追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第六十八話 尋問戻った生活

皇子様がビアード領を訪ねて一月後ビアード公爵夫妻が帰ってきました。
皇女様の訪問予定がないことに安堵しました。まだ油断はできませんが…。
王宮で話し合われ皇子様の強い希望でビアード領での保護が決まりました。来年までに正式に海の皇国で皇子様を探す動きがなければフラン王国民として迎え入れます。皇子様は来年度から学園に通われる予定です。未成年の皇子様を他家に養子縁組して貴族位を授けるか平民として受け入れるかはまだ決まってませんので当分はうちで賓客扱いです。
ナギのことをご存知だったため、全て話したことをエイベルに伝えたら頭を叩かれました。すぐに頭を叩く癖はいつになったら直るんでしょうか。
私は久々に学園寮に戻ると面会依頼の手紙がいくつもあります。ご令嬢達からのお茶会の招待に、リオから面会依頼がありますが皇子様の件でしょう。うちよりも家格の高いマール公爵家からの面会依頼はお断りできないので了承の返事を出して、約束の時間にリオの部屋に向かいました。
リオの部屋をノックすると扉が開き、手を引かれて椅子までエスコートされました。自然なエスコートはさすが公爵子息。残念ながらエイベルにはできませんが。向かいの席ではなく隣に座り眼鏡を外し、防音の風の結界で私とリオを囲いました。同行させているマナに聞かれたくない話でしょうか?婚約者でもない私達が二人っきりにはなれないので、マナを退室させることはできません。

「どうして皇女に襲われると思ったの?」

第一声は聞き間違いでしょうか?

「皇子を追いかけてくるまではわかるよ。ただ皇女に襲われて君が首を落とすって言葉が出るまで覚悟を決めた根拠が知りたい」

挨拶もせず、とんでもないことをサラリと聞かれています。あの時は動揺して余計なことを言いましたわ。マール公爵は不審に思ってリオに話したんですか!?戸惑われてたのはわかってましたが…。皇子様の話は他言無用なのに私の言葉は伝えたんですか!?動揺を隠して笑みを浮かべます。そういえばマール公爵がすばらしい理由を教えてくれました。

「勘です」
「生前の記憶で何かあったのか?」

さらに聞き間違えでしょうか…。過去一番動揺させられる言葉を言われた気がします。そういえば生前のリオにも記憶のことを気付かれました。でも、このリオとはそこまで一緒に過ごしていませんし、聞き間違いですわね。

「前に生前の記憶があるって」

穏やかな顔で零された言葉に息を飲みました。聞き間違えではありませんでした。
私はリオに話したんですか!?ありえませんわ。リオとの会話なんてほとんど覚えてませんし、必死に記憶を蘇らせ、あら?もしかして私のリオがいないと知って動揺していた時でしょうか。あの時の会話を欠片も思い出せません。悲しかったり寂しかったり感情がぐるぐるして――。誰にも話すつもりはなかったのに。初恋のリオの話をするのとは違います。生前の記憶があることは誰にも言わないようにって昔、リオと約束しました。クロード様には見つかってしまいましたがあれは例外ですわ。だってクロード様も生前の記憶を持っていたんですもの。リオ、ごめんなさい。逃避している場合ではありません。平静を装い笑顔を作ります。

「冗談です。本気にされないでください」

じっと見つめられ、私のリオとそっくりな見透かされる顔に動揺が隠しきれません。生前にリオをごまかせたことなど一度もありません。

「め、眼鏡、かけませんか?」
「必要ない。動揺してるけど、折れる気ないよ」

目の前の笑顔も怖い。動揺してるのはやはり気付かれてます。私といる時も眼鏡をかけてくれれば、まだうまく取り繕えますのに…。泣きたくなってきました。折れそうな心を奮い立て必死で警戒心が抜けるにっこり笑顔を作ります。

「関係ありません。ご用件がそれだけなら失礼します」
「ビアードに話してもいいなら」

笑顔で見つめるリオが怖くて仕方ありませんが、エイベルなら簡単にごまかせますわ。

「誰も信じませんよ」
「さぁな。旅支度整えてるだろう。保存食なんて海の皇国に行くのにいらないだろ。他にもあるけど聞きたい?」

国外逃亡の用意はしてましたけどなんで知られているんでしょうか!?変装して護衛騎士の目を盗んで買いに行きましたのに。気配にも気を配りましたし、窓から抜け出し誰にも尾行されてませんでした。駄目ですわ。ここまで調べられているなら、諦めるしかないでしょうか。

「私は研究者に解剖されたくありません」
「レティシアが正直に話すなら俺の胸に留めるよ」

たぶんリオは嘘をつかないと思います。やはり生前の記憶があることはもう確信があるんでしょう。魔法のある世界ではどんな不思議があっても受け入れられますものね。目の前のリオは知りませんが生前の柔軟性の高いリオなら。マールで同じ教育を受けているなら思考も同じかもしれません。諦めるしかありません。

「生前、皇子様が極秘でフラン王国に亡命してきました。皇帝陛下の許可もあり国としての話し合いはされてました。ただ皇女様は知りませんでした。陛下の生誕祭に訪問された皇女様に、皇子様の居場所を聞かれましたが私の立場では教えられませんでした。皇子様がいないことに皇女様は怒り、フラン王国に来た所為で姿を消したと陛下の生誕祭で魔力を暴走されました。会場は禍々しい魔力と嵐に襲われる事態に陥りました」


沈黙が続きますが続きはないんですが。

「それで命を落としたのか……」

悲しそうな顔で見つめられてますが、その弱ったお顔は苦手なのでやめてほしいです。

「いえ、水魔法で戦って皇女様を眠らせました。ただ無属性として生きていたので、私が魔力を持っていることを知られると生家に迷惑がかかるので国外逃亡しました」

リオの目が丸くなりました。公爵令嬢が魔力を隠蔽するなんてありえませんので驚く気持ちはわかります。提案した時も私のリオに何度も本気か確認されました。

「は?」

前回は全く準備ができず、詰めも甘かったので今回はきちんと備えるつもりでした。レオ様に便利な無限袋をいただきましたし、瞳と髪色を変える魔道具も手に入れました。

「今回も同じことになるかもしれないので念のため準備だけはしておこうかと」
「色々言いたいことはあるけど国外逃亡の必要はないだろう。魔法は使えるんだから」

色々言われても困りますし、貴方にお説教される理由はありません。
ディーネの力を使ったのも逃亡の理由です。同じことになればまたディーネの力を借りて対処し私が姿を消せば一番穏便に事がおさまると思います。

「いえ、争いの火種になります。海の皇族を攻撃した公爵令嬢にフラン王国に居場所はありません。前よりはきっとうまくやりますわ。今世は傷つけさせません」

リオ達を傷つけるのはもう許しません。血まみれのリオなんて見たくありません。たとえ別人であってもリオには幸せになって欲しいんです。悲しい顔も苦しそうな顔も見たくありません。次は迷うことなく魔法を発動しますわ。

「国外逃亡っていつしたの?」
「3年生だったので15歳です」

うっかり答えてしまいましたがこの話はまだ続くんでしょうか。大事なことは話しましたのでもう必要ないと思いますが。
目を見張ってますが何を驚いているんでしょうか?

「リオと一緒に?」

このリオは天才ではないかもしれません。もしかしてポンコツですか…。

「一人ですよ。犯罪者になったのに一緒に連れていけません。リオが追いかけてきたので一緒に過ごせましたが。物凄く怒られましたけど…」

考えが足りないと怒られました。一人で逃亡したことが一番駄目だったと。私なりに覚悟を決めて考えて行動したのに、生涯で一番長いお説教を受けました。

「皇子、送り返そうよ。それが一番穏便だ」

笑顔を浮かべるリオを見てため息をつきました。

「訪れるかわからない未来のために皇子様を犠牲にできません。私も反省しました。生前の記憶に巻き込まれ過ぎましたわ。それに生前の記憶はあてになりません。この話、やめませんか?」
「ルメラ嬢も君の記憶に関わってたの?」

私の言葉は聞いていただけません。

「2度目の人生の時に、お母様に洗脳され私の殺人未遂で修道院送りになりました。洗脳されなければ、人生変わるかなって思ったんです。とりあえず上手くいきはじめて良かったですわ」

リアナのことはうまくいくことを祈るばかりです。私が学園を留守にしている間に問題を起こしてないといいんですが。

「2度目?」
「はい。最初は監禁されて亡くなり目覚めたら5歳でしたわ」
「監禁!?いつ!?」
「15歳ですね」
「誰に?なんで?」
「当時はクロード殿下の婚約者でしたわ。クロード殿下に構ってもらえないことを拗ねたレオ殿下に」

リオの顔が真っ青になり肩に手を置かれて真剣な顔で見られてますが、どうしたんでしょうか。

「最初から話してくれないか」

私の話を信じてるんでしょうか…。この人は大丈夫でしょうか?

「マール様、生前とは色んなことが違います。だから聞くだけ無駄ですよ。それに一晩あっても語りきれません。」
「死にそうになった経験はどれくらいあるの?」

私の言葉は聞こえないんでしょうか…。もう相手にするのはやめましょう。リオまで私の記憶に巻き込まれる必要はありません。

「3、4?回くらいですかね。大体リオが助けてくれたので本当に死んだのは1回だけですよ。マール様、この話は終わりにしましょう。気にしても仕方がありません。私は失礼しますわ」

リオの肩に置かれた手を解こうとすると抱き寄せられました。
震えてる?こんなリオは初めてです。皇女様の話が怖かったんでしょうか。背中をゆっくり叩きます。

「マール様、気にしないでください。大丈夫ですよ。ちゃんとマール様が傷つかないように手を尽くします。安心してください」
「俺は君が死ぬんじゃないかって」

私の心配ですか?
このリオも優しいことを忘れてました。

「大丈夫ですよ。心配しないでください。お気遣いありがとうございます」
「強くなるから。守れるように」

泣きそうな声で言われても…。弱ったリオなんて中々お目にかかれません。

「ご自分を守ってください。私は自衛の心得はありますわ」
「俺は君と一緒に生きたい。君のリオと違って頼りないかもしれないけど、努力する。待って、結局リオは君の何なの?」
「一度目は幼馴染兼従兄妹、2度目は従兄妹兼婚約者で夫ですかね。生前はルーン公爵令嬢でしたので幼い頃はよくマール公爵邸で遊んでいただきました」

震えが止まりましたし、もう大丈夫でしょうか?

「その立ち位置ずるくないか」

腕が解かれて不満そうな顔で見られていますが青白い顔ではなくなったことに安心しました。

「はい?」
「ビアードの立ち位置に俺がいたんだろう」

何を言い出すんでしょうか。相手をする気はないんですが大事なことだけ訂正しましょう。

「エイベルとは比べられないほど優秀で頼りになりましたので、比べるのは失礼ですよ。何を不機嫌になってるんですか」
「だって俺はずっと素っ気なくされてたのに、」

このリオはポンコツですわ。

「違う世界のお話です。落ち着いてください。離してください」
「同じリオなのにずるいよ。ずっと傍にいることが許されて」

不満を言われても困ります。相手をするのも疲れましたわ。立ち位置が同じでも私のリオではありません。傍にいることを許したんではありません。傍にいてくれるリオ兄様に私が甘えていただけです。

「そんなの知りません。私だってやり直したくなかったですよ。でも諦めるしかないんです。この用意された箱庭で足掻くしかないんです」
「ごめん。レティシアのほうが辛いよな。俺が傍にいて幸せにするから。いずれ君のリオを超えるから」
「無理です。用がないなら失礼します」

私は礼をして退室しました。このリオは大丈夫なんでしょうか…。生前の記憶があるなんて言われたら頭がおかしいと思われます。他人の生前の記憶での自分の立ち位置に不満に思ったりもしません。まだ学園生活が始まらないのに疲れましたわ。できるだけ関わらないようにしましょう。私はポンコツを婚約者候補にする気はありません。お父様の命があれば別ですが…。
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