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第六十六話 弟の友達作り
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学園が始まり一月もすればリオの眼鏡騒ぎも落ち着きました。
令嬢達に物言いたげに見られますが、私は気付かないフリをします。
リオは本当に強さを求めているようです。本気でビアードに婿入りしたいんでしょうか……。
毎朝の訓練に欠かすことなく参加して、生徒会の仕事もしっかりしてます。ルーン公爵家の訓練も休みません。
本当に私のこと好きなんでしょうか…。嫌われてないのはわかりますが好かれる理由がわかりません。
今まで婚約を考えてほしいと言われたのは家格の低い方ばかりです。
正妃のアリア様の生家のマール公爵家はビアード公爵家よりも家格が高い。
うちに婿入りすると家格が下がりますし、私の婚姻後の立ち位置はきっと分家の当主か領主代行あたりでしょう。
リオなら嫡男のいない家に婿入りして当主を目指せます。
この婚姻でリオにはデメリットしかありませんわ。
しかも常にエイベルの下ですよ。まだマール公爵家でお嫁さんをもらって当主夫妻を支えるほうが持てる権力は大きいですわ。
膝を枕に眠っているエドワード様の頭を撫でながらぼんやりと考えます。
「レティ、終わった」
「エディ、お迎えにいきますがどうしますか?」
ストーム様が呼びに来たのでエドワード様に声を掛けるとゆっくりと瞼が持ち上がり青い瞳が顔を出しました。
「行く」
ゆっくりと起き上がったエドワード様に手を引かれて部屋に行くとエイベルとリオが倒れていました。すでにルーン公爵夫人はいません。
傷だらけの二人に治癒魔法をかけても起きる気配はありません。
エドワード様は倒れている二人に動揺せずに静かに見ています。
宰相一族で常に人の目を集めるルーン公爵家は動揺を見せることを許しません。私がいるから、我慢しているだけかもしれませんね。
「レティシア、僕は変?」
「どういうことですか?」
「昔から年の近い者と会話が通じない」
エドワード様は聡明なので同世代には会話についていける方がいないんでしょう。
他家の同世代の子達はもっと幼くやんちゃです。正直、エドワード様よりもエイベルの方がよっぽど落ち着いてませんわ。
可愛らしい悩みについ笑ってしまいました。頭を撫でるとじっと見つめられます。
「っふふ。ごめんなさい。変ではありません。他の方々よりお勉強を頑張りすぎてるだけです。いずれ同世代の方々も会話が通じるようになりますわ。でも、そんな先まで待つのは寂しいですね。今度の訓練の時にうちの最年少執事をお茶に同席させてもいいですか?」
「執事?」
「幼いですがとても優秀です。あの子も同世代の子達とは会話が合いません。」
ロキも同世代の子供とは全く話が合いません。
生前はエディとロキはお友達だったので気が合うかもしれません。
「前に言ってた弟?」
エドワード様が興味を持つのは珍しいです。
あの話は生前のエディのことですが、話すことはできないのでごまかしましょう。
ロキも弟のように思っているのは事実です。
「はい。恐れながらエディも私にとっては弟のように想ってます。」
「レティシアは変」
「そうですね。社交デビューしたらお手伝いしますので教えてください」
「手伝い?」
「はい。エディの欲しい伝手は私が作ります。その先の交渉はエディのほうが得意なのでお任せします。ルーン公爵家も社交が多くて大変でしょうからいつでも甘えてください。私はこれでも社交は得意ですのよ」
「僕がレティシアをエスコートするよ」
「楽しみですわ。」
無表情ですが声が明るい気がします。
生前のエディは表情豊かだったのにどうして今世は無表情なのかしら。生前と比べるいけない癖が出ました。
「私は失礼しますね。次回はうちの執事も連れてきますわ。エイベル、起きれませんよね・・。」
礼をしてエイベルを魔法で包んで帰ることにしました。リオはエドワード様と起きたら遊ぶので置いて帰りました。エイベルは馬車の中で目覚めました。
「レティシア、このあと付き合え」
「わかりました。頑張って強くなってください」
学園に帰りエイベルの訓練に付き合いました。
エイベルの集中力が切れたのですぐに終わりにしました。
ルーン公爵家で訓練の後の恒例です。ただいつも集中力が切れるのですぐに終わりになります。
エイベルにも何か考えがあるので、余計なことは言わずにお付き合いします。
今は風読みを身に付けるために必死みたいです。
風読みができ、初めて風使いと言われます。風の流れで魔法の発動や攻撃を読みます。
生前のリオも目を瞑ったまま私とディーネとフウタ様の攻撃を華麗に避ける訓練をしていました。
そしていつも一つも当たりませんでした。
エイベルが風読みが身に付くのはまだまだ先のようですが。努力する姿は立派なので疲労が溜まらないように疲労回復の薬湯をあとで差し入れしようと思います。
エイベルが無理しないように体調を整えるのも大事な私のお役目です。
***
翌週のルーン公爵家での訓練はロキを同行させる許可をもらいました。ルーン公爵家では魔道具は使えないので瞳と髪の色は元に戻ってます。
戸惑うロキをお茶会の席に座らせました。
「二人のほうがお話しやすいでしょう。私は散歩に行ってきます。」
エドワード様とロキに不思議そうに見られましたがにっこり笑って退室しました。
庭園を歩いていると懐かしい人を見つけました。後輩のアナの兄の庭師見習いのダンです。
「お疲れ様です」
私を見て、驚いて礼をしました。
「無礼講ですわ。アナのお兄様でしょう?ルーン公爵家で庭師見習いをしていると教えてもらいました。頼りになる優しいお兄様と」
赤面しているダンに笑いそうになるのを堪えました。
「申し遅れました。レティシア・ビアードと申します。」
「貴方がレティシア様ですか。妹がすみません」
礼儀正しいダンに違和感を覚えますが仕方ありません。今の私はダンにとってはお友達ではなくお客様ですから。
「とても可愛らしく努力家の自慢の後輩ですわ。謝罪されることなどありません。お邪魔でなければお手伝いしてもよろしいですか?」
「はい?」
「私、昔は庭師のお勉強もしましたの。剪定のセンスはないので草むしりは任せてください」
懐かしいですわ。ダンの横で草むしりをはじめました。生前はよくダンとも一緒に過ごしました。
「お師匠様に怒られますよ。手を動かさないと」
ダンとアナの話をしながら作業をしました。
生前はダンは幼い頃からルーン公爵邸で庭師見習いとして働いていました。
ダンは土属性の魔力を持っています。
学園に入学せず魔力の講習を受けてルーン公爵邸に勤めました。家が苦しかったので一番給金が良いうちにきたようです。庭師のベンが高齢のため後継を探していた時に土属性を持つダンと知り合ったそうです。土属性を持つ者は植物に愛されると言われています。師匠のベンは魔力はありませんが立派な庭師です。きっとダンもベンに負けない優秀な庭師になるでしょう。私の記憶にあるルーン公爵邸の庭はどの季節も美しかったですから。
「ダン、庭師の仕事は好きですか?」
「え?」
「深い意味はありません。」
「暮らしが豊かになるならなんでも構いません。ルーン公爵家のおかげで不自由なく生活させていただいています」
生前に出会った当初は無礼な少年でした。
ルーンの使用人らしく振舞う姿に笑ってしまいました。素直ではない所は同じです。優しい顔で草木に触れる姿は庭師の仕事を大事にしているように見えます。
「ダンはすばらしい庭師になるので、ルーン公爵家はよい拾い物をしましたわね。ダンが育てるといつも鮮やかに花をつけます。この大きい手で丁寧に世話をする姿を見てるのが大好きですわ。いずれ一人前になった貴方の自慢の庭園を見れることを楽しみにしてます」
「アナの言う通りですね。レティシア様、言葉には気をつけてください。バカな男は勘違いしますよ」
「私はいつでも本気ですわ」
「俺は自分の命が惜しいので、」
ポツリポツリと雨が降ってきました。ルーン公爵家は水の結界で囲まれているので雨の気配に気づきませんでした。
「今日はお水をあげなくていいですね」
体を濡らす雨が気持ちが良いです。ルーン公爵家の庭園は雨に濡れても美しくうっとりと見惚れてしまいます。
「レティシア様、移動されませんか」
「私に気にせずどうぞ。せっかくなので雨の庭園を楽しみますわ」
さすがにこんなに濡れたらルーン公爵邸には入れませんわ。
ダンと別れて、せっかくなので気持ちいい雨の日の庭園を散策しようとすると腕を掴まれました。
「風邪を引かれます。屋敷にお戻りください」
「お気遣いありがとうございます。濡れたままではルーン公爵邸にはいけません。訓練が終わったら兄に乾かしてもらうので」
「失礼します」
苦笑したダンに抱き上げられました。ダンが使用人用の道を通って厨房に向かってます。
厨房に入ると不思議な目で見られてます。ダンに厨房の隅に降ろされ目の合った料理人がタオルを持って近付き頭を拭いてくれました。
「ケイト、乾かしてやってくれ」
「ダン、見慣れない奴連れてんな」
ニヤニヤした顔で生前のお友達の料理人のケイトが近寄ってきました。
「新しい侍女見習いか。こんなに濡れたら大目玉だな。乾かしてもいいけど、お礼は?」
「何が欲しいんですか?」
「ダンの彼女か?」
「バカ、違うよ」
生前ケイトにはたくさんお世話になりました。私に料理やお願いの仕方などたくさんのことを教えてくれたのはケイトです。私は何もお礼ができませんでした。違うとわかってますが
「貴方が喜ぶならなんでもしますわ」
「子供は圏外なんだよ。もう少し成長してから出直して」
昔、教わったケイト直伝のお願いをしてみましょう。からかう顔をするケイトの手を握りじっと見つめます。
「ケイト、バカやってないで乾かしてやれ」
ケイトが頭を叩かれ詠唱をはじめました。水が蒸発して体が乾きました。ケイトは火の魔法が得意でしたわね。
「嬢ちゃん、気にしなくていい。温まるから飲んでいきなさい」
副料理長が椅子に座らせて温かいミルクをくれたので、頂きました。
「ダン、お前、ここにいたのか」
「すみません」
ダンがベンに連れていかれてしまいました。ベンも元気そうで良かったですわ。
「お菓子もどうぞ。時間はあるんかい?」
「はい。でもお邪魔ではありませんか?」
「ダンの客人だろう。そのうち戻ってくるからここで待ってればいい」
「ありがとうございます」
せっかくのお誘いなので甘えましょう。料理人も優しく良い人ばかりです。生前はよくこの厨房で料理の様子を見学したり、料理を教わったりしました。懐かしい場所に眠くなってきました。
「レティシア」
目を開けるとリオの顔がありました。
「リオ兄様?」
「散歩に出て戻らないって言うから。厨房にはビアードは来れないから」
リオの言葉に現状を思い出し息を飲みました。私は今はルーン公爵令嬢ではありません。ルーン公爵令嬢時代も厨房には両親の目を盗んで遊びに来ていました。客人が厨房にいるなんて、考えるだけで恐ろしいですわ。
「ごめんなさい。彼らは事情を知りません。咎は私にお願いします。ルーン公爵夫人に謝罪をすればいいでしょうか。エディが怒られてしまいますわ」
リオに笑いかけられ、手を引かれて立ち上がりました。
「落ち着いて。戻ろうか」
料理人の皆様の視線が痛いです。私は今はビアード公爵令嬢だったのを忘れてました。頭を下げます。
「あたたかいお心づかいありがとうございました。咎められたら私に命令されたと言ってください。減俸されましたら補填しますのでビアード公爵家まで連絡をください。もし解雇されたらビアード公爵家でお世話します」
「リオ様、彼女は・・・。」
「ビアード公爵令嬢」
息を飲む音が聞こえました。困らせたいわけではないんです。迂闊でしたわ。
「ごめんなさい。咎がないようにしますのでご安心ください。マール様、お迎えありがとうございました。ケイト、いずれお礼をしますわ」
私はリオに手を引かれて厨房を後にしました。
「もしかして大騒ぎですか・・?」
「エドワードが動いたから知ってるのは執事長と一部の侍女だけ。叔母上達はご存知ない。エドワードとロキに回復薬飲まされて、起きたらレティシアが散歩から帰ってこないって」
寝てるのに、回復薬を飲ませたんですか!?
確実にエイベルのお説教が待ってます。でもエドワード様に感謝ですわ。
部屋に戻るとエイベルに睨まれました。
「ご心配おかけして申し訳ありません。」
「レティシア」
エドワード様が近づいてきたのでリオの手を解いて視線を合わせます。
「ありがとうございます。エディのおかげで助かりましたわ。使用人の皆様の好意で濡れた体が温まるまで休ませていただきました。ルーン公爵家の使用人の皆様のお心遣いに感謝申し上げます」
「ビアード様、謝罪するのは私達です」
執事長に微笑みかけます。対応を間違えたらダン達が咎められます。
「執事長、私は満足するおもてなしを受けました。ダンや料理人の皆様には後日お礼を用意させてくださいませ。使用人の質の高さを見習わないといけません」
「レティシア、本当?」
「はい。立派な使用人をお持ちですわ。こんなに暖かいおもてなしができる家は中々ありません。また機会があればお邪魔したいですわ」
「ビアード様、ご勘弁を」
執事長に咎められる意味がわかります。客人が厨房を訪ねるのはまずいですよね。
「失礼しました。もし咎を受けるのでしたら私も一緒にお願いします。ルーン公爵夫妻にも謝罪致します」
「いらない。母上達に知らせない。執事長、彼らにはよくやったと。肉と酒を振舞って」
「かしこまりました」
エドワード様はしっかりしています。
「エドワード様、ありがとうございます。ロキとはお話できましたか?」
「うん。また話したい」
「お気に召したなら良かったですわ。また連れてきますわ」
「今度はレティシアも一緒」
「はい。次回は同席させていただきます」
次回の日程を決めて学園に戻りました。ロキも有意義な時間を過ごせたみたいです。ロキにお友達ができて一安心です。後日訓練のお礼として使用人の皆様の分も含めてビアード産のワインとお菓子と肉をルーン公爵家に贈りました。エドワード様から礼状と蜂蜜菓子が返礼されました。気をつかわせてしまったでしょうか・・・。
幼いのに好みを押さえた返礼とはいつの世もルーン公爵家嫡男の優秀さは変わらないようです。
令嬢達に物言いたげに見られますが、私は気付かないフリをします。
リオは本当に強さを求めているようです。本気でビアードに婿入りしたいんでしょうか……。
毎朝の訓練に欠かすことなく参加して、生徒会の仕事もしっかりしてます。ルーン公爵家の訓練も休みません。
本当に私のこと好きなんでしょうか…。嫌われてないのはわかりますが好かれる理由がわかりません。
今まで婚約を考えてほしいと言われたのは家格の低い方ばかりです。
正妃のアリア様の生家のマール公爵家はビアード公爵家よりも家格が高い。
うちに婿入りすると家格が下がりますし、私の婚姻後の立ち位置はきっと分家の当主か領主代行あたりでしょう。
リオなら嫡男のいない家に婿入りして当主を目指せます。
この婚姻でリオにはデメリットしかありませんわ。
しかも常にエイベルの下ですよ。まだマール公爵家でお嫁さんをもらって当主夫妻を支えるほうが持てる権力は大きいですわ。
膝を枕に眠っているエドワード様の頭を撫でながらぼんやりと考えます。
「レティ、終わった」
「エディ、お迎えにいきますがどうしますか?」
ストーム様が呼びに来たのでエドワード様に声を掛けるとゆっくりと瞼が持ち上がり青い瞳が顔を出しました。
「行く」
ゆっくりと起き上がったエドワード様に手を引かれて部屋に行くとエイベルとリオが倒れていました。すでにルーン公爵夫人はいません。
傷だらけの二人に治癒魔法をかけても起きる気配はありません。
エドワード様は倒れている二人に動揺せずに静かに見ています。
宰相一族で常に人の目を集めるルーン公爵家は動揺を見せることを許しません。私がいるから、我慢しているだけかもしれませんね。
「レティシア、僕は変?」
「どういうことですか?」
「昔から年の近い者と会話が通じない」
エドワード様は聡明なので同世代には会話についていける方がいないんでしょう。
他家の同世代の子達はもっと幼くやんちゃです。正直、エドワード様よりもエイベルの方がよっぽど落ち着いてませんわ。
可愛らしい悩みについ笑ってしまいました。頭を撫でるとじっと見つめられます。
「っふふ。ごめんなさい。変ではありません。他の方々よりお勉強を頑張りすぎてるだけです。いずれ同世代の方々も会話が通じるようになりますわ。でも、そんな先まで待つのは寂しいですね。今度の訓練の時にうちの最年少執事をお茶に同席させてもいいですか?」
「執事?」
「幼いですがとても優秀です。あの子も同世代の子達とは会話が合いません。」
ロキも同世代の子供とは全く話が合いません。
生前はエディとロキはお友達だったので気が合うかもしれません。
「前に言ってた弟?」
エドワード様が興味を持つのは珍しいです。
あの話は生前のエディのことですが、話すことはできないのでごまかしましょう。
ロキも弟のように思っているのは事実です。
「はい。恐れながらエディも私にとっては弟のように想ってます。」
「レティシアは変」
「そうですね。社交デビューしたらお手伝いしますので教えてください」
「手伝い?」
「はい。エディの欲しい伝手は私が作ります。その先の交渉はエディのほうが得意なのでお任せします。ルーン公爵家も社交が多くて大変でしょうからいつでも甘えてください。私はこれでも社交は得意ですのよ」
「僕がレティシアをエスコートするよ」
「楽しみですわ。」
無表情ですが声が明るい気がします。
生前のエディは表情豊かだったのにどうして今世は無表情なのかしら。生前と比べるいけない癖が出ました。
「私は失礼しますね。次回はうちの執事も連れてきますわ。エイベル、起きれませんよね・・。」
礼をしてエイベルを魔法で包んで帰ることにしました。リオはエドワード様と起きたら遊ぶので置いて帰りました。エイベルは馬車の中で目覚めました。
「レティシア、このあと付き合え」
「わかりました。頑張って強くなってください」
学園に帰りエイベルの訓練に付き合いました。
エイベルの集中力が切れたのですぐに終わりにしました。
ルーン公爵家で訓練の後の恒例です。ただいつも集中力が切れるのですぐに終わりになります。
エイベルにも何か考えがあるので、余計なことは言わずにお付き合いします。
今は風読みを身に付けるために必死みたいです。
風読みができ、初めて風使いと言われます。風の流れで魔法の発動や攻撃を読みます。
生前のリオも目を瞑ったまま私とディーネとフウタ様の攻撃を華麗に避ける訓練をしていました。
そしていつも一つも当たりませんでした。
エイベルが風読みが身に付くのはまだまだ先のようですが。努力する姿は立派なので疲労が溜まらないように疲労回復の薬湯をあとで差し入れしようと思います。
エイベルが無理しないように体調を整えるのも大事な私のお役目です。
***
翌週のルーン公爵家での訓練はロキを同行させる許可をもらいました。ルーン公爵家では魔道具は使えないので瞳と髪の色は元に戻ってます。
戸惑うロキをお茶会の席に座らせました。
「二人のほうがお話しやすいでしょう。私は散歩に行ってきます。」
エドワード様とロキに不思議そうに見られましたがにっこり笑って退室しました。
庭園を歩いていると懐かしい人を見つけました。後輩のアナの兄の庭師見習いのダンです。
「お疲れ様です」
私を見て、驚いて礼をしました。
「無礼講ですわ。アナのお兄様でしょう?ルーン公爵家で庭師見習いをしていると教えてもらいました。頼りになる優しいお兄様と」
赤面しているダンに笑いそうになるのを堪えました。
「申し遅れました。レティシア・ビアードと申します。」
「貴方がレティシア様ですか。妹がすみません」
礼儀正しいダンに違和感を覚えますが仕方ありません。今の私はダンにとってはお友達ではなくお客様ですから。
「とても可愛らしく努力家の自慢の後輩ですわ。謝罪されることなどありません。お邪魔でなければお手伝いしてもよろしいですか?」
「はい?」
「私、昔は庭師のお勉強もしましたの。剪定のセンスはないので草むしりは任せてください」
懐かしいですわ。ダンの横で草むしりをはじめました。生前はよくダンとも一緒に過ごしました。
「お師匠様に怒られますよ。手を動かさないと」
ダンとアナの話をしながら作業をしました。
生前はダンは幼い頃からルーン公爵邸で庭師見習いとして働いていました。
ダンは土属性の魔力を持っています。
学園に入学せず魔力の講習を受けてルーン公爵邸に勤めました。家が苦しかったので一番給金が良いうちにきたようです。庭師のベンが高齢のため後継を探していた時に土属性を持つダンと知り合ったそうです。土属性を持つ者は植物に愛されると言われています。師匠のベンは魔力はありませんが立派な庭師です。きっとダンもベンに負けない優秀な庭師になるでしょう。私の記憶にあるルーン公爵邸の庭はどの季節も美しかったですから。
「ダン、庭師の仕事は好きですか?」
「え?」
「深い意味はありません。」
「暮らしが豊かになるならなんでも構いません。ルーン公爵家のおかげで不自由なく生活させていただいています」
生前に出会った当初は無礼な少年でした。
ルーンの使用人らしく振舞う姿に笑ってしまいました。素直ではない所は同じです。優しい顔で草木に触れる姿は庭師の仕事を大事にしているように見えます。
「ダンはすばらしい庭師になるので、ルーン公爵家はよい拾い物をしましたわね。ダンが育てるといつも鮮やかに花をつけます。この大きい手で丁寧に世話をする姿を見てるのが大好きですわ。いずれ一人前になった貴方の自慢の庭園を見れることを楽しみにしてます」
「アナの言う通りですね。レティシア様、言葉には気をつけてください。バカな男は勘違いしますよ」
「私はいつでも本気ですわ」
「俺は自分の命が惜しいので、」
ポツリポツリと雨が降ってきました。ルーン公爵家は水の結界で囲まれているので雨の気配に気づきませんでした。
「今日はお水をあげなくていいですね」
体を濡らす雨が気持ちが良いです。ルーン公爵家の庭園は雨に濡れても美しくうっとりと見惚れてしまいます。
「レティシア様、移動されませんか」
「私に気にせずどうぞ。せっかくなので雨の庭園を楽しみますわ」
さすがにこんなに濡れたらルーン公爵邸には入れませんわ。
ダンと別れて、せっかくなので気持ちいい雨の日の庭園を散策しようとすると腕を掴まれました。
「風邪を引かれます。屋敷にお戻りください」
「お気遣いありがとうございます。濡れたままではルーン公爵邸にはいけません。訓練が終わったら兄に乾かしてもらうので」
「失礼します」
苦笑したダンに抱き上げられました。ダンが使用人用の道を通って厨房に向かってます。
厨房に入ると不思議な目で見られてます。ダンに厨房の隅に降ろされ目の合った料理人がタオルを持って近付き頭を拭いてくれました。
「ケイト、乾かしてやってくれ」
「ダン、見慣れない奴連れてんな」
ニヤニヤした顔で生前のお友達の料理人のケイトが近寄ってきました。
「新しい侍女見習いか。こんなに濡れたら大目玉だな。乾かしてもいいけど、お礼は?」
「何が欲しいんですか?」
「ダンの彼女か?」
「バカ、違うよ」
生前ケイトにはたくさんお世話になりました。私に料理やお願いの仕方などたくさんのことを教えてくれたのはケイトです。私は何もお礼ができませんでした。違うとわかってますが
「貴方が喜ぶならなんでもしますわ」
「子供は圏外なんだよ。もう少し成長してから出直して」
昔、教わったケイト直伝のお願いをしてみましょう。からかう顔をするケイトの手を握りじっと見つめます。
「ケイト、バカやってないで乾かしてやれ」
ケイトが頭を叩かれ詠唱をはじめました。水が蒸発して体が乾きました。ケイトは火の魔法が得意でしたわね。
「嬢ちゃん、気にしなくていい。温まるから飲んでいきなさい」
副料理長が椅子に座らせて温かいミルクをくれたので、頂きました。
「ダン、お前、ここにいたのか」
「すみません」
ダンがベンに連れていかれてしまいました。ベンも元気そうで良かったですわ。
「お菓子もどうぞ。時間はあるんかい?」
「はい。でもお邪魔ではありませんか?」
「ダンの客人だろう。そのうち戻ってくるからここで待ってればいい」
「ありがとうございます」
せっかくのお誘いなので甘えましょう。料理人も優しく良い人ばかりです。生前はよくこの厨房で料理の様子を見学したり、料理を教わったりしました。懐かしい場所に眠くなってきました。
「レティシア」
目を開けるとリオの顔がありました。
「リオ兄様?」
「散歩に出て戻らないって言うから。厨房にはビアードは来れないから」
リオの言葉に現状を思い出し息を飲みました。私は今はルーン公爵令嬢ではありません。ルーン公爵令嬢時代も厨房には両親の目を盗んで遊びに来ていました。客人が厨房にいるなんて、考えるだけで恐ろしいですわ。
「ごめんなさい。彼らは事情を知りません。咎は私にお願いします。ルーン公爵夫人に謝罪をすればいいでしょうか。エディが怒られてしまいますわ」
リオに笑いかけられ、手を引かれて立ち上がりました。
「落ち着いて。戻ろうか」
料理人の皆様の視線が痛いです。私は今はビアード公爵令嬢だったのを忘れてました。頭を下げます。
「あたたかいお心づかいありがとうございました。咎められたら私に命令されたと言ってください。減俸されましたら補填しますのでビアード公爵家まで連絡をください。もし解雇されたらビアード公爵家でお世話します」
「リオ様、彼女は・・・。」
「ビアード公爵令嬢」
息を飲む音が聞こえました。困らせたいわけではないんです。迂闊でしたわ。
「ごめんなさい。咎がないようにしますのでご安心ください。マール様、お迎えありがとうございました。ケイト、いずれお礼をしますわ」
私はリオに手を引かれて厨房を後にしました。
「もしかして大騒ぎですか・・?」
「エドワードが動いたから知ってるのは執事長と一部の侍女だけ。叔母上達はご存知ない。エドワードとロキに回復薬飲まされて、起きたらレティシアが散歩から帰ってこないって」
寝てるのに、回復薬を飲ませたんですか!?
確実にエイベルのお説教が待ってます。でもエドワード様に感謝ですわ。
部屋に戻るとエイベルに睨まれました。
「ご心配おかけして申し訳ありません。」
「レティシア」
エドワード様が近づいてきたのでリオの手を解いて視線を合わせます。
「ありがとうございます。エディのおかげで助かりましたわ。使用人の皆様の好意で濡れた体が温まるまで休ませていただきました。ルーン公爵家の使用人の皆様のお心遣いに感謝申し上げます」
「ビアード様、謝罪するのは私達です」
執事長に微笑みかけます。対応を間違えたらダン達が咎められます。
「執事長、私は満足するおもてなしを受けました。ダンや料理人の皆様には後日お礼を用意させてくださいませ。使用人の質の高さを見習わないといけません」
「レティシア、本当?」
「はい。立派な使用人をお持ちですわ。こんなに暖かいおもてなしができる家は中々ありません。また機会があればお邪魔したいですわ」
「ビアード様、ご勘弁を」
執事長に咎められる意味がわかります。客人が厨房を訪ねるのはまずいですよね。
「失礼しました。もし咎を受けるのでしたら私も一緒にお願いします。ルーン公爵夫妻にも謝罪致します」
「いらない。母上達に知らせない。執事長、彼らにはよくやったと。肉と酒を振舞って」
「かしこまりました」
エドワード様はしっかりしています。
「エドワード様、ありがとうございます。ロキとはお話できましたか?」
「うん。また話したい」
「お気に召したなら良かったですわ。また連れてきますわ」
「今度はレティシアも一緒」
「はい。次回は同席させていただきます」
次回の日程を決めて学園に戻りました。ロキも有意義な時間を過ごせたみたいです。ロキにお友達ができて一安心です。後日訓練のお礼として使用人の皆様の分も含めてビアード産のワインとお菓子と肉をルーン公爵家に贈りました。エドワード様から礼状と蜂蜜菓子が返礼されました。気をつかわせてしまったでしょうか・・・。
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――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
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