追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第二十九話 契約

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フラン王国は身分に厳しい国です。
生前のルーン公爵令嬢時代は序列ではマール公爵家より低かったですが、勢力的にはルーン公爵家のほうが上でした。
とはいえ、貴族は王家にどこまで認められるかに赴きをおくので、序列一位のマール公爵家に力があってもなくても、二位のルーン公爵家が敬意を払うのが社交界の常識です。
ルーンとマールは夫人同士が姉妹であり、同派閥、親交も深かったので、プライベートなお付き合いも多く、不敬を咎められることはありませんでした。
ですがビアードとマールですと事情は異なります。
私はリオに不敬を働きましたが、いまのところビアード公爵家に抗議がないのでほっとしました。そして公に咎められない限りはリオを避ける生活はやめるつもりはありません。
咎められても平等の学園という理由で押し通しますわ。さすがにビアード公爵家や王家から命じられれば従いますが、命じられることはないと思います。
3度目の人生なので、人違いで口づけられ動揺するほど初心ではありません。
私のリオ以外に口づけられても何も感じず、意味のない行為ですわ。口づけで魔力を送る行為もありますし特別でもなんでもありません。婚約者がいなければ恋人を作っても咎められませんし、純潔さえ守れば醜聞にはなりません。
リオとは生徒会以外では会いませんし、気にするのはやめましょう。

マール公爵夫人からルーン公爵夫人とエイベルとの訓練の詳細が送られてきました。
エイベルに見せたら無言で頭を撫でられましたので喜んでいる姿に笑みが零れました。
頑張った甲斐がありましたわ。過酷な訓練が待ってますが、心身ともに折れないように見守りましょう。私も混ざりたいですが実力不足で瞬殺されるのが目に見えますので遠慮しますわ。


エイベルは武術の監督生の資格を持っています。
教師に認められる水準の武術の腕と指導力と適応力がある生徒は監督生と呼ばれます。
学園内の資格で給金は出ませんが、将来騎士を目指す生徒なら監督生の資格があれば選考試験で有利になります。
義務ではありませんが武門名家の嫡男は卒業までに必ず所得しています。
監督生の特権は申請さえすればいつでも訓練ができ、特別な訓練場所を使えることです。
監督生の資格のない生徒は訓練室の開放日か先生の付き添いのもと訓練を行います。
未熟な生徒の訓練は危険が伴うので魔法鏡が設置してある平地と訓練室が許される場所です。この魔法鏡は職員室とエメル先生、ロベルト先生の部屋の設置してある魔法鏡に繋がっています。

監督生の監視のもとなら学園にある広大な森での訓練も許可されます。
私のお気に入りの水場は監督生がいないと使えませんが今世はエイベルや監督生の知り合いがい多いので助かってます。

エイベルは近くで訓練しているので、靴を脱いでゆっくりと泉に入ります。
学園の泉も魔力が漂っているから温かいです。
なぜかいつもより心地良く感じうっとりとしてしまいますわ。
潜って泳いでいるといつもより体が軽く、魚を見つけました。
青い光が見え、泳いで近づくと深い青い瞳を持つ見たことのない魚がいます。
あまりの美しさに思わず手を伸ばすと青い光に触れ魔力が吸われていきます。魔力が吸わている時はうまく魔法が発動できません。
でもこの美しい魚ならいくらでも魔力を捧げたくなりますわ。魚は手のひらサイズだったのに私よりも大きくなり、さらに神々しく輝いています。どんどん魚の輝きが強くなりずっと見ていたいのにあまりの眩しさに、目を開けていられません。

「ありがとう」

聞き慣れた声に目を開けると蒼い髪と青い瞳を持つ美しい女性がいますが、物凄く見覚えがあります。期待に胸が高まります。

「デイーネ?」

生前契約していた水の精霊デイーネにそっくりな女性がさらに綺麗な笑顔を浮かべ目頭が熱くなります。

「名前は?」
「レティシア」
「レティシア、会えて嬉しいわ」
「私も会いたかった」

デイーネの美しい青い瞳にじっと見られ、興奮して間違えたことに気付きました。

「ごめんなさい。知り合いにそっくりで」
「構わないわ。レティシアと私は契約したわ。私が気が向いたら力を貸してあげる」
「ありがとうございます」
「いつも側にいるから、呼んでくれればいいわ」
「デイーネ、猫の姿になれますか?」

デイーネが生前によく姿を変えていた青い瞳の銀色の毛を持つ猫の姿になりました。
懐かしく、可愛いくて思わずぎゅっと抱きしめます。もう一度会いたくて堪らなかった相棒で親友で家族のディーネ。

「デイーネ、よろしくお願いします。レティでいいよ」

「レティ、主が呼んでる」

ストーム様の声にディーネを抱いて泉から上がるとエイベルの眉間に皺が寄ってます。

「呼んだらすぐにと、猫?」

エイベルの視線がディーネに向けられてます。

「友達のデイーネです」
「は?」
「水の精霊様です。お友達になりました。良い子ですよ。デイーネ、兄のエイベルです」
「見えるのね・・。そう。風の子の契約者・・・」
「レティシア、学園にペットは」
「ペットではありません。友達です。デイーネは隠行できるから大丈夫です。私のデイーネは凄いんです」
「レティ、魔力貰わないと。」

泉から上がると体が重たいので、魔力を使い過ぎましたわ。

「エイベル、魔力ください」

ため息をついたエイベルが風魔法で包んで服を乾かした後に、肩に手を置いて魔力を送ってくれます。エイベルの魔力がじんわり体に巡って体が温まっていきます。

「レティ、またね」 
「うん」

デイーネが腕の中から消えていきました。
精霊は人に見えるように顕現すると魔力を消費するので普段は隠形しています。隠形しても念話ができるので不便はありません。
エイベルにディーネと契約した事情を話すと苦笑されました。
名前を伝え合えば精霊との契約は成立します。精霊は理に縛られないので気に入れば説明せずに勝手に契約を結ぶこともあります。
名前を持つ精霊は強い力を持ちます。ディーネよりも力を持つ精霊もいますが会うことはほとんどないと生前に教えてもらいました。精霊の世界も中々複雑で深く、全てを理解するには人の一生では足りないので必要な時だけ教えてもらうことにしています。

「精霊は珍しいんだよな?」
「はい。幸運でしたわ。これで水魔法の修行ができます。エイベル以外にはデイーネのことは話しません。」

今日は魔力を使いすぎたので訓練は止めて、エイベルに送られ寮に帰りました。
生前にデイーネと出会った時期より早く、場所も違いますが大歓迎です。
ディーネさえいればきっと何があっても大丈夫です。最強の味方ができましたわ。
会えないかもしれないと覚悟していたので、眠る時に猫の姿で腕の中に現れたディーネを見て、泣きたくなりました。
抱いている感覚も懐かしく、懐かしい記憶に思いをはせ目を閉じました。
翌日にあまりの嬉しさに興奮し過ぎて熱が出たのは誤算でした。
部屋でディーネを抱きながら、本を読み過ごしました。ディーネはマナには見えず、精霊として力が強いのでずっと顕現しても疲れないので何も問題ありません。いつの世もディーネの美しさも可愛らしさも凄さも変わりませんね。
解熱し登校するとステラに心配され、エイベルには水の中にずっと潜っていたからと怒られました。興奮しただけと言っても一切信じてもらえませんでした。微量な魔力の漂う水の中は温かいんですがこの感覚は水属性ではないエイベルにはわかりません。何度話しても伝わりませんのでやはりポンコツでしょうか。もう少し想像力を働かせて欲しいですわ。

***

生徒会室では会議が開かれてます。
下位貴族が縁を繋ぐ機会がほしいと要望が出ているそうです。学園は縁を作る絶好の場ですが生徒会に要求するのは平等の学園だからできること。自分達の立場をよく考えたうえで学園の平等精神をうまく利用しています。図々しいと棄却しないので殿下のお眼鏡に叶ったのでしょう。
案をクロード殿下に問われています。できれば具体案まで考えて願い出て欲しかったですわ。


「学園の創立記念にダンスパーティーでも開きますか?ドレスは学園で貸し出しをすれば平民の生徒も参加できます。ドレスの借用の希望をとりましょう。学園保管のドレスで足りなければ、使用しないドレスを各々の家から取り寄せ、生徒会でも足りなければ友人や紹介に声をかけましょう。」
「自由参加のパーティーなら参加しない貴族も多いだろう」
「生徒会役員は全員参加です」

生徒会役員は上位貴族ばかりです。各々の婚約者や取り巻きの方々も参加しますわね。まずクロード殿下が参加するなら上位貴族は絶対に参加しますわ。

「ダンスの指導は?」
「せっかくなので授業にいれましょう。踊れて損はありません」

カトリーヌ様とクロード殿下が話を進めていきます。

「このパーティーだけは無礼講にしましょう。校則は守っていただきますが、礼儀は不問に」
「他に意見があるものはいないか?」

無礼講は平民の生徒に有り難いですが、それだと面倒が起こりそうですわ。
手をあげると視線を向けられました。

「いくつか制約を希望します。無礼講とはいえ誤解を生みますのでダンスは同じ相手と2曲連続では踊れないようにしていただきたいですわ。そして、しつこく誘われたときに避ける口実が欲しいです。嫌がる令嬢を無理矢理誘う方が出ないといいんですが…。」
「下位の生徒がうまく誘えるか?」
「茶会と武術大会、試験の上位入賞者と生徒会が認める優秀な生徒には好きな相手と踊る権利を与えるのはいかがでしょうか?踊りたくない方には記念品ですかね‥。」


フラン王国では2曲連続でダンスを踊るのは婚約者や配偶者という暗黙のルールがあります。他国では違うんですが、殿方の体力に合わせてダンスに付き合うのも大変ですし、休息を口実に連れ出され不埒なことをされても困ります。
どんどん論点がズレていき、私はよくわかりません。クロード殿下とカトリーヌ様の話を静かに聞きましょう。私よりも優秀な二人にお任せして従うのが一番ですわ。

「カトリーヌ任せられるか?」
「かしこまりました。」
「補佐は必要か?」
「案をまとめましたら、各々の役割をふりますわ。補佐はレティシアとクラムを。」
「カトリーヌ、クラム、レティシア任せるよ」

役員の皆様の視線を向けられ、エイベルに呆れた顔を向けられてます。ぼんやりとしてましたわ。真面目な顔を作りクロード殿下に向き直ります。

「「かしこまりました。」」

「マール様、クラムをお借りしても?」
「俺も手伝います」
「わかりました。では移動しましょう」

リオは自分の仕事は平気なんでしょうか?
カーチス様の指導係だからでしょう。確かに後輩への気配りが凄く、何も関係のない私も気にかけていただくのでいつも丁重にお断りしています。
カトリーヌ様の部屋で4人で向き合い各々案を出すことになりました。ダンスパーティーは決定みたいですわ。

「カトリーヌ様、予算はあるんでしょうか?」
「予算は問題ないわ」

クロード殿下のためなら寄付金を出す貴族がたくさんいるので、予算の心配はいりませでした。
生徒会の催しならうちも寄付するでしょう。

「せっかくなので平民の生徒も楽しめる会にしたいです。料理とお菓子を用意して。お話したりゲームをする場を設けたいですね」
「楽しそうだな」

選民意識がないカーチス様が陽気に笑い乗ってくださいました。
ただ問題なのは、

「平民の生徒は自分の希望を言えません。いっそ仮面でもつけます?」
「仮面をつけたら誰だかわからない。縁が作れないだろう?」

本題を忘れてました。皆で楽しめる夜会ではなく縁を作るのが目的でしたわ。
どうすればダンスに誘えますかね。でも縁が作りたいと願うなら、積極性はありますよね。

「そうですか・・。せっかくなので男女関係なくダンスに誘えたら・・。あらかじめ花を配ってダンスに誘いたい相手にお渡しするくらいならできますか?」
「その程度ができなければダンスは踊れないだろう」

サラリと話すリオの言葉は事実ですが、厳しいです。皆がリオのように誰とでも踊る勇気があるわけではありません。モテるリオにはわからないでしょう。ただカトリーヌ様達も頷いているので、それなら反対しても無駄ですわ。

「しつこい方や無礼な方への取り締まりはどうしましょう」
「罰則を作るか」
「取り締まる者が必要です」
「先生方に見張ってもらえばいいんじゃないか?」
「説明をしながら各クラスの生徒に要望を聞いてみましょう。各々の学年に説明や希望を聞きに回ればいいですか?」
「そうね。忙しくなるけど頼りにしてるわ」

話し合いの記録を纏め、カトリーヌ様がクロード殿下に報告していただきました。翌日の会議で再度話し合い詳細も決まりました。
カトリーヌ様の仕事の早さは流石でしわ。


創立記念日のお昼にダンスパーティの開催が決まりました。
まずは参加人数とドレス借用希望者の把握をしなければいけません。
私とカーチス様の担当は1年生です。手が足りないのでステラとフィルに手伝いを頼みました。今日は平民や下位貴族の多い1年3組に来てます。
あらかじめ先生に頼み放課後に生徒の皆様に残っていただいています。
クラスの名簿もあり、用意はバッチリです。早く帰りたそうな生徒もいますので迅速にすませましょう。
教壇の前に立ち礼をします。生徒達のざわめきが小さくなったので息を大きく吸います。

「貴重なお時間をありがとうございます。生徒会役員のレティシアと申します。今日は創立記念日の説明に参りました。質問は最後にお願いします。
創立記念日に美味しい料理を用意して、学園の掲げる平等の精神に相応しい身分に関係なく誰でも楽しめるようなダンスパーティの開催を企画しています。校則は守っていただきますが、他は無礼講です。危害さえ加えないなら殿下に失礼なことをしても無礼を咎めたり致しません。ドレス等は学園で無償で貸し出します。汚れても返していただければお金をとりませんわ。強制参加ではありません。
私からの説明は以上です。質問や希望がある方は教えてください。今は無礼を咎めたりしないのでなんでも聞いてください。ここで聞けない方は紙に名前と要望や質問を書いて生徒会に提出してください」

フィルとステラが紙を配りながら、生徒の話を聞いてくれています。

「食べ物目当てで行ってもいいんですか!?」
「勿論です。食べ物を持ち帰るのはやめてください。その場ならいくらでも食べても構いませんわ」
「ダンス以外でお声をかけてもいいんですか?」
「もちろんです。訓練やお勉強などなんでも聞いてください。その日は訓練できませんが、後日機会を設けてくれる方も多いと思います。もし、酷いことや理不尽なことを言われれば傍にいる先生か生徒会役員に教えてください。貴方達に不利益がないように処分するのでご安心ください」
「ドレスの着方がわかりません」
「もちろんお手伝いしますよ。すでにドレスを借りたいと希望される方はこの後教えてください。迷っている方は三日後にまた訪ねるのでその時に。紙に書いて生徒会に提出してくださっても構いません」
「ダンスがうまく踊れない」
「うまく踊れなくても楽しめばいいんです。授業だけで足りない方は、フィル、ステラダンスの練習に付き合ってくれますか?」

ステラとフィルが笑顔で頷いてくれたので、これなら大丈夫ですわ。

「私達が教えます。ダンスは踊れると便利ですよ。もちろん足を踏んでも怒りませんよ。希望者の人数を把握したいので、」
「レティシア様、俺が!!参加希望者とレッスン希望者を名簿にまとめておきます」

元気よく挙手する生徒の申し出に笑みが零れます。積極性は大事ですもの。

「ありがとうございます。よろしくお願いします。お時間いただきありがとうございました。3日後の放課後にまた訪問しますので興味がある方は残ってくださいませ。解散してください。ドレスの希望者はステラのところにお願いします」

ステラの側に何人かの女生徒が近づいていきました。

「ずるい」

不満そうな男子生徒に近づきます。

「女子ばっかり。俺達はダンスなんて楽しくない」
「どんなことなら楽しめますか?」
「戦いたい」

無礼講でも自分から要望を言うのは大変ですよね。頷く生徒や会話を聞いている様子を見ると騎士に憧れる生徒も多いようです。そのお願いなら私にできることがあります。
怖がらせないようににっこりと笑います。

「生徒会ではなく私個人からの提案ですわ。先の話になりますが、エイベル・ビアードとの合同訓練をご用意します。手合わせも受け付けます。無礼を咎めることはありません。希望者は後日紙に名前を書いて渡してください。生徒であればお友達に声をかけてもらっても構いません」
「え!?」
「フラン王国武門名家の嫡男です。未来のビアード公爵であり、王家の剣を目指すエイベルでしたら相手にとって不足ないですわ。」
「本当に?」

興奮する生徒達の様子にエイベルの人気に気分が良いです。学生時代に名前だけでも有名なのは名誉なことです。気分が良いのでもう一つサービスしようかな・・。
有名と言えば、もう一人。エイベルほどではありませんが、フィルに視線を送ると頷いてくれます。

「フィル・カーソンでも構いませんわ。他の方の訓練を希望される方も相談してください。私は生徒会役員なので騎士や騎士見習いの知り合いは多いので遠慮なく」

直接の知り合いではなくても、エイベルやパドマ様にお願いすれば手配できるでしょう。有名な騎士の生徒を抱えるのはうちとパドマ様の派閥ですから。
一部の生徒の目が輝き、興奮してますわね。きっと王国の未来は明るいでしょう。
質問も途切れましたし、帰りましょう。
3日後に訪ねると過半数が参加。ステラに体型と似合う色をまとめてもらいドレスの入手に奔走しないといけませんね。学園のドレスはデザインも古いので、着たい生徒も少ないですしせっかく着飾るなら素敵な思い出になるようにしたいですわ。
男子生徒は過半数から訓練の希望がありました。記載のある名前は私の知り合いばかりで良かったです。ソート様とサイラス様には後日お願いに伺いましょう。
やることはたくさんあるので、頑張りましょう。
ディーネがいるだけで気分は上がるので、今ならいくらでも働けますわ。
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