121 / 286
元夫の苦難 15
しおりを挟む
俺は母上と一緒にビアード公爵邸を訪ねた。
ビアード公爵夫人は叔母上と同じ学生時代を過ごしたが、そこまでの付き合いはないらしい。
母上は同じ武門貴族の出身のため、ビアード公爵夫人とは上手く付き合っているらしい。
ビアード公爵夫人は母上と共に部屋に入った俺を静かに見つめてお茶に同席させたいと願う母上の願いを笑顔で了承してくれた。
お茶を飲みながら母上達の情報交換が終わるのを待っていると静かな瞳を向けられた。
「リオは私に用があるのかしら?」
ビアード公爵夫人のことはサイラスに聞いた。レティシア達のような真っ直ぐな人間を好むことを。
頭を下げた。
「レティシアが好きです。いずれビアード公爵にも勝てるように励みます。婿候補の一人に考えていただけませんか」
「頭をあげて。まさか頭を下げられるとは思わなかったわ。レティシアはなんて?」
小さい笑い声を耳で拾い、顔を上げると静かに見つめられていた。
「ビアード公爵の指示に従うと」
「あの子はそうよね。全てはビアード公爵家のため。貴方を婿にもらっても家の利がないわ」
俺は真っ直ぐな人間ではない。努力してもなれないだろう。
だからこそ役に立てる自信はある。ビアードにとってマール公爵家は価値がないから、俺の価値を示して認められるしかない。
「エイベルもレティシアも真っすぐで純粋です。俺は二人ほど誠実でもありませんが謀は得意です。二人の苦手を補い、常に当主夫婦の下で支え」
「リオ、正直に言いなさい」
母上から駆け引きはやめろと忠告された。
「好きだから側にいたい。それにレティシアが心配です。領民に心を傾けて自分を顧みない彼女が。ビアード公爵家が治癒魔導士の育成に励みいずれその指揮をレティシアが取ります。領民のためなら命も投げ出すでしょう。今でさえ、救えなかったことを責められても傷ついてるのを隠して強がって民の心が楽になるために必要だからって無理して笑います。エイベルが言うほど彼女の心は強くなく、隠すことが上手いだけです。これからもたくさん傷ついても隠して笑う彼女を支えたい。できるかぎり傷つかないように手を尽くしたい。彼女がビアード領の繁栄を望むなら力を尽くします。俺はいつも人の幸せを願うレティシアにこそ幸せになってほしいんです」
「マール公爵夫人、リオは社交や謀は本当に得意なの?」
俺の言葉はレティシアを頼りないと言っている。
どう考えても夫人に気に入られたい奴が言う言葉ではない。それでもビアード公爵夫人を知る母上の言葉は逆らわない方がいい。
「外交官にする予定でしたから、きちんと教育しています。ただ守りたいものを見つけたら揺るがないターナーの血が濃いようなので諦めましたわ。レティシアを嫁にくださるなら歓迎しますわ」
「レティシアはビアードに必要よ。たくさんの求婚理由の中で、あの子を弱いと聞くのは初めて。一生守りますとは言わないのね。騎士としてではなく、領主のほうに目をつけるねぇ。自分の使い方をわかってるようね。エイベルは視野が狭く、レティシアは理想が高いから、着眼点は悪くないわ。あんなに避けられてたのに、今は――。レティのタイプではないけど」
ビアード公爵夫人の冷たい視線がなくなった。
「いずれは頼られるように努力します」
「根気強さは認めるわ。レティが望むなら旦那様に口添えしましょう。私にお願いがあるんでしょう?」
一応は合格をもらったのか?
まだ見極められてる途中だから気を抜けない。
「護衛は用意します。レティシアをビアード領以外への外出許可を」
「どこに?」
「王都のサーカスを見せてあげたいんです。チケット見せたら目を輝かせてたんで・・・。他にも行きたい場所があるそうですが、ビアード領からは出られないって」
「あの子、一言も」
やはり誰にも話してなかったのか。
夫人が戸惑う顔で俺を見ている。
「エイベルが忙しいから言えないみたいです。エイベルは時間が空くと訓練です。彼女はエイベルの訓練時間を最優先に考えてますから」
「護衛をつけるなら構わないわ。もしも何かあれば旦那様が黙ってないわ」
「気をつけます」
「時々通わせてもいいですか?愚息はレティシアとの婚姻を認めてくれないなら、廃嫡でいい、ビアード家門の入団試験受けるって迷いなく言うんですもの。時々、レティシアをうちに貸してくだされば愚息は好きに使ってくださって構いません。領主教育は終えていますが、うちとは勝手が違うでしょう」
「成人しても気持ちが変わらないならいらっしゃい。婚約者にするかはわからないけど。私に婚約者にしてほしいと頼まなかったことに免じてレティの予定を流してあげるわ」
「ありがとうございます」
その後はビアード公爵夫人のレティシアの自慢話に付き合っていると段々不安になった。
レティシアは可愛いし言葉に表せないほど魅力があるのは知っている。
問題なのはレティシアの評価がかなり高い。
幼い頃からビアード領のために動き回っていたのか。夫人の娘自慢のエピソードは危なっかしいものばかりで、幼い令嬢にさせるものか!?と突っ込みをいれたかったが、笑顔で聞き流した。
母上は動揺せず微笑んでいる。母上は叔母上に手をやいていた所為か些細なことでは動揺しない。ビアード公爵夫人の心象はよくしないといけないから聞き役に撤した。
「とりあえず、第一関門突破ね。ここで落とされる者がほとんどみたいよ」
母上、お茶会ではなく試験だと一言教えて欲しかった。
笑っている母上に余計なことは言わない。貴重な味方を手放せない。
「頑張ります。母上、ありがとうございました」
「ビアード公爵夫人はわかりにくいけど、社交がうまいのよ。騙されている夫人達も多いわ。静かに微笑みながら都合の良い方向に自然に働きかける。まだリオだと駆け引きは難しいわ」
さすが化け物揃いの公爵夫人。ルーン公爵夫人とは違う意味での化け物か。
「レティシアの社交の上手さは夫人譲りなんですね」
「タイプが違うわね」
確かにレティシアはビアード公爵夫人とはタイプが違う。相手の懐に入り込み、心を掴む。
後日送られてきたレティシアの予定は1日だけ予定のない日があった。
ビアード公爵夫人に王都のサーカスのチケット数枚と連れ出していいかの確認の手紙を送ると待ち合わせ場所が送られてきた。ありがたいことにセッティングしてくれたらしい。
母上は今のところビアード公爵夫人に気に入られてるわねと笑っている。ビアード公爵夫人の様子だと婚約者候補は複数いるんだろうな。まあいいか。
レティシアと出かけられるのは嬉しいし丁度叔父上からもらった飴もある。
好物が蜂蜜と知ってからは叔父上にエドワードの面倒を見るお礼に王国で一番良質と言われるルーン名産の蜂蜜の試作品や新商品が欲しいと頼んだ。叔父上に不審な目で見られたが気にしない。
護衛を忍ばせて待ち合わせ場所に着くとローブを着たレティシアと護衛騎士がいた。早めに来たけど、すでに待っているとは思わなかった。
楽しそうに話す二人に声を掛け、手を差し出すと戸惑った顔で見られた。
「マール様、私は人を待ってるんですけど」
何も知らないのか。ビアード公爵夫人は楽しんでいるのかもしれない。
「ビアード公爵夫人にレティシアをよろしくってさ」
「公爵子息になにを頼んでるんですか・・。私は」
一瞬目を丸くしてすぐに穏やかな顔をして断ろうとするレティシアの口に飴を放りこむと、きょとんとした後うっとりと笑った。
「蜂蜜飴だって。ルーンの試供品をわけてもらった。」
「さすがルーン公爵家です」
「まだあるからあげるよ」
「そんな高価な物はいただけません」
そこまで高価じゃないんだけど・・。飴で警戒心の抜けたレティシアの手を握ってサーカスの会場を目指すことにした。護衛騎士は後ろから勝手についてくるから気にしない。ニコニコと笑みを浮かべて歩いている姿が可愛い。ローブを着ていなければ人目を引いて大変だっただろう。人が多い道を抜けるため一応忠告するか。
「人が多いから手は離さないで。」
俺の手をギュっと握る姿に顔がゆるみそうだった。
サーカスの看板が見えると目が輝き、テントに入ると、キョロキョロと嬉しそうに賑わう観客を眺めていた。
席に座っても手を離さないので、気付くまでは繋いだままでいよう。
繋いだ手をじっと見て、ふんわり笑ってる彼女が思い浮かべている相手はわかったけど好きにさせよう。どんな理由でも彼女が笑ってるなら構わない。
顔をあげ俺を見て小さく笑い、一瞬瞳が翳った気がしてステージに視線を誘導させる。丁度始まったサーカスを目にとめて楽しそうな笑い声が聞こえた。
レティシアの様子が可愛くて、つい隣の席ばかり見てしまう。視線が合うとにっこり笑う顔が堪らなく可愛い。
ローブの男がステージに登っていくのを見て嫌な予感がした。このサーカスは下見で見に来たから内容は知っている。男が懐に手を伸ばしたので、レティシアを抱き寄せる。肩と顔に熱い液体がかかり腕の中のレティシアが濡れていないことにほっと息をつくと会場中に悲鳴が響き渡っていた。
「マオ、捕えて。ディーネ、雨をお願いします」
テントの中に雨が降り出した。心配そうな顔で優しく触れられ、冷たい魔力が体を巡り治癒魔法をかけられていた。
「マール様、大丈夫ですか?」
「ああ。悪い」
「いえ、庇ってくださりありがとうございます。残念ながらサーカスは中止ですね。ここを出ましょう。」
レティシアが俺の手を引いて立ち上がった。
ローブの男はレティシアの護衛騎士に拘束され兵に渡されている。
「すみません。動かないでください」
待機を命じられたのに動いたので兵が駆けつけてきた。
レティシアが紋章を見せると兵は礼をして道を開ける。ビアード公爵令嬢の行動を止められるものはいないだろう。せっかく連れ出したのに台無しか。サーカスの警備までは手を回していなかった。
「マール様、サーカスが中止になったのは残念ですがまだ門限まで時間があるんです。遊んでくださいませ」
レティシアの声に視線を向けると愛らしい笑みを浮かべて見つめられた。
「私、王都で遊ぶの初めてです。案内してくれませんか?よくあることなので気にしないでください。マオ、あれくらいは日常茶飯事ですよね?」
「珍しくはありませんね。きっと奥様も気にしませんよ」
二人の言葉に目を見張る。危ない液体をかけられるのは日常茶飯事だと!?
「お母様は賊さえ討伐すれば何も言いませんわ。無事に帰れば怒られません。エイベルもお父様もまたかと笑うだけですわ。でも颯爽と守ってくださる姿は素敵でしたよ」
さらっと言う言葉に武門貴族の価値観がおかしいことを思い出した。
今更だけど、護衛はレティシアの命が出るまで動かなかったよな・・。
「ローブ姿のお嬢様は誰も庇いませんから」
「知ってますよ。お伝え忘れてすみません、このローブは追跡魔法と防御魔法がかかっております。攫われても襲われてもローブさえ着ていれば安全です。私の所為で痛い思いをさせてすみません」
申しわけなさそうに謝る彼女の論点がズレている。ローブの効果を知っていても庇ったよ。ローブが安全と自信満々な二人に頭を抱えたくなった。
気付いたら腕を抱かれて装飾品の露店で足を止めていた。距離の近さに驚き店主と話す様子をただ眺めていた。
「喧嘩の原因は空腹か。」
「はい。困った方ですわ。お願いしても駄目なんです」
「帰りにでも寄ってくれ。おねだりしたら兄ちゃんが買ってくれるかもな」
状況はわからないけど、欲しいなら喜んで贈る。レティシアを見つめて欲しい物を尋ねるとニコッと笑う。
「チョコを探しにいきましょう!!」
チョコ!?さすがに高級品は市にないので移動するか。
腕から離れた手を取り、手を繋ぐとにっこり笑いかけられた。
今日の彼女は格別に可愛い。手を繋いでケーキの種類豊富な予約していた店を目指す。王都で令嬢に大人気の店で、女性向けのデザインで可愛らしい店内の中は女性客ばかり。席にエスコートしメニューを見せるとまた目が輝き、視線の先には蜂蜜という文字。もともと蜂蜜を取り扱っているからこの店に連れて行くことを決めた。さっきチョコを食べたいって言ってたのは希少な蜂蜜を食べられる店があるとは思わなかったからか。
「蜂蜜でいいの?」
勢いよく頷く彼女に笑ってしまった。運ばれてきた蜂蜜菓子を幸せそうに頬張る姿は可愛いくローブを着ているおかげで彼女の顔は正面の俺にしか見えないのでこの顔を独占しているのが堪らなかった。
「こんなに蜂蜜に出会えるなんて、今日はすばらしい日ですわ」
「喜んでもらえてよかった。せっかく誘ったのに怖い思いをさせたから」
「誘った?」
不思議そうな顔に自分が失言したことに気付いた。隠すつもりはなかったしもともと誘うつもりだったからいいか。
「ビアード公爵夫人にサーカスに連れて行きたいから外出許可をほしいって頼んだんだ。ビアードと違って俺は忙しくないからこれからも連れ出すよ。護衛付きだけど」
不思議そうな顔が目を大きく開けて俺を見たあと目を閉じて首を横に振った。最近気づいたけど何かを我慢するときは目を閉じる癖がある。
「そこまでされる理由がありません」
「俺は君と過ごしたいだけ。視察だって喜んで付き合うよ」
「マール様だって忙しいのに」
「俺は優秀だし、いずれビアードに婿入りするから」
「マール様、家の利がありません」
「ビアード公爵さえ了承してくれれば問題ない。マールの許可は取ってある」
ここで即答で断られなくなったのは多少は信じてもらえるようになったんだろうか。
「そんなに自分に夢中にならない令嬢が珍しいですか?」
俺の認識ってどうなってるんだろう。いつもの無関心の声ではなく不思議そうに問いかけられる。
「レティシアが俺に夢中になってくれたら大歓迎だよ。君が俺が令嬢達にモテない方法を考えてくれるなら喜んで実行するよ」
「分厚い伊達眼鏡でもかけますか?」
まさか答えが返ってくるとは思わなかった。
「この後探しにいくか」
レティシアが固まってしばらくすると苦笑した。
「冗談ですよ」
「さすがだよな。思いつかなかった」
必死に冗談と止める姿は可愛かったけどせっかくなので採用するか。
残念ながら王都には売っていなかった。眼鏡を探しながら色んな店をまわったがレティシアが買ったのはお菓子だけ。門限に間に合うように馬車まで送り届け、ビアード公爵夫人にサーカスで危険な目に合わせたことへの謝罪の手紙を送った。
「リオ、よかったわね。ビアード公爵夫人が褒めてたわよ。夫人の中では好印象なデートだったそうよ」
「危険な目に合わせたのでもう二度と外出許可をもらえないかと思ってましたよ」
「レティシアに守られなかったのも高評価だったわ。リオのことを甘く見てたと謝罪されたわ。身を挺して庇うとはって。このまま頑張りなさい」
母上が情報を仕入れてくれるのは助かる。守られなかったって?よくわからないが評価が上がるなら良かったと思うか。
俺はレイヤ兄上に頼んで分厚い伊達眼鏡を取り寄せてもらうことにした。レイヤ兄上はカナト兄上と違って優しいので理由も聞かずに望むものを用意してくれるだろう。
ビアード公爵夫人は叔母上と同じ学生時代を過ごしたが、そこまでの付き合いはないらしい。
母上は同じ武門貴族の出身のため、ビアード公爵夫人とは上手く付き合っているらしい。
ビアード公爵夫人は母上と共に部屋に入った俺を静かに見つめてお茶に同席させたいと願う母上の願いを笑顔で了承してくれた。
お茶を飲みながら母上達の情報交換が終わるのを待っていると静かな瞳を向けられた。
「リオは私に用があるのかしら?」
ビアード公爵夫人のことはサイラスに聞いた。レティシア達のような真っ直ぐな人間を好むことを。
頭を下げた。
「レティシアが好きです。いずれビアード公爵にも勝てるように励みます。婿候補の一人に考えていただけませんか」
「頭をあげて。まさか頭を下げられるとは思わなかったわ。レティシアはなんて?」
小さい笑い声を耳で拾い、顔を上げると静かに見つめられていた。
「ビアード公爵の指示に従うと」
「あの子はそうよね。全てはビアード公爵家のため。貴方を婿にもらっても家の利がないわ」
俺は真っ直ぐな人間ではない。努力してもなれないだろう。
だからこそ役に立てる自信はある。ビアードにとってマール公爵家は価値がないから、俺の価値を示して認められるしかない。
「エイベルもレティシアも真っすぐで純粋です。俺は二人ほど誠実でもありませんが謀は得意です。二人の苦手を補い、常に当主夫婦の下で支え」
「リオ、正直に言いなさい」
母上から駆け引きはやめろと忠告された。
「好きだから側にいたい。それにレティシアが心配です。領民に心を傾けて自分を顧みない彼女が。ビアード公爵家が治癒魔導士の育成に励みいずれその指揮をレティシアが取ります。領民のためなら命も投げ出すでしょう。今でさえ、救えなかったことを責められても傷ついてるのを隠して強がって民の心が楽になるために必要だからって無理して笑います。エイベルが言うほど彼女の心は強くなく、隠すことが上手いだけです。これからもたくさん傷ついても隠して笑う彼女を支えたい。できるかぎり傷つかないように手を尽くしたい。彼女がビアード領の繁栄を望むなら力を尽くします。俺はいつも人の幸せを願うレティシアにこそ幸せになってほしいんです」
「マール公爵夫人、リオは社交や謀は本当に得意なの?」
俺の言葉はレティシアを頼りないと言っている。
どう考えても夫人に気に入られたい奴が言う言葉ではない。それでもビアード公爵夫人を知る母上の言葉は逆らわない方がいい。
「外交官にする予定でしたから、きちんと教育しています。ただ守りたいものを見つけたら揺るがないターナーの血が濃いようなので諦めましたわ。レティシアを嫁にくださるなら歓迎しますわ」
「レティシアはビアードに必要よ。たくさんの求婚理由の中で、あの子を弱いと聞くのは初めて。一生守りますとは言わないのね。騎士としてではなく、領主のほうに目をつけるねぇ。自分の使い方をわかってるようね。エイベルは視野が狭く、レティシアは理想が高いから、着眼点は悪くないわ。あんなに避けられてたのに、今は――。レティのタイプではないけど」
ビアード公爵夫人の冷たい視線がなくなった。
「いずれは頼られるように努力します」
「根気強さは認めるわ。レティが望むなら旦那様に口添えしましょう。私にお願いがあるんでしょう?」
一応は合格をもらったのか?
まだ見極められてる途中だから気を抜けない。
「護衛は用意します。レティシアをビアード領以外への外出許可を」
「どこに?」
「王都のサーカスを見せてあげたいんです。チケット見せたら目を輝かせてたんで・・・。他にも行きたい場所があるそうですが、ビアード領からは出られないって」
「あの子、一言も」
やはり誰にも話してなかったのか。
夫人が戸惑う顔で俺を見ている。
「エイベルが忙しいから言えないみたいです。エイベルは時間が空くと訓練です。彼女はエイベルの訓練時間を最優先に考えてますから」
「護衛をつけるなら構わないわ。もしも何かあれば旦那様が黙ってないわ」
「気をつけます」
「時々通わせてもいいですか?愚息はレティシアとの婚姻を認めてくれないなら、廃嫡でいい、ビアード家門の入団試験受けるって迷いなく言うんですもの。時々、レティシアをうちに貸してくだされば愚息は好きに使ってくださって構いません。領主教育は終えていますが、うちとは勝手が違うでしょう」
「成人しても気持ちが変わらないならいらっしゃい。婚約者にするかはわからないけど。私に婚約者にしてほしいと頼まなかったことに免じてレティの予定を流してあげるわ」
「ありがとうございます」
その後はビアード公爵夫人のレティシアの自慢話に付き合っていると段々不安になった。
レティシアは可愛いし言葉に表せないほど魅力があるのは知っている。
問題なのはレティシアの評価がかなり高い。
幼い頃からビアード領のために動き回っていたのか。夫人の娘自慢のエピソードは危なっかしいものばかりで、幼い令嬢にさせるものか!?と突っ込みをいれたかったが、笑顔で聞き流した。
母上は動揺せず微笑んでいる。母上は叔母上に手をやいていた所為か些細なことでは動揺しない。ビアード公爵夫人の心象はよくしないといけないから聞き役に撤した。
「とりあえず、第一関門突破ね。ここで落とされる者がほとんどみたいよ」
母上、お茶会ではなく試験だと一言教えて欲しかった。
笑っている母上に余計なことは言わない。貴重な味方を手放せない。
「頑張ります。母上、ありがとうございました」
「ビアード公爵夫人はわかりにくいけど、社交がうまいのよ。騙されている夫人達も多いわ。静かに微笑みながら都合の良い方向に自然に働きかける。まだリオだと駆け引きは難しいわ」
さすが化け物揃いの公爵夫人。ルーン公爵夫人とは違う意味での化け物か。
「レティシアの社交の上手さは夫人譲りなんですね」
「タイプが違うわね」
確かにレティシアはビアード公爵夫人とはタイプが違う。相手の懐に入り込み、心を掴む。
後日送られてきたレティシアの予定は1日だけ予定のない日があった。
ビアード公爵夫人に王都のサーカスのチケット数枚と連れ出していいかの確認の手紙を送ると待ち合わせ場所が送られてきた。ありがたいことにセッティングしてくれたらしい。
母上は今のところビアード公爵夫人に気に入られてるわねと笑っている。ビアード公爵夫人の様子だと婚約者候補は複数いるんだろうな。まあいいか。
レティシアと出かけられるのは嬉しいし丁度叔父上からもらった飴もある。
好物が蜂蜜と知ってからは叔父上にエドワードの面倒を見るお礼に王国で一番良質と言われるルーン名産の蜂蜜の試作品や新商品が欲しいと頼んだ。叔父上に不審な目で見られたが気にしない。
護衛を忍ばせて待ち合わせ場所に着くとローブを着たレティシアと護衛騎士がいた。早めに来たけど、すでに待っているとは思わなかった。
楽しそうに話す二人に声を掛け、手を差し出すと戸惑った顔で見られた。
「マール様、私は人を待ってるんですけど」
何も知らないのか。ビアード公爵夫人は楽しんでいるのかもしれない。
「ビアード公爵夫人にレティシアをよろしくってさ」
「公爵子息になにを頼んでるんですか・・。私は」
一瞬目を丸くしてすぐに穏やかな顔をして断ろうとするレティシアの口に飴を放りこむと、きょとんとした後うっとりと笑った。
「蜂蜜飴だって。ルーンの試供品をわけてもらった。」
「さすがルーン公爵家です」
「まだあるからあげるよ」
「そんな高価な物はいただけません」
そこまで高価じゃないんだけど・・。飴で警戒心の抜けたレティシアの手を握ってサーカスの会場を目指すことにした。護衛騎士は後ろから勝手についてくるから気にしない。ニコニコと笑みを浮かべて歩いている姿が可愛い。ローブを着ていなければ人目を引いて大変だっただろう。人が多い道を抜けるため一応忠告するか。
「人が多いから手は離さないで。」
俺の手をギュっと握る姿に顔がゆるみそうだった。
サーカスの看板が見えると目が輝き、テントに入ると、キョロキョロと嬉しそうに賑わう観客を眺めていた。
席に座っても手を離さないので、気付くまでは繋いだままでいよう。
繋いだ手をじっと見て、ふんわり笑ってる彼女が思い浮かべている相手はわかったけど好きにさせよう。どんな理由でも彼女が笑ってるなら構わない。
顔をあげ俺を見て小さく笑い、一瞬瞳が翳った気がしてステージに視線を誘導させる。丁度始まったサーカスを目にとめて楽しそうな笑い声が聞こえた。
レティシアの様子が可愛くて、つい隣の席ばかり見てしまう。視線が合うとにっこり笑う顔が堪らなく可愛い。
ローブの男がステージに登っていくのを見て嫌な予感がした。このサーカスは下見で見に来たから内容は知っている。男が懐に手を伸ばしたので、レティシアを抱き寄せる。肩と顔に熱い液体がかかり腕の中のレティシアが濡れていないことにほっと息をつくと会場中に悲鳴が響き渡っていた。
「マオ、捕えて。ディーネ、雨をお願いします」
テントの中に雨が降り出した。心配そうな顔で優しく触れられ、冷たい魔力が体を巡り治癒魔法をかけられていた。
「マール様、大丈夫ですか?」
「ああ。悪い」
「いえ、庇ってくださりありがとうございます。残念ながらサーカスは中止ですね。ここを出ましょう。」
レティシアが俺の手を引いて立ち上がった。
ローブの男はレティシアの護衛騎士に拘束され兵に渡されている。
「すみません。動かないでください」
待機を命じられたのに動いたので兵が駆けつけてきた。
レティシアが紋章を見せると兵は礼をして道を開ける。ビアード公爵令嬢の行動を止められるものはいないだろう。せっかく連れ出したのに台無しか。サーカスの警備までは手を回していなかった。
「マール様、サーカスが中止になったのは残念ですがまだ門限まで時間があるんです。遊んでくださいませ」
レティシアの声に視線を向けると愛らしい笑みを浮かべて見つめられた。
「私、王都で遊ぶの初めてです。案内してくれませんか?よくあることなので気にしないでください。マオ、あれくらいは日常茶飯事ですよね?」
「珍しくはありませんね。きっと奥様も気にしませんよ」
二人の言葉に目を見張る。危ない液体をかけられるのは日常茶飯事だと!?
「お母様は賊さえ討伐すれば何も言いませんわ。無事に帰れば怒られません。エイベルもお父様もまたかと笑うだけですわ。でも颯爽と守ってくださる姿は素敵でしたよ」
さらっと言う言葉に武門貴族の価値観がおかしいことを思い出した。
今更だけど、護衛はレティシアの命が出るまで動かなかったよな・・。
「ローブ姿のお嬢様は誰も庇いませんから」
「知ってますよ。お伝え忘れてすみません、このローブは追跡魔法と防御魔法がかかっております。攫われても襲われてもローブさえ着ていれば安全です。私の所為で痛い思いをさせてすみません」
申しわけなさそうに謝る彼女の論点がズレている。ローブの効果を知っていても庇ったよ。ローブが安全と自信満々な二人に頭を抱えたくなった。
気付いたら腕を抱かれて装飾品の露店で足を止めていた。距離の近さに驚き店主と話す様子をただ眺めていた。
「喧嘩の原因は空腹か。」
「はい。困った方ですわ。お願いしても駄目なんです」
「帰りにでも寄ってくれ。おねだりしたら兄ちゃんが買ってくれるかもな」
状況はわからないけど、欲しいなら喜んで贈る。レティシアを見つめて欲しい物を尋ねるとニコッと笑う。
「チョコを探しにいきましょう!!」
チョコ!?さすがに高級品は市にないので移動するか。
腕から離れた手を取り、手を繋ぐとにっこり笑いかけられた。
今日の彼女は格別に可愛い。手を繋いでケーキの種類豊富な予約していた店を目指す。王都で令嬢に大人気の店で、女性向けのデザインで可愛らしい店内の中は女性客ばかり。席にエスコートしメニューを見せるとまた目が輝き、視線の先には蜂蜜という文字。もともと蜂蜜を取り扱っているからこの店に連れて行くことを決めた。さっきチョコを食べたいって言ってたのは希少な蜂蜜を食べられる店があるとは思わなかったからか。
「蜂蜜でいいの?」
勢いよく頷く彼女に笑ってしまった。運ばれてきた蜂蜜菓子を幸せそうに頬張る姿は可愛いくローブを着ているおかげで彼女の顔は正面の俺にしか見えないのでこの顔を独占しているのが堪らなかった。
「こんなに蜂蜜に出会えるなんて、今日はすばらしい日ですわ」
「喜んでもらえてよかった。せっかく誘ったのに怖い思いをさせたから」
「誘った?」
不思議そうな顔に自分が失言したことに気付いた。隠すつもりはなかったしもともと誘うつもりだったからいいか。
「ビアード公爵夫人にサーカスに連れて行きたいから外出許可をほしいって頼んだんだ。ビアードと違って俺は忙しくないからこれからも連れ出すよ。護衛付きだけど」
不思議そうな顔が目を大きく開けて俺を見たあと目を閉じて首を横に振った。最近気づいたけど何かを我慢するときは目を閉じる癖がある。
「そこまでされる理由がありません」
「俺は君と過ごしたいだけ。視察だって喜んで付き合うよ」
「マール様だって忙しいのに」
「俺は優秀だし、いずれビアードに婿入りするから」
「マール様、家の利がありません」
「ビアード公爵さえ了承してくれれば問題ない。マールの許可は取ってある」
ここで即答で断られなくなったのは多少は信じてもらえるようになったんだろうか。
「そんなに自分に夢中にならない令嬢が珍しいですか?」
俺の認識ってどうなってるんだろう。いつもの無関心の声ではなく不思議そうに問いかけられる。
「レティシアが俺に夢中になってくれたら大歓迎だよ。君が俺が令嬢達にモテない方法を考えてくれるなら喜んで実行するよ」
「分厚い伊達眼鏡でもかけますか?」
まさか答えが返ってくるとは思わなかった。
「この後探しにいくか」
レティシアが固まってしばらくすると苦笑した。
「冗談ですよ」
「さすがだよな。思いつかなかった」
必死に冗談と止める姿は可愛かったけどせっかくなので採用するか。
残念ながら王都には売っていなかった。眼鏡を探しながら色んな店をまわったがレティシアが買ったのはお菓子だけ。門限に間に合うように馬車まで送り届け、ビアード公爵夫人にサーカスで危険な目に合わせたことへの謝罪の手紙を送った。
「リオ、よかったわね。ビアード公爵夫人が褒めてたわよ。夫人の中では好印象なデートだったそうよ」
「危険な目に合わせたのでもう二度と外出許可をもらえないかと思ってましたよ」
「レティシアに守られなかったのも高評価だったわ。リオのことを甘く見てたと謝罪されたわ。身を挺して庇うとはって。このまま頑張りなさい」
母上が情報を仕入れてくれるのは助かる。守られなかったって?よくわからないが評価が上がるなら良かったと思うか。
俺はレイヤ兄上に頼んで分厚い伊達眼鏡を取り寄せてもらうことにした。レイヤ兄上はカナト兄上と違って優しいので理由も聞かずに望むものを用意してくれるだろう。
21
あなたにおすすめの小説
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
良くある事でしょう。
r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。
若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。
けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる