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第二章 華燭
67 俺の真心
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「その、忙しいのは本当だし、別に君を仲間はずれにしようとしたわけでもないんだ。ただ――」
「ただ?」
さっきから目を擦ってばかりいる小さな手を、そっと掴んで顔から離してやる。
「……言いたくないな。きっと君は、怒るだろうから」
小蘭は、ぐっと唇を噛み、蒼龍を睨んだ。
「そんなの、聞いてみないと分からないじゃない。私の気持ちを、蒼龍が勝手に決めないで」
はっとして、蒼龍は小蘭を見上げた。深い翠の瞳に、泉のような輝きが溢れている。
白い月光が彼女を縁取り、その輝きに目を逸らせない。
「……そうだよな。君ならそうか……そう言うのか」
「なぁに、それ。ね、はぐらかさないで早く教えて」
少しだけ笑った小蘭の顔に、蒼龍もふっと微笑んだ。
「分かった、言うよ。簡単に言うとーー〝巻き込むのが怖くなった〟ってとこ」
「何よそれ、やっぱり仲間はずれじゃない!」
「わっ、待て待て」
思い切り振り下ろそうとした拳を掌で止めると、蒼龍は苦笑いした。
「ほら、だから言っただろ、〝君は怒る〟って」
「だって……」
再びじわっと湧き出た涙を、蒼龍は人差し指の腹で救いとった。
指先に残った温もりが、いつまでも消えてゆかない。
「あの時。別れ際、君はとても不安そうな顔をしていた」
「それはこの黒曜石が……」
言おうとした言葉に、蒼龍の声が重なった。
「俺は、勘のいい君が、気づいたんだと分かったんだ。日鳳は安心させるためにああ言ったが……この戦は、そう簡単じゃないってことに」
「やっぱり!」
再び拳を振り上げた小蘭に、今度はもう、抵抗しようとは思わなかった。瞳だけを横に流す。
「……俺は、君が〝着いていく〟なんて言い出しかねないと、思ったんだ」
「それ……言おうと思ってた」
拳を宙に上げたまま、小蘭が言う。
「……やっぱりな」
蒼龍は、小蘭の首にある黒曜石に、そっと触れた。
かつて皇后から聞いた話――戦で皇帝を庇い、凶刃に斃れた生母の影に思いを馳せる。
少しの間、沈黙が流れた。
リン……。
秋の虫の音が、急に大きくなってあたりに響く。
蒼龍は、小さく息を吐いた。
隠すことを知らない無垢、今宵の満月のような小蘭になら、本当の心を明かせる気がした。
「昔ーーここに、とても大切な女性がいたんだ。だが、失った。多分もう、生涯逢うことはないだろう」
「蒼龍……」
「俺が、未熟だった。彼女を、長いこと苦しめてしまった」
小蘭は驚かない。何故か、蒼龍の悲しみに寄り添っているような表情を見せた。
一拍置いて、蒼龍が続けた。
「俺は、もう二度と、俺のせいで大切なひとを無くしたくない。もう一度言うが……この戦は難しい。俺は自分で精一杯、君には手が回らない。そこで、密かに君に護衛をつけることにした」
「まさか……あの門番さん?」
「そう、名は『玄武』――国一番の護りの要だ。後宮も、もう安全とはいえないからな」
炎に包まれた倉庫の煙たさ、抱き抱えた小蘭の真っ白な顔色、微かな息づかい。
蒼龍の身体に、生々しい感覚が蘇った。
「だから小蘭」
ためらいがちに絞った声だが、小蘭は、意外にも、柔らかくそれに微笑んだ。
「ありがとう、ちゃんと話してくれて。私、待つよ……今日、先生に叱られたの、困らせてはいけないって」
「そう……か」
ホッと息を吐いたのも束の間、小蘭はきゅっと眉を吊り上げた。
「でもね、だからって、何も教えないことも、一度も会わないのも違うわ。蒼龍の気持ち、ちゃんと言ってくれなきゃ、私には分からない」
小蘭は、胸にある蒼龍の指を握った。
「そして――私の方にも、伝えたい事だってある。推し量って勝手に決めて、大事だからって遠ざけていたら、今度は、蒼龍の心がひとりぼっちになっちゃうよ」
「小蘭」
蒼龍は、はっとした。
しばらく何も言えず、怒った顔をまじまじと見つめる。
それが、自分を孤独にしてきた理由なのだと、初めて気づいたのだ。
小蘭は続ける。
「……その、蒼龍の大事な人にだって。会いたいと思うのなら、会ったっていいって思う。……本当はちょっと妬けるけど。……蒼龍」
小蘭の涙が、ぴたりと止まった。
さわ……。
夜風に、桃の葉が揺れる。
虫の鳴き声が、ふと止まった。
「私は、蒼龍のことが好き。もう〝仕方なく〟の妃じゃない、本当の〝妻〟になりたいの」
今にも溢れそうな涙を湛えながら、その目には、曇りのない意思の輝きを放っていた。
いつものような照れもない。
静かに燃える、強い眼差しに、蒼龍は一瞬怯んで。
やがて、訥々と語り出した。
「小蘭、その……俺は……」
金色の髪を優しく撫で、震える肩を、そっと片方の手で包む。
「……小蘭。俺だって君が好きだし、大切だ。その自由さや素直さが、いつも俺に人らしい気持ちを思い出させる」
一息、置く。
「君がもし、これからの道を共に歩んでくれるのなら、俺は理想の俺になれそうな気がする。しかし……」
蒼龍は、少し言い淀んだ。
小蘭が、自分を見つめている。
「俺は、絶対に皇帝になると決めている。それも先の世で、名君と呼ばれる皇帝に。それに付き合わせるってことは、君を、俺の世界に引き摺り込むってことだ。……俺は」
一拍、間を置く。
「君の幸せを願うなら、早く俺から解放すべきだと、これまでずっと考えてた」
小蘭が蒼龍にしがみついた。
「そんなこと! 私の幸せなんて、勝手に決めないでよ」
「まあ、話は最後まで聞けよ」
蒼龍は、肩にあった手を後頭に回し、小蘭を胸の中に包み込んだ。
「蒼――!」
「結局、手放せなかったんだ。優柔不断だと、嗤ってくれていい。これまでずっと。自由な小鳥を繋ぎ止めようと……必死だった」
胸の中で、小蘭が強く首を横に振っている。
しばらく二人は、そのままの姿で抱き合っていた。
冴え冴えとした月の光がその姿を淡く照らす。
だが、蒼龍にとってそれは今や、温度のない、冷たい光ではなく、暖かな体温と清浄を感じられる光だ。
やがて、小蘭が埋まっていた胸から顔を上げた。
「ん? どうした」
まじまじと見つめられ、蒼龍が首を傾げる。
「決めた蒼龍。私、あなたの子を産むわ」
「……は?」
「ただ?」
さっきから目を擦ってばかりいる小さな手を、そっと掴んで顔から離してやる。
「……言いたくないな。きっと君は、怒るだろうから」
小蘭は、ぐっと唇を噛み、蒼龍を睨んだ。
「そんなの、聞いてみないと分からないじゃない。私の気持ちを、蒼龍が勝手に決めないで」
はっとして、蒼龍は小蘭を見上げた。深い翠の瞳に、泉のような輝きが溢れている。
白い月光が彼女を縁取り、その輝きに目を逸らせない。
「……そうだよな。君ならそうか……そう言うのか」
「なぁに、それ。ね、はぐらかさないで早く教えて」
少しだけ笑った小蘭の顔に、蒼龍もふっと微笑んだ。
「分かった、言うよ。簡単に言うとーー〝巻き込むのが怖くなった〟ってとこ」
「何よそれ、やっぱり仲間はずれじゃない!」
「わっ、待て待て」
思い切り振り下ろそうとした拳を掌で止めると、蒼龍は苦笑いした。
「ほら、だから言っただろ、〝君は怒る〟って」
「だって……」
再びじわっと湧き出た涙を、蒼龍は人差し指の腹で救いとった。
指先に残った温もりが、いつまでも消えてゆかない。
「あの時。別れ際、君はとても不安そうな顔をしていた」
「それはこの黒曜石が……」
言おうとした言葉に、蒼龍の声が重なった。
「俺は、勘のいい君が、気づいたんだと分かったんだ。日鳳は安心させるためにああ言ったが……この戦は、そう簡単じゃないってことに」
「やっぱり!」
再び拳を振り上げた小蘭に、今度はもう、抵抗しようとは思わなかった。瞳だけを横に流す。
「……俺は、君が〝着いていく〟なんて言い出しかねないと、思ったんだ」
「それ……言おうと思ってた」
拳を宙に上げたまま、小蘭が言う。
「……やっぱりな」
蒼龍は、小蘭の首にある黒曜石に、そっと触れた。
かつて皇后から聞いた話――戦で皇帝を庇い、凶刃に斃れた生母の影に思いを馳せる。
少しの間、沈黙が流れた。
リン……。
秋の虫の音が、急に大きくなってあたりに響く。
蒼龍は、小さく息を吐いた。
隠すことを知らない無垢、今宵の満月のような小蘭になら、本当の心を明かせる気がした。
「昔ーーここに、とても大切な女性がいたんだ。だが、失った。多分もう、生涯逢うことはないだろう」
「蒼龍……」
「俺が、未熟だった。彼女を、長いこと苦しめてしまった」
小蘭は驚かない。何故か、蒼龍の悲しみに寄り添っているような表情を見せた。
一拍置いて、蒼龍が続けた。
「俺は、もう二度と、俺のせいで大切なひとを無くしたくない。もう一度言うが……この戦は難しい。俺は自分で精一杯、君には手が回らない。そこで、密かに君に護衛をつけることにした」
「まさか……あの門番さん?」
「そう、名は『玄武』――国一番の護りの要だ。後宮も、もう安全とはいえないからな」
炎に包まれた倉庫の煙たさ、抱き抱えた小蘭の真っ白な顔色、微かな息づかい。
蒼龍の身体に、生々しい感覚が蘇った。
「だから小蘭」
ためらいがちに絞った声だが、小蘭は、意外にも、柔らかくそれに微笑んだ。
「ありがとう、ちゃんと話してくれて。私、待つよ……今日、先生に叱られたの、困らせてはいけないって」
「そう……か」
ホッと息を吐いたのも束の間、小蘭はきゅっと眉を吊り上げた。
「でもね、だからって、何も教えないことも、一度も会わないのも違うわ。蒼龍の気持ち、ちゃんと言ってくれなきゃ、私には分からない」
小蘭は、胸にある蒼龍の指を握った。
「そして――私の方にも、伝えたい事だってある。推し量って勝手に決めて、大事だからって遠ざけていたら、今度は、蒼龍の心がひとりぼっちになっちゃうよ」
「小蘭」
蒼龍は、はっとした。
しばらく何も言えず、怒った顔をまじまじと見つめる。
それが、自分を孤独にしてきた理由なのだと、初めて気づいたのだ。
小蘭は続ける。
「……その、蒼龍の大事な人にだって。会いたいと思うのなら、会ったっていいって思う。……本当はちょっと妬けるけど。……蒼龍」
小蘭の涙が、ぴたりと止まった。
さわ……。
夜風に、桃の葉が揺れる。
虫の鳴き声が、ふと止まった。
「私は、蒼龍のことが好き。もう〝仕方なく〟の妃じゃない、本当の〝妻〟になりたいの」
今にも溢れそうな涙を湛えながら、その目には、曇りのない意思の輝きを放っていた。
いつものような照れもない。
静かに燃える、強い眼差しに、蒼龍は一瞬怯んで。
やがて、訥々と語り出した。
「小蘭、その……俺は……」
金色の髪を優しく撫で、震える肩を、そっと片方の手で包む。
「……小蘭。俺だって君が好きだし、大切だ。その自由さや素直さが、いつも俺に人らしい気持ちを思い出させる」
一息、置く。
「君がもし、これからの道を共に歩んでくれるのなら、俺は理想の俺になれそうな気がする。しかし……」
蒼龍は、少し言い淀んだ。
小蘭が、自分を見つめている。
「俺は、絶対に皇帝になると決めている。それも先の世で、名君と呼ばれる皇帝に。それに付き合わせるってことは、君を、俺の世界に引き摺り込むってことだ。……俺は」
一拍、間を置く。
「君の幸せを願うなら、早く俺から解放すべきだと、これまでずっと考えてた」
小蘭が蒼龍にしがみついた。
「そんなこと! 私の幸せなんて、勝手に決めないでよ」
「まあ、話は最後まで聞けよ」
蒼龍は、肩にあった手を後頭に回し、小蘭を胸の中に包み込んだ。
「蒼――!」
「結局、手放せなかったんだ。優柔不断だと、嗤ってくれていい。これまでずっと。自由な小鳥を繋ぎ止めようと……必死だった」
胸の中で、小蘭が強く首を横に振っている。
しばらく二人は、そのままの姿で抱き合っていた。
冴え冴えとした月の光がその姿を淡く照らす。
だが、蒼龍にとってそれは今や、温度のない、冷たい光ではなく、暖かな体温と清浄を感じられる光だ。
やがて、小蘭が埋まっていた胸から顔を上げた。
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まじまじと見つめられ、蒼龍が首を傾げる。
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「……は?」
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