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元夫の苦難22
会議が終わったので、仕事に戻るレティシアを連れて部屋に戻った。自分からは来てくれないが誘うと応じてくれるだけでも嬉しかった。レティシアは書類仕事が得意なので殿下も多めに仕事を回している。外回りにさせると問題に巻き込まれるので内務を任されている。レティシアは見回りに行かなくても下級生や身分の低い生徒の相談を持ち込むが・・・。ただクロード殿下はレティシアの働きを評価している。彼女が生徒会に入ってからは身分の低い者達の学園での生活が改善され、成績も上がっている。また身分の低い者達の俺達貴族への視線も変わった。平民から意見や相談が生徒会に持ち込まれるなど以前は考えられなかった。俺は不満があるとも思っていなかった。クロード殿下は来年度は平民の生徒会役員の登用も視野にいれている。
レティシアはクロード殿下に気に入られてることに気付いていない。生徒会での問題児と思い込んでいる。毎回ビアードに生徒会室で怒られてる所為だろう。普段は仕事も完璧だし2年生だから抜けがあるのは仕方ないと思うんだけど。レティシアはレート嬢の指導で3か月で一人前と言われた。カーチスは二年になっても俺の指導の手を離れないのは勘弁してほしい。
珍しくレティシアの手が止まっていた。声を掛けると首を振ってまたペンを走らせた。ぼんやりしてただけか。レティシアの集中力は凄い。俺がじっと見ていても全く気付かない。
「邪魔か?」
「大丈夫ですよ」
レオ様が突然訪問するのはいつものことだ。全く気付かないレティシアを見て笑っている。レティシアに追跡魔法を仕込みたいけど、ずっと持ってるものって何があるんだろうか・・。
レオ様は自由な人だ。勝手にお茶を淹れている。
レティシアとの仲を取り持ってくれるからありがたい。それにレオ様は博識だから話していて楽しい。クロード殿下より優秀なのが気付かれないように愚鈍なフリをしている。アリア様は怖い人だから。いくら碌な教育を受けていなくても、シオン伯爵令嬢だったサラ様が教育したレオ様が無能に育つことはないだろう。情緒面ではなく知識のほうは。シオンの血を引いて優秀でない人間はいない。だからこそアリア様は警戒している。若く美しく聡明な側妃。サラ様は陛下に気に入られなければ幸せだったろうに・・・。レオ様のサラ様と研究三昧な日を送りたいという夢は王子の立場なら簡単に叶うはずなのに。レティシアがレオ様を気にかけている理由もよくわかる。優しい彼女は不遇な王子を放っておけない。俺はレティシアのほうが大事だから優しくて甘い彼女が王家の闇に飲まれないように気をつけないといけない。
感情に任せたビアード兄妹がレオ様を擁護し反乱の疑いをもたれる未来は絶対に回避しないと。ビアードの迎える妻が俺と同じタイプだとありがたい。
レオ様の淹れたお茶を飲みながら、談笑してしばらくするとレティシアが顔をあげ驚いた顔をした。ようやく気付いたのか。
楽しそうなレオ様が瓶の中の木を見せるとレティシアの顔が真っ青になった。
瓶から出した木が歩いている。レオ様の笛に合わせて踊っている。動く木は初めて見たな。
「面白いだろ?もう少し欲しいんだけどまた育ててほしい」
レティシアが育てたのか!?
「嫌ですよ。動く木なんて恐怖ですよ。起きたら自分がミイラになってるなんてゾッとします。」
「なんでレティシアの育てたのだけ、こうなったんだろうか。わかるか?」
木と会話しているレオ様は大丈夫だろうか。レオ様の声に反応して動く木は中々面白い。
「そうか・・。」
「レオ様、私は心配でたまりません。研究するのは良いですが、眠った方が。眠る時はその木は封印してくださいよ。貴方も、レオ様に危害を加えたら燃やしますよ。こっちこないでください。レオ様、これ危険です。処分しましょう。私は火の魔石持ってますわ」
近づく木にレティシアが怯えた顔で震えている。ここで火の魔法を使われても困る。レオ様の瓶の中に木を戻すか。瓶を木の上に掲げると勢いよく吸い込まれた。蓋をすると瓶の中で木が動き回っている。この瓶も何か仕掛けがあるのか。薄いガラスだけど割れる様子はない。
「なにがそんなに怖いんだ?」
「世の中には人をミイラにする木の魔物もいます。土と水属性の魔導士は要注意ですよ」
「喜んでくれると思ったんだが・・・。エイベルは喜んだのに。自由自在に動く木がいればできることが増えるって」
「ポンコツ・・・。気にしないでください。うちの兄も最近頭がおかしいみたいですわ。ビアード領で育てるなら私が責任もって焼き討ちにしますわ。動く木に襲われビアード公爵家断絶・・。木が」
レティシアが頭を抱えて震え出した。
「レティシア、落ち着いて」
「私はやることができたので失礼しますわ。」
飛び出していったレティシアの荷物を侍女がまとめて礼をして追いかけた。
「レオ様、危険なものは手を出さないでください」
「エイベルが喜ぶものはレティシアが嫌がるのはなんでだろうか・・?」
「兄弟でも嗜好は違いますから」
レオ様は知識が豊富でも、それ以外が乏しい。
王族の顔と素の顔の差が激しい。父上は未だにレオ様との付き合い方に悩んでいる。レオ様の視察の予定が入るたびに俺を巻き込むのはやめてほしい。ただレティシアとのことで感謝しているから逆らえない。
***
サイラスと訓練をおえて玄関に行くとレティシアの靴がまだあった。ビアードは今日は殿下の傍にいる日だ。
「リオ、待ってれば。たぶん一人だと思うよ」
「なんで?」
「フィルとグレイ嬢の靴がない。訓練場にもいなかったし。それにレティシア嬢は暗くなる前に帰るように躾られてるから」
「そうか。ありがとう。また明日」
先に帰るサイラスを見送りしばらく待つとレティシアが一人で現れた。
俺を見て不思議そうな顔をして、鞄の中からお菓子を差し出された。
「リオ様、あげます」
受け取るとまだ温かった。チョコのお菓子が包まれていた。
「ごめんなさい。やっぱり返してください」
「え?」
「まだ花を添えてませんでした」
焦って手を伸ばすレティシアの考えを察した。包みなんて気にしないのに。
「花?いや、これで十分だよ。作ったのか?」
「はい。お礼です。」
にっこり笑う顔が可愛くて思わず抱きしめた。
「ありがとう。嬉しいよ。」
いつまでも抱きしめていたいけど、外は真っ暗だ。レティシアの手を引いて寮まで送った。レティシアから贈られたお菓子にはレティシアの髪を結ぶ物と同じ青いリボンが飾られていた。リボンは彼女の作った木箱に魔石と共にいれた。中から刺繍入りのハンカチを取り出した。勿体なくて使うことはできなかった。一生懸命勉強刺繍した姿を思い浮かべると顔がニヤける。彼女との思い出が増えていくことが嬉しくてたまらない。
彼女が離れないように思考を巡らす。
リボンを贈れば身に付けてくれるだろうか。普段は解いていても、作業するときはリボンでよく結っているよな。
見つからないように追跡魔法を仕込むか・・?色々贈れば何かしら身に付けてくれるだろうか。
取り寄せた魔導書を開き、どれがいいか眺める。さすがに追跡魔法を集めた魔導者はレティシアには見せられないので寮の自室に置いてある。見つかったらレオ様の魔石のように身に付けるのをやめるのが目に見えている。
***
移動教室の帰りにレティシアを見つけた。
「レティシア」
声をかけてもふらふらと歩いている。腕を掴んで、顔を見ると焦点が合っていなかった。
目元にクマができているし顔色も悪い。
次の授業はサボることを決めた。抱き上げると、ゆっくりと目を閉じた。寝息が聞こえたので俺の部屋に向かった。
長椅子に寝かせて毛布をかけた。
「木が、やめて」
声に視線を向けると魘されている。
「こないで、木」
抱き上げて頭をゆっくり撫でても、眉間の皺は消えなかった。
ゆっくりと目を開けたレティシアがきょとんとしている。寝起きのあどけない姿はいつ見ても可愛い。抱きしめてゆっくりと頭を撫でた。寝息は聞こえないので起きているのか・・。
「レティシア、眠れてないのか?」
「いえ、」
「木に襲われるのか?」
不思議な顔をして首を傾げている。
「なんで?」
「魘されてたから。木がって。そんなに怖いのか?」
「夢の中でエイベルが木にビアードの制服を着せて指揮してるんです。現実ではバカなことを」
震え出したレティシアの恐怖は夢だけじゃないのか。レティシアからビアードがバカとは初めて聞いた。
「バカなこと?」
「動く木をビアードで育てるって。苦い回復薬作りも諦めないし。もうどうすれば」
俺の胸を握る手は震えている。苦い回復薬ってあれか!?エドワードに譲ってほしいって確かにバカなことを言っていた。魔物も怖がらないレティシアがここまで怯えるものは蛇以外で知らない。
「俺がなんとかするよ。なんでそんなに怖いんだ?」
「木の魔物は土属性と水属性の魔導士を取り込みミイラにするものもいます。安易に攻撃すると吸収されて・・・・・」
俺の腕の中で震えるのは水の魔導士。ビアード、バカじゃないか・・。そんな危険なものをレティシアの傍におけるかよ。
「ビアード領に生息にするのか?」
「今のところ見たことありません。森の国にたくさん生息する魔物です。なんで薬草を育ててたら動く木になったんでしょうか。あの薬草さえ育てなければ。エイベルが苦い回復薬に興味を持つから・・・。騎士なのに危機感が」
あのバカ。レティシアよりも兄のほうがやばかった。叔父上はビアード公爵夫妻もおかしいって言っていた・・。
「魔物の育成は違法だから俺に任せてよ。ビアードに説明するよ。」
「エイベルは全然言うこと聞きません」
「交渉は俺の方が得意だから。これでも先輩だから」
「リオ様は時々頼もしいですね。私、頭がおかしい人ばかりでビアードの未来が不安でたまりません」
泣きそうな顔のレティシアの頭を撫でていると手の震えは止まった。
「ビアードがおかしいのはよく知ってるよ。もう少し眠るか?」
「膝貸してください」
俺の膝を枕にして眠りについたレティシアに驚いた。侍従に小声で命じて幾つか資料の手配をさせた。バカな義兄に現実を教えないといけない。
侍従が用意した資料に目を通しているとレティシアが目を覚ました。
「申し訳ありません」
謝るレティシアの頭を撫でる。
「もう少し眠ってていいよ」
幸せそうに笑ったレティシアが目を閉じた。たぶん間違えてるんだろうな。彼女のリオは膝の上で寝かしていたのか。
しばらくしてレティシアの瞼が上がり悲しそうな瞳で見上げられた。抱き上げて抱きしめると泣きそうな顔で腕から逃げようとするので腕に力を入れた。一人で泣いて欲しくなかった。
いつのまにか瞳から溢れる涙は拭っても止まらない。涙を止める方法を彼女のリオなら知っていたんだろうか。
「泣いていいよ。俺はリオが好きな君が好きなんだ」
「よわくて、ごめんなさい」
たぶんレティシアが弱いことを知っている人間は少ない。彼女は必死に虚勢を張ってるだけだ。いくらでも甘えてくれればいいのに。
「俺が守るから弱くていいよ。傍にいてくれるだけでいい。強がらないでいいよ。我慢しないで」
「私、我儘です」
「大歓迎。いくらでも叶えるよ。ビアードのバカは俺がなんとかしてやるから、一人で頑張らなくていい。何か企んでるなら手を貸すよ」
涙の止まったレティシアにほっとした。泣くのを我慢している顔ではない。
「立場的にはエイベルが上です」
「頭を使えばいいんだよ。レティシアの自慢の兄より俺の方が優秀だから」
自然に笑った顔にもう大丈夫なようだ。涙のあとを指でそっと拭うとふんわり笑う。
「自意識過剰ですわ。否定はしません。エイベルは座学は駄目ですから」
「まずは動く木のことは諦めさせてあげるよ」
「どうして知ってますの?私、ここにきた記憶がないんですが」
不思議そうな顔をする彼女は覚えてないのか。別にいいか。
強がりなレティシアは不安で泣いたなんて知ったら気にするかもしれない。
「ぼんやりしてたから保護しただけ。寝かせ方を覚えたから眠れなかったらおいで」
「お気持ちだけで」
今度からは勝手に寝かせよう。レティシアは頑固で意地っ張りだから。
リオと重ねないように必死に足掻いている。無駄なことはやめればいいのに。レティシアの無自覚な変化は嬉しい。人気者の彼女の素顔を自分しか知らないことも。
レティシアの手を繋いで寮に送りそのままビアードを訪ねた。
各領ごとに決まりがある。
魔物の育成には国の認可がいる。ビアード領では魔物は討伐と決められている。また未知のものを研究するときは研究所と国の認可が必要である。
研究所にも種類がある。未知のものの研究が許されるのは高等研究所だけだ。高等研究所を抱えるのはシオン領とルーン領のみ。他の研究所では既存のものの研究しかできない。ビアードで動く木を調べて育成したら法に触れる。
ビアードに資料を渡した。これで諦めないならビアード公爵は目指さない方がいいと思う。
「いい考えだと思わないか?」
「違法で捕まる。魔物の育成したいならシオン伯爵家に行けよ。俺とレティシアを巻き込むな。」
「高等研究所か・・」
資料を読んでも諦めきれないのか…。
「ビアードには認可がおりない。俺もレティシアも手伝わない。多大な手続きと根回しを自分でできるのか?シオン嬢のような研究者の集まりを制御できるのか?」
「シオン嬢・・・。」
「シオン嬢と婚姻すれば高等研究所も夢ではないけどな。木を指揮するなら薬に狂った騎士を指揮するのも変わらないか」
「無理だ。レティシアが倒れる」
「すでにお前のバカな考えで一度倒れたよ。あんまり妹に世話をかけさせんな」
「あいつは木を焼き討ちにするって」
俺は危ないものにレティシアを近づけたくない。焼き討ちする前に育てる施設を潰してやるよ。
「俺はマールを介した取引に制限かけるかな。調合できなくなったら困るだろう?」
「危険な場所に木を送れば」
「ビアード、休んだほうがいい。お前、頭がおかしくなってる。次、バカなこと言えばビアード公爵夫人に伝えるからな。レティシアが心労で倒れたことも含めて」
ここまで言えば大丈夫だろう。
俺は自室に帰った。これでわからなかったら殿下に相談しよう。厳しく叱ってくれるだろう。
ビアードのバカを止めたらレティシアに物凄く感謝された。今までビアードが苦労していると思ったが本当は逆かもしれない。一見レティシアのうっかりが多すぎて目立つけど、本当にまずいのはビアードの方か…。次期ビアード領主がビアードの規則を理解できてないって大丈夫なのか・・・。
だからレティシアが婿取りなのか。ビアードは強くなって騎士を率いて王家に尽くす。その他はレティシアが全部引き受けるのか。
ビアード公爵家の内情を知るほど不安しかでない。全てを物理で解決しようとする家だから仕方ないか。暗躍できずに正面突破が好きそうな人達だもんな。どうにもならなかったらレティシアを連れて逃げよう。
レティシアはクロード殿下に気に入られてることに気付いていない。生徒会での問題児と思い込んでいる。毎回ビアードに生徒会室で怒られてる所為だろう。普段は仕事も完璧だし2年生だから抜けがあるのは仕方ないと思うんだけど。レティシアはレート嬢の指導で3か月で一人前と言われた。カーチスは二年になっても俺の指導の手を離れないのは勘弁してほしい。
珍しくレティシアの手が止まっていた。声を掛けると首を振ってまたペンを走らせた。ぼんやりしてただけか。レティシアの集中力は凄い。俺がじっと見ていても全く気付かない。
「邪魔か?」
「大丈夫ですよ」
レオ様が突然訪問するのはいつものことだ。全く気付かないレティシアを見て笑っている。レティシアに追跡魔法を仕込みたいけど、ずっと持ってるものって何があるんだろうか・・。
レオ様は自由な人だ。勝手にお茶を淹れている。
レティシアとの仲を取り持ってくれるからありがたい。それにレオ様は博識だから話していて楽しい。クロード殿下より優秀なのが気付かれないように愚鈍なフリをしている。アリア様は怖い人だから。いくら碌な教育を受けていなくても、シオン伯爵令嬢だったサラ様が教育したレオ様が無能に育つことはないだろう。情緒面ではなく知識のほうは。シオンの血を引いて優秀でない人間はいない。だからこそアリア様は警戒している。若く美しく聡明な側妃。サラ様は陛下に気に入られなければ幸せだったろうに・・・。レオ様のサラ様と研究三昧な日を送りたいという夢は王子の立場なら簡単に叶うはずなのに。レティシアがレオ様を気にかけている理由もよくわかる。優しい彼女は不遇な王子を放っておけない。俺はレティシアのほうが大事だから優しくて甘い彼女が王家の闇に飲まれないように気をつけないといけない。
感情に任せたビアード兄妹がレオ様を擁護し反乱の疑いをもたれる未来は絶対に回避しないと。ビアードの迎える妻が俺と同じタイプだとありがたい。
レオ様の淹れたお茶を飲みながら、談笑してしばらくするとレティシアが顔をあげ驚いた顔をした。ようやく気付いたのか。
楽しそうなレオ様が瓶の中の木を見せるとレティシアの顔が真っ青になった。
瓶から出した木が歩いている。レオ様の笛に合わせて踊っている。動く木は初めて見たな。
「面白いだろ?もう少し欲しいんだけどまた育ててほしい」
レティシアが育てたのか!?
「嫌ですよ。動く木なんて恐怖ですよ。起きたら自分がミイラになってるなんてゾッとします。」
「なんでレティシアの育てたのだけ、こうなったんだろうか。わかるか?」
木と会話しているレオ様は大丈夫だろうか。レオ様の声に反応して動く木は中々面白い。
「そうか・・。」
「レオ様、私は心配でたまりません。研究するのは良いですが、眠った方が。眠る時はその木は封印してくださいよ。貴方も、レオ様に危害を加えたら燃やしますよ。こっちこないでください。レオ様、これ危険です。処分しましょう。私は火の魔石持ってますわ」
近づく木にレティシアが怯えた顔で震えている。ここで火の魔法を使われても困る。レオ様の瓶の中に木を戻すか。瓶を木の上に掲げると勢いよく吸い込まれた。蓋をすると瓶の中で木が動き回っている。この瓶も何か仕掛けがあるのか。薄いガラスだけど割れる様子はない。
「なにがそんなに怖いんだ?」
「世の中には人をミイラにする木の魔物もいます。土と水属性の魔導士は要注意ですよ」
「喜んでくれると思ったんだが・・・。エイベルは喜んだのに。自由自在に動く木がいればできることが増えるって」
「ポンコツ・・・。気にしないでください。うちの兄も最近頭がおかしいみたいですわ。ビアード領で育てるなら私が責任もって焼き討ちにしますわ。動く木に襲われビアード公爵家断絶・・。木が」
レティシアが頭を抱えて震え出した。
「レティシア、落ち着いて」
「私はやることができたので失礼しますわ。」
飛び出していったレティシアの荷物を侍女がまとめて礼をして追いかけた。
「レオ様、危険なものは手を出さないでください」
「エイベルが喜ぶものはレティシアが嫌がるのはなんでだろうか・・?」
「兄弟でも嗜好は違いますから」
レオ様は知識が豊富でも、それ以外が乏しい。
王族の顔と素の顔の差が激しい。父上は未だにレオ様との付き合い方に悩んでいる。レオ様の視察の予定が入るたびに俺を巻き込むのはやめてほしい。ただレティシアとのことで感謝しているから逆らえない。
***
サイラスと訓練をおえて玄関に行くとレティシアの靴がまだあった。ビアードは今日は殿下の傍にいる日だ。
「リオ、待ってれば。たぶん一人だと思うよ」
「なんで?」
「フィルとグレイ嬢の靴がない。訓練場にもいなかったし。それにレティシア嬢は暗くなる前に帰るように躾られてるから」
「そうか。ありがとう。また明日」
先に帰るサイラスを見送りしばらく待つとレティシアが一人で現れた。
俺を見て不思議そうな顔をして、鞄の中からお菓子を差し出された。
「リオ様、あげます」
受け取るとまだ温かった。チョコのお菓子が包まれていた。
「ごめんなさい。やっぱり返してください」
「え?」
「まだ花を添えてませんでした」
焦って手を伸ばすレティシアの考えを察した。包みなんて気にしないのに。
「花?いや、これで十分だよ。作ったのか?」
「はい。お礼です。」
にっこり笑う顔が可愛くて思わず抱きしめた。
「ありがとう。嬉しいよ。」
いつまでも抱きしめていたいけど、外は真っ暗だ。レティシアの手を引いて寮まで送った。レティシアから贈られたお菓子にはレティシアの髪を結ぶ物と同じ青いリボンが飾られていた。リボンは彼女の作った木箱に魔石と共にいれた。中から刺繍入りのハンカチを取り出した。勿体なくて使うことはできなかった。一生懸命勉強刺繍した姿を思い浮かべると顔がニヤける。彼女との思い出が増えていくことが嬉しくてたまらない。
彼女が離れないように思考を巡らす。
リボンを贈れば身に付けてくれるだろうか。普段は解いていても、作業するときはリボンでよく結っているよな。
見つからないように追跡魔法を仕込むか・・?色々贈れば何かしら身に付けてくれるだろうか。
取り寄せた魔導書を開き、どれがいいか眺める。さすがに追跡魔法を集めた魔導者はレティシアには見せられないので寮の自室に置いてある。見つかったらレオ様の魔石のように身に付けるのをやめるのが目に見えている。
***
移動教室の帰りにレティシアを見つけた。
「レティシア」
声をかけてもふらふらと歩いている。腕を掴んで、顔を見ると焦点が合っていなかった。
目元にクマができているし顔色も悪い。
次の授業はサボることを決めた。抱き上げると、ゆっくりと目を閉じた。寝息が聞こえたので俺の部屋に向かった。
長椅子に寝かせて毛布をかけた。
「木が、やめて」
声に視線を向けると魘されている。
「こないで、木」
抱き上げて頭をゆっくり撫でても、眉間の皺は消えなかった。
ゆっくりと目を開けたレティシアがきょとんとしている。寝起きのあどけない姿はいつ見ても可愛い。抱きしめてゆっくりと頭を撫でた。寝息は聞こえないので起きているのか・・。
「レティシア、眠れてないのか?」
「いえ、」
「木に襲われるのか?」
不思議な顔をして首を傾げている。
「なんで?」
「魘されてたから。木がって。そんなに怖いのか?」
「夢の中でエイベルが木にビアードの制服を着せて指揮してるんです。現実ではバカなことを」
震え出したレティシアの恐怖は夢だけじゃないのか。レティシアからビアードがバカとは初めて聞いた。
「バカなこと?」
「動く木をビアードで育てるって。苦い回復薬作りも諦めないし。もうどうすれば」
俺の胸を握る手は震えている。苦い回復薬ってあれか!?エドワードに譲ってほしいって確かにバカなことを言っていた。魔物も怖がらないレティシアがここまで怯えるものは蛇以外で知らない。
「俺がなんとかするよ。なんでそんなに怖いんだ?」
「木の魔物は土属性と水属性の魔導士を取り込みミイラにするものもいます。安易に攻撃すると吸収されて・・・・・」
俺の腕の中で震えるのは水の魔導士。ビアード、バカじゃないか・・。そんな危険なものをレティシアの傍におけるかよ。
「ビアード領に生息にするのか?」
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あのバカ。レティシアよりも兄のほうがやばかった。叔父上はビアード公爵夫妻もおかしいって言っていた・・。
「魔物の育成は違法だから俺に任せてよ。ビアードに説明するよ。」
「エイベルは全然言うこと聞きません」
「交渉は俺の方が得意だから。これでも先輩だから」
「リオ様は時々頼もしいですね。私、頭がおかしい人ばかりでビアードの未来が不安でたまりません」
泣きそうな顔のレティシアの頭を撫でていると手の震えは止まった。
「ビアードがおかしいのはよく知ってるよ。もう少し眠るか?」
「膝貸してください」
俺の膝を枕にして眠りについたレティシアに驚いた。侍従に小声で命じて幾つか資料の手配をさせた。バカな義兄に現実を教えないといけない。
侍従が用意した資料に目を通しているとレティシアが目を覚ました。
「申し訳ありません」
謝るレティシアの頭を撫でる。
「もう少し眠ってていいよ」
幸せそうに笑ったレティシアが目を閉じた。たぶん間違えてるんだろうな。彼女のリオは膝の上で寝かしていたのか。
しばらくしてレティシアの瞼が上がり悲しそうな瞳で見上げられた。抱き上げて抱きしめると泣きそうな顔で腕から逃げようとするので腕に力を入れた。一人で泣いて欲しくなかった。
いつのまにか瞳から溢れる涙は拭っても止まらない。涙を止める方法を彼女のリオなら知っていたんだろうか。
「泣いていいよ。俺はリオが好きな君が好きなんだ」
「よわくて、ごめんなさい」
たぶんレティシアが弱いことを知っている人間は少ない。彼女は必死に虚勢を張ってるだけだ。いくらでも甘えてくれればいいのに。
「俺が守るから弱くていいよ。傍にいてくれるだけでいい。強がらないでいいよ。我慢しないで」
「私、我儘です」
「大歓迎。いくらでも叶えるよ。ビアードのバカは俺がなんとかしてやるから、一人で頑張らなくていい。何か企んでるなら手を貸すよ」
涙の止まったレティシアにほっとした。泣くのを我慢している顔ではない。
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「頭を使えばいいんだよ。レティシアの自慢の兄より俺の方が優秀だから」
自然に笑った顔にもう大丈夫なようだ。涙のあとを指でそっと拭うとふんわり笑う。
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強がりなレティシアは不安で泣いたなんて知ったら気にするかもしれない。
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「お気持ちだけで」
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リオと重ねないように必死に足掻いている。無駄なことはやめればいいのに。レティシアの無自覚な変化は嬉しい。人気者の彼女の素顔を自分しか知らないことも。
レティシアの手を繋いで寮に送りそのままビアードを訪ねた。
各領ごとに決まりがある。
魔物の育成には国の認可がいる。ビアード領では魔物は討伐と決められている。また未知のものを研究するときは研究所と国の認可が必要である。
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「いい考えだと思わないか?」
「違法で捕まる。魔物の育成したいならシオン伯爵家に行けよ。俺とレティシアを巻き込むな。」
「高等研究所か・・」
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「あいつは木を焼き討ちにするって」
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「俺はマールを介した取引に制限かけるかな。調合できなくなったら困るだろう?」
「危険な場所に木を送れば」
「ビアード、休んだほうがいい。お前、頭がおかしくなってる。次、バカなこと言えばビアード公爵夫人に伝えるからな。レティシアが心労で倒れたことも含めて」
ここまで言えば大丈夫だろう。
俺は自室に帰った。これでわからなかったら殿下に相談しよう。厳しく叱ってくれるだろう。
ビアードのバカを止めたらレティシアに物凄く感謝された。今までビアードが苦労していると思ったが本当は逆かもしれない。一見レティシアのうっかりが多すぎて目立つけど、本当にまずいのはビアードの方か…。次期ビアード領主がビアードの規則を理解できてないって大丈夫なのか・・・。
だからレティシアが婿取りなのか。ビアードは強くなって騎士を率いて王家に尽くす。その他はレティシアが全部引き受けるのか。
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悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
好感度0になるまで終われません。
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