追憶令嬢のやり直し

夕鈴

文字の大きさ
87 / 362

兄の苦労日記 21

頭のおかしい女、リアナ・ルメラが入学した。
妹には教えるつもりはなかった。
後輩の面倒を見る妹が会わないようにステラとフィルとアロマが手を回している。

妹は厄介ごとに巻き込まれることが多い。
クロード殿下が妹に支給する魔道具の笛だけ音色を変えた。
妹の笛の音が響いたので、駆けつけるとルメラがマールの腕の中にいる。
座り込んでいる妹は顔や手が傷だらけで頬から血が流れていた。
流れる血をハンカチで止血するが、動かない妹は気づいてない。
茫然としている妹に手を差し出すと力なく笑う。しばらくして妹が手を重ねたので、立ち上がらせた。
マールの胸で泣き叫ぶルメラに視線を向け、しばらくすると周りの生徒達に事情を聞きに妹が動き出した。
ルメラを庇う男子生徒とクロード殿下に不敬を働いたことを責める女生徒の争いを妹が仲裁しようとしたらしい。
妹がふらついたので、支えると意識を失った。
ルメラはマールに任せればいいか。
他の生徒達は言い聞かせて帰らせた。
妹を抱き上げる。保健室に連れていくか。
俺はルメラに関わりたくないし、女に見境ないマールなら大丈夫だろう。
眠っている妹を保健医に任せて生徒会室を目指した。
生徒会室に入るとクロード殿下に視線を向けられた。

「レティシアは?」
「倒れたので保健室にいます。眠っているだけです」
「リオから報告は受けた。ルメラ嬢はレティシアにいじめられていると訴えている。面識があるのか?」

生徒会役員は生徒の模範である。
相応しくなければ処分しないといけないから殿下は生徒会役員の動向を把握したいんだろう。
話したくないけど仕方がない。

「お恥ずかしい話ですが、レティシアとルメラは顔見知りです。レティシアがルメラ男爵領に出かけた時に知り合い、恋した相手を探してほしいと頼まれたレティシアが一時的にビアード領に引き取りました」

周囲から呆れた視線を向けられる。
子供の初恋を叶えるために引き取るなんてありえないよな。

「ビアードとしては親元から離す事に思う所がありましたが、ルメラ本人が譲りませんでした。ルメラの探し人をレティシアは散々手を尽くして探しましたが、見つかりませんでした。しばらくして探し人と再会したルメラはもう会えないと言われたそうです。フラれたのはレティシアの所為と聞くに耐えない酷い言葉を浴びせ、出て行くと言うのでルメラ男爵領まで送り届けました。それからは会っておりません。本人の希望で一時的に侍女として雇っていたので給金を渡してあります。全てにおいて承諾書もありますので、必要でしたらご用意します」

「侍女として役に立ったのか?」

マールの言葉に苦笑するしかなかった。

「レティシアは侍女として育て学園に同行させる予定でしたが職務怠慢でうちとしては許せなかった」
「職務怠慢?」
「レティシアへの不敬だけでなく、嫌な仕事は癇癪を起こし、レティシアに侍女の仕事をさせ、子供と本気で喧嘩をする等両手の数では足りません」
「レティシアにか?」
「あいつはレティシアに茶を淹れさせて自分は当然のように座っているんですよ」

ノックの音に視線を向けると妹が入室して頭を下げた。頬の傷が痛々しい。

「殿下、申しわけありません」

「どうした?」

「見回りの途中で倒れました。」

倒れたことは誰も責めていない。

「報告は聞いている。ルメラ嬢は君にひどいことを言われたそうだが心当たりはあるか?」

妹が悩んでいるので首を横に振った。
妹は酷いことは言っていない。
妹が俺を見て頷いた。

「覚えはありません」

「そうか。今日はもういい。」

不思議そうな顔をして礼をして出て行った。

「身分を貶められ、きつい言葉を浴びせたというのは?」

「ビアード公爵家の侮辱に対しては、厳しい口調で正しましたが酷いことは言っていません。また妹は今日まで彼女が入学していることを知りませんでした」

「殿下、身分を貶めるような発言をレティシアがするとは思いません」
「ビアード嬢は下位貴族と平民に慕われてますもの」
「生徒の保護をいつもしてるもんな」
「厳重注意で様子を見ようか」

妹は信頼されているようだ。殿下の声で解散になった。
やはり妹の拾い物は災厄だった。

「ビアード、大丈夫なのか?」
「近づけたくなかったんだが」
「俺の真の願いを知ってるって言われたんだけど」
「頭がおかしいから。ビアードの破滅とレティシアの死、言い出したらきりがない」

マールが呆れた顔をした。
やはり妹以外はあいつが頭がおかしいことがわかるらしい。

***

「エイベル様、すみません」

フィルが教室に訪ねて来るのは珍しい。

「男爵夫人の死がレティシアの所為って責められ落ち込んでます。俺では無理です」

フィルに手に負えないのは相当だよな。
知られたくなかったが、知ってしまったか・・。
ストームに妹を探しに行かせた。
前ルメラ男爵夫人が亡くなったことは知っていた。
死ぬように仕向けた人物がいたことも。
妹は泉で水を弄んでいた。
声をかけると、顔が歪んでいた。
隣に座って事情を教えることにした。

「バカだよな。ルメラ男爵は助ける気がなかったんだよ。夫人が亡くなった翌日に愛人を本邸に呼んでいた。」
「なんで」

純真な妹には理解できない事象だろう。俺も理解したくない。

「綺麗事ばかりじゃない。これから、お前には理解できない闇がたくさん出て来る。見たくないなら見なくてもいいよ」

妹は泉を見ながらぼんやりしている。
しばらくすると俺に視線を向けた。

「エイベルに押し付けて目を背けるなどしません。強くなります」

明らかに妹は強がっている。
強情な妹をたまには甘やかしてやるか。

「泣きたいなら胸を貸そうか?教室に戻った時はその甘えは捨てろ」

抱きついてきたので背中に手をまわした。
制服が妹の涙で汚れるのは初めてだった。
頭を撫でて落ち着くのを待つか。
両親は妹が治癒魔法を使えることを喜んでいる。
妹は治癒魔法の練習はビアード領でやっている。
救えない命に泣きそうな顔を我慢して家族に別れを告げるように話していたな。
責められても、静かに耐えていた。小さい肩に背負うには重すぎるかもしれないと危惧したこともある。
だが、杞憂だった。
いつの間にか自分で見切りつけて前を向いていた。バカみたいに優しくてお人好し。嫁がせてやったほうが幸せになれるんだろうか。
俺がそれを言えば妹の矜持を傷つける。
ビアード公爵家のために生きると覚悟を決めた妹には侮辱になるか。

「強くなります。絶対に生きて帰ってきてください。目を背けず受け止められるようになります。」

妹の零した言葉に苦笑した。
いつから俺のことになったんだよ。

「ああ。無理はするなよ」
「エイベルは無理しても帰ってこないと駄目です。帰ってくれば治してあげます」
「バカ」

男爵夫人のことで落ち込んでいた妹の思考は別の物に変わったらしい。
もう大丈夫そうだな。すぐ落ち込むのに立ち直りは早い。
ステラの言う災厄が妹に仕掛けてこないといいんだが、期待は薄いよな。
やはり処分しておいたほうが良かっただろうか。斬っても咎められない罪状はいくらでもあるんだけど・・。
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

悪役令嬢と転生ヒロイン

みおな
恋愛
「こ、これは・・・!」  鏡の中の自分の顔に、言葉をなくした。 そこに映っていたのは、青紫色の髪に瞳をした、年齢でいえば十三歳ほどの少女。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』に出てくるヒロイン、そのものの姿だった。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』は、平民の娘であるヒロインが、攻略対象である王太子や宰相の息子たちと交流を深め、彼らと結ばれるのを目指すという極々ありがちな乙女ゲームである。  ありふれた乙女ゲームは、キャラ画に人気が高まり、続編として小説やアニメとなった。  その小説版では、ヒロインは伯爵家の令嬢となり、攻略対象たちには婚約者が現れた。  この時点で、すでに乙女ゲームの枠を超えていると、ファンの間で騒然となった。  改めて、鏡の中の姿を見る。 どう見ても、ヒロインの見た目だ。アニメでもゲームでも見たから間違いない。  問題は、そこではない。 着ているのがどう見ても平民の服ではなく、ドレスだということ。  これはもしかして、小説版に転生?  

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。