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第五十五話 衝撃の事実
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ごきげんよう。レティシア・ビアードです。
ルメラ様が学園の令息達をイチコロしているため令嬢達が非難の視線を向けています。視線だけならいいのですが、嫌がらせ等をしないように気を配ることに疲れます。
今日の社交の予定は終わったので、久々にエイベルとビアード領の森に魔物退治に来ました。
魔物退治も終わったので泉で一人で泳ぎたいと言ったらエイベルが少しだけならと許してくれました。
エイベルはストーム様と一緒に訓練するため空に上がって行きましたわ。エイベルが楽しんでいるので私も泳ぎましょう。
泉に飛び込み、思いっきり泳いで泉から上がると愛しい色を見つけ優しい笑顔に笑みが零れます。
抱き寄せられる腕に甘えて胸を埋めると心が一気に軽くなり、力が抜けます。幸せ過ぎて眠たくなりましたが、起きたらいなくなってしまうので眠りません。
リオの胸から顔をあげると首に小さい傷跡…。
こんな傷、知りません。リオは首に傷を受けるような戦い方をしません。
眠気が一気に醒めて、思考を拒否したくなります。ありえない、間違っていてほしいと願いながらも恐る恐る顔をあげると見つめられる瞳は優しい。
「マール様?」
目を見張って固まる仕草。
否定したかったのに…。
私のリオなら優しく問いかけますわ。違った。
まさか、ずっと間違ってた?
リオが会いにきてくれたわけじゃなかった。
そういえばリオにしては初心なお顔をしていたような‥…。
私のリオはいなかった。泉の魔法でさえなかった。認めたくない現実に視界がぼやけてきました。
「リオじゃない。なんで、どうして」
そっと頬に添えられる手はそっくりなのに違う人。
「ごめん。気づいてた。代わりでいい。俺を利用していい」
違う。声音も、浮かべる顔も、仕草も全て。
生前にリオと離れていた時にリオの面影をもつ冒険者仲間のシオンに同じことを言われました。
私はあの時シオンの手を取れば後悔したことを知っています。
優しさを利用して傷つけることを。優しいシオンとリオを傷つける私を許せなくなったでしょう。
それに欲しいのは本物だけですもの。胸を押して腕から離れ頭を下げます。
「いらない。間違えてごめんなさい」
「シア、愛してる」
私のリオの真似をしないで欲しいです。間違えそうになり耳を塞ぎます。シアは私のリオだけの呼び名です。
「やめてください。惑わさないで」
私のリオじゃない。
わかっているのに愛しい人にそっくりな瞳で見つめられ抱き寄せられると抗えない。耳を塞ぐ手を優しく解かれて、強い瞳で見つめられると記憶の中のリオと重なります。どうか私のリオであってほしいと心が叫びます。
「俺はレティシアが好きだ。君の瞳に俺が映らなくてもいい。君のリオになるよ。俺には君だけだ。だから俺を選んで。ずっと傍にいる。一人で泣かなくていい。いつでも抱きしめるよ。」
やはり違う人です。
私のリオにはなれません。
この腕に縋ってはいけません。
視界が歪んで余計に間違えそうになる。
「ずっと傍にいる」ってリオがいつもくれた言葉が、光景が浮かんで目の前のものと重なる。
ゆっくりと息を吸って目を瞑ります。
リオとの幸せな記憶を思い出し、自分を落ち着かせます。成人している頼もしいリオとの時間を。この記憶があれば寂しくても大丈夫です。
目を開けて笑顔を作ります。リオ・マールに願うのは何度繰り返しても同じでしょう。
「幸せになれない。私は貴方に幸せになってほしい」
「レティシアが俺を選んで、傍にいてくれれば幸せだよ。俺は愛しくてたまらない。想いを返してほしいなんて思わない。」
意味がわかりませんが聞き覚えのある真剣な声は嘘にも冗談にも聞こえません。私は目の前の相手にそこまで想いを向けられる関係性を持っていません。
「私とあなたにはなにもない」
「出会った時から好きだった。知れば知るほど愛しくてたまらなくなった」
「おかしい」
「そうだな。でも自分で制御できないんだ。レティシア以外を妻に迎えることはないと父上達にも話してある。俺は自由気ままな三男だ。俺の幸せを願うなら選んでよ。」
愛しい記憶の中でよく向けられた熱の籠った瞳で見つめ、私の言葉を遮る子供のリオは何を言ってるんでしょう。
マール公爵家三男が未婚なんて正気なんでしょうか?頭がごちゃごちゃしてきました。冷静にならないと、
「わからなくなる」
「いいよ。他の男は許さないけど、君のリオだけは。リオを想う君が好きだ。レティシアがリオを想う以上に俺が愛すよ。」
目の前にいるのは違う人。
リオなら言わない言葉。目を閉じればたくさんの幸せな言葉が聞こえてきます。
目の前にいるリオはきっとこうしてたくさんの令嬢達を落としているんでしょう。数多の令嬢達に向ける気持ちと私の気持ちを一緒にされたくありません。私の心を捧げるのは一人だけですもの。
「ありえません」
「生涯かけて証明してよ。君のリオが迎えにきても返してやるかはわからないけど」
もしもリオが迎えに来てくれるなら帰りたい。どうしてそんな自信のある顔をできるんでしょうか。そういえば、生前のリオ兄様は常に自信満々な所がありましたわ。
「凄い自信ですね」
「甘やかして依存させて離れさせなくする気満々だから」
わかっていましたが私のリオと全然違いました。離れさせないって…。
「私はいつ消えるかわかりません」
「逃がす気はないから」
強気な言葉。
逃すも何も私の意思は関係ありませんわ。フラン王国の貴族、公爵家に生まれた義務の前に当人の意思はあってないようなもの。とくに公爵令嬢は…。
「私はお父様の判断に従います」
「今日から恋人って公言していいか?」
「恋してません」
甘い瞳で見つめられると困ります。
顎を押さえられ強引に口づけられ違う人だと確信しました。リオはこんな強引に口づけません。
「その顔で充分だよ。さっさと婚約許可とってくるから待っててよ」
首を横に振ります。涙も止まって視界も思考もはっきりしました。
「数ある恋人の一人になる気はありません」
私に選ぶ権利はありません。
それに私の心はもう選んでいるので、目の前のリオを選ぶことはありません。ビアード公爵の選んだ方に心は捧げられないので、精一杯仕えるだけです。
「俺に初めて口づけたのはレティシアだよ。君以外に口づけたことはない」
無礼を承知で頬をほんのり染めるリオを睨みます。
「違います。先にしたのはマール様です」
「え?」
「寝ぼけて口づけましたわ」
「嘘、どこで?」
やはり覚えてないんですね。どれだけ慣れてるんでしょうか…。
「書庫で。私を抱き枕にして眠った時です」
「あれって、俺の妄想じゃ・・・」
「私は寝ぼけて令嬢に手を出す方は嫌です」
「責任とるから安心してほしい」
財力のあるマールなら可能ですが私はたくさんの愛人と一緒に生活するなんて嫌です。迷惑すぎる申し出で取引する気もおきませんわ。
「口づけで責任を迫ったりしません」
「俺は既成事実も大歓迎だけど」
「お断りです」
最低ですわ。
リオがニヤリと企む時の笑みを浮かべました。
「シア」
睨むと強引に口づけられ胸を押しても顎と腰にまわる手が強くビクともしません。抗っているとどんどん口づけが深くなり、悔しいけど気持ちが良く段々ぼんやりして力が抜け、
「何してる!?」
目を開けるとリオではなくエイベルがいます。
「レティシア!?マール、覚悟はあるんだろうな!?」
「婿入りするよ。」
「誰が許すか。婚姻前に」
「同意ならいいだろう。ほら、妹の顔見ろよ。俺に惚れてるよ」
「レティシア、好きなのか!?」
首を横に振りました。
私はリオに恋してません。
エイベルがリオと戦ってますが気にしません。
このリオは性格が悪いです。
人を騙すなど最低です。1度目の人生のリオも性格が悪かったですがここまでではありません。迎えにきてくれたエイベルに声を掛けても届かないので私は二人は放っておいて帰りましょう。
***
学園に戻ってきました。
放課後にエイベルに池を借りてもらい、泳がないと約束して一人にしてもらいました。エイベルは近くで訓練してるでしょう。
まさかリオが別人だったなんて思いもしませんでした。リオにそっくりだったのに…。全部リオではなかったんでしょうか?
生前にリオと想いが通じた訓練場の池に足を浸してピチャピチャと音を出します。
いつも傍で支えてくれた愛しい人。
リオ、この世界は優しくあたたかいのに寂しいんです。
夢でも幻でも良かった。
リオに会いたい。優しい風を感じると思い出すのはリオだけです。
「リオ」
呼んでも答えてくれる人はいない。
胸に手を当ててリオを思い出します。心の中に薄れない思い出に頬が緩みます。
「シア」
呼ばれる声と隣に座る人の気配に似ていても私のリオでないことはわかりました。
「その呼び方やめてください」
「胸、貸すよ」
「いりません」
腕を引かれて抱き寄せられました。
「俺の中に君のリオがいるならそれでいいだろう?」
何を言い出すんでしょうか…。腕から逃れようと胸を押しますが力が強くて解けません。
似た体を持つ別人で、私のリオはいません。
「違います。マール様とリオは違うんです。別の人です。触れないでください」
「君のリオと間違えて俺の腕の中にいた時は幸せじゃなかった?」
私のリオと思い込んでいたから幸せでしたわ。
「焦がれて、自分ではどうしようもない気持ちはよくわかるよ。」
抱きしめてくれた腕も撫でてくれた手も優しかった。だから間違えた。
「君が笑うならなんでもしてあげたくなる。俺は君の涙を止められて嬉しかったよ。君が俺の中に見てるリオが別でも。」
自分を見なくていいなんて悲しいことを言わないでほしい。
マール公爵家の三男は選べる立場にいる人です。縁談なんて引く手数多でしょうに。
「貴方を愛してくれる令嬢はたくさんいます。偽りの愛情ではなく」
「レティシアはリオが他の誰かを愛したら諦められた?」
リオが他の誰かを愛したら、想像すると悲しくて胸が痛いです。
でもリオは私には勿体ないほど素敵な人でした。私はリオには誰よりも幸せになってほしい、たとえ傍にいられなくても。
胸にあるリオとの思い出を大事にして生きるでしょう。リオの気持ちを無視して繋ぎ止めるなんてしませんわ。
「諦められません。でもリオの幸せが一番です。だから身を引きましたわ。でも想いは捨てられません」
「俺はリオを好きな君に惹かれた。だから捨てなくていい。リオが恋しいならいつで胸を貸す。いずれ君は婚姻する。それなら似ている俺が一番じゃないか?」
意味がわかりません。
私にとって私のリオ以外なら誰と婚姻しても同じです。
自分を代わりにしていいって。
言葉の意味がわからないんでしょうか…。
「どうして、みんな代わりでいいって言うんですか。そんな悲しいこと」
「欲しい物を手に入れるために少しでも可能性があるなら縋る。俺は君のリオを利用してレティシアを手に入れるつもりだった。だから君が俺の中に別のリオを探すのも歓迎するよ。リオの前の君は格別に可愛いから、愛でられるなんて幸運だよ」
かけられる言葉の意味が全くわかりません。
熱に籠った瞳で見つめられるとわかっていてもおかしくなりそうです。
リオに会いたくて、たまらなくなります。目の前にいるのは同じ色を持つ別人です。私のリオ兄様は会いに来てくれないのでしょうか。どんどん心が沈んでいきます。
「マール様はおかしい」
「俺をおかしくしたのはレティシアだ。リオのことを教えてくれるなら、真似るのも大歓迎だよ。ただ一人で泣くのはやめてほしい。」
子供だからわからないのでしょうか。
真似ても本物ではありません。私のリオが恋しい。
「私は貴方より物凄く年上ですわ」
「そうは見えないけど。」
「私は生前の記憶があります。生前が幸せすぎて、今はこんなに恵まれてるのに寂しくてたまりません。」
「傍にいるよ。まだまだ人生はこれからだ。」
私はレティシア・ビアードになってからリオの手は取らないと決めました。
「マール様は私ではなく殿下のために。今世はリオは殿下に返そうと決めてました」
「貴族の義務は果たすよ。臣下として。ただ俺は不真面目だからレティシアが見張ってないとサボるけど。君のリオは違うの?」
「リオは優秀でいつも殿下に頼りにされてましたわ。リオはいつもたくさんの仕事をして殿下を支えてましたわ。リオ兄様にはできないことはありません」
「俺は君のリオ兄様にはなれないな」
苦笑している様子に同じ言葉を繰り返します。
「ならなくていいです。私のリオ兄様はただ一人です。貴方は貴方らしく好きなように生きてください」
「俺の恋人になってくれる?」
「嫌です」
「君以外と口づけをかわしたことはない。恋人も作ったことはない。手を出した女性はレティシアだけだ。俺は君以外を想ったことはない。証人が欲しいならいくらでもいる。俺を女に見境のない男と思うのやめてくれないか?」
寝ぼけて口づけした方の言葉は信用できません。他には色々ありすぎますが。
「あんなに令嬢と抱き合っていたのに信じてもらえると思うのはどうかと思います」
「ないから。見間違いだよ。」
「私への行為も慣れてますわ」
「それはレティシアの所為だよ。何度抱き合って口づけたか・・・。」
間違ったのは申しわけないと思います。でも言いたいことがあります。
「止めてくれれば良かったんです。貴方の力なら引き離せました」
「見惚れて動けなかったんだよ。それに役得だったし。」
令嬢なら誰でも良かったんでしょう。気分が上がりませんが心が落ち着いてきました。似ているだけの別人です。
「私は人気のある殿方とは関わる気はありません。他をあたってください」
「令嬢に嫌われようとする俺を邪魔したのは君だろうが。断れば贈り物をかわりに押し付けるし、俺の魔石を令嬢に贈るし、素っ気なくすると嗜めるし」
不満そうですが自業自得ですわ。
リオがファンの令嬢達とうまくいくように協力しましたよ。私も関わりたくなかったですよ。誤解させるような行動をしたリオの所為で手を回すしかなかったんです。
「貴方が私に付き纏うからです。迷惑ですわ。目をつけられて、エイベルが女嫌いになったら許しませんわ。」
「は?」
訳のわからないという顔をするリオを睨みます。
リオの所為でビアード公爵家の危機に陥るところでした。
「ビアード公爵が未婚なんて許されません」
「なんでビアードが女嫌いになるんだよ!?」
「令嬢達の嫌がらせを見たエイベルはきっと令嬢嫌いになりますわ。なんのためにずっと手を回してきたのか・・」
「ずっと俺を避けてたのはビアードのため?」
「当然ですわ。貴方のファンを見てエイベルが令嬢嫌いになるなんて恐ろしい。それに私も令嬢の相手をするのは面倒ですわ。今後も関わらないでください。いい加減に離してください」
「態度が違いすぎないか」
不敬とはわかってますよ。でも悪いのはリオです。ここまではっきり言えば伝わりますよね。
胸を押しても腕から解放されません。いい加減にしてほしいんですが。
「レティシア、そろそろ、は!?」
いいところに迎えに来てくれましたわ。久しぶりにエイベルが頼もしく見えます。
「エイベル、私はお相手したくないのでお願いします。先に戻ります」
リオの腕からやっと解放されました。私の話を聞かないので相手にするのはやめましょう。私はリオの手を取る気はありません。
エイベルに任せて寮に帰ってディーネに癒されましょう。リオがいなくてもディーネは一緒です。
お願いですからもう関わらないでください。ここまではっきり言ったので伝わる事を祈るばかりです。私の今世の人生にリオは不要ですわ。後ろから聞こえる音は気にせず足早に寮を目指しました。
ルメラ様が学園の令息達をイチコロしているため令嬢達が非難の視線を向けています。視線だけならいいのですが、嫌がらせ等をしないように気を配ることに疲れます。
今日の社交の予定は終わったので、久々にエイベルとビアード領の森に魔物退治に来ました。
魔物退治も終わったので泉で一人で泳ぎたいと言ったらエイベルが少しだけならと許してくれました。
エイベルはストーム様と一緒に訓練するため空に上がって行きましたわ。エイベルが楽しんでいるので私も泳ぎましょう。
泉に飛び込み、思いっきり泳いで泉から上がると愛しい色を見つけ優しい笑顔に笑みが零れます。
抱き寄せられる腕に甘えて胸を埋めると心が一気に軽くなり、力が抜けます。幸せ過ぎて眠たくなりましたが、起きたらいなくなってしまうので眠りません。
リオの胸から顔をあげると首に小さい傷跡…。
こんな傷、知りません。リオは首に傷を受けるような戦い方をしません。
眠気が一気に醒めて、思考を拒否したくなります。ありえない、間違っていてほしいと願いながらも恐る恐る顔をあげると見つめられる瞳は優しい。
「マール様?」
目を見張って固まる仕草。
否定したかったのに…。
私のリオなら優しく問いかけますわ。違った。
まさか、ずっと間違ってた?
リオが会いにきてくれたわけじゃなかった。
そういえばリオにしては初心なお顔をしていたような‥…。
私のリオはいなかった。泉の魔法でさえなかった。認めたくない現実に視界がぼやけてきました。
「リオじゃない。なんで、どうして」
そっと頬に添えられる手はそっくりなのに違う人。
「ごめん。気づいてた。代わりでいい。俺を利用していい」
違う。声音も、浮かべる顔も、仕草も全て。
生前にリオと離れていた時にリオの面影をもつ冒険者仲間のシオンに同じことを言われました。
私はあの時シオンの手を取れば後悔したことを知っています。
優しさを利用して傷つけることを。優しいシオンとリオを傷つける私を許せなくなったでしょう。
それに欲しいのは本物だけですもの。胸を押して腕から離れ頭を下げます。
「いらない。間違えてごめんなさい」
「シア、愛してる」
私のリオの真似をしないで欲しいです。間違えそうになり耳を塞ぎます。シアは私のリオだけの呼び名です。
「やめてください。惑わさないで」
私のリオじゃない。
わかっているのに愛しい人にそっくりな瞳で見つめられ抱き寄せられると抗えない。耳を塞ぐ手を優しく解かれて、強い瞳で見つめられると記憶の中のリオと重なります。どうか私のリオであってほしいと心が叫びます。
「俺はレティシアが好きだ。君の瞳に俺が映らなくてもいい。君のリオになるよ。俺には君だけだ。だから俺を選んで。ずっと傍にいる。一人で泣かなくていい。いつでも抱きしめるよ。」
やはり違う人です。
私のリオにはなれません。
この腕に縋ってはいけません。
視界が歪んで余計に間違えそうになる。
「ずっと傍にいる」ってリオがいつもくれた言葉が、光景が浮かんで目の前のものと重なる。
ゆっくりと息を吸って目を瞑ります。
リオとの幸せな記憶を思い出し、自分を落ち着かせます。成人している頼もしいリオとの時間を。この記憶があれば寂しくても大丈夫です。
目を開けて笑顔を作ります。リオ・マールに願うのは何度繰り返しても同じでしょう。
「幸せになれない。私は貴方に幸せになってほしい」
「レティシアが俺を選んで、傍にいてくれれば幸せだよ。俺は愛しくてたまらない。想いを返してほしいなんて思わない。」
意味がわかりませんが聞き覚えのある真剣な声は嘘にも冗談にも聞こえません。私は目の前の相手にそこまで想いを向けられる関係性を持っていません。
「私とあなたにはなにもない」
「出会った時から好きだった。知れば知るほど愛しくてたまらなくなった」
「おかしい」
「そうだな。でも自分で制御できないんだ。レティシア以外を妻に迎えることはないと父上達にも話してある。俺は自由気ままな三男だ。俺の幸せを願うなら選んでよ。」
愛しい記憶の中でよく向けられた熱の籠った瞳で見つめ、私の言葉を遮る子供のリオは何を言ってるんでしょう。
マール公爵家三男が未婚なんて正気なんでしょうか?頭がごちゃごちゃしてきました。冷静にならないと、
「わからなくなる」
「いいよ。他の男は許さないけど、君のリオだけは。リオを想う君が好きだ。レティシアがリオを想う以上に俺が愛すよ。」
目の前にいるのは違う人。
リオなら言わない言葉。目を閉じればたくさんの幸せな言葉が聞こえてきます。
目の前にいるリオはきっとこうしてたくさんの令嬢達を落としているんでしょう。数多の令嬢達に向ける気持ちと私の気持ちを一緒にされたくありません。私の心を捧げるのは一人だけですもの。
「ありえません」
「生涯かけて証明してよ。君のリオが迎えにきても返してやるかはわからないけど」
もしもリオが迎えに来てくれるなら帰りたい。どうしてそんな自信のある顔をできるんでしょうか。そういえば、生前のリオ兄様は常に自信満々な所がありましたわ。
「凄い自信ですね」
「甘やかして依存させて離れさせなくする気満々だから」
わかっていましたが私のリオと全然違いました。離れさせないって…。
「私はいつ消えるかわかりません」
「逃がす気はないから」
強気な言葉。
逃すも何も私の意思は関係ありませんわ。フラン王国の貴族、公爵家に生まれた義務の前に当人の意思はあってないようなもの。とくに公爵令嬢は…。
「私はお父様の判断に従います」
「今日から恋人って公言していいか?」
「恋してません」
甘い瞳で見つめられると困ります。
顎を押さえられ強引に口づけられ違う人だと確信しました。リオはこんな強引に口づけません。
「その顔で充分だよ。さっさと婚約許可とってくるから待っててよ」
首を横に振ります。涙も止まって視界も思考もはっきりしました。
「数ある恋人の一人になる気はありません」
私に選ぶ権利はありません。
それに私の心はもう選んでいるので、目の前のリオを選ぶことはありません。ビアード公爵の選んだ方に心は捧げられないので、精一杯仕えるだけです。
「俺に初めて口づけたのはレティシアだよ。君以外に口づけたことはない」
無礼を承知で頬をほんのり染めるリオを睨みます。
「違います。先にしたのはマール様です」
「え?」
「寝ぼけて口づけましたわ」
「嘘、どこで?」
やはり覚えてないんですね。どれだけ慣れてるんでしょうか…。
「書庫で。私を抱き枕にして眠った時です」
「あれって、俺の妄想じゃ・・・」
「私は寝ぼけて令嬢に手を出す方は嫌です」
「責任とるから安心してほしい」
財力のあるマールなら可能ですが私はたくさんの愛人と一緒に生活するなんて嫌です。迷惑すぎる申し出で取引する気もおきませんわ。
「口づけで責任を迫ったりしません」
「俺は既成事実も大歓迎だけど」
「お断りです」
最低ですわ。
リオがニヤリと企む時の笑みを浮かべました。
「シア」
睨むと強引に口づけられ胸を押しても顎と腰にまわる手が強くビクともしません。抗っているとどんどん口づけが深くなり、悔しいけど気持ちが良く段々ぼんやりして力が抜け、
「何してる!?」
目を開けるとリオではなくエイベルがいます。
「レティシア!?マール、覚悟はあるんだろうな!?」
「婿入りするよ。」
「誰が許すか。婚姻前に」
「同意ならいいだろう。ほら、妹の顔見ろよ。俺に惚れてるよ」
「レティシア、好きなのか!?」
首を横に振りました。
私はリオに恋してません。
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リオ、この世界は優しくあたたかいのに寂しいんです。
夢でも幻でも良かった。
リオに会いたい。優しい風を感じると思い出すのはリオだけです。
「リオ」
呼んでも答えてくれる人はいない。
胸に手を当ててリオを思い出します。心の中に薄れない思い出に頬が緩みます。
「シア」
呼ばれる声と隣に座る人の気配に似ていても私のリオでないことはわかりました。
「その呼び方やめてください」
「胸、貸すよ」
「いりません」
腕を引かれて抱き寄せられました。
「俺の中に君のリオがいるならそれでいいだろう?」
何を言い出すんでしょうか…。腕から逃れようと胸を押しますが力が強くて解けません。
似た体を持つ別人で、私のリオはいません。
「違います。マール様とリオは違うんです。別の人です。触れないでください」
「君のリオと間違えて俺の腕の中にいた時は幸せじゃなかった?」
私のリオと思い込んでいたから幸せでしたわ。
「焦がれて、自分ではどうしようもない気持ちはよくわかるよ。」
抱きしめてくれた腕も撫でてくれた手も優しかった。だから間違えた。
「君が笑うならなんでもしてあげたくなる。俺は君の涙を止められて嬉しかったよ。君が俺の中に見てるリオが別でも。」
自分を見なくていいなんて悲しいことを言わないでほしい。
マール公爵家の三男は選べる立場にいる人です。縁談なんて引く手数多でしょうに。
「貴方を愛してくれる令嬢はたくさんいます。偽りの愛情ではなく」
「レティシアはリオが他の誰かを愛したら諦められた?」
リオが他の誰かを愛したら、想像すると悲しくて胸が痛いです。
でもリオは私には勿体ないほど素敵な人でした。私はリオには誰よりも幸せになってほしい、たとえ傍にいられなくても。
胸にあるリオとの思い出を大事にして生きるでしょう。リオの気持ちを無視して繋ぎ止めるなんてしませんわ。
「諦められません。でもリオの幸せが一番です。だから身を引きましたわ。でも想いは捨てられません」
「俺はリオを好きな君に惹かれた。だから捨てなくていい。リオが恋しいならいつで胸を貸す。いずれ君は婚姻する。それなら似ている俺が一番じゃないか?」
意味がわかりません。
私にとって私のリオ以外なら誰と婚姻しても同じです。
自分を代わりにしていいって。
言葉の意味がわからないんでしょうか…。
「どうして、みんな代わりでいいって言うんですか。そんな悲しいこと」
「欲しい物を手に入れるために少しでも可能性があるなら縋る。俺は君のリオを利用してレティシアを手に入れるつもりだった。だから君が俺の中に別のリオを探すのも歓迎するよ。リオの前の君は格別に可愛いから、愛でられるなんて幸運だよ」
かけられる言葉の意味が全くわかりません。
熱に籠った瞳で見つめられるとわかっていてもおかしくなりそうです。
リオに会いたくて、たまらなくなります。目の前にいるのは同じ色を持つ別人です。私のリオ兄様は会いに来てくれないのでしょうか。どんどん心が沈んでいきます。
「マール様はおかしい」
「俺をおかしくしたのはレティシアだ。リオのことを教えてくれるなら、真似るのも大歓迎だよ。ただ一人で泣くのはやめてほしい。」
子供だからわからないのでしょうか。
真似ても本物ではありません。私のリオが恋しい。
「私は貴方より物凄く年上ですわ」
「そうは見えないけど。」
「私は生前の記憶があります。生前が幸せすぎて、今はこんなに恵まれてるのに寂しくてたまりません。」
「傍にいるよ。まだまだ人生はこれからだ。」
私はレティシア・ビアードになってからリオの手は取らないと決めました。
「マール様は私ではなく殿下のために。今世はリオは殿下に返そうと決めてました」
「貴族の義務は果たすよ。臣下として。ただ俺は不真面目だからレティシアが見張ってないとサボるけど。君のリオは違うの?」
「リオは優秀でいつも殿下に頼りにされてましたわ。リオはいつもたくさんの仕事をして殿下を支えてましたわ。リオ兄様にはできないことはありません」
「俺は君のリオ兄様にはなれないな」
苦笑している様子に同じ言葉を繰り返します。
「ならなくていいです。私のリオ兄様はただ一人です。貴方は貴方らしく好きなように生きてください」
「俺の恋人になってくれる?」
「嫌です」
「君以外と口づけをかわしたことはない。恋人も作ったことはない。手を出した女性はレティシアだけだ。俺は君以外を想ったことはない。証人が欲しいならいくらでもいる。俺を女に見境のない男と思うのやめてくれないか?」
寝ぼけて口づけした方の言葉は信用できません。他には色々ありすぎますが。
「あんなに令嬢と抱き合っていたのに信じてもらえると思うのはどうかと思います」
「ないから。見間違いだよ。」
「私への行為も慣れてますわ」
「それはレティシアの所為だよ。何度抱き合って口づけたか・・・。」
間違ったのは申しわけないと思います。でも言いたいことがあります。
「止めてくれれば良かったんです。貴方の力なら引き離せました」
「見惚れて動けなかったんだよ。それに役得だったし。」
令嬢なら誰でも良かったんでしょう。気分が上がりませんが心が落ち着いてきました。似ているだけの別人です。
「私は人気のある殿方とは関わる気はありません。他をあたってください」
「令嬢に嫌われようとする俺を邪魔したのは君だろうが。断れば贈り物をかわりに押し付けるし、俺の魔石を令嬢に贈るし、素っ気なくすると嗜めるし」
不満そうですが自業自得ですわ。
リオがファンの令嬢達とうまくいくように協力しましたよ。私も関わりたくなかったですよ。誤解させるような行動をしたリオの所為で手を回すしかなかったんです。
「貴方が私に付き纏うからです。迷惑ですわ。目をつけられて、エイベルが女嫌いになったら許しませんわ。」
「は?」
訳のわからないという顔をするリオを睨みます。
リオの所為でビアード公爵家の危機に陥るところでした。
「ビアード公爵が未婚なんて許されません」
「なんでビアードが女嫌いになるんだよ!?」
「令嬢達の嫌がらせを見たエイベルはきっと令嬢嫌いになりますわ。なんのためにずっと手を回してきたのか・・」
「ずっと俺を避けてたのはビアードのため?」
「当然ですわ。貴方のファンを見てエイベルが令嬢嫌いになるなんて恐ろしい。それに私も令嬢の相手をするのは面倒ですわ。今後も関わらないでください。いい加減に離してください」
「態度が違いすぎないか」
不敬とはわかってますよ。でも悪いのはリオです。ここまではっきり言えば伝わりますよね。
胸を押しても腕から解放されません。いい加減にしてほしいんですが。
「レティシア、そろそろ、は!?」
いいところに迎えに来てくれましたわ。久しぶりにエイベルが頼もしく見えます。
「エイベル、私はお相手したくないのでお願いします。先に戻ります」
リオの腕からやっと解放されました。私の話を聞かないので相手にするのはやめましょう。私はリオの手を取る気はありません。
エイベルに任せて寮に帰ってディーネに癒されましょう。リオがいなくてもディーネは一緒です。
お願いですからもう関わらないでください。ここまではっきり言ったので伝わる事を祈るばかりです。私の今世の人生にリオは不要ですわ。後ろから聞こえる音は気にせず足早に寮を目指しました。
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ふふっ、これからが楽しみだわ。
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