そんなに痴女が怖いのか?」
最初に襲われた時のトラウマが根強いのか、と心配したレクスが歩み寄ってくる。そこに先程までの色香は無い。それでも、アシュートにとってはレクスという存在そのものが中毒性のある猛毒だ。思考も理性もグズグズに溶けてしまうと分かっているのに、欲しい。
抱き締めてもレクスは抵抗しない。抱き締めるだけでは足りないから、アシュートはレクスの肩口に顔を埋めて首筋の匂いを嗅ぐ。吐息が当たって擽ったいのか、レクスは息を呑んで身を捩った。
「ゃ、なに…、痛!」
首筋に吸い付く。跡が残るように、強めに。今更危機感を覚えたのか、レクスの手がアシュートの身体を突き放そうと足掻く。いつかレクスを手に入れるためにと密かに鍛えた甲斐があり、アシュートは動じない。抵抗への仕返しをすべく、レクスの耳朶を甘噛みした。
「ひ、」
ビクンっと跳ねたレクスの身体が耐えるように強ばる。可哀想なほど全身に力を入れる様がますますアシュートの雄を煽るなんてレクスは思いもしないのだ。耳の中に舌を差し込むようにくちゅくちゅと舐め回す。押し返していたはずのレクスの両手は、最早アシュートの衣服にしがみついている。捕食者に縋り付く、健気な獲物。ますますアシュートの雄は昂っていく。
「あしゅ!も、やめ、やめろっつってんだろ!!」
ドスッと鳩尾にレクスの拳がのめり込む。鍛えていても、急所は急所。これにはアシュートも痛みに呻き、力が抜けた。すかさずレクスに突き飛ばされる。
「痛…」
「自業自得だ、ボケ!何好き勝手やってやがる!」
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