追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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元夫の苦難21

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レティシアが絡まれたら教えて貰えるように生徒達に頼んでいた。
海の皇国から帰国してから、俺の味方をしてくれる令嬢が増えた。
レティシアのクラスメイトに呼ばれていくと、マートン嬢にレティシアが言いがかりをつけられている。この二人は相性が悪い。
同じ学年、クラスに上位貴族がいれば周囲が比べるのは当然である。
男女ともにマートン嬢よりもレティシアのほうが人気があり、成績もいい。
病弱なご令嬢という嘲笑を受けていたレティシアは、最近は公爵令嬢としての評価も上がっている。
マートン嬢の言いがかりは、嫉妬丸出しだよなぁ。
ビアード公爵家はレティシアを溺愛している。
嫡男がいる家のご令嬢が婿をとると公言するのは家として手放せない価値があると示している。
公爵家では家のためにならない令嬢は、あきらかに家格の低い家に嫁がされる。
嫡男がいるのに婿取りを願われるご令嬢は稀だけど。
クロード殿下も体さえ丈夫ならレティシアを婚約者に選びたかったと言っていた。
王宮で殿下の執務を手伝ったご令嬢はレティシアだけらしい。
優秀で王妃教育が必要なさそうという理由でレティシアを婚約者に選びたかったと話す殿下のことを知れば、他の令嬢達はどうするんだろうか。
ビアードはレティシアには務まらないと冗談として流していたが…。
レティシアへの婚約の申し出は凄いらしい。人気のある男に近づかなくても惹かれる男が多いと気づかないのは彼女らしい。
婚約できたのは運がよかった。
淑やかさが女性の美徳とされるフラン王国で、家格の高いレティシアに喧嘩を売るマートン嬢は美人でも、婚約したいとは思えないよな。
勝てる見込みがないのに、挑むあたりも、浅はかと文官貴族は失笑するだろう。家門の発展を妨げ、悩みの種を作るのが簡単に想像できる。
俺にとっては明らかにレティシアのほうが美人で可愛いし、内面の好戦的な所さえも微笑ましいけど。
そろそろ自分より家格の高い公爵家に喧嘩を売ることは醜態と気づかないんだろうか。
平等の学園とは表向きだけ、わざわざ教えるほど親切でもないし自滅するなら自業自得。
いつの間にかレティシアがビアードに不要から俺との婚約の話になっている。

「全く興味なさそうだったのに」
「正直、興味はいまでもありません。」
「なんですって!?」
「私はマール様の魅力はわかりません」

知ってるけど、はっきり言われるとなぁ。
時間も惜しいし俺の話題なら介入していいよな。

「そこまではっきり言われると傷つくんだけど」

レティシアの肩を引き寄せると目を大きく開けて驚いた顔に笑ってしまった。
腕の中に大人しく収まる様子に気分が浮上する。面倒事が嫌いなレティシアに婚約破棄したいと言われないようにマートン嬢に釘を刺すか。
見せしめには丁度いい。マートンとマールは派閥が違うから遠慮もいらない。

「俺が必死に口説いて婚約の了承をもらった。レティシア以外は興味ないから。婚約のことで文句があるなら俺に言ってよ。ビアードとマールで抗議するから楽しみにしてほしい」

呆然とするマートン嬢と違ってきょとんとしているレティシアが可愛い。
頭を撫でると気持良さそうに目を閉じる。
二人っきりになりたいけど、カーチスに伝言を伝えてからか。カーチスは仕事を溜める。
レティシアならいくらでも助けるし世話をやきたいけど、カーチスの世話は面倒だ。

「レティシア、行こうか。カーチス、今日は会議中止だから。書類明後日までにまとめろよ」

カーチスの悲鳴は気にせず、レティシアの手を引いて部屋に行く。
急遽生徒会が中止になったから予定も空いているだろう。
ただ共に過ごしたいと言っても、レティシアは全く動じなかった。俺には一切興味がないのが、よくわかった。
母上から預かったレティシアの仕事を渡しても立ち去ろうとするレティシアの行動が止まった視線の先には蜂蜜ケーキだった。
時々物凄くわかりやすい。
お茶に誘うと素直に椅子に座った。
ゆっくりとお茶に口をつけ微笑んだから、マールの紅茶は気に入ったのか。
蜂蜜ケーキを口に含んで目を閉じ、しばらくするとゆっくりと目を開け、うっとりと微笑んでいる。今までで一番幸せそうに食べている。
蜂蜜の中でもこれは別格なのか。この顔は誰にも見せたくないよな。食べ終わったレティシアが俺の顔を見て、視線を落とした。
レティシアの瞳が無防備になるとわかりやすい。きっとまた重ねてるんだろう。
侍従を視線で追い出して、ぼんやりしているレティシアを抱き上げて座る。
抱きしめて頭を撫でるとゆっくりと俺の胸に体を預け、しばらくすると顔を上げた。
レティシアの小さな手が頬に添えられ潤んだ瞳で見つめられている。うっとりとしているレティシアにゆっくりと顔を近づけると目を閉じたので、唇を重ねた。レティシアの顔がとろけ、熱に溺れたくなり口づけを深くする。ケーキよりも甘い口づけに体が熱くなり脳がおかしくなる。

「!?」

背中が一瞬冷たくなり顔をあげても気配はない。レティシアの潤んだ瞳と、ほんのり赤く染まった頬、吸い寄せられる唇から無理矢理視線を背けて強く抱きしめた。また理性が働かなくなる。

「駄目だ。あと4年」

「マール様?」

全身が熱くなっている。
彼女が欲しい。たぶん顔を見たら止まらない。

「ごめん。少しこのままで」

腕の中から笑い声が聞こえた。欲望に染まった顔を見られて怖がられるよりいいか。

「レティシア、もし俺が怖くなったら倒していいから」
「想像できませんがわかりました」

無防備なレティシアは俺が理性と戦っていることに気づかないんだろうか。
笑っているレティシアは可愛い。
ここで手を出したら婚姻できなくなる。絶対にビアード公爵に斬られる。
ようやく、落ち着いてきた。
レティシアの顔を見ても大丈夫そうだ。何度目かわからない言葉を口にする。

「無理して俺を見なくていいよ。君のリオでいい。君の目の前にいるのは俺だから」
「マール様?」

レティシアが俺と彼女のリオを重ねないようにしているのはわかる。
それで悲しむなら、混同したままでいい。
もともと俺はリオを好きなレティシアを好きになったから。

「俺は君が傍にいてくれるだけでいい。できれば笑ってほしいけど。あともう少し甘えてほしい。自覚ないだろうけど、君がリオに甘える姿はかなり可愛いんだよ。あれが見れるなら、なんでもしたくなる」

「変わってますわ」

頑固なレティシアは決して俺の誘いに乗らないけど否定されなくなったのは前進だろう。

「シアって呼んでいい?」
「やめてください」

即答は変わらない。
特別な愛称をいつかは呼ばせてもらえるんだろうか。

「寂しいなら、いくらでも抱きしめるよ。記憶があるならいくらでも思い通りにできるだろう?」
「できません。すべてが違いますもの。私はビアード公爵令嬢として平穏に過ごせればいいんです」

俺は生前の記憶があるなら絶対に利用する。
思い出したらビアード公爵家に訪問してレティシアに近づく手段を考える。できればあのシスコンを…。夢が平穏ってもっと他にないんだろうか…。

「投げやりすぎないか?」
「人生諦めが肝心ですわ。気にしないことが一番です」

作り笑いをしているレティシアは無自覚だろうか。

「そのわりに、こだわっているよな?なら俺がシアって呼んでもいいよな?いい加減リオって呼んでくてないか?」
「家格の低い者の無礼は許されませんわ」

レティシアは自分より家格の低い奴らに呼びすてされてるのによく言うよな。
一番納得いかないのは、

「兄上はカナト様って呼んでなかったか?」

きょとんとした顔のレティシアが悩んでいる。

「リオ様とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「様がいらない」
「マール公爵家の方に、無礼は許されません」
「エドワードは?」
「エディは子供です」

エドワードを子供扱いするのは彼女だけだろう。子供らしさの欠片もなく、無愛想な従弟は残念ながら全く可愛くない。

「子供って・・・」
「マール様、私はそろそろ失礼しますわ。ご馳走様でした」

抜け出そうとするレティシアを抱く腕に力をこめた。

「俺はそんなに駄目?」
「はい?」
「男として全く興味持てない?」
「マール様というより、私は他人に興味がありません。貴族らしく家に必要な者としか関わる気はありませんわ」

レティシアが気にかけてる奴らは家としては全く価値のない奴らばかりなんだけど、無自覚なんだろうか?
特に海の皇国関係。

「君からそんな言葉が出るとは」
「私は自身の務めを果たすだけですわ。ただ貴方とはどうお付き合いするか試行錯誤中です」

レティシアが俺とのことを考えてくれているのは意外だった。
試行錯誤しなくても簡単なのに。

「もう少し俺との時間を増やして欲しい」
「婚約者って、そこまで一緒にいるものではないような…。マール様、私はこれでも多忙です。最近は自分の訓練の時間もとれません」

レティシアは確かに多忙だ。
生徒会、生徒の指導に相談、ビアードの騎士と魔導士育成、令嬢達との交流、あげだしたらきりがない。
学園内なら殿下の次に多忙かもしれない。

「もう少し人を使えばいいんだよ。全部自分でやるから忙しい」
「マール様、私にはエイベルとステラとフィルとアロマしかいません」

あんなに信者がいて、4人だけ!?
レティシアは人の使い方が下手かもしれない。そういえばアナ達の指導も全て個別指導だった。
去年のダンスパーティーも深夜まで準備をしていたとレオ様から聞いたよな。
言ってくれれば手伝ったのに。カーチスがほぼレティシアに任せた話を聞いて、後日指導はしたが
悔やまれる。
騎士志望の生徒とレティシアのやり取りは、おもしろくないから引き受けるか。
レティシアのビアードとしての活動も少し手を回すかな。
一人で全部やってるんだよな。
訓練をつけるのはビアードだが、手配はレティシアだしな。ビアードは頼りにならないからな。あれが義兄か…。カナト兄上よりは扱いやすいからいいか。

「騎士の訓練の手配は俺が引き受けるよ。」
「いえ、お気持ちだけで」
「とりあえず任せてみてよ。その代わり空いた時間を俺に譲って」

不思議そうにしているレティシアは、側にいたいと幾ら言っても伝わらない。
頷いてくれたからいいとするか。
俺が側にいられないのに、他の男の相手をされるのはおもしろくない。
複製した部屋の鍵を渡すと拒否されなかったから、きっとこれからも来てくれるだろう。
卒業したら部屋を譲ると話すと満面の笑みを浮かべ、カーチスに怒られるとしょんぼりしたレティシアを宥めると嬉しそうに笑う。
上機嫌なレティシアは母上から預かった仕事を始めた。
俺の膝の上でも気にせず、ペンを走らせてるけど速度が早い。
気づくとほとんど終わらせていた。レティシアの語学力どうなってるんだ…。
レティシアが俺の膝の上から立ち上がるとレオ様が来た。
レオ様にお茶に誘われて、すぐに応じるレティシアを見て、切なくなる。
どうすれば彼女が俺といてくれるようになるんだろうか。
珍しい本でも取り寄せるか?
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