追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第十三話 茶会

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レティシア・ビアードです。
学園の大行事である茶会の時期が近づいてきました。
今のところは平穏な学園生活を送れています。マートン様達から嫌みを言われるのはいつものことなので気にしません。生徒会ではカトリーヌ様かエイベルと行動を共にしているので、そこまで令嬢達の嫉妬の視線を向けられてません。
カトリーヌ様の指導のもと、効率のよいお仕事を学んでます。カトリーヌ様の指導は初めて受けましたが大変勉強になります。生前はいつもクロード殿下やリオに教わっていました。人によってやり方が違うので新鮮で楽しいです。
生徒会の仕事も終わり、寮に戻る道をカトリーヌ様と歩いています。

「レティシア、兄妹で茶会の演者をお願いできないかしら?」

茶会で流れる音楽を演奏する者を演者と呼びます。私達兄妹は音楽の教養はありますが、嗜み程度です。聴ける演奏ですが、聴きたい演奏は奏でられません。

「カトリーヌ様、私も兄も楽器は不得手です」
「エイミーを呼んであるから平気よ。二人はその場で演奏してくれればいいわ」

お世話になっているカトリーヌ様の願いをお断りすることはできません。それに司法を司るレート公爵家にはうちもよくお世話になっているので、今後も良いお付き合いをしないといけません。特にビアード公爵になるエイベルには必要な繋がりです。

「かしこまりました。精一杯つとめさせていただきます」
「楽しみだわ」

綺麗な笑みを浮かべるカトリーヌ様の考えがわかりません。ですが芸術一家のリール公爵令嬢のエイミー様がいればどんな演奏も立派になるでしょう。
エイベルが引き受けたのに驚きましたがカトリーヌ様には逆らえませんよね…。
カトリーヌ様が練習時間を設けるために私とエイベルの仕事を減らしてくれました。殿下の護衛からもエイベルは外されました。カトリーヌ様が茶会に力を入れていることがよくわかりました。
私達兄妹は不甲斐ない演奏をするわけにはいきません。カトリーヌ様の期待に答え、茶会が素晴らしいものになるように努力しようと覚悟を決めました。
***

私はエイベルを連れて、エイミー様にご挨拶するため4年1組にいきました。私達に気づいたエイミー様は、愛らしい笑みを浮かべました。令息達がエイミー様に見惚れて頬を染めていましたがエイベルには見惚れる様子はありませんでした。

「リール様、このたびはよろしくお願いします」
「こちらこそ。」
「リール様、紛らわしいのでレティシアとお呼びください。楽器は不得手ですので、お時間が許せばご指導をお願いしたいのですが」
「私もエイミーで構いません。もちろんです。今日の放課後からでいいかしら?」
「はい。」
「第2演奏室で待ってます」
「はい。よろしくお願い致します」

快く了承してくれたエイミー様に礼をしてエイベルを連れて立ち去ります。
私はエイミー様の厳しい指導に心が折れないように気合いをいれないといけません。

「お兄様、きっと過酷な訓練がはじまるので覚悟してくださいませ」
「リール嬢が?」
「リール公爵家は芸術が関わると人が変わるんです」

私の言葉が信じられないのか呆れた視線を向けられました。
エイベル、私は忠告しましたよ。

「レティシア嬢、珍しいね」

私とエイベルのやりとりに苦笑しているのはグランド伯爵家のサイラス・グランド様です。グランド伯爵家も武術の名門です。エイベルのお友達で、時々訓練に混ぜてもらっています。

「ごきげんよう、サイラス様。またお暇な時に御指導お願いします」
「構わないよ。最近は忙しそうだね」

サイラス様は優しくて頼りになる先輩です。剣の腕はエイベルよりも強く指導もわかりやすく丁寧なためサイラス様との訓練は勉強になります。

「はい。もっと訓練してお兄様に勝てるようになりたいんですが中々遠い道のりです」
「エイベルも強いからね」

サイラス様は私がエイベルに勝ちたい気持ちを応援してくれます。無理とは言わない数少ない味方です。他人の腕を笑顔で認め称賛する懐の広さも素敵です。

「レティシア、そろそろ戻らないと授業に遅れる」
「大変です。失礼します」

エイベルの言葉に礼をして立ち去ります。生徒の模範の生徒会役員は遅刻は許されません。生徒会役員らしからぬ行いが生徒会長のクロード殿下の耳に入り、冷たい空気と無表情な顔に曝され、苦言を言われることを想像するだけで、お腹が痛くなります。早足で足を進めたせいか教室には余裕をもって着きました。ステラとフィルに挨拶をして着席しました。

***
エイミー・リール様の恐ろしい指導の日々が始まりました。エイベルは目が虚ろになりました。
私は忠告しましたよ。
さすがに、私よりもさらに厳しい指導を受けるエイベルが可哀想なので、謝罪を求めたりしません。
エイベルはまだ指導を受けています。
私は今日は合格が出たので先に帰ることにしました。二人っきりにはさせられないので、マナを置いてきました。
荷物を持ってフラフラと足を進めます。心身ともに疲れました。フルートはバイオリンよりも難しいです。
誰かにぶつかり、勢いで座りこんでしまいました。リオに手を差し出されたので重ねて立ち上がります。

「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」

顔を覗きこまれ心配している顔で見られてます。にっこりと笑いかけます。

「少し疲れただけです。エイミー様のレッスンの後なんです」
「それは大変だったな」
「はい。貴重な機会なので頑張ります。リオもお仕事はほどほどにしてください。失礼します」
「寮まで送るよ」
「まだ明るいので大丈夫です。では」

前方不注意でぶつかったことへのお説教がはじまる前に立ち去ります。リオのお説教は長いんです。私は寮に帰って休むことにしました。覚悟を決めても茶会までのエイミー様の厳しいレッスンは気が重いです。

***
連日のエイミー様の厳しい指導にエイベルの目が死んでいきました。
とうとう学園の大行事、茶会の日を迎えました。
最終学年の令嬢達の主催のイベントです。
大行事は二日間行われます。
日時、場所はくじ引きで決めます。
招待客は先生、上位貴族夫人、生徒です。
生徒は抽選で選ばれますが名家の令嬢の茶会は生徒会役員が招かれることが多いです。
茶会の日は開会と閉会の挨拶さえ出席すれば自由に過ごせます。
茶会の主催は女性貴族の嗜みなので勉強のために令嬢達は殆んどが見学します。
審査のための票が女子生徒には渡されますが投票は自由です。茶会は招待客と女子生徒の票の合計で順位が決まります。1位を目指す令嬢は女子生徒が見学に足を運びたくなるように工夫を凝らすことも大事なようです。
茶会での主催の役目、招待客のマナーは、お手本教材として最適のため礼儀作法の授業を選択している生徒には茶会のレポートが課題に出されます。私は選択してないので、関係ありません。

私はカトリーヌ様の茶会の会場に来ています。
エイベルは明日からエイミー様のスパルタコースから解放されることを喜んでいます。緊張もせず、図太いですわ。

「麗しのビアード兄妹に音楽の申し子のエイミー、優勝はいただくわ」

カトリーヌ様が気合いをいれております。
私は準備を整えたので、始まるのを待つだけです。
私とエイベルの組み合わせは人気があるとステラが熱弁していましたがよくわからなかったので聞き流しました。ステラは愛らしくお淑やかな令嬢ですが時々おかしくなります。フィルに話すと私にだけは言う資格はないと笑われました。
招待客は先生と公爵夫人にクロード殿下に上級生の令嬢が3人です。
私は気にせず演奏することにしました。ステラが見学に来てます。
見学者は女子生徒だけでなく男子生徒も多いです。男子生徒は茶会に参加しないので各々自由に過ごしているはずですが・・。閃きました。エイミー様とカトリーヌ様を見に来たのかもしれません。美人なカトリーヌ様に可愛らしいエイミー様は殿方にも人気があります。きっとクロード殿下の婚約者候補に名前があがっていると思います。クロード殿下は穏やかな顔ですがつまらなそうにお茶を飲んでます。私は演奏するだけなので気にしてはいけません。
何事もなくお茶会は後半にさしかかりました。

突然右足に痛みが走りました。下に視線を向けると魔石が4つほど転がってます。特に魔法の演出は聞いていません。
火と風の魔石ですがパチン、パチンと音がします。
熱っ!? この魔石発動しています。このままではまずいです。フルートを置いて水の魔法で魔石を閉じ込めます。魔力を注いで水球の中で魔石を爆発させます。
火の魔石に爆発の魔法陣が刻まれてました。風の魔石の魔法陣は見えませんでしたが、もし増幅の魔法陣が刻まれていれば大爆発が起こったかもしれません。妨害にしては悪戯が過ぎます。
無事におさまって良かったです。右足は痛いですが、我慢して立ち上がります。礼をしてフルートの演奏を再開します。カトリーヌ様の視線に笑顔を浮かべます。睨んでいるエイベルに首を横に振って笑いかけますが眉間の皺が消えません。

「大丈夫です。そのお顔はいけません」

エイベルが演奏しながら近づいてきました。

「支えてやる。」

たぶん足の怪我は見つかってます。甘えてエイベルの背中に体重を預けます。身長差があるので演奏の邪魔にならないのが救いです。痺れと痛みをこらえて演奏に集中します。
無事に茶会が終わりました。最後の曲を演奏して礼をした途端に体の力が抜けました。エイベルが腰を抱いて支えてくれました。
カトリーヌ様が近づいてきました。

「カトリーヌ様、申しわけありません」
「問題ないわ。何があったの?」
「レート嬢、先に保健室に連れて行ってもいいでしょうか?」
「エイベル、大丈夫」
「話はあとで聞くわ。お疲れ様」

エイベルに抱きあげられて保健室に連れていかれました。
靴下を脱ぐと足が腫れてました。魔石が足にぶつかった時ですかね。あの魔石になにか仕込んでいたんでしょう。エイベルに事情を説明すると頭を叩かれました。

「なんで、言わなかった」

睨まれても言えませんよ。

「茶会の邪魔はいけません。」
「こんな足で演奏するバカがいるか」

エイベルの視線が私の足を睨んでます。
心配して怒ってたんですか。笑いそうになるのを堪えました。

「ごめんなさい。カトリーヌ様にとって大事な茶会を壊したくなかったんです。ここでの評価は将来に関わります。」
「お人好しが」

弱い魔石なら放っておきましたが、強い魔石は危険です。気づかないフリはできませんでした。

「風と火の魔石の純度が高かったんです。」

「レティシア様!!」
「ビアード嬢!!」

ステラとリオが駆け込んできました。私の足を見て表情が抜け落ちました。この二人には見られたくありませんでした。

「なんて、ことを」

真っ青なステラの顔を見て怪我を先に治しておかなかったことを後悔しました。

「ステラ、そんなにひどくないから大丈夫です。エイベル、魔力ください」

魔力が足りないのでエイベルに魔力を送ってもらいました。魔力の受け渡しには相性がありますが兄妹のため問題ありません。魔力が巡り、体が温まってきました。
足に手を当てて、治癒魔法をかけます。

「治りました。事情を説明に行ってきますね。」

立ち上がろうとするのをエイベルに押さえつけられます。

「事情説明は俺がする。眠いんだろ?」

確かに眠いです。魔力を使いすぎました。怪我が治ったのに心配そうな顔をしているステラとリオに笑いかけます。二人は昔から心配症です。

「リオ、ステラ、私は大丈夫です。安心してください」

二人を安心させないといけないのに、眠気に抗えずに目を閉じました。
***

目を開けるとリオの弱った顔が見えました。何度倒れても心配するんです。昔、離れたことがトラウマみたいです。普段は頼もしいのに、でもどんなリオも愛しいです。

「リオ、大丈夫です。どこにも行きません。シアにはリオ兄様だけです。だから安心してください」

リオの頬に手を伸ばし大好きな瞳に笑いかけると、しばらくして、笑いました。きっともう大丈夫です。また瞼が重くなり再び目を閉じました。どんなリオも素敵ですが、笑顔は特に……。


***
「レティシア、起きろ」

肩を揺さぶられ、目を醒ましました。何度か瞬きをして、天井を見て、慌てて起き上がりました。

「エイベル、茶会は!?」
「レート嬢は一位だよ」

安心して力が抜けました。

「良かったです」
「お人好しが・・。確認しろ」

渡された茶会の報告書に目を通します。私が書くべきなのにエイベルが書いてくれたようです。

「ありがとうございます」

報告書はよく書けており、書き足すことはありません。顔を上げるとエイベルに真剣な顔で見られました。

「今回、狙われたのはリール嬢だった。レート嬢の茶会の妨害も丁度良かったようだ。ただ被害者はレティシアだ。どうしたい?」

二人が無事で良かったです。自身が狙われて茶会を台無しにしたわけではないことに安堵したのは内緒です。

「カトリーヌ様とエイミー様の判断に従います。ビアード公爵家として必要でしたらお父様に従います」

「は?」

エイベルの眉間に皺がよりました。私は関係ありません。説明しないとわからないとはやはりポンコツでしょうか。エイベルもまだ子供なので、仕方ありませんね。ここは大人の私が余裕を見せましょう。

「狙われたお二人の判断に任せます。私は偶然巻き込まれただけですもの。面倒なことには関わりたくありません。ビアード公爵令嬢として必要なら教えてください」

エイベルが苦笑したので、理解を得られましたわ。

「俺が任されようか?」
「お願いします」

エイベルがやりたいなら任せましょう。学園でのビアードの最高責任者はエイベルです。将来の当主として頼もしく育って欲しいですわ。ビアード公爵への報告も任せましょう。茶会が無事に終わって良かったです。
久々に生徒会に顔を出すと空気が緊張していて驚きました。一度扉をしめて、再度開いても見間違えではありませんでした。生徒会長のクロード殿下は仕事が増やされることが嫌いです。
私は最近恐ろしい事実を知りました。
クロード殿下は不機嫌になると冷たい空気を出します。今世の殿下が一番怖いです。
初めて不機嫌なクロード殿下が冷気を出したのを見たときは体が震えました。
殿下、私が仕事を増やしたわけではありませんよ。八つ当たりはやめてくださいませ。余計なことを思ってすみません。心の中を読まないで下さい。やはり今世も心の中を読めるんですね。私はエイベルの後に隠れてやり過ごすことにしました。私は平穏な生活が送りたいだけなのに、中々うまくいきません。
早く殿下の心が穏やかになりますように。殿下の視線が冷たい。ごめんなさい。もう何も思いません。
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