追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第六十四話 王都観光 

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最近は学園も落ち着いています。
試験も終わりもう少しで長期休暇に入ります。
私は武門侯爵家の夜会に一人で参加しておりますがなぜかリオにエスコートされています。
なんでいるんでしょうか……。

「私は一人で大丈夫なので」
「まだ貴族達の顔を覚えてないから、俺の隣にいてくれないか?顔を売りたいんだ」

マール公爵家で新しい事業でも始めるんでしょうか。
同派閥ですし、お断りするのは無礼ですよね。協力し合うのは同派閥の常識です。
唯一救いなのはリオのファンの令嬢が武門貴族にいないことでしょう。武門貴族の令嬢達にはエイベルやサイラス様など騎士が人気です。騎士以外では癒し系のニコル・スワン様ですね。
私は親睦を深めたい方とはダンスを踊り、談笑しながら情報交換をします。リオは邪魔することなく静かに合わせているので社交は得意なんでしょう。

「マール様、紹介してほしい方がいらっしゃるなら教えてください」
「まだ時期じゃないから。その時はお願いするよ」
「かしこまりました」
「いつも夜会は一人なのか?」
「はい。知り合いばかりなので会場に入ればエスコートしてくださる方は多いので」

必要ならエイベルを同伴させますが、武門貴族の夜会ではエスコート役は必要ありません。
それからもなぜか夜会に参加するとリオに会い、強引にエスコートされました。私が挨拶する方にお目当ての方がいるそうですが、具体的には教えていただけません。マール公爵家とは繋がりのない夜会ばかりで不思議ですが他家のことは気にするのはやめましょう。
私はビアードのために動くだけですわ。

***

試験の成績が良かったご褒美にビアード公爵夫人よりサーカスのチケットをいただきました。王都で開催するので諦めてましたが護衛をつければ行っていいと言われるなんて感動です。お忍びのローブを着て二度目の王都に出発です。王都に詳しい案内人をつけてくださると言われたのですが、待ち合わせ場所の噴水には人が多くてどなたかわかりません。楽しそうなお母様に案内人はいりませんとは言えませんでした。

「マオ、一人で行ったら駄目ですか?」
「奥様の命ですから。逆らえば次の外出許可はいつになるか」

確かにわざわざ用意してくださった案内人を置いて出掛けたら無礼と怒られるかもしれません。優しいビアード公爵夫人の気遣いを無駄にするのはいけませんね。ありがた迷惑という言葉が頭をよぎりましたが……。

「早いな。待たせてごめん」
「はい?」
「行こうか」

正面にはリオが立っています。
笑顔で差し出されるリオの手に戸惑います。
見慣れた服によく知っている手の形。目の前にあるのは当然のように重ねていた優しく頼もしい手の持ち主が浮かべていた表情とは違うもの。
心の中の複雑な気持ちも戸惑いも隠して令嬢モードを纏います。


「マール様、私は人を待ってるんですけど」
「ビアード公爵夫人にレティシアをよろしくってさ」
「公爵子息になにを頼んでるんですか……。私は」

ビアード公爵夫人!?
お断りしようとすると口の中に飴を入れられました。この優しい甘さと幸せな味は覚えのあるもの。

「蜂蜜飴だって。ルーンの試供品をわけてもらった」
「さすがルーン公爵家です」

好みの味にうっとりしてしまうのは仕方ありません。蜂蜜は人を幸せにしますし、ルーンの蜂蜜はフラン王国一番。生前に媚薬を作った方は蜂蜜を食べて閃いたと親友のセリアに話したら笑われましたわ。セリアと他愛もない話をしていた頃が懐かしい。
気づくと強引に手を握られて足が進んでいました。お断りしたいんですが、

「人が多いから手は離さないで」

私のリオよりも少し速い歩調でも握られる手の強さも背中も同じに感じてしまいます。
昔はリオに手を引かれて歩くのは当然と思ってました。よく似た光景に思い出に浸ってしまった所為かいつの間にかサーカス会場のテントに着き完璧にお断りするタイミングを逃しましたわ。―――――どうか知り合いに会わないようにと心の中で祈ります。

すでにリオがピエロに扮した方にチケットを渡していますが、どうして私やマオの分もチケットも持ってるんですか?私達のチケットはありますのに。テントに手を引かれて入り自然な流れでエスコートを受け椅子に座ってますが…。もう今は思考を放棄しましょう。そうですわ。
サーカスが終わったら帰りましょう。せっかくなのでサーカスだけは楽しみますわ。パフォーマンスを楽しまないと皆様に失礼ですもの!!
会場に流れている賑やかな音楽に、たくさんの人の賑わい。人々の楽しそうな雰囲気と懐かしい光景に頬が緩みます。
生前はたくさん見ましたが、今世は初めてのサーカス。
サーカスは何度見ても心が躍ります。生前も何度もリオの手を繋いでサーカスを鑑賞しました。
―――――何度見ても楽しいサーカスを楽しめずに、演目が記憶に残らなかったのは、たった一度だけ。
あの時は今でも鮮明に覚えています。
サーカスよりも握ってくれる手が誰かのものになるのが悲しくて堪らなかったのは懐かしい思い出。すでにリオを好きだったのに幼い私は気づかなかった。握られる手はそっくりでも隣に座る似ている人の浮かべる上機嫌な明るい笑みは違うもの。
手を強く握られ、顔を上げて視線を合わせると、視線をステージに誘導されました。
もう始まりますね。熊に乗った人が登場しました。
歓迎の挨拶をしていると熊から転がり落ちた姿に客席の笑いが響くと鳥が飛びまわり、兎が跳ねながら熊に近づき一緒に踊リ出す光景は可愛いです。動物が退場すると薄い布を纏った魅力的な女性らしい身体の美女が布を振り回し美しい舞を披露すると黙々と煙が上がりあっという間に衣装が変わりました。
昔は大道芸を覚えようとしたこともありましたわ。人の心を明るくできるものはすばらしいですわ。黒いローブの方が客席から檀上に上がりました。手を強く引かれて体が傾きリオの胸に顔があたりました。強い力で抱きしめられ、胸を押して腕から抜け出そうとするとバシャッと何かがかかる音がしました。顔を上げるとリオが顔を顰め、周囲から悲鳴が響き、客席が混乱しています。

「マオ、捕えて」

マオにローブの怪しい方の拘束を任せ、リオの赤い顔と濡れた体は有害な液をかけられたんでしょうか。洗浄魔法で洗い流し、治癒魔法をかけ傷ついた組織を修復すると、険しい顔ではなくなりました。

「ディーネ、雨をお願いします」

ディーネがテント内に癒しの雨を降らせてくれたので、傷ついた方達も治るでしょう。駆けつけた兵にマオが捕えたローブの方を渡しています。

「マール様、大丈夫ですか?」
「ああ。悪い」
「いえ、庇ってくださりありがとうございます。残念ながらサーカスは中止ですね。ここを出ましょう」

リオの手を引いて、テントを出ることにしました。ビアードの紋章を見せると駆けつけた兵達が礼をして外に出してくれました。怪しい方の協力者や不審者がいないか確認するために出入り口を封鎖してますが私には関係ありませんわ。
捕縛から先のことは王都の治安を守る兵達の領分ですわ。
リオが暗い顔をしています。サーカスが台無しになって落ち込む気持ちはわかります。帰るつもりでしたがリオが元気になるようにチョコが食べれるお店を探しましょう。リオと関わりたくありませんがサーカスが見れずに落ち込む気持ちはわかるので今日はお付き合いしましょう。まだ子供のリオににっこりと笑いかけます。

「マール様、サーカスが中止になったのは残念ですがまだ門限まで時間があるんです。遊んでくださいませ」
「え?」

戸惑う声はテントを強引に出てきたことを気にされてるんでしょうか。騎士をまとめるビアード公爵の令嬢だから許された行為なのでリオは戸惑うかもしれませんね。

「私、王都で遊ぶの初めてです。案内してくれませんか?よくあることなので気にしないでください。マオ、あれくらいは日常茶飯事ですよね?」
「珍しくはありませんね。きっと奥様も気にしませんよ」

紋章を見せて取り調べを逃れたと言っても怒られません。両親は門限までに帰れば寛容です。

「お母様は賊さえ討伐すれば何も言いませんわ。無事に帰れば怒られません。エイベルもお父様もまたかと笑うだけですわ。でも颯爽と守ってくださる姿は素敵でしたよ」
「ローブ姿のお嬢様は誰も庇いませんから」
「知ってますよ。お伝え忘れてすみません、このローブは追跡魔法と防御魔法がかかっております。攫われても襲われてもローブさえ着ていれば安全です。私の所為で痛い思いをさせてすみません」

リオが残念そうな顔をしているので、腕を抱いて市を目指しました。サーカスを最後まで見られなかったのを、ここまで落ち込むとは思いませんでした。そんなに好きなんですね。

「マール様の好きなチョコを食べにいきましょう」

市を目指して歩いていると店主に手招きされました。

「嬢ちゃん、寄っていくかい?」

今は装飾品を見たい気分ではありません。

「ごめんなさい。お腹がすいてるんです」
「喧嘩の原因は空腹か」

気乗りしないリオのせいで勘違いされてます。話を合わせましょう。

「はい。困った方ですわ。お願いしても駄目なんです」
「帰りにでも寄ってくれ。おねだりしたら兄ちゃんが買ってくれるかもな」
「欲しいなら贈るよ」
「チョコを探しにいきましょう!!」

いつもの調子に戻ったリオに手を引かれて歩きます。色とりどりの花が飾られているお店に入ると席に案内されました。メニューを見せられ驚きました。ケーキがたくさんあり蜂蜜を使ったものもあります。

「蜂蜜でいいの?」

頷くとリオが注文してくれました。目の前には蜂蜜のたっぷりかかったケーキと蜂蜜で作ったクッキーがあります。

「こんなに蜂蜜に出会えるなんて、今日はすばらしい日ですわ」
「喜んでもらえてよかった。せっかく誘ったのに怖い思いをさせたから」
「誘った?」

リオが目を見張り苦笑しました。

「ビアード公爵夫人にサーカスに連れて行きたいから外出許可をほしいって頼んだんだ。ビアードと違って俺は忙しくないからこれからも連れ出すよ。護衛付きだけど」

ビアード公爵夫人は私がサーカスが好きなことを知りません。偶然かと思いましたが、リオのおかげですか…?心惹かれるお話ですが首を横に振ります。

「そこまでされる理由がありません」
「俺は君と過したいだけ。視察だって喜んで付き合うよ」

笑顔のリオに関わりたくないですと直接伝えるのは失礼ですよね。

「マール様だって忙しいのに」
「俺は優秀だし、いずれビアードに婿入りするから」
「マール様、家の利がありません」
「ビアード公爵さえ了承してくれれば問題ない。マールの許可は取ってある」

リオが婿入りしたい理由がわかりません。婿入りして家格が下がり当主にもなれない。他の令嬢達と私の違いは一つだけです。

「そんなに自分に夢中にならない令嬢が珍しいですか?」
「レティシアが俺に夢中になってくれたら大歓迎だよ。君が俺が令嬢達にモテない方法を考えてくれるなら喜んで実行するよ。」

ふざけてるんでしょうか。そういえば生前のリオが夢で実行した人気を出ない方法がありましたわ。

「分厚い伊達眼鏡でもかけますか?」
「この後探しにいくか」

楽しそうに笑ったリオに嫌な予感がしました。

「冗談ですよ」
「さすがだよな。思いつかなかった」

感心しないで下さい。冗談です。
ケーキを堪能した後、眼鏡を探しに行きましたが見つからないことに安心しました。残念そうなリオの様子を見て彼に冗談を言うのはやめようと心に決めました。
久々に王都で遊んで帰宅するとビアード公爵夫人に楽しそうな顔でお茶に誘われました。お母様、リオとは何もありませんよ。恋の話題は提供できません。おいしい蜂蜜を堪能できて幸せでしたが…。
護衛をつけてリオとならビアード領外をに遊びに行ってもいいと言われましたがなんででしょうか?リオと関わるつもりはないんですが。リオよりもフィルとの許可が欲しいと言ったら、駄目でした。フィルは騎士の訓練で忙しいからあまり連れまわしてはいけないそうです。私はフィルを強引に誘ったりしませんのに。ビアード公爵夫人の基準がわかりませんわ。
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