追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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兄の苦労日記 25

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フィルが刺されレオ様に嫌疑がかかっている。
おびき出されたフィルは風の魔法陣で眠らされて刺された。
レオ様を捕えた生徒会役員は見回りをしていたらフィルを呼ぶ声がして近づき、親しいフィルの血まみれ姿に動揺し、頭に血がのぼってレオ様を捕えたと聞いて言葉を失った。不敬で首が飛ぶ案件だ。
部屋にはフィルとアロマが報告のために訪ねて来ている。

「俺はコクーンだと思うんです。魔法陣を用意したのは風魔法の得意なコクーンの姉でしょう。ハクの正体はコクーンでした。ルメラにレティシアを害せと言ったのはコクーンの姉です」
「レティシアを害したい理由は?」
「嫉妬です。コクーン伯爵令嬢はマール様を慕っています。マール様のレティシア様への恋慕は有名です。コクーン伯爵令嬢はレティシア様を排除したかった。ですが伯爵家が公爵家に手を出すのはまずいので、ルメラ様を利用されたと」
「フィルはなぜ?」
「マール様からフィル様がレティシア様を庇い二人の仲睦まじい様子にレティシア様の恋人はフィル様。レティシア様がフィル様を理想の婚約者と公言されていたので一部で婚約間近と噂になってました。フィル様が亡くなり、レティシア様をお慰めすれば心が手に入ると思ったのか、フィル様の立ち位置に立ちたかったのはわかりません」

くだらない。
これを殿下に報告するのか・・・。この件はマールの所為なのか・・。そんなくだらないことで妹は死にかけたのか?優先すべきはレオ様のことか。

「アロマ、レオ様は全く無関係か?」
「レティシア様と視察に行かれたことは有名ですが王族に手を出すことはないと思います。フィル様を刺している所に人の気配がして慌てて逃げたんでしょうか・・」

苦笑するアロマを見てフィルがニヤリと笑い、嫌な予感がする。

「証拠がないんで、一芝居うちませんか?」
「は?」
「コクーンはレティシアに惚れてます。レティシアとの婚約を餌にすれば動くと思うんです。共犯者の姉を犯人に仕立てあげるくらいはしますよ。せっかくだから排除しましょう。レティシアもノリノリでやってくれると思うんです。あいつの得意分野でしょ?」

妹とフィルは気が合う。二人で手を組んで悪戯をすれば面倒なことがおきる。
こんなくだらない事にレオ様を巻き込んだなら迅速に片付けないといけないが

「本当にコクーンが動くのか?」
「エイベル様、レティシアが本気で嘆き悲しめば動揺しますよ。コクーンにとって邪魔な俺が排除され近づき放題。コクーンはレティシアの本性を知りません。釣れますよ。マール様がレティシアにべったり付き纏われるのは避けたいので協力者にしましょう」
「噂の操作は私にお任せを。エイベル様には台本を用意します」

アロマは平民なのに貴族の内情も把握しているのか。
頭を抱えたい俺と違って目の前の二人は楽しそうだった。コクーンに尋問したほうが早いという俺の意見はノリノリの二人に流された。

***

放課後にフィルを連れてマールの部屋を訪ねて報告と説明をした。この件の指揮はマールだから協力は断られても報告だけはしないといけなかった。
マールに困惑した目を向けられいる。物凄く気持ちはよくわかるがレティシアとフィルが組んで失敗はしないだろう。

「本気で、そんなのに引っかかるのか?」
「レティシアの本気は凄いですよ。できるだけ令嬢達に優しくしてあげてください。コクーン伯爵令嬢が貴方に頼ってきやすいように。レティシアには今まで通りで構いませんよ。マール様が慰めて調査するフリをすれば牽制になります。マール様に説明しなくても良かったんですが動揺されると思うので善意です。協力されなくても支障はありません。俺のために動いたらレティシアからの評価はあがりますよ」
「喜んで協力するよ」

フィルの言葉にマールは笑顔で即答した。

「手を出したら覚悟しておけよ」

マールに無駄だと思うが牽制すると笑顔で黙殺された。
その後俺の部屋にいる妹にフィルが協力を取り付けた。妹には詳細は教えていない。レオ様が無関係とわかってもクロード殿下の目があるのでレオ様には見張られてるフリを続けてもらう手配をする。

***
フィル達の策が始まり、フィルが倒れて、妹が嘆き悲しむ生活をはじめた。一部の友人達には妹の演技が見破られているが無言を貫く。友人達は空気を読んで余計なことは聞いてこない。特にソートはフィルとレティシアをよく知っているので、愉快な笑みを向けていた。フィルの策は妹の本性をよく知る奴には無理がある。嘆き悲しむなら飛び出して犯人を自分で捕まえて、文句を言いにいくのが妹である。
驚くことにフィルの計画とアロマの台本通りにことが流れていた。
妹の婚約の条件の噂が出回っている。俺は何を聞かれても無言を貫く。アロマの台本通りの演技は無理だったので、苦肉の策らしい。俺の部屋で腹を抱えて笑っている妹は学園では儚く消えそうな様子に同情の声を集めている。妹は昔から演技が得意である。
放課後に俺の部屋を訪ねたマールがレオ様と話して笑いのツボに入った妹に戸惑っていた。

「ビアード、違いすぎないか?」
「あいつは表情筋を自由に操る。騙されるなよ」

ようやく笑いがおさまった妹はマールに気づいて社交の顔を作った。

「エイベル、コクーン様から二人で会いたいって言われました。マナをつければいいですか?」

能天気な妹の言葉にコクーンとは二人になるなと言い聞かせておいてよかった。

「放課後に部屋に呼び出せ。俺は隠れて同席する」
「わかりました」

フィルの想定通りコクーンが罠にかかった。
妹がコクーンから姉の仕業という証言を取った。妹はコクーンに同情していたが真相を教えるつもりはなかった。コクーンをビアードで引き取るつもりもないので、話を変えてごまかした。
翌日にマールが姉からの弟の仕業という証言を記録してきた。


***

報告書にまとめてマールがクロード殿下に報告した。

「レオは無関係だったのか」

妹が殿下に不敬を働きそうだったので仮病で寮で休ませている。

「証言はありますが証拠はありません。短剣はコクーン伯爵家の物です。学園への申請のない刃物の持ち込み、殺人未遂、見過ごせるものではありません。記憶さらしでよろしいかと」
「殿下、無罪ならコクーン伯爵令嬢のビアード公爵令嬢への不敬で裁きます。下級生に妹の殺人を仄めかしていたと証言があります。ビアード公爵家として動きます」
「そうだな。二人は王宮で調べよう。ご苦労だった」

くだらない事件にクロード殿下の機嫌がさらに悪くならないでよかった。おかげで妹の不敬は捨て置いてくれるようだ。公爵令嬢への不敬で家の取りつぶしは簡単だ。斬首も許されるから記憶さらしに反対の声は上がらないだろう。

「マール、この件は半分はレティシアの手柄だ。策はフィル。間違っても婚約迫ったりするなよ」
「王都に連れ出してもいいか?」
「許可するわけないだろうが。お前を慕う女に巻き込まれたんだ」
「謝罪をこめて、心を込めてもてなすよ」

バカなことを言うマールを放っておく。
記憶さらしの記録を読むと内容は信じがたいものだった。
姉はマールがレティシアに惚れているので消したかった。ルメラをけしかけサロンに魔法を仕掛けたのも姉。失敗したためしばらくは大人しくしているつもりだったらしい。

弟はフィルが邪魔だった。妹に近づくのをいつもフィルが邪魔していた。そして妹の特別のフィルが憎かった。フィルの後釜を狙っていたとは・・。偶然レオ様が来たため殺せなかったか・・。計画が杜撰すぎる。姉は弟がうちの妹を手に入れるのは歓迎したので力を貸した。姉は魔法の腕に優れていたので、フィルを眠らせるのは簡単だったのか。
弟はルメラの語る妄想通りに不幸に落ちた妹を手に入れたかったらしい。ハクとしてルメラに近づき、ルメラの母親の話す物語を信じた。ルメラは将来王妃になると母親に教えられた。平民が貴族になり王妃になるなんてありえない。物語の中でルメラを邪魔するのがレティシアらしい。レティシアは斬首か国外追放か平民落ちの未来が待っていた。うちの妹は逞しいから国外追放も平民落ちでも楽しそうに生活しそうだ。コクーンも頭がおかしい貴族だったのか・・。
コクーンがハクだったことは妹には言わない。もう会うこともないだろう。
武術大会の毒物混入にコクーンが関わっていたことに怒っているから妹もうちで保護するとは言わないだろう。
もし妹が願ってもうちの領では絶対に保護する気はない。
俺の人生で一番くだらない事件だった。これ以上は勘弁してほしい。
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