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第四十五話 恋の応援
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私はエイベルの部屋でレオ様とお菓子を作っています。
「レオ様、王宮で令嬢に会うことはありますか?」
「見かけても声はかけない」
レオ様は人見知りが激しいから仕方ありません。
材料を測っているレオ様から無関心な声が聞こえてきました。
「幼い頃に緊張した令嬢に声をかけたことは?」
「離宮に迷い込んだ令嬢がいたな。」
「そのお話を教えてください」
「真っ青な顔だったから毒でも盛られたかと話を聞いたな。離宮で何かあると困るから。初めて父上の前に一人で立つって聞いて、父上は怖くないと話しただけだな。」
確かに国王陛下は穏やかな方なので怖くありません。
確信しましたわ。エイミー様の初恋相手はレオ様です。ただ残念ながらエイミー様の思い出とは違ってました。
2度目の人生ではレオ様はエイミー様と結ばれました。せっかくなのでエイミー様の初恋の応援をしましょう。リール公爵家は政治の力は持たないので、レオ様の婚姻相手としては可能性はありますわ。
「レオ様、楽器を覚えませんか?今度一緒に演奏しましょう」
レオ様の視線が材料から外れ私に向きました。興味を引かれたみたいです。
「楽器?」
「サラ様に聴かせてさしあげたら、喜ばれると思いますよ。」
「本当か?」
無感情な声ではなくなりました。レオ様は興味のあることとないことの差が激しいんです。興味がなければ、手を出しません。ただ興味があることは徹底的に極めます。悲しいことに料理の腕も私より上です。
「はい。うちの両親も私の演奏を喜んでくださいます。厳しいですが音楽の教養深いお友達を紹介しますわ」
「大丈夫なのか?」
レオ様は自身の立場をよくわかってます。自分と関わったことで迷惑がかからないかを。私も自分の立場はわかってますのでうまく立ち回るつもりです。ただ王家と関わりたくないので、親しいことは周囲に話す気はありません。今の段階では・・・。
「念の為変装してください。演奏室は人の目がありますから。楽しみですわ。エイベルのバイオリンをお貸ししますわ。気に入ったら新しいものを探しにいきましょう」
「母上が喜ばれるか・・」
レオ様はサラ様が喜ぶことが一番お好きです。今世のサラ様はお体が弱いようで定期的に水の魔石を渡しております。王宮では二人だけの生活のようです。視察の際もレオ様に王家の侍女はついていませんでした。不便な生活を送っている気がしますが私にできることはありません。
「レティシア、ナイフを置け。振り回すな。」
エイベルの声に自身の持っているナイフを振り回していることに気付きました。うっかりレオ様にナイフを向けていました。王宮でしたら大変でした。お話はやめて果物を切るのに集中しましょう。
***
エイミー様にバイオリン指導について相談しました。
名乗れないけど、バイオリンを習いたい生徒がいると話すと笑顔で了承してくれた。
音楽に名前は必要なく意欲さえあればいいのよと朗らかに笑う姿は素敵でしたわ。
演奏室でレオ様を見たエイミー様は見惚れてました。髪と瞳の色を変えればレオ様であることが誰にも見つからないことが不思議でたまりません。
レオ様は天才でした。
エイミー様の指導を受け、すぐに曲を弾けるようになりました。エイミー様の目が獲物を捕らえる目に変わりました。これから厳しい指導が始まるでしょう。
ただ厳しい指導もレオ様は楽しそうに受けてました。レオ様の打たれ強さに私は目を丸くしました。エイベルさえも目が死んでいたのに・・・。
二人の4度目の練習からはステラに付き添いを代わってもらいました。練習の頻度が多く、全部をお付き合いできるほど私には暇はありませんでした。今世はステラにはお世話になってばかりです。
***
エイベルはビアード公爵家に帰っています。しばらくは公務で学園に戻れないので私がロキを預かりました。自室で仕事をしていると、ノックの音に入室許可を出し、書類から顔をあげると目を丸くしました。
「先触れもなく申しわけありません」
クラスメイトのマートン様の妹君でした。椅子をすすめて、マナにお茶を用意させます。
「お初にお目にかかります。アリス・マートンと申します」
「お会いできて光栄です。レティシア・ビアードです」
アリス様にじっと見られてます。毒の心配をされてるんでしょうか。
先にお茶とお菓子に口をつけました。私はどんな嫌いな方でも毒を盛ったりしませんわ。
「私をビアード領に招待していただけませんか?」
沈黙の後に恐る恐る口に出された言葉に驚きました。
「ご両親のお許しがあるのでしたら歓迎しますわ」
目を丸くして驚かれてますがうちは派閥関係なく、見学者は歓迎しますわ。
ビアードの騎士の実力をご紹介しますわ。うちには見られて困るものもありません。
「え?いいんですか?」
「はい」
事情を聞いてほしいのか縋るような視線を向けられてます。あまり興味はありませんが後輩ですし、私は生徒会役員でもあります。
「ご相談があるのでしたらお聞きします。他言は致しません」
アリス様が嬉しそうに笑いました。お姉様より可愛いです。
「好きな殿方がいます。その方が親しい令嬢はビアード様です。どうして仲良くなったんですか!?私は避けられてるんです」
あまりの勢いに引きそうになるのを、抑えて平静を装います。
「どなたでしょう?」
「ノア・グランド様です」
サイラス様の弟君で訓練好きな後輩です。ただ残念ながら親しくはありません。
「私は兄との訓練の連絡係をしているだけです」
「どうすればビアード様みたいにお話できるようになれますか!?」
必死な様子に生前も同じようなことがあったことを思い出しました。アリス様はノア様を追いかけてましたわ・・。
「ノア様は訓練が大好きです。煩わしいことが嫌で1年3組に入ったそうです。授業中に兵法の本を読んでますね。3組は宿題が少なくていいと満足されてます」
アリス様が固まる気持ちはわかります。上位貴族が3組なんて、許す家はほとんどないと思います。私も1組以外の選択肢は与えてもらえませんでした。
「グランド伯爵家は平民の騎士を重用しており、貴族の選民意識が薄いです。貴賎関係なく付き合うことを好まれる家です。ノア様は平民のご友人と楽しそうに過ごされてます」
「どうして、平民なんか・・」
マートン侯爵家は特に選民意識が強く茫然とするアリス様の言いたいことはわかります。貴族は選民意識が強く、グランド伯爵家のような考えを持つ貴族は少数派。マートン侯爵家のように政治に関わる貴族は特に少ないです。ルーン公爵家は能力主義ですが表向きは名家には気を遣ってますよ。上位の家ほど貴族と平民の違いや身分について厳しく教育されます。ビアード公爵家は武門貴族なので違いますが領民達の命を背負って生きることや命の価値の違いを教えられました。ルーン公爵家とは異なる考え方ですが家によって役割が異なるので当然です。
もしグランド伯爵家に嫁ぎたいなら意識を変えないといけません。
「私達貴族は平民を庇護します。ただ平民に支えられて生活をしています。お互いに支え合って生きてますわ。難しいかもしれませんが、平民ではなく一人の人としてお付き合いできたら・・・。マートン様、お勉強は得意ですか?」
「はい」
名案を思いつきましたわ。言葉で説得するよりも行動しましょう。体に教え込ませるのがビアードですもの。
「アリス様とお呼びしてもいいですか?」
「はい」
「アリス様、お出かけしましょう。今だけはマートンの名前を忘れてください」
私は困惑しているアリス様を連れて1年3組に向かいました。定期的に様子を見に行ってるので生徒達に警戒されることはありません。
「レティシア様!!」
「今日はお時間あるんですか!?」
嬉しそうな顔で寄ってくる後輩達に笑みがこぼれます。
「はい。今日はお友達も一緒です。アリス様です。お勉強が得意なのでお連れしました」
「すごい!!教えてくれる!?」
「ええ。では今日もはじめましょう」
休養日の勉強会だけでは足りずに勉強に苦労する生徒は多いようです。放課後に教室で宿題をすませてから帰る生徒が多いので時々教えにきてます。見回りの時に通りかかると声を掛けられることもあります。その時はマナを置いていきます。マナは勉強もできる優秀な侍女ですので。
戸惑うアリス様に笑顔で圧力をかけて、手伝ってもらいました。アリス様は素直な反応を示す生徒達に目を丸くしています。
お勉強が一段落したので、お菓子を配って休憩します。アリス様は戸惑いながらもお話されてます。純粋な好意を向けられるのは心が温かくなります。貴族とのやりとりでは中々味わえない体験です。アリス様達の様子を眺めながら次の作戦を考えました。
次回はアリス様に訓練室の開放日に会いにきてもらうように頼みました。
***
訓練室の開放日です。私はフィルに頼んでノア様と3組の生徒達の訓練をしてもらっています。フィルも強いのでノア様の憧れの騎士の一人です。
アリス様の手を引いてフィル達の近くの木の後ろに隠れて訓練の様子を見守ります。
「アリス様、訓練に参加しているのは、ほとんどが下位貴族と平民です。ノア様が肩を組んだロンは平民です。もしもグランド伯爵家に嫁ぎたいならこの当たり前の光景に慣れないといけません」
アリス様が静かに見てます。
そろそろ訓練も休憩に入りますね。
アリス様にお菓子の詰まったバスケットを渡し腕を引いてフィル達に近づきます。
「レティシア様!!」
「レティシアだ」
私に気付いた後輩の声で視線が集まったので礼をします。
「お疲れ様です。差し入れを持ってきました。アリス様から受け取ってくださいませ」
生徒達がアリス様のもとに駆け寄っていきます。
「誰?」
「アリス・マートン様です」
「バカか」
近寄ってきたフィルに苦笑されてます。まさか嫌われているクラスメイトの妹と一緒にいるとは思いませんよね。
「先輩として後輩に頼られたら放っておけません。それにお姉様より言葉が通じますわ。ロキをありがとう」
「ロキ、すごいな。才能あるよ。教えるのが楽しい」
手招きするとロキがきたので、お菓子を渡します。
「どうぞ。食べてください」
「はい」
「俺は?」
別に用意したフィルの分を渡すと食べ始めました。
「少し混ざっていくか?」
「制服ですから」
「また今度な」
フィルが訓練に戻っていくのでロキの頭を撫でて送り出します。
アリス様が近づいてきて不思議な顔をしてます。
「アリス様、大丈夫ですか?」
後輩達の勢いに驚いたんでしょうか・・。
「レティシア様、私は初めてノア様にお菓子を受け取っていただきました。迷惑な視線も向けられませんでした」
嬉しそうに笑ったので心配しなくて良さそうですね。
迷惑な視線を向けられてたんですか!?
「私は頑張りますわ。また相談にのってください」
「貴方のお姉様が怒りますわ」
「お姉様はいつも怒ってますから気にしないでください」
「あら・・。わかりました」
上機嫌で足早に去っていくアリス様を見送りました。マートン侯爵家のことはよくわかりません。
アリス様の恋が上手くいくことを祈りましょう。まさか数日後にまた相談に来られるとは思いませんでした。アリス様には先触れの習慣がないようです。
「レオ様、王宮で令嬢に会うことはありますか?」
「見かけても声はかけない」
レオ様は人見知りが激しいから仕方ありません。
材料を測っているレオ様から無関心な声が聞こえてきました。
「幼い頃に緊張した令嬢に声をかけたことは?」
「離宮に迷い込んだ令嬢がいたな。」
「そのお話を教えてください」
「真っ青な顔だったから毒でも盛られたかと話を聞いたな。離宮で何かあると困るから。初めて父上の前に一人で立つって聞いて、父上は怖くないと話しただけだな。」
確かに国王陛下は穏やかな方なので怖くありません。
確信しましたわ。エイミー様の初恋相手はレオ様です。ただ残念ながらエイミー様の思い出とは違ってました。
2度目の人生ではレオ様はエイミー様と結ばれました。せっかくなのでエイミー様の初恋の応援をしましょう。リール公爵家は政治の力は持たないので、レオ様の婚姻相手としては可能性はありますわ。
「レオ様、楽器を覚えませんか?今度一緒に演奏しましょう」
レオ様の視線が材料から外れ私に向きました。興味を引かれたみたいです。
「楽器?」
「サラ様に聴かせてさしあげたら、喜ばれると思いますよ。」
「本当か?」
無感情な声ではなくなりました。レオ様は興味のあることとないことの差が激しいんです。興味がなければ、手を出しません。ただ興味があることは徹底的に極めます。悲しいことに料理の腕も私より上です。
「はい。うちの両親も私の演奏を喜んでくださいます。厳しいですが音楽の教養深いお友達を紹介しますわ」
「大丈夫なのか?」
レオ様は自身の立場をよくわかってます。自分と関わったことで迷惑がかからないかを。私も自分の立場はわかってますのでうまく立ち回るつもりです。ただ王家と関わりたくないので、親しいことは周囲に話す気はありません。今の段階では・・・。
「念の為変装してください。演奏室は人の目がありますから。楽しみですわ。エイベルのバイオリンをお貸ししますわ。気に入ったら新しいものを探しにいきましょう」
「母上が喜ばれるか・・」
レオ様はサラ様が喜ぶことが一番お好きです。今世のサラ様はお体が弱いようで定期的に水の魔石を渡しております。王宮では二人だけの生活のようです。視察の際もレオ様に王家の侍女はついていませんでした。不便な生活を送っている気がしますが私にできることはありません。
「レティシア、ナイフを置け。振り回すな。」
エイベルの声に自身の持っているナイフを振り回していることに気付きました。うっかりレオ様にナイフを向けていました。王宮でしたら大変でした。お話はやめて果物を切るのに集中しましょう。
***
エイミー様にバイオリン指導について相談しました。
名乗れないけど、バイオリンを習いたい生徒がいると話すと笑顔で了承してくれた。
音楽に名前は必要なく意欲さえあればいいのよと朗らかに笑う姿は素敵でしたわ。
演奏室でレオ様を見たエイミー様は見惚れてました。髪と瞳の色を変えればレオ様であることが誰にも見つからないことが不思議でたまりません。
レオ様は天才でした。
エイミー様の指導を受け、すぐに曲を弾けるようになりました。エイミー様の目が獲物を捕らえる目に変わりました。これから厳しい指導が始まるでしょう。
ただ厳しい指導もレオ様は楽しそうに受けてました。レオ様の打たれ強さに私は目を丸くしました。エイベルさえも目が死んでいたのに・・・。
二人の4度目の練習からはステラに付き添いを代わってもらいました。練習の頻度が多く、全部をお付き合いできるほど私には暇はありませんでした。今世はステラにはお世話になってばかりです。
***
エイベルはビアード公爵家に帰っています。しばらくは公務で学園に戻れないので私がロキを預かりました。自室で仕事をしていると、ノックの音に入室許可を出し、書類から顔をあげると目を丸くしました。
「先触れもなく申しわけありません」
クラスメイトのマートン様の妹君でした。椅子をすすめて、マナにお茶を用意させます。
「お初にお目にかかります。アリス・マートンと申します」
「お会いできて光栄です。レティシア・ビアードです」
アリス様にじっと見られてます。毒の心配をされてるんでしょうか。
先にお茶とお菓子に口をつけました。私はどんな嫌いな方でも毒を盛ったりしませんわ。
「私をビアード領に招待していただけませんか?」
沈黙の後に恐る恐る口に出された言葉に驚きました。
「ご両親のお許しがあるのでしたら歓迎しますわ」
目を丸くして驚かれてますがうちは派閥関係なく、見学者は歓迎しますわ。
ビアードの騎士の実力をご紹介しますわ。うちには見られて困るものもありません。
「え?いいんですか?」
「はい」
事情を聞いてほしいのか縋るような視線を向けられてます。あまり興味はありませんが後輩ですし、私は生徒会役員でもあります。
「ご相談があるのでしたらお聞きします。他言は致しません」
アリス様が嬉しそうに笑いました。お姉様より可愛いです。
「好きな殿方がいます。その方が親しい令嬢はビアード様です。どうして仲良くなったんですか!?私は避けられてるんです」
あまりの勢いに引きそうになるのを、抑えて平静を装います。
「どなたでしょう?」
「ノア・グランド様です」
サイラス様の弟君で訓練好きな後輩です。ただ残念ながら親しくはありません。
「私は兄との訓練の連絡係をしているだけです」
「どうすればビアード様みたいにお話できるようになれますか!?」
必死な様子に生前も同じようなことがあったことを思い出しました。アリス様はノア様を追いかけてましたわ・・。
「ノア様は訓練が大好きです。煩わしいことが嫌で1年3組に入ったそうです。授業中に兵法の本を読んでますね。3組は宿題が少なくていいと満足されてます」
アリス様が固まる気持ちはわかります。上位貴族が3組なんて、許す家はほとんどないと思います。私も1組以外の選択肢は与えてもらえませんでした。
「グランド伯爵家は平民の騎士を重用しており、貴族の選民意識が薄いです。貴賎関係なく付き合うことを好まれる家です。ノア様は平民のご友人と楽しそうに過ごされてます」
「どうして、平民なんか・・」
マートン侯爵家は特に選民意識が強く茫然とするアリス様の言いたいことはわかります。貴族は選民意識が強く、グランド伯爵家のような考えを持つ貴族は少数派。マートン侯爵家のように政治に関わる貴族は特に少ないです。ルーン公爵家は能力主義ですが表向きは名家には気を遣ってますよ。上位の家ほど貴族と平民の違いや身分について厳しく教育されます。ビアード公爵家は武門貴族なので違いますが領民達の命を背負って生きることや命の価値の違いを教えられました。ルーン公爵家とは異なる考え方ですが家によって役割が異なるので当然です。
もしグランド伯爵家に嫁ぎたいなら意識を変えないといけません。
「私達貴族は平民を庇護します。ただ平民に支えられて生活をしています。お互いに支え合って生きてますわ。難しいかもしれませんが、平民ではなく一人の人としてお付き合いできたら・・・。マートン様、お勉強は得意ですか?」
「はい」
名案を思いつきましたわ。言葉で説得するよりも行動しましょう。体に教え込ませるのがビアードですもの。
「アリス様とお呼びしてもいいですか?」
「はい」
「アリス様、お出かけしましょう。今だけはマートンの名前を忘れてください」
私は困惑しているアリス様を連れて1年3組に向かいました。定期的に様子を見に行ってるので生徒達に警戒されることはありません。
「レティシア様!!」
「今日はお時間あるんですか!?」
嬉しそうな顔で寄ってくる後輩達に笑みがこぼれます。
「はい。今日はお友達も一緒です。アリス様です。お勉強が得意なのでお連れしました」
「すごい!!教えてくれる!?」
「ええ。では今日もはじめましょう」
休養日の勉強会だけでは足りずに勉強に苦労する生徒は多いようです。放課後に教室で宿題をすませてから帰る生徒が多いので時々教えにきてます。見回りの時に通りかかると声を掛けられることもあります。その時はマナを置いていきます。マナは勉強もできる優秀な侍女ですので。
戸惑うアリス様に笑顔で圧力をかけて、手伝ってもらいました。アリス様は素直な反応を示す生徒達に目を丸くしています。
お勉強が一段落したので、お菓子を配って休憩します。アリス様は戸惑いながらもお話されてます。純粋な好意を向けられるのは心が温かくなります。貴族とのやりとりでは中々味わえない体験です。アリス様達の様子を眺めながら次の作戦を考えました。
次回はアリス様に訓練室の開放日に会いにきてもらうように頼みました。
***
訓練室の開放日です。私はフィルに頼んでノア様と3組の生徒達の訓練をしてもらっています。フィルも強いのでノア様の憧れの騎士の一人です。
アリス様の手を引いてフィル達の近くの木の後ろに隠れて訓練の様子を見守ります。
「アリス様、訓練に参加しているのは、ほとんどが下位貴族と平民です。ノア様が肩を組んだロンは平民です。もしもグランド伯爵家に嫁ぎたいならこの当たり前の光景に慣れないといけません」
アリス様が静かに見てます。
そろそろ訓練も休憩に入りますね。
アリス様にお菓子の詰まったバスケットを渡し腕を引いてフィル達に近づきます。
「レティシア様!!」
「レティシアだ」
私に気付いた後輩の声で視線が集まったので礼をします。
「お疲れ様です。差し入れを持ってきました。アリス様から受け取ってくださいませ」
生徒達がアリス様のもとに駆け寄っていきます。
「誰?」
「アリス・マートン様です」
「バカか」
近寄ってきたフィルに苦笑されてます。まさか嫌われているクラスメイトの妹と一緒にいるとは思いませんよね。
「先輩として後輩に頼られたら放っておけません。それにお姉様より言葉が通じますわ。ロキをありがとう」
「ロキ、すごいな。才能あるよ。教えるのが楽しい」
手招きするとロキがきたので、お菓子を渡します。
「どうぞ。食べてください」
「はい」
「俺は?」
別に用意したフィルの分を渡すと食べ始めました。
「少し混ざっていくか?」
「制服ですから」
「また今度な」
フィルが訓練に戻っていくのでロキの頭を撫でて送り出します。
アリス様が近づいてきて不思議な顔をしてます。
「アリス様、大丈夫ですか?」
後輩達の勢いに驚いたんでしょうか・・。
「レティシア様、私は初めてノア様にお菓子を受け取っていただきました。迷惑な視線も向けられませんでした」
嬉しそうに笑ったので心配しなくて良さそうですね。
迷惑な視線を向けられてたんですか!?
「私は頑張りますわ。また相談にのってください」
「貴方のお姉様が怒りますわ」
「お姉様はいつも怒ってますから気にしないでください」
「あら・・。わかりました」
上機嫌で足早に去っていくアリス様を見送りました。マートン侯爵家のことはよくわかりません。
アリス様の恋が上手くいくことを祈りましょう。まさか数日後にまた相談に来られるとは思いませんでした。アリス様には先触れの習慣がないようです。
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