吊り橋の恋

オマケのイーラン

　輝かしい太陽の下で、のびのびと育ってきたことがわかる、健康的な、やや日焼けした肌色。日常生活で培った、生きるために必要な筋肉。そんなウーロウはイーランにとって非常に眩しい存在だ。





　身分と立場故に、イーランは深窓の姫君かのように扱われ、閉じこもることを強制されてきた。故に、健康体でありながら、まるで病人のように色白だ。

　しかも命を狙われている。

　イーランが心を許した人間は、乳母も侍従も皆目の前で殺された。働く者達にとってはイーランが死神に見えるらしく、怯える者達に最低限の世話をされる日々。しかも怯える演技をしつつ命を狙う刺客まで混ざってくる。故に気が休まらず、常に神経を尖らせている為、眠りも浅く、顔色はますます悪くなる。

　年に数回しかない公務で外出した際、気まぐれで助けたウーロウが現れてから、イーランの日々は一変した。千占術など信じていなかったのに、ウーロウの占いによる予言は悉く当たるのだ。疑いつつ身構えていると、本当に予言通り刺客が現れる。面白い程に。あまりに滑稽で、それが酷く面白くて、ついつい予言を確かめる為に待ち構えてしまい、何故もっと確実に回避しないのかとウーロウに怒られる。

　ウーロウがイーランの信頼を得て、最終的にイーランを殺そうとしているのでは。そう疑ったこともあるが、それすら見抜かれて苦笑されてしまった。

　ウーロウがイーランの目の前で命を狙われることも度々あったが、ウーロウは容易くかわす。それどころか反撃する。頼もしい。

　ウーロウは恩返しだといってイーランの世話を焼く。人一倍動く。ウーロウさえいれば他の使用人など必要ないと判断するまで時間はかからず、命を狙ってくる義兄が手配した使用人を全員追い返し、人生で初めて熟睡というものを体感した。





　性欲を覚える精神的な余裕が出てきた。それもこれもウーロウのお陰であり、ウーロウのせいでもある。

「んぐ───ッ」

　狭い筋肉の合間を抜けると、柔らかな粘膜のヒダに包まれる。そこまできてイーランはようやく息を吐いた。

　何度かイーランの雄を受け入れているとはいえ、やはり本来の用途とは違うせいもあるのか、組み敷かれたウーロウは声を押し殺し、額に汗を浮かべている。イーランが動きを止めたことで、恐る恐るながらもウーロウは深く息を吐き出した。その拍子をついて律動を再開してやると、堪え切れなかった嬌声が上がる。

「うあっ、あ、ン！」

　ウーロウが必死に両手で口を塞ぐのを見ると、ますます虐めたくなる。

　イーランは自身が物事を諦めがちな、淡白で薄情な人間だと思っていた。肉親の情を諦め、自由を諦め、死ぬことも出来ず、ただ無意味に生き延びるだけの生き物。

　しかし、どうも違ったらしい。本当に薄情な人間は他人に執着などしないはず。ウーロウと繋がりたい、ウーロウを腕の中に閉じ込めてしまいたい。その為だけに生きたいなど、強欲にも程がある。

　涙を溜め、真っ赤な顔で押さえ切れない嬌声を指の間から漏らすウーロウに、欲は留まることを知らない。不意に内側で質量を増した雄に、いやいやとウーロウが首を振り乱す。きゅんきゅん根元を締め付けられ、粘膜に絞られ、イーランもまた呻く。

「───ふ、ふふ。そんなに締めて、喰いちぎる、つもりか？」

　ちがうと、首を横に振るウーロウの涙を舐め取り、両手でしっかりとウーロウの腰を掴み直した。ゴリゴリと、内側で自己主張をしている前立腺を重点的に陰茎で殴るかのように擦ってやる。

「んぉっ！ひ！あ！いッ！ぃくぅッ」

　最早声を押さえる所ではなくなったウーロウの手がイーランの身体にしがみつく。爪を立てられても、興奮している今は痛くも痒くもない。

「いけ！もっとだ！もっと、いけ！」

　絶頂のあまり脳が焼き切れて死んでしまえばいい。そうしたらその魂まで手に入る、そんな妄想に取り憑かれて気が狂いそうだ。愛しているなんて綺麗な言葉で括りたくない、醜い妄執がここにある。

　白濁を内側で放てば、とうとうウーロウはくたりと意識を手放した。

「───未来永劫、お前は私のものだ」

　呪詛のように呟き、笑う。再び硬度を取り戻した陰茎に、さてどうするかと思案して。抜いた凶器を手で雑にしごき、白濁でウーロウの顔を汚す。

「私の、ウーロウ」



　激しくし過ぎだと翌朝ウーロウに叱られた。



[完]