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しおりを挟む「どいてください、奥様」
姉として扱うつもりもないジェルヴェとしては彼女の心情などどうでもいい。とにかく邪魔だから退けと顎で指図すると、彼女は怯えを見せつつも寝台から立ち上がった。
「何をするつもり?」
「その綺麗なシーツとこの汚れたシーツを交換します。私が主寝室に戻ったら奥様は侍女を呼んで寝室の片付けを命じて下さい。いいですね?」
綺麗なシーツを剥ぎ取り、汚れたシーツを掛けて寝台を軽く整えていく。そこに広がる精液と血液に、彼女の顔が青ざめた。
「これ、どういう…」
「初夜で夫に手を出されなかった、魅力のない女だと貴女が罵られるのは別に構いません。貴女が使用人達に見下されても構いません。ですが、初夜で妻に手を出さなかった腑抜けとアルフゼット様が叩かれるのは許せない。協力して頂けますよね?」
何故アルフゼットが彼女を抱かなかったのか。その理由はこれから本人に聞けばいい。とにかく彼の前途を考えると不名誉な噂話は避けるべきだ。古参の使用人は兎も角、新しい夫人を受け入れるに当たって新しい使用人も複数名いる。全員が全員、勤め先の情報を面白おかしく他人に言いふらさないとは限らない。彼の新公爵としての出発に泥を塗られるのは我慢ならないのだ。
何を思ったか彼女は涙ぐみ、微笑んだ。
「ありがとう、ジェルヴェ」
「……………」
本当に実姉の為ではないのだが、それを強調すると素直になれない反抗期の弟のようになりかねない。そのように考えた結果、ジェルヴェは心底嫌だと思っている表情を露骨に隠さず、実姉を無視して内扉から主寝室に戻った。
主寝室のシーツをかけ直していると、バスローブ姿のアルフゼットが姿を現した。ジェルヴェは彼の移動先がソファであることを確認し、ローテーブルのコップに果実水を注いで手渡す。
「ルヴェ、彼女は妊娠しているそうだ」
「は?」
彼女、とは。一瞬思考が日常の平穏な時に戻っていたけれど、貫かれた余韻の残る身体の痛みが現実に引き戻す。妊娠、処女でなくてはならない花嫁が、である。処女受胎など神話でしか有り得ないので、まぁ、そういう事だろう。
「まだ安定期に入っていないので性行為だけは嫌だと泣かれた」
思い返せばおかしな点があった。新婚夫婦の初夜に媚薬は確かに定番だが、幾らなんでも先程のアルフゼットのように理性が働かなくなるほど強力な物を飲ませるはずがない。そもそも、そんな状態の男が処女に襲いかかったら、初夜のトラウマでそれ以降の営みを拒否されてもおかしくない。
「まさか、アルフゼット様のあの状態は、失態を取り繕うべく伯爵が罠を───」
「それは、どうだろうな」
分からない、とアルフゼットは首を横に振る。だがジェルヴェにはそうとしか考えられなかった。もし所業が露呈して媚薬の強力さを非難されたら、早く孫が見たいあまりの衝動だった、とか言い訳するのだろうというところまで予測する。
「すまない。ルヴェを暴行して良い理由にはならないと理解している」
彼との行為は痛いだけで気持ち良さなど欠片もなかった。が、ジェルヴェの身体を使って快感を貪るアルフゼットが愛しくて可愛かったので特に気に止めて居ない。むしろ好きな相手に抱かれることが出来て役得だったと思っている。
「そんなことより、これからどうするおつもりです?」
そこは掘り返さないでくれと話題を逸らす。話題を逸らされたアルフゼットはまた一段と難しそうな顔をした。
「───そんなことより、ルヴェが何故潤滑剤をすぐに取り出せたのかの方が気になるんだが」
そこも掘り返さないで欲しい。そんな意味を兼ねてジェルヴェは微笑みを取り繕う。が、引くつもりはないらしく、アルフゼットの視線はジェルヴェの顔を凝視して揺らがない。
ジェルヴェが前公爵の養子になるのを断り、アルフゼットに仕えることを決めた際、前公爵夫妻および執事長、メイド長の4人が一同に介する場で性教育の授業を受けた。世の中には爵位を盾にしても、ジェルヴェのような少年に性的虐待をしようとする輩が存在するのだと言うことに始まり、無理のある性暴力により直腸に穴が空いて苦しんだ挙句に死亡する例があるとか、そういう生々しい話をされたのである。
薬物で理性を失っている相手や、貴族を嫌う粗暴な輩などに襲われたら、下手に抵抗して殴り殺されるより、好き物と罵られようと潤滑剤を自ら提供してでも決定的なダメージを回避しつつ抱かれるのも1つの選択肢なのだと説得され、常に持っていた。仕えると決めた以上、何があっても必ず主であるアルフゼットの元に戻るために。
まさか、アルフゼット相手に使う日が来るとは思っていなかったが。
実は極力怪我をしなくて済むよう、無感情になりつつ肛門の拡張も定期的に行っている。そうでなければ、たったあれだけの潤滑剤で興奮した臨戦態勢の陰茎が入るわけがない。物理的に無理だ。本来の用途とは違うのだから当たり前である。
「自衛のために持っていました」
そんな経緯を説明する気力もないジェルヴェは簡易的に理由を述べた。が、ますますアルフゼットの表情が険しくなる。
「自衛が必要になるような何かがあったのか?」
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