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元夫の苦難18 前編
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学園ではレティシアに避けられていたが武門貴族の夜会で会えば側にいてくれた。派閥内での助け合いは暗黙ルールであり、マールのためと勘違いしているけど訂正しない。マールのためでなく俺自身のため。ビアードに婿入りしたいなら、武門貴族と親しくならないといけないから。
本当の理由を言えば離れていくのがわかっているから伝えない。
夜会で人気の美しいレティシアをエスコートできるのは役得だし、どんな理由でも傍にいられるのは嬉しい。それに武門貴族の夜会は和気あいあいとしていてレティシアは優しい顔や愛らしい顔を見せてくれる。うちの夜会での淑やかな令嬢とは別人のようで見惚れてしまう。離れず世話をやいてくれる時間は顔が緩みそうになるのを押さえるのに必死なのは贅沢な悩みだ。
レティシアは外泊中で学園にいなかった。夜会なら会えると楽しみにしていたが予想は外れた。
父上や母上は社交に積極的でない俺がレティシアのいるマールに無関係な夜会にばかり参加するのを物言いたげに見ているけど気にしない。
レティシアは前回の夜会で気難しい辺境伯にようやく顔を覚えてもらったと喜んでいた。
この夜会の招待状を受け取り、親睦を深めると意気込んでいたから、参加していると思っていたけどいないのか。レティシアの代わりに親睦を深め次回は二人でと招待状を受け取ったと伝えたら喜ぶだろうか。俺をレティシアの婚約者と勘違いしている者もいるが、匂わせたままで訂正しない。いずれ婚約の了承をもらうし、勘違いするほうも悪いよな。
翌日も学園にレティシアはいない。ビアード公爵夫人から教えてもらった予定には休養日しか社交は入っていない。
外泊届を調べるとレティシアではなくビアードの文字で処理され、期間は一月。
一月も留守にするのに生徒会に挨拶せずにレティシアは留守にするか?緊急案件ならビアードが学園にいるのはおかしいよな。
ビアードが珍しくビアード公爵邸に帰宅しているなら話を聞くか。
馬車から降りるビアードを見かけたので部屋の前で待っていると顔が強張っている。明らかに動揺しているビアードを脅して事情を聞いて正気を疑う。冗談かと思いたかったがさらに動揺している単純でわかりやすいビアードは冗談を言える器用な男ではない。
レティシアは行方不明だった。
捜索は騎士を向かわせただけ。きちんと捜索されているなら指揮をとるべきビアードがここにいるはずはない。話を聞くほど正気を疑う。証拠もなく、海の皇国関連のためビアード公爵家は動けない?
妹なら大丈夫という言葉に殴りたくなったが抑えた。
証拠もなく動けない?学園で公爵令嬢が姿を消した時点で動くには十分だ。ビアード公爵家が動けば侵略としてとらえられることはわかってもいくらでも他の手段がある。王家に報告して国として動くべき案件だ。同派閥のうちに要請を出せば海の皇国が相手でも穏便にすぐに動けるだけの力がある。なんで、捜索するための方法を探そうとしないんだよ。
レティシアは兄のために必死に動いていた。
一番簡単な方法を伝えても拒否するビアードに掴みかかりそうになり拳を握って堪える。
レティシアの保護した領民を差し出せば片付くのに、ビアードはレティシアよりも領民を優先した。顔に迷いも躊躇いもなく、ビアードも兄の判断なら全てを受け入れるレティシアも理解したくなかった。
本家の人間が攫われれば必死に探す。
ビアード公爵家だから不本意でも動けないって、兄でも民でも誰かが行方不明になればなりふり構わずレティシアなら必死に探すだろう!!そんな彼女を切り捨てる目の前の誰よりも信頼されてるビアードを殴りたくても、争う時間が惜しい。
ビアードが動かないならマールで動けばいい。俺は貴族としての権力を振るうのに躊躇いはない。
ビアードが見捨てるなら俺がもらってもいいよな。ビアードを説得する気もおきない。
もし、これでレティシアが死んだらビアードは平静を保てるのか?
レティシアの大丈夫という言葉を信じれるほど、俺は彼女を信頼できない。魔法の腕は凄くても力のない寝込んでばかりの小柄な少女。傷だらけで腹に短剣が刺さっても動じないレティシア。危機感がないのか生きることへの執着が薄いのか。死にかけていつも助けてもらったっとサラリと言うのは、裏を返せば助けがなければ死んでいたと気づいたときにゾッとした。
レオ様に頼み転移すると質素な部屋のベッドにレティシアはぼんやりと座っている。
怪我も制服に乱れもない様子に安堵した。駆け寄ってレオ様の転移で帰ろうとするとレティシアが首を横に振る。
強い瞳で帰らないと睨むのでとりあえず話を聞くか。
「主犯は?」
「メイ伯爵夫人です。そろそろ見張りの方が来るので帰ってください。うまくやります。心配してくれてありがとうございました」
笑顔で頭を下げるレティシアを残して帰るつもりはない。
「連れて帰りたいんだけど」
「魔封じさえ外れれば、自分で逃亡できます。それに逃げても無駄です」
迷いもなく即答し自信満々な顔で見られているが全く信用できない。
苦笑したレオ様がレティシアの魔封じの腕輪を壊すとニコリと笑う。
魔封じされてどうする気だったんだ?やはり全然大丈夫な状況には見えないけど・・。状況をわかっているんだよな?
「ローナ達の安全のためか?」
「はい。せっかくなので献上されて皇帝陛下か上位皇子様とお話してきます」
笑顔のレティシアの言葉に息を飲む。海の後宮に入れられたら逃亡できない。それに、
「献上って・・・。わかってるのか!?」
「なんとかしますわ。ここで逃げても同じことが起きます」
フラン王国で2番目に安全な場所である学園で攫われた。次がないとは言えないけど、ここに残る理由はない。頑固で決意を秘めた強い瞳で見つめる彼女がこのまま折れるとも思わなかった。危険なことは変わりない。無理矢理連れ戻したら勝手に動くかもしれない。献上なら準備まで時間がかかるから多少の余裕はあるし、体も傷つけられないだろう。
「ビアード公爵令嬢の誘拐でうまくまとめる。できるだけ時間を稼いで、待ってられるか?」
「マール様の手を借りる理由はありません」
微笑む彼女は何度伝えたらわかってくれるんだろうか。好きな女が献上されるなんて、それだけで動くには十分だ。王国民、特に公爵令嬢が攫われたら国が動くんだがレティシアはわかってくれない。なんで子供でもわかることが彼女はわからないんだよ。ビアード公爵は駄目でも公爵夫人なら動いてくれるだろう。力を入れたら折れそうな華奢な体を抱きしめる。連れて帰りたい。でもレティシアはきっとローナ達の安全を確保できるまでは、
「俺にも利がある。望む結果を捧げるよ。お礼は無事に帰国したら俺に1日くれればいい。駄目なら無理矢理連れて帰る。頼むから俺に任せて。時間を稼いで待ってて」
懇願しているとレオ様に肩を叩かれ顔を上げた。
「リオ、人が来る。また来るよ」
「レオ様、大事な御身です」
「自衛はできるから。またな」
俺の腕から抜け出して心配そうな顔でレオ様を見つめるレティシアにため息を我慢した。一番危険な状況にいてレオ様の心配って・・・。状況をわかってるんだよな・・?
苦笑しているレオ様の転移魔法でビアードの部屋に戻り、頼りにならないビアードはレオ様に任せる。父上とビアード公爵夫人に急ぎの面会依頼を出して、外泊届けを出してうちに帰る。
マール公爵邸に着くと母上に出迎えられた。
「お帰りなさい。旦那様が待ってるわ」
運良く帰っている父上に感謝し、執務室に行き人払いする。
「レティシアが攫われました。力を貸してください。ビアードは動きません」
父上に事情を話せば話すほど顔が強張る。これが普通の反応なんだよ。
心配しないビアードも、レオ様の御身だけを心配して動揺していないレティシアもおかしいんだよ。
「どう考えてもレティシア一人で解決できないだろう…」
「ビアードはおかしいんです。一人で帰国できると疑いもしない。ビアード公爵夫人を説得しますので、一時的に俺とレティシアの婚約を認めて下さい。マールの婚約者を連れ戻すためなら正当に動き俺が報復する理由になりますよね?」
捜索はできても、今の俺の立場だと報復はできない。報復する正当な権利を主張できるのは関係者だけだ。捜索もしないビアード公爵家に報復も期待できない。
ビアードとは違う意味でマールの名の影響力は強い。
父上に渡された書類を見ると婚約の打診と証明書だった。
婚約は当主のサインで整う。これにビアード公爵のサインをもらえば表面的には婚約は成立である。すでに用意されてるとは思わなかった。
「ビアード公爵はレティシアが自分の足で逃げてくると思ってるんだろうか」
不謹慎でもレティシアと自分の名前が書かれた証明書に顔が緩む。婚約披露はドレスを贈ったら着てくれるだろうか・・・。
でもこれはまだ一時的か・・。
「婚約してもまた破棄されると思いますが責任もっておさめます。でも2度、婚約するならいっそ、婚姻のほうが」
「まだレティシアの同意がないだろう」
父上の言葉に我に返り、頭を切り替える。最優先は無事に取り戻すこと。
「二度と手を出す気がおきないように動きたいのでよろしくお願いします」
「レティシアは無事か?」
「献上されるなら、皇帝か皇子を説得すると笑ってました。危機感皆無のレティシアには任せられません」
父上が苦笑しながら頷いている。俺はレティシアに任せたら不愉快だけど、献上されてそのまま愛妾にさせられる未来しか見えない。交渉の上手い彼女は綺麗な笑みを浮かべて自分の体さえ取引に使うかもしれない・・。あんなに美しいレティシアを皇帝が欲しがらないわけない。彼女を手に入れるならどんな条件ものみそうだ。交渉を終えて泣きそうな顔で身を差し出すレティシアを想像したら手が震えた。
「旦那様、ビアード公爵夫人がお見えですが」
「は?」
「急ぎの面会依頼を出したんですが、わざわざおこしくださるとは」
ビアード公爵夫人を呼んでもらい、頭を下げる。レティシアのことだからわざわざ足を運んでくれたんだろう。ビアードで動けなくても、心配はしているはず。
ビアード公爵家がレティシアを溺愛しているのは有名で事実だから。
「一時的で構いません。レティシアの婚約者にして下さい。連れ帰り今後手出しをさせないためには、婚約者の地位が必要です」
「うちは自己責任です。レティシアにもいつも言い聞かせてあります」
冷たい声で突き放すような言葉に頭を上げ、静かな顔で見つめる夫人の目を見返す。攫われたのが自己責任?
「領民のために自らの身を捧げ、誰にも助けを求めず他人のために亡くなることが美徳ですか?小さい肩で一人で背負おうとして押しつぶされようとも何も言わない、誰にも助けを求めないレティシアを、ビアードが見捨てるなら俺は勝手に動きます。正攻法以外もあります。皇帝に献上されるのを見守るくらいなら、攫って逃げます」
「あの子にきちんと教えてあります。それにレティが貴方の手を取るとでも?」
悔しいけど俺の差し出す手は振り払われるだろう。
ただレティシアなら自分を攫って俺が犯罪者として追われたら責任を感じて付いてきてくれる。彼女はとことん他人には甘いから。犯罪者にならなくても追っ手がいるかぎりは傍にいてくれる。そのあたりはいくらでも仕込める。
「いずれは。今は勝手に手を引いて連れ出します。力なら俺の方が強いんで」
「無断入国で学園に忍び込み令嬢を攫うなど許されません。攫われたのが武門名家のビアード公爵令嬢であってもです。忠義に厚い王家を第一に考えるビアード公爵令嬢であるまえに、フラン王国の公爵令嬢であり王国民。攫われたのなら、国として動くべきものです。それに被害が拡大しない保証もありません。たとえ証拠がなくても」
父上も参戦してくれるらしい。
マールとしても俺が単身で動くのは避けたいよな。レティシアと二人で逃亡生活も良い気がしてきた。情けないけど国外逃亡経験のあるレティシアと一緒なら苦労はしないだろう。
「エイベルよりも頑固ですね」
「マールの執着の血が濃いんでしょう。自分の欲望を最優先にするバカは愚息だけでしょう」
「レティシアをお願いします。一時的に認めます。婚姻はレティシアの心を手に入れたら口添えしましょう。書類を」
父上が差し出す書類にビアード公爵夫人がビアード公爵の名前でサインをした。父上が目を見張った。
「ビアードではよくあることです。レティも筆跡を真似るの得意ですよ」
微笑むビアード公爵夫人もやはりおかしい。当主のサインを夫人が代行したら駄目だろう。代行印がある意味って。
欲しい書類は手に入ったので、ビアード公爵夫人の見送りは母上に任せた。
「各国に捜索願いを出すか。海の皇国にも」
「俺も海の皇国に行きます」
「この機会に海の皇国と魔法の取り決めを。カナトを海の皇国に送る。レイヤとエレンには他国の捜索指揮を頼むか。殿下の転移魔法で居場所を突き止めたのは知られないように。リオが珍しくやる気なら私は陛下と話し合い、後方支援を」
「俺は婚約者を探しに行ってきます」
「船を使ってだからな。正攻法で。わかっているな?」
「はい。外交官として恐怖を贈ってきます」
苦笑する父上に礼をして、出立の用意を整える。
レオ様がいないとレティシアの居場所がわからないからどうやって探すか。メイ伯爵夫人の動向を探る方法を考えているとビアードから鳥が届けられた。
「レティシアの近くに行けば道案内する。終わったら返せ。餌も世話もいらない」と文に綴られていた。
さすがビアード公爵家。便利なものを育てているのに捜索にあたらないんだな。宝の持ち腐れ。
本当の理由を言えば離れていくのがわかっているから伝えない。
夜会で人気の美しいレティシアをエスコートできるのは役得だし、どんな理由でも傍にいられるのは嬉しい。それに武門貴族の夜会は和気あいあいとしていてレティシアは優しい顔や愛らしい顔を見せてくれる。うちの夜会での淑やかな令嬢とは別人のようで見惚れてしまう。離れず世話をやいてくれる時間は顔が緩みそうになるのを押さえるのに必死なのは贅沢な悩みだ。
レティシアは外泊中で学園にいなかった。夜会なら会えると楽しみにしていたが予想は外れた。
父上や母上は社交に積極的でない俺がレティシアのいるマールに無関係な夜会にばかり参加するのを物言いたげに見ているけど気にしない。
レティシアは前回の夜会で気難しい辺境伯にようやく顔を覚えてもらったと喜んでいた。
この夜会の招待状を受け取り、親睦を深めると意気込んでいたから、参加していると思っていたけどいないのか。レティシアの代わりに親睦を深め次回は二人でと招待状を受け取ったと伝えたら喜ぶだろうか。俺をレティシアの婚約者と勘違いしている者もいるが、匂わせたままで訂正しない。いずれ婚約の了承をもらうし、勘違いするほうも悪いよな。
翌日も学園にレティシアはいない。ビアード公爵夫人から教えてもらった予定には休養日しか社交は入っていない。
外泊届を調べるとレティシアではなくビアードの文字で処理され、期間は一月。
一月も留守にするのに生徒会に挨拶せずにレティシアは留守にするか?緊急案件ならビアードが学園にいるのはおかしいよな。
ビアードが珍しくビアード公爵邸に帰宅しているなら話を聞くか。
馬車から降りるビアードを見かけたので部屋の前で待っていると顔が強張っている。明らかに動揺しているビアードを脅して事情を聞いて正気を疑う。冗談かと思いたかったがさらに動揺している単純でわかりやすいビアードは冗談を言える器用な男ではない。
レティシアは行方不明だった。
捜索は騎士を向かわせただけ。きちんと捜索されているなら指揮をとるべきビアードがここにいるはずはない。話を聞くほど正気を疑う。証拠もなく、海の皇国関連のためビアード公爵家は動けない?
妹なら大丈夫という言葉に殴りたくなったが抑えた。
証拠もなく動けない?学園で公爵令嬢が姿を消した時点で動くには十分だ。ビアード公爵家が動けば侵略としてとらえられることはわかってもいくらでも他の手段がある。王家に報告して国として動くべき案件だ。同派閥のうちに要請を出せば海の皇国が相手でも穏便にすぐに動けるだけの力がある。なんで、捜索するための方法を探そうとしないんだよ。
レティシアは兄のために必死に動いていた。
一番簡単な方法を伝えても拒否するビアードに掴みかかりそうになり拳を握って堪える。
レティシアの保護した領民を差し出せば片付くのに、ビアードはレティシアよりも領民を優先した。顔に迷いも躊躇いもなく、ビアードも兄の判断なら全てを受け入れるレティシアも理解したくなかった。
本家の人間が攫われれば必死に探す。
ビアード公爵家だから不本意でも動けないって、兄でも民でも誰かが行方不明になればなりふり構わずレティシアなら必死に探すだろう!!そんな彼女を切り捨てる目の前の誰よりも信頼されてるビアードを殴りたくても、争う時間が惜しい。
ビアードが動かないならマールで動けばいい。俺は貴族としての権力を振るうのに躊躇いはない。
ビアードが見捨てるなら俺がもらってもいいよな。ビアードを説得する気もおきない。
もし、これでレティシアが死んだらビアードは平静を保てるのか?
レティシアの大丈夫という言葉を信じれるほど、俺は彼女を信頼できない。魔法の腕は凄くても力のない寝込んでばかりの小柄な少女。傷だらけで腹に短剣が刺さっても動じないレティシア。危機感がないのか生きることへの執着が薄いのか。死にかけていつも助けてもらったっとサラリと言うのは、裏を返せば助けがなければ死んでいたと気づいたときにゾッとした。
レオ様に頼み転移すると質素な部屋のベッドにレティシアはぼんやりと座っている。
怪我も制服に乱れもない様子に安堵した。駆け寄ってレオ様の転移で帰ろうとするとレティシアが首を横に振る。
強い瞳で帰らないと睨むのでとりあえず話を聞くか。
「主犯は?」
「メイ伯爵夫人です。そろそろ見張りの方が来るので帰ってください。うまくやります。心配してくれてありがとうございました」
笑顔で頭を下げるレティシアを残して帰るつもりはない。
「連れて帰りたいんだけど」
「魔封じさえ外れれば、自分で逃亡できます。それに逃げても無駄です」
迷いもなく即答し自信満々な顔で見られているが全く信用できない。
苦笑したレオ様がレティシアの魔封じの腕輪を壊すとニコリと笑う。
魔封じされてどうする気だったんだ?やはり全然大丈夫な状況には見えないけど・・。状況をわかっているんだよな?
「ローナ達の安全のためか?」
「はい。せっかくなので献上されて皇帝陛下か上位皇子様とお話してきます」
笑顔のレティシアの言葉に息を飲む。海の後宮に入れられたら逃亡できない。それに、
「献上って・・・。わかってるのか!?」
「なんとかしますわ。ここで逃げても同じことが起きます」
フラン王国で2番目に安全な場所である学園で攫われた。次がないとは言えないけど、ここに残る理由はない。頑固で決意を秘めた強い瞳で見つめる彼女がこのまま折れるとも思わなかった。危険なことは変わりない。無理矢理連れ戻したら勝手に動くかもしれない。献上なら準備まで時間がかかるから多少の余裕はあるし、体も傷つけられないだろう。
「ビアード公爵令嬢の誘拐でうまくまとめる。できるだけ時間を稼いで、待ってられるか?」
「マール様の手を借りる理由はありません」
微笑む彼女は何度伝えたらわかってくれるんだろうか。好きな女が献上されるなんて、それだけで動くには十分だ。王国民、特に公爵令嬢が攫われたら国が動くんだがレティシアはわかってくれない。なんで子供でもわかることが彼女はわからないんだよ。ビアード公爵は駄目でも公爵夫人なら動いてくれるだろう。力を入れたら折れそうな華奢な体を抱きしめる。連れて帰りたい。でもレティシアはきっとローナ達の安全を確保できるまでは、
「俺にも利がある。望む結果を捧げるよ。お礼は無事に帰国したら俺に1日くれればいい。駄目なら無理矢理連れて帰る。頼むから俺に任せて。時間を稼いで待ってて」
懇願しているとレオ様に肩を叩かれ顔を上げた。
「リオ、人が来る。また来るよ」
「レオ様、大事な御身です」
「自衛はできるから。またな」
俺の腕から抜け出して心配そうな顔でレオ様を見つめるレティシアにため息を我慢した。一番危険な状況にいてレオ様の心配って・・・。状況をわかってるんだよな・・?
苦笑しているレオ様の転移魔法でビアードの部屋に戻り、頼りにならないビアードはレオ様に任せる。父上とビアード公爵夫人に急ぎの面会依頼を出して、外泊届けを出してうちに帰る。
マール公爵邸に着くと母上に出迎えられた。
「お帰りなさい。旦那様が待ってるわ」
運良く帰っている父上に感謝し、執務室に行き人払いする。
「レティシアが攫われました。力を貸してください。ビアードは動きません」
父上に事情を話せば話すほど顔が強張る。これが普通の反応なんだよ。
心配しないビアードも、レオ様の御身だけを心配して動揺していないレティシアもおかしいんだよ。
「どう考えてもレティシア一人で解決できないだろう…」
「ビアードはおかしいんです。一人で帰国できると疑いもしない。ビアード公爵夫人を説得しますので、一時的に俺とレティシアの婚約を認めて下さい。マールの婚約者を連れ戻すためなら正当に動き俺が報復する理由になりますよね?」
捜索はできても、今の俺の立場だと報復はできない。報復する正当な権利を主張できるのは関係者だけだ。捜索もしないビアード公爵家に報復も期待できない。
ビアードとは違う意味でマールの名の影響力は強い。
父上に渡された書類を見ると婚約の打診と証明書だった。
婚約は当主のサインで整う。これにビアード公爵のサインをもらえば表面的には婚約は成立である。すでに用意されてるとは思わなかった。
「ビアード公爵はレティシアが自分の足で逃げてくると思ってるんだろうか」
不謹慎でもレティシアと自分の名前が書かれた証明書に顔が緩む。婚約披露はドレスを贈ったら着てくれるだろうか・・・。
でもこれはまだ一時的か・・。
「婚約してもまた破棄されると思いますが責任もっておさめます。でも2度、婚約するならいっそ、婚姻のほうが」
「まだレティシアの同意がないだろう」
父上の言葉に我に返り、頭を切り替える。最優先は無事に取り戻すこと。
「二度と手を出す気がおきないように動きたいのでよろしくお願いします」
「レティシアは無事か?」
「献上されるなら、皇帝か皇子を説得すると笑ってました。危機感皆無のレティシアには任せられません」
父上が苦笑しながら頷いている。俺はレティシアに任せたら不愉快だけど、献上されてそのまま愛妾にさせられる未来しか見えない。交渉の上手い彼女は綺麗な笑みを浮かべて自分の体さえ取引に使うかもしれない・・。あんなに美しいレティシアを皇帝が欲しがらないわけない。彼女を手に入れるならどんな条件ものみそうだ。交渉を終えて泣きそうな顔で身を差し出すレティシアを想像したら手が震えた。
「旦那様、ビアード公爵夫人がお見えですが」
「は?」
「急ぎの面会依頼を出したんですが、わざわざおこしくださるとは」
ビアード公爵夫人を呼んでもらい、頭を下げる。レティシアのことだからわざわざ足を運んでくれたんだろう。ビアードで動けなくても、心配はしているはず。
ビアード公爵家がレティシアを溺愛しているのは有名で事実だから。
「一時的で構いません。レティシアの婚約者にして下さい。連れ帰り今後手出しをさせないためには、婚約者の地位が必要です」
「うちは自己責任です。レティシアにもいつも言い聞かせてあります」
冷たい声で突き放すような言葉に頭を上げ、静かな顔で見つめる夫人の目を見返す。攫われたのが自己責任?
「領民のために自らの身を捧げ、誰にも助けを求めず他人のために亡くなることが美徳ですか?小さい肩で一人で背負おうとして押しつぶされようとも何も言わない、誰にも助けを求めないレティシアを、ビアードが見捨てるなら俺は勝手に動きます。正攻法以外もあります。皇帝に献上されるのを見守るくらいなら、攫って逃げます」
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悔しいけど俺の差し出す手は振り払われるだろう。
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「いずれは。今は勝手に手を引いて連れ出します。力なら俺の方が強いんで」
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父上も参戦してくれるらしい。
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「エイベルよりも頑固ですね」
「マールの執着の血が濃いんでしょう。自分の欲望を最優先にするバカは愚息だけでしょう」
「レティシアをお願いします。一時的に認めます。婚姻はレティシアの心を手に入れたら口添えしましょう。書類を」
父上が差し出す書類にビアード公爵夫人がビアード公爵の名前でサインをした。父上が目を見張った。
「ビアードではよくあることです。レティも筆跡を真似るの得意ですよ」
微笑むビアード公爵夫人もやはりおかしい。当主のサインを夫人が代行したら駄目だろう。代行印がある意味って。
欲しい書類は手に入ったので、ビアード公爵夫人の見送りは母上に任せた。
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「俺は婚約者を探しに行ってきます」
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「はい。外交官として恐怖を贈ってきます」
苦笑する父上に礼をして、出立の用意を整える。
レオ様がいないとレティシアの居場所がわからないからどうやって探すか。メイ伯爵夫人の動向を探る方法を考えているとビアードから鳥が届けられた。
「レティシアの近くに行けば道案内する。終わったら返せ。餌も世話もいらない」と文に綴られていた。
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