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王家の厄介事 影の呟き 後編
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陛下が目覚められたのでレオ殿下は儀式の間にすごい勢いで駆けて行きました。セリア様は礼をして退室し、陛下はクロード殿下と話しています。私はレオ殿下の様子を見に行きましょう。
儀式の間には魔法陣の中心に立ち光に包まれて弓を引くレティシア様、静かに見守るロダ様、レティシア様の前に跪きうっとりと魅入っている気持ちの悪い大神官がいました。光のドームに包まれるレティシア様を見てレオ殿下が笑みを溢しました。
「レティシア、終わったよ。もうやめていい」
「お疲れ様、終わりだって」
ロダ様も笑っていますが、レティシア様は凛としたお顔で弓を引いたままです。全く反応しないレティシア様にレオ殿下とロダ様がゆっくりと見つめ合い頷きました。
「レティシア、もう終わりにしていい。レティシア!!」
レティシア様に必死に呼びかけるお二人と違い気持ち悪い大神官を斬りたくなりました。一番斬りたいのは陛下なんですけどね。今頃アリア様の記憶を覗いたクロード殿下がどんなお心でいるか・・。レティシア様、もう終わったんですよ!!どうか戻ってきてください。バカな茶番で貴方を亡くしたくありません。アリア様が嫉妬するのがわかるほど弓を持つ姿は美しいです。立場上声を出せないので、心の中で私もレティシア様の無事を祈ります。
***
ディーネはレティシアの弦の音に惹かれて近づく精霊を追い払っていた。
宝具の音色は精霊を引き寄せていた。
「邪魔よ。私の契約者への手出しは許さない」
「呼んでる。助けてって」
「契約者は精霊の助けは求めていない。邪魔するなら消すわ」
「極上の魔力だ」
「私の契約者だもの。当然よ。一切渡さない。消えなさい」
ディーネはレティシアが弦を引くたびに魔力を放っているのが見えていた。
体力はつき、精神力と魔力だけで無我夢中で意識を保つ契約者を。
近づいてくる精霊達がレティシアの魔力を奪うのは決して許さなかった。
レティシアは時間を稼ぐために儀式を行い精霊の力を求めていない。契約者の願いを叶えるために邪魔ものを排除に動くだけだった。同じ精霊にも容赦はしなかった。
「苦戦しているな」
ディーネは人型の姿で現れたラマンに不愉快な視線を向けた。
「ラマンの相手をする暇はない」
「フィルの願いだ。勝ち逃げは許さん。わかってるんだろう?」
「レティは偏屈に目をつけられた。私の介入で弓を手放すことは望まなかった。帰ってくるのを信じるわ」
「ディーネ様、」
ストームの声にディーネは笑う。風の精霊で力の弱いストームなら時の精霊に気付かれずにできることがあった。
「ストームがいるなら方法はあるわ。ラマンできるの?」
「爺に負けぬ」
ラマンはレティシアの放つ魔力の矢を炎で燃やした。
人には黙認できずとも精霊には見えていた。
「風情のないことをするのう」
王宮に住む時の精霊が現れた。本を抱えた男は不機嫌そうにラマンを見た。
「抗っているがもうすぐ儂のものになる。数奇な乙女じゃ。揺さぶりはきかぬが、もうすぐ完成する」
ラマンは男の本に火を放ち、ディーネが魔法で四肢を拘束した。
レティシアの周りに黒い靄が現れストームが吹き飛ばす。
「何をする。儂の術を。風のいつの間に!?」
時の精霊はディーネとラマンに気付いてもストームに気付いていなかった。
結界の中に入り込み、レティシアの隣にいる鳥を憎らしそうに見た。
「精霊は契約者が一番。契約者が望むなら天敵でも手を組むわ」
「輪廻の輪に戻さず魂をその本に封じ込めるのは悪趣味で気に入らん。術を解くか燃えるの待つか」
ストームはレティシアを風で包み近づく靄から守っていた。
時の精霊は指を鳴らすと靄が消えた。
夢の世界に誘い魔力を尽きさせ、魂が体から抜けた時に本に閉じ込めるつもりだった。
時の精霊の本のページの数だけ魂が閉じ込められていた。
王家の秘術や儀式の際に捧げられる魂達が。
時の精霊は本を燃やされると集めた魂も燃えてしまうため諦めた。
靄が消えたのでラマンとディーネは魔法を解くと時の精霊は消えた。
「レティ、帰ってきて。もう解決したわ。そこは危ない」
ディーネの声にレティシアが頷いた。
「これで平気だな」
ラマンとストームはそれぞれの主の元に帰った。ディーネは時の精霊の世界から帰ってきたレティシアの傍に隠形した。
同胞の活躍を見学にきた精霊は水の精霊の勝利に笑い契約者のもとに戻った。
****
ビアード公爵の部屋には休むための支度が整えられていた。
エイベル様とロキ様は食事をしながら顔を見合わせている。
「音、聞こえますね」
「何やってるんだよ」
弦の音が響き、食事を終えた二人は窓から外を見上げている。肩に相棒が帰ってきて水の勝利。偏屈爺に初めて勝ったと笑った。音が消え、ようやく本当に終わったのか。
「ただいま。レティは魔力切れで寝てるけど大丈夫」
「ありがとう。助かったよ。ロキ、もう大丈夫だから休む」
「良かった。お嬢様に会いに行くのは休んでからですね」
ロキ様とエイベル様はようやくベッドに入り眠られました。
ビアード公爵は一度二人の様子を見にきてすぐに出て行く。色んな意味で忙しいから仕方ないよな。精霊の審議で命を落とさなかったのは初めてらしい。
頼もしい次世代の築く未来が楽しみだ。この後の報告会は胃が痛くなりそうだが。
***
レティシア様は儀式を終えられ両殿下とお話された後からずっと眠っています。
ルーン公爵の治癒魔法も効かず、医務官も原因不明。息はあるのでルーン公爵の魔石で生命維持をしながら様子を見ることになりました。陛下の所為でおいたわしい。
ビアード公爵は静かな顔で青白いレティシアの顔を眺めています。
筆頭王宮魔導士が突然現れました。扉を守る騎士達に追い払われて諦めたと思えば魔法で忍びこんできました。未婚の令嬢の眠る部屋に殿方が立ち入るなど無粋です。
「ビアード公爵、ビアード嬢は私に任せてください。どんな体になっているか」
レティシア様を見て怪しく笑う陰湿な男をビアード公爵が冷たく睨んでいます。
「娘に触れたら許さん。被験者にするなら首を落とす」
「国のために、それに」
「死にたいか」
ビアード公爵が剣に手をかけると魔導士は逃げていきました。魔導士や研究者が昔からレティシア様を被験者にしたいと願っていることは一部では有名です。王家の役に立たない令嬢を引き取りたいという無礼な者達の申し出をビアード公爵はいつも断っていました。どんな条件でもビアードから出す気はないと時には殺気を出して追い払っていました。ビアード直系の銀の瞳を持ち水属性を持つレティシア様。どんな理由でも娘を実験台など許せませんよ。研究や魔法にしか興味のない大切な者を持たない愚か者はわからないんでしょう。
ロキ様とエイベル様が来られました。
エイベル様は青白い顔で眠るレティシア様の手を握って魔力を送っています。
「エイベル、なぜ魔力を?」
「魔力が切れて寝てますから。魔力と体力さえ回復すれば目覚めます」
魔力切れ!?
ビアード公爵も驚きすぐに、レティシア様の手を握り魔力を送りました。段々顔色が良くなっています。魔力切れなら治癒魔法は効きません。
生命維持に必要な微量な魔力だけ体に残して回復するまで睡眠?ビアードは膨大な魔力を持って生まれると言われています。空っぽになるほど使い果たせば何日眠れば回復するんでしょうか・・?
報告すれば研究者に押しかけられるので後日報告書に書きましょう。私が命じられているのは監視ですから。
「フィルが手におえないから帰ってきてほしいと言っておる」
「父上、俺達は帰ります。レティシアは連れて帰りますか?」
「目覚めるまでは王宮にと。レティと一緒に帰るよ」
「わかりました。魔力が切れて数日眠るのはよくあることなんで心配しないでください」
エイベル様は顔色の良くなったレティシア様の頭を撫でてロキ様と共に退室していきました。ビアード公爵は魔力を送り、しばらくして公務に戻られました。時々、両殿下やロダ様が訪問して魔力を送っています。皆様にとってレティシア様が魔力切れで倒れるのはよくあることみたいです。
*****
私は影を辞任したいです。
ビアード公爵邸にはもう一人怖い方が訪問されました。愛らしいご令嬢がビアード公爵夫人とそっくりとは知りませんでした。
レティシア様のお友達のステラ・グレイ様が訪問されました。レティシア様とお約束があったみたいです。
「ごきげんよう。ビアード公爵夫人。レティシア様と」
ステラ様がビアード公爵夫人に礼をしていると魔法の気配がしました。
王宮魔導士が風魔法で飛んで来ました。
「ビアード公爵夫人!!是非国のために力を貸してください。対価はいくらでもお支払いします。伝承の儀を行った御息女の遺体を是非。歴史に名を残すでしょう」
「娘は死んだというんでしょうか」
「まだ儀式を行っています。一心に弓を操っています。外の声など聞こえません。何が起こっているか・・。せっかくならあのお姿のまま調べてみたい」
遺体引き渡し書を目の前に置かれ、生きている娘を被験者にしたいという言葉にビアード公爵夫人が怒りに震えています。
遺体引き渡し書は了承のサインと亡くなった時間を記載するだけです。ステラ様は真っ青な顔をされ、ビアード公爵夫人は書類を手に取り勢いよく破りました。
「生きた娘を被験者にしたいと言うなら同じ覚悟がありますよね。ビアードの力をその身に」
「ビアード公爵夫人、魔導士様は繊細と聞きます。ここはまず心から責めるのはいかがでしょう?ベリー様を呼んで治癒魔法で治してもらい、何度も痛みを味わっていただくのも魅力的ですが」
「治癒魔法の練習にいいかしら」
冷笑を浮かべる二人にフィル様が真っ青な顔で見ています。
フィル様が一瞬震えているように見えたのは気の所為ではありません。私は冷笑を浮かべて話すお二人に寒気が止まりません。
「ビアード公爵夫人、ステラ、レティシアは絶対に無事ですよ。王宮魔導士に手を出したら問題になりますので」
「国のためです。はやくサインを」
「勝手に殺すな。あいつは生きてる。首落とされたくないなら黙ってろ」
「奥様、正しい方法を。お嬢様の遺体が欲しいなどビアードとして宣戦布告受けて立ちましょう。王宮魔導士に」
「そうね。戦の準備をしないと。お見送りして。丁重に」
侍女の言葉に綺麗な笑みを浮かべたビアード公爵夫人の命令を受けて騎士が王宮魔導士を引きずっていきました。
悲鳴が聞こえても誰も気にしませんよね。自業自得ですよ。ステラ様もビアード公爵邸に泊まることになりました。
「ステラ、レティシアは無事だよ。たぶん体力が尽きて眠ってるよ。ベリーを呼び出すのはやめろ。レティシアの教育計画が崩れるから。訓練しようか」
「わかりました。お願いします」
「ビアード公爵夫人、落ち着いてください。エイベル様、俺はステラとレティシアなら止められるけど夫人は無理です。片付いたなら帰ってきてください」
魔術塔を落とすために話し合っているビアード公爵夫人達を見て頭を抱えるフィル様の気持ちはよくわかります。きっとこの現状を知ったエイベル様とレティシア様の悲鳴が聞こえそうです。忠臣のビアードが反乱など・・。
フィル様の願いが叶ったのか、夕方にエイベル様が帰宅しビアード公爵夫人に儀式は無事に終わり眠っていることを伝えました。そして騎士達の戦準備を止めるように説得しています。
乗り込めば王宮で休んでいるレティシア様が悲しむという言葉に騎士達は武装解除しました。さすがエイベル様です。緊迫した空気から解放されるなら一安心です。
私はいつまで監視を続けるんでしょうか。任務終了の届けが来ないんですが・・。
***
陛下は目覚められ、記憶さらしをうけたアリア様は正気を失いました。
サラ様とレオ殿下には日常が戻られました。
サラ様の離宮にクロード殿下が初めて足を運ばれました。サラ様が椅子を勧めると座ったクロード殿下は頭を下げました。クロード殿下の影の目は生気が戻りました。
「サラ様、母上がすみませんでした」
サラ様はクロード殿下もアリア様も恨んでいません。
国王の手のひらで踊らされているのがわかっており、恨むほどの関心もありません。サラ様はレオ殿下と研究しか興味はありません。
「頭を上げてください。ご用件は」
サラ様は無表情なクロード殿下からアリア様の罪の告白を静かに聞いています。諦めたお顔で聞き流していたサラ様はクロード殿下の提案に目を見張って驚きました。
クロード殿下は二つの提案をしました。
アリア様の罪を公表し、二人で裁きをうけること。
サラ様の形だけの降家と研究できる環境の提供。
クロード殿下がサラ様が王家から逃れたいと思っていることを知っているとは思わなかったので私も驚きました。
「もし他に希望があるなら教えてください。私はサラ様の望む罰を受けます」
「陛下は?」
「この件は私に一任されています。父上が反対してもサラ様とレオの望む罰を通します。裁判を受け、処刑されても構いません」
「これを考えたのは・・・」
「後者はレティシアです。無かったことにしてサラ様とレオの希望を叶えてほしいと」
サラ様が微笑まれました。
アリア様が断罪されれば、クロード殿下も裁かれます。罪のある一族からは王太子は選ばれません。レオ殿下が王太子に選ばれるでしょう。国王陛下の望み通りに。
それは王族を嫌うサラ様が一番避けたいことです。
正しい道を説くビアードらしくはありませんが、サラ様にとっての最悪の結果を避けたかったため利を優先してくれたレティシアに感謝を捧げたいです。
「レオの安全の保障とシオンに帰してください。研究所も降嫁も必要ありません。」
「母上、俺はもう少し王族を続けます。今回の件で友人が目をつけられました。俺の王族位の返上は婚姻か罪を犯さない限り無理ですよ」
「レティシアと婚姻を願う?貴方の好きなビアード兄妹と過ごせるわよ」
「レティシアの婚約者も友人です。平穏好きなレティシアの生活を俺が乱したくありません。俺は母上が安全な環境で研究しながら健やかに過ごせるなら、それだけで十分です。」
いつの間にかレオ殿下も同席されました。レオ殿下とサラ様が笑っていることに安堵します。クロード殿下は無表情です。
クロード殿下はサラ様達と相談しながらサラ様をシオンに帰すための準備を整えはじめました。
不憫なサラ様がとうとう自由に。
目頭が熱くなりましたが仕事中なので我慢します。陛下は気に入らない結果でしょうが私は良かったです。
****
陛下の悪巧みは失敗に終わりました。陛下はクロード殿下に全てを任せたことを後悔しています。
クロード殿下の全て無かったことにするという決断は想定外でしょう。潔癖な殿下ならアリア様とともに罪を受け入れ、継承権の放棄を願い出ると思っていたでしょうに。
一度任せたものを取り上げられないので、陛下は私室にルーン公爵を呼び不機嫌な顔でワインを飲んでいます。
「陛下、よろしいのですか。妃の不在など、今後の執務に影響が」
ルーン公爵はサラ様が去り、アリア様は記憶さらしの影響かつねにぼんやりしているだけで公務に携われないことを心配されてるんですね。
ビアード公爵が部屋に入ってきましたが二人は気付いてません。
陛下は血のように真っ赤なワインを見つめ、口角をあげました。私はこの顔が大嫌いです。
「レティシア・ビアードを迎え入れるか。あの忠誠心なら邪魔にはならない。私の手のひらの上なら見事に踊ってくれよう。容姿も身分も申し分ない。余計なことを・・。評価も今回の件で」
「ルーン公爵、治療を頼む。私的な場だ」
ルーン公爵は壁にたたずんでいるビアード公爵を見て頷き、ビアード公爵は陛下の頬を殴りました。私は命の危険がない限り動きませんよ。ビアード公爵に勝てませんし、宰相閣下の許しもありますし。
「酔いは醒めましたか?なぜ無効化の指輪を外していました?わざと魔法にかかってレオ殿下の処罰の前には起きるつもりだったのではありませんか?」
「サラのためならレオが動くと思ったんだが・・。後ろ盾のない王子が王位を継ぐには民衆達の感動する脚本が必要だろう。サラのために精霊の審議をする者がいるとは読めなかった。クロードの裁きも想定外だ。ビアードが隠すから何かあるとは思っていたが、」
「病弱なのは事実です。誰かの所為でまだ眠ってます。レティシアを王家にやるつもりはありません」
「フラン王国一の忠臣がか?」
「公私は分けます。婚約者のいる、王子よりも年下の令嬢を迎え入れるなど反感を生みます。ビアードとしてはレティシアへ王家が一切干渉しないことを望みます。精霊の審議を行い、正しい道を示した娘に褒美をいただけますよね?」
ビアード公爵は全てをクロード殿下から聞いています。
アリア様がレティシア様に精霊の審議を行うために対価を求め、遺体引き渡し書を書かせたことも。
公にできなくても、褒章を与えるだけの成果をレティシア様は残しています。冤罪で王族の断罪など許されません。
「臣下に命じるなと?」
「拒む権利をください。レティシアへの命令はビアード公爵夫妻と伴侶と本人の4人の同意がなければ認められないと制約を」
「陛下、落としどころを。忠誠には報いるものでしょう」
ビアード公爵の差し出した書類を陛下は嫌そうな顔で見ています。
「これはビアードが考えたのか」
「ビアード公爵家として考えました」
「レオか・・・。目覚めるかわからないからいいか」
陛下は原因不明で眠っているレティシア様のためにもめる気はおきなかったようです。悪巧みが終わって良かったです。
ルーン公爵に差し出されたペンでサインをした陛下にビアード公爵は笑みを浮かべました。
「国王の御璽もお願いします。王家との誓約でお願いします」
陛下とビアード公爵の誓約ではなくビアード公爵家と王家の誓約だと事情が変わります。
次代が即位しても破棄されない誓約です。
「レオめ」
ここまで陛下が不機嫌なのは珍しいです。最高級のワインの味を楽しむ様子もなく一気に飲み干した。ビアード公爵は退室され、ルーン公爵は陛下と共にワインを飲んでいます。無表情のルーン公爵と国王陛下は最高級のワインを水のように飲まれています。香りも味も楽しまない飲み方にワインの作り手に謝ってほしいです。
****
レティシア様が儀式を行い5日目にルーン公爵がビアード公爵邸を訪問しました。私は連日のストレスで胃が痛くてたまりません。そして最悪の組み合わせです。
ルーン公爵はビアード公爵夫人に頭を下げて遺書とレティシア様のサインのある遺体引き渡し書を差し出しました。
「すまない」
ビアード公爵夫人は遺書を読んでいます。
14歳の娘の自筆で王家に都合のよい内容が綴られています。
遺体引き渡し書は自筆で死亡の時間以外の全ての項目が記載され、自身の意思であることと備考に記載され、非人道的な行為への同意にもサインがされています。王家はレティシア様に何を求めたんですか!?ビアード公爵夫人が冷笑を浮かべました。寒気がしました。これはまずいですよ。怒る気持ちはわかりますけど。
「事情を話してください」
「それはできない」
「王族の暗殺未遂は慎重に動くものなのに調査もせずに処刑など貴方なら止められました。14歳の娘に死を覚悟させて、遺体まで家族のもとに帰れない苦渋の決断をさせて。国王陛下の御身に危険はなかったでしょうに」
声を荒げるビアード公爵夫人にルーン公爵は頭を下げたままです。ルーン公爵、ビアードの諜報部隊が調べあげますから正直に話したほうが身のためですよ。陛下の箝口令なんて無視してください。
「レティシアではなく貴方がやればよかったのよ。処刑を延期する方法もいくらでもあった。陛下のことだから殿下の成長のためとおっしゃるんでしょう。利用価値のない命など不要と。何も思わなかったの!?エドワード様でも耐えられた?あの子が知るはずのない儀式の話を聞かせて、誘導して、どこまで利用するのよ。サラの時も思ったわ。宰相なら止めなさいよ。人には心があるのよ。レティシアが死んだら私が貴方を殺すわ。許さない」
ビアード公爵夫人の怒声にエイベル様が飛び込んで来ました。
「母上、落ち着いてください!!レティシアは生きてます。そのうち起きます。怪我もしてません。どうか、ルーン公爵お帰りください」
エイベルの懇願にルーン公爵は礼をして立ち去りました。この二人は仲が悪いんですよ。サラ様が側妃として指名を受けた時も、陛下に協力したルーン公爵を罵りました。ルーン公爵夫人が気絶させ、ビアード公爵邸に送り届けたのは懐かしい記憶です。王宮に乗り込むのはターナー伯爵が止めました。サラ様が大事なら落ち着くようにと。
「母上、休んでください。帰ってきたときに母上のやつれた姿を見たら心配しますよ。自慢の綺麗で優しいお母様で迎えてあげてください。殿下達のために必死に頑張ったレティシア褒めるのは母上の役目でしょう」
エイベル様は机の上にある遺書と遺体引き渡し書を見て眉間に皺を寄せました。
「レティシア、いい加減起きろ。母上、落ち着いてください。は?また来たのか?追い返せ。決して邸に入れるなよ」
エイベル様は必死にビアード公爵夫人を宥め、レティシア様を勧誘に来る神官や王宮魔導士を追い返す日が続きました。門前払いするように命じるエイベル様に騎士達は力強く頷き動いています。
ビアードの騎士はレティシア様を奪おうとする者達をビアード公爵邸に踏み入れさせることは決してないのですが、これ大丈夫なんですか!?ビアードと王家の対立に捉えられません!?
執事長だけが長いため息をつき、ビアード公爵邸は戦準備のように緊迫した空気が流れています。胃が痛い。
*****
上司に命じられリオ様の監視をしています。王宮の抜け道を知っているとはさすがです。リオ様が帰宅すると執事が礼をして迎えました。
「お帰りなさいませ。なにかありましたか?」
「寄り道してきただけだ。食事はいらない。しばらく休むから部屋には誰も近づけないでくれ」
「かしこまりました」
リオ様はマール公爵の執務室を調べています。物凄く手の動きが速いです。
マール公爵夫妻が留守の為、屋敷の管理はリオ様が任されているようです。
リオ様は目的の物を見つけたのか手の動きが遅くなりました。
手紙や書類を持ち、自室に戻りました。
アリア様とマール公爵のやりとりです。
新しい侍女を欲しがる手紙ばかりで、特に怪しい情報はありません。
翌日、リオ様はアリア様に紹介した侍女達に会いにいきました。元侍女達はリオ様の話術に嵌まりました。
アリア様に命じられレオ殿下やサラ様への嫌がらせをしてやり返されてやめた侍女達の話を笑みを浮かべて聞いていました。
物的証拠はありませんが中々の数の証言が集まりました。アリア様や陛下の本性を知るのは影と一部の家臣だけですがリオ様は動揺することなく報告書をまとめていました。
叔母なのに容赦なくアリア様がサラ様を憎んでいたことの立証のための報告書を。家が裁かれるのを恐れずに忠義を選ぶ姿勢はさすがです。
リオ様は執務室を調べていることが見つかりマール公爵に呼び出されました。
「リオ、何を調べている?」
「なんのことでしょうか?」
「執務室の書類の位置がずれていた。」
「個人的に気になったのでアリア様とのことを調べていました。レオ様が嫌がらせをされていたので事実なのかと」
マール公爵は涼し気な顔のリオ様の言葉に無言です。
「もし事実でしたらマールとしてはどうしますか?」
「確証があるようだな。陛下の判断に従う。隠せることではない」
「わかりました。ありがとうございます」
マール公爵も気づいているのかもしれません。アリア様が変わってしまったことを。
王宮の閉鎖が解除されるとすぐにリオ様はクロード殿下に謁見願いを出しました。
参内するとリオ様を迎えたのはクロード殿下の侍従でした。案内された部屋に行くと眠るレティシア様と手を握っているレオ殿下がいました。
レオ殿下がレティシア様の手を解き、椅子から立ち上がりました。
「魔力切れだ。無茶をする」
「レティシアですから。レオ様がご無事で良かったです」
「ありがとう。神官や魔道士に目をつけられた。一人歩きはさせないほうがいい」
「わかりました」
レオ殿下は出て行き、リオ様はレティシア様の頬に手を添えられました。
「待っててって言ったのに。無事で良かったよ。もう少し自分を大事にしてよ。頼むから」
リオ様がレティシア様に口づけてますが、私は止めるべきでしょうか!?婚約者だからいいのでしょうか!?しばらくすると椅子に座って手を握られました。すぐに扉が開いてクロード殿下が入ってきました。そして空いているレティシア様の手を握りながら、リオ様と二人で話をされています。
クロード殿下が箝口令を敷いても、レティシア様が神事を行った日に王宮に滞在した者によりすでに噂は広まっていました。
公にされていることはアリアが病のため離宮で療養とサラが王族位を返上したことだけです。
「甘いよ。命の危険をおかしたのに。本当に目が離せない」
リオ様は連日眠っているレティシア様を訪ね、二人っきりのときには長い口づけをされます。つい赤面してしまいそうになります。その後は手を握って話しかけています。
訪問されたロダ様と何か話して頭を抱えていましたが防音の結界で聞こえませんでした。
「教えてくれて感謝するよ。次は絶対に目をはなさない」
「レティシアをずっと見ているのは無理だと思うけど。レティシアの体を研究者達が狙っているから気をつけて。あれらは言葉が通じない」
「マールに連れて帰りたい」
無表情のクロード殿下が来られました。
「礼はいらない。リオ、ビアード公爵邸に行ってほしい。王宮魔導士とビアードで揉めている。大きくなる前におさめてほしい」
「かしこまりました。護衛だけはお願いします」
「ロダ、頼むよ」
リオ様はレティシア様の顔を見て頷き、ビアード公爵邸を目指しました。
ビアード公爵領に行くと騎士と魔導士達が戦っています。
「お嬢様は渡しません」
「国のためです。貴方にわからなくても逸材です」
リオ様は冷たい笑顔で近くの騎士に声を掛けました。
「これはよくあることか?」
「お嬢様が生贄にされてからはよくあることです。連日押しかけてきます」
リオ様は仲裁し王宮魔導士と神官の幹部に圧力をかけました。
それでも勧誘に来るものはリオ様が相手をするので先触れを出し、マール公爵家で面会すると伝えるように話した。
門前払いの命令を出したのがエイベル様と知り、呆れた顔をされたリオ様はレティシア様が戻るまではビアード公爵邸に滞在を決めました。げっそり痩せた先輩が忍んでいるんですけど、監視を代わってほしいと言われたのでリオ様が滞在中でしたらとお引き受けしました。
「リオ様、申しわけありません」
「レティシアが帰宅するまで滞在するよ。執務は?」
「こちらに」
「魔導士や神官は俺が引き受けるよ。ビアードはビアード公爵夫人達の対処だけでいい」
「私事ですが初めて婚約していただいたことに感謝申し上げます」
「認めてもらえるように努力するよ。マールとは違うから、支障があれば遠慮なく」
リオ様は執事長の指導を受けながらビアード公爵家の執務を進めていきました。
ビアード公爵夫人が荒れておりますが、私には関係ありません。ただ監視するだけですから。先輩によく冷静に見てられるなと呆れられました。
ビアード公爵夫人が荒れてステラ様が加わり炎上し、フィル様が混ざった結果、神官がまる焦げになったからですか?回復薬と水の魔石で治癒してますし、問題ないでしょう?
リオ様の留守中にビアードに来たんですから仕方ありませんよ。
レティシア様が戻りようやく帰還命令が出ました。
今回の件を任された諜報部隊が集められました。上機嫌の先輩と私以外の皆様は疲労が貯まっているようですね。私は一番下っ端なので楽な監視を任されたからでしょうか。
確かに先輩方に比べたらリオ様の監視は楽でしたよ。私の尾行に気付いていないので。
「陛下の悪巧みは失敗なら報告書はいらないのでは?」
「レオ殿下の側近候補は資質に問題なしと書き上げましょう。私は木っ端みじんに陛下の策を壊したレティシア様達を尊敬します」
「私はもう辞めたい。ビアード怖い」
「エイベル様を勧誘したい。あの感情に流されない立ち振る舞いは立派だった」
「目が曇ってますよ。ビアード公爵邸では駄目でしたよ。リオ様がいなければ反逆の疑いをかけられましたよ」
「報告書にはありのままを記載しましょう。そして陛下に突きつけてきましょう。陛下の顔が歪むのが楽しみ」
「ルーン公爵が頭を抱える案件だな。さて無事の任務の終わりを祝して一杯だな」
「すでに飲んでるやつが言うなよ。次世代は期待が持てる」
私達は気付いていませんでした。期待している次世代は国王陛下よりも人使いが荒く容赦がないことを。影の質の向上をと定期的に徹底的に鍛えられる未来が待っているとは気づきませんでした。
儀式の間には魔法陣の中心に立ち光に包まれて弓を引くレティシア様、静かに見守るロダ様、レティシア様の前に跪きうっとりと魅入っている気持ちの悪い大神官がいました。光のドームに包まれるレティシア様を見てレオ殿下が笑みを溢しました。
「レティシア、終わったよ。もうやめていい」
「お疲れ様、終わりだって」
ロダ様も笑っていますが、レティシア様は凛としたお顔で弓を引いたままです。全く反応しないレティシア様にレオ殿下とロダ様がゆっくりと見つめ合い頷きました。
「レティシア、もう終わりにしていい。レティシア!!」
レティシア様に必死に呼びかけるお二人と違い気持ち悪い大神官を斬りたくなりました。一番斬りたいのは陛下なんですけどね。今頃アリア様の記憶を覗いたクロード殿下がどんなお心でいるか・・。レティシア様、もう終わったんですよ!!どうか戻ってきてください。バカな茶番で貴方を亡くしたくありません。アリア様が嫉妬するのがわかるほど弓を持つ姿は美しいです。立場上声を出せないので、心の中で私もレティシア様の無事を祈ります。
***
ディーネはレティシアの弦の音に惹かれて近づく精霊を追い払っていた。
宝具の音色は精霊を引き寄せていた。
「邪魔よ。私の契約者への手出しは許さない」
「呼んでる。助けてって」
「契約者は精霊の助けは求めていない。邪魔するなら消すわ」
「極上の魔力だ」
「私の契約者だもの。当然よ。一切渡さない。消えなさい」
ディーネはレティシアが弦を引くたびに魔力を放っているのが見えていた。
体力はつき、精神力と魔力だけで無我夢中で意識を保つ契約者を。
近づいてくる精霊達がレティシアの魔力を奪うのは決して許さなかった。
レティシアは時間を稼ぐために儀式を行い精霊の力を求めていない。契約者の願いを叶えるために邪魔ものを排除に動くだけだった。同じ精霊にも容赦はしなかった。
「苦戦しているな」
ディーネは人型の姿で現れたラマンに不愉快な視線を向けた。
「ラマンの相手をする暇はない」
「フィルの願いだ。勝ち逃げは許さん。わかってるんだろう?」
「レティは偏屈に目をつけられた。私の介入で弓を手放すことは望まなかった。帰ってくるのを信じるわ」
「ディーネ様、」
ストームの声にディーネは笑う。風の精霊で力の弱いストームなら時の精霊に気付かれずにできることがあった。
「ストームがいるなら方法はあるわ。ラマンできるの?」
「爺に負けぬ」
ラマンはレティシアの放つ魔力の矢を炎で燃やした。
人には黙認できずとも精霊には見えていた。
「風情のないことをするのう」
王宮に住む時の精霊が現れた。本を抱えた男は不機嫌そうにラマンを見た。
「抗っているがもうすぐ儂のものになる。数奇な乙女じゃ。揺さぶりはきかぬが、もうすぐ完成する」
ラマンは男の本に火を放ち、ディーネが魔法で四肢を拘束した。
レティシアの周りに黒い靄が現れストームが吹き飛ばす。
「何をする。儂の術を。風のいつの間に!?」
時の精霊はディーネとラマンに気付いてもストームに気付いていなかった。
結界の中に入り込み、レティシアの隣にいる鳥を憎らしそうに見た。
「精霊は契約者が一番。契約者が望むなら天敵でも手を組むわ」
「輪廻の輪に戻さず魂をその本に封じ込めるのは悪趣味で気に入らん。術を解くか燃えるの待つか」
ストームはレティシアを風で包み近づく靄から守っていた。
時の精霊は指を鳴らすと靄が消えた。
夢の世界に誘い魔力を尽きさせ、魂が体から抜けた時に本に閉じ込めるつもりだった。
時の精霊の本のページの数だけ魂が閉じ込められていた。
王家の秘術や儀式の際に捧げられる魂達が。
時の精霊は本を燃やされると集めた魂も燃えてしまうため諦めた。
靄が消えたのでラマンとディーネは魔法を解くと時の精霊は消えた。
「レティ、帰ってきて。もう解決したわ。そこは危ない」
ディーネの声にレティシアが頷いた。
「これで平気だな」
ラマンとストームはそれぞれの主の元に帰った。ディーネは時の精霊の世界から帰ってきたレティシアの傍に隠形した。
同胞の活躍を見学にきた精霊は水の精霊の勝利に笑い契約者のもとに戻った。
****
ビアード公爵の部屋には休むための支度が整えられていた。
エイベル様とロキ様は食事をしながら顔を見合わせている。
「音、聞こえますね」
「何やってるんだよ」
弦の音が響き、食事を終えた二人は窓から外を見上げている。肩に相棒が帰ってきて水の勝利。偏屈爺に初めて勝ったと笑った。音が消え、ようやく本当に終わったのか。
「ただいま。レティは魔力切れで寝てるけど大丈夫」
「ありがとう。助かったよ。ロキ、もう大丈夫だから休む」
「良かった。お嬢様に会いに行くのは休んでからですね」
ロキ様とエイベル様はようやくベッドに入り眠られました。
ビアード公爵は一度二人の様子を見にきてすぐに出て行く。色んな意味で忙しいから仕方ないよな。精霊の審議で命を落とさなかったのは初めてらしい。
頼もしい次世代の築く未来が楽しみだ。この後の報告会は胃が痛くなりそうだが。
***
レティシア様は儀式を終えられ両殿下とお話された後からずっと眠っています。
ルーン公爵の治癒魔法も効かず、医務官も原因不明。息はあるのでルーン公爵の魔石で生命維持をしながら様子を見ることになりました。陛下の所為でおいたわしい。
ビアード公爵は静かな顔で青白いレティシアの顔を眺めています。
筆頭王宮魔導士が突然現れました。扉を守る騎士達に追い払われて諦めたと思えば魔法で忍びこんできました。未婚の令嬢の眠る部屋に殿方が立ち入るなど無粋です。
「ビアード公爵、ビアード嬢は私に任せてください。どんな体になっているか」
レティシア様を見て怪しく笑う陰湿な男をビアード公爵が冷たく睨んでいます。
「娘に触れたら許さん。被験者にするなら首を落とす」
「国のために、それに」
「死にたいか」
ビアード公爵が剣に手をかけると魔導士は逃げていきました。魔導士や研究者が昔からレティシア様を被験者にしたいと願っていることは一部では有名です。王家の役に立たない令嬢を引き取りたいという無礼な者達の申し出をビアード公爵はいつも断っていました。どんな条件でもビアードから出す気はないと時には殺気を出して追い払っていました。ビアード直系の銀の瞳を持ち水属性を持つレティシア様。どんな理由でも娘を実験台など許せませんよ。研究や魔法にしか興味のない大切な者を持たない愚か者はわからないんでしょう。
ロキ様とエイベル様が来られました。
エイベル様は青白い顔で眠るレティシア様の手を握って魔力を送っています。
「エイベル、なぜ魔力を?」
「魔力が切れて寝てますから。魔力と体力さえ回復すれば目覚めます」
魔力切れ!?
ビアード公爵も驚きすぐに、レティシア様の手を握り魔力を送りました。段々顔色が良くなっています。魔力切れなら治癒魔法は効きません。
生命維持に必要な微量な魔力だけ体に残して回復するまで睡眠?ビアードは膨大な魔力を持って生まれると言われています。空っぽになるほど使い果たせば何日眠れば回復するんでしょうか・・?
報告すれば研究者に押しかけられるので後日報告書に書きましょう。私が命じられているのは監視ですから。
「フィルが手におえないから帰ってきてほしいと言っておる」
「父上、俺達は帰ります。レティシアは連れて帰りますか?」
「目覚めるまでは王宮にと。レティと一緒に帰るよ」
「わかりました。魔力が切れて数日眠るのはよくあることなんで心配しないでください」
エイベル様は顔色の良くなったレティシア様の頭を撫でてロキ様と共に退室していきました。ビアード公爵は魔力を送り、しばらくして公務に戻られました。時々、両殿下やロダ様が訪問して魔力を送っています。皆様にとってレティシア様が魔力切れで倒れるのはよくあることみたいです。
*****
私は影を辞任したいです。
ビアード公爵邸にはもう一人怖い方が訪問されました。愛らしいご令嬢がビアード公爵夫人とそっくりとは知りませんでした。
レティシア様のお友達のステラ・グレイ様が訪問されました。レティシア様とお約束があったみたいです。
「ごきげんよう。ビアード公爵夫人。レティシア様と」
ステラ様がビアード公爵夫人に礼をしていると魔法の気配がしました。
王宮魔導士が風魔法で飛んで来ました。
「ビアード公爵夫人!!是非国のために力を貸してください。対価はいくらでもお支払いします。伝承の儀を行った御息女の遺体を是非。歴史に名を残すでしょう」
「娘は死んだというんでしょうか」
「まだ儀式を行っています。一心に弓を操っています。外の声など聞こえません。何が起こっているか・・。せっかくならあのお姿のまま調べてみたい」
遺体引き渡し書を目の前に置かれ、生きている娘を被験者にしたいという言葉にビアード公爵夫人が怒りに震えています。
遺体引き渡し書は了承のサインと亡くなった時間を記載するだけです。ステラ様は真っ青な顔をされ、ビアード公爵夫人は書類を手に取り勢いよく破りました。
「生きた娘を被験者にしたいと言うなら同じ覚悟がありますよね。ビアードの力をその身に」
「ビアード公爵夫人、魔導士様は繊細と聞きます。ここはまず心から責めるのはいかがでしょう?ベリー様を呼んで治癒魔法で治してもらい、何度も痛みを味わっていただくのも魅力的ですが」
「治癒魔法の練習にいいかしら」
冷笑を浮かべる二人にフィル様が真っ青な顔で見ています。
フィル様が一瞬震えているように見えたのは気の所為ではありません。私は冷笑を浮かべて話すお二人に寒気が止まりません。
「ビアード公爵夫人、ステラ、レティシアは絶対に無事ですよ。王宮魔導士に手を出したら問題になりますので」
「国のためです。はやくサインを」
「勝手に殺すな。あいつは生きてる。首落とされたくないなら黙ってろ」
「奥様、正しい方法を。お嬢様の遺体が欲しいなどビアードとして宣戦布告受けて立ちましょう。王宮魔導士に」
「そうね。戦の準備をしないと。お見送りして。丁重に」
侍女の言葉に綺麗な笑みを浮かべたビアード公爵夫人の命令を受けて騎士が王宮魔導士を引きずっていきました。
悲鳴が聞こえても誰も気にしませんよね。自業自得ですよ。ステラ様もビアード公爵邸に泊まることになりました。
「ステラ、レティシアは無事だよ。たぶん体力が尽きて眠ってるよ。ベリーを呼び出すのはやめろ。レティシアの教育計画が崩れるから。訓練しようか」
「わかりました。お願いします」
「ビアード公爵夫人、落ち着いてください。エイベル様、俺はステラとレティシアなら止められるけど夫人は無理です。片付いたなら帰ってきてください」
魔術塔を落とすために話し合っているビアード公爵夫人達を見て頭を抱えるフィル様の気持ちはよくわかります。きっとこの現状を知ったエイベル様とレティシア様の悲鳴が聞こえそうです。忠臣のビアードが反乱など・・。
フィル様の願いが叶ったのか、夕方にエイベル様が帰宅しビアード公爵夫人に儀式は無事に終わり眠っていることを伝えました。そして騎士達の戦準備を止めるように説得しています。
乗り込めば王宮で休んでいるレティシア様が悲しむという言葉に騎士達は武装解除しました。さすがエイベル様です。緊迫した空気から解放されるなら一安心です。
私はいつまで監視を続けるんでしょうか。任務終了の届けが来ないんですが・・。
***
陛下は目覚められ、記憶さらしをうけたアリア様は正気を失いました。
サラ様とレオ殿下には日常が戻られました。
サラ様の離宮にクロード殿下が初めて足を運ばれました。サラ様が椅子を勧めると座ったクロード殿下は頭を下げました。クロード殿下の影の目は生気が戻りました。
「サラ様、母上がすみませんでした」
サラ様はクロード殿下もアリア様も恨んでいません。
国王の手のひらで踊らされているのがわかっており、恨むほどの関心もありません。サラ様はレオ殿下と研究しか興味はありません。
「頭を上げてください。ご用件は」
サラ様は無表情なクロード殿下からアリア様の罪の告白を静かに聞いています。諦めたお顔で聞き流していたサラ様はクロード殿下の提案に目を見張って驚きました。
クロード殿下は二つの提案をしました。
アリア様の罪を公表し、二人で裁きをうけること。
サラ様の形だけの降家と研究できる環境の提供。
クロード殿下がサラ様が王家から逃れたいと思っていることを知っているとは思わなかったので私も驚きました。
「もし他に希望があるなら教えてください。私はサラ様の望む罰を受けます」
「陛下は?」
「この件は私に一任されています。父上が反対してもサラ様とレオの望む罰を通します。裁判を受け、処刑されても構いません」
「これを考えたのは・・・」
「後者はレティシアです。無かったことにしてサラ様とレオの希望を叶えてほしいと」
サラ様が微笑まれました。
アリア様が断罪されれば、クロード殿下も裁かれます。罪のある一族からは王太子は選ばれません。レオ殿下が王太子に選ばれるでしょう。国王陛下の望み通りに。
それは王族を嫌うサラ様が一番避けたいことです。
正しい道を説くビアードらしくはありませんが、サラ様にとっての最悪の結果を避けたかったため利を優先してくれたレティシアに感謝を捧げたいです。
「レオの安全の保障とシオンに帰してください。研究所も降嫁も必要ありません。」
「母上、俺はもう少し王族を続けます。今回の件で友人が目をつけられました。俺の王族位の返上は婚姻か罪を犯さない限り無理ですよ」
「レティシアと婚姻を願う?貴方の好きなビアード兄妹と過ごせるわよ」
「レティシアの婚約者も友人です。平穏好きなレティシアの生活を俺が乱したくありません。俺は母上が安全な環境で研究しながら健やかに過ごせるなら、それだけで十分です。」
いつの間にかレオ殿下も同席されました。レオ殿下とサラ様が笑っていることに安堵します。クロード殿下は無表情です。
クロード殿下はサラ様達と相談しながらサラ様をシオンに帰すための準備を整えはじめました。
不憫なサラ様がとうとう自由に。
目頭が熱くなりましたが仕事中なので我慢します。陛下は気に入らない結果でしょうが私は良かったです。
****
陛下の悪巧みは失敗に終わりました。陛下はクロード殿下に全てを任せたことを後悔しています。
クロード殿下の全て無かったことにするという決断は想定外でしょう。潔癖な殿下ならアリア様とともに罪を受け入れ、継承権の放棄を願い出ると思っていたでしょうに。
一度任せたものを取り上げられないので、陛下は私室にルーン公爵を呼び不機嫌な顔でワインを飲んでいます。
「陛下、よろしいのですか。妃の不在など、今後の執務に影響が」
ルーン公爵はサラ様が去り、アリア様は記憶さらしの影響かつねにぼんやりしているだけで公務に携われないことを心配されてるんですね。
ビアード公爵が部屋に入ってきましたが二人は気付いてません。
陛下は血のように真っ赤なワインを見つめ、口角をあげました。私はこの顔が大嫌いです。
「レティシア・ビアードを迎え入れるか。あの忠誠心なら邪魔にはならない。私の手のひらの上なら見事に踊ってくれよう。容姿も身分も申し分ない。余計なことを・・。評価も今回の件で」
「ルーン公爵、治療を頼む。私的な場だ」
ルーン公爵は壁にたたずんでいるビアード公爵を見て頷き、ビアード公爵は陛下の頬を殴りました。私は命の危険がない限り動きませんよ。ビアード公爵に勝てませんし、宰相閣下の許しもありますし。
「酔いは醒めましたか?なぜ無効化の指輪を外していました?わざと魔法にかかってレオ殿下の処罰の前には起きるつもりだったのではありませんか?」
「サラのためならレオが動くと思ったんだが・・。後ろ盾のない王子が王位を継ぐには民衆達の感動する脚本が必要だろう。サラのために精霊の審議をする者がいるとは読めなかった。クロードの裁きも想定外だ。ビアードが隠すから何かあるとは思っていたが、」
「病弱なのは事実です。誰かの所為でまだ眠ってます。レティシアを王家にやるつもりはありません」
「フラン王国一の忠臣がか?」
「公私は分けます。婚約者のいる、王子よりも年下の令嬢を迎え入れるなど反感を生みます。ビアードとしてはレティシアへ王家が一切干渉しないことを望みます。精霊の審議を行い、正しい道を示した娘に褒美をいただけますよね?」
ビアード公爵は全てをクロード殿下から聞いています。
アリア様がレティシア様に精霊の審議を行うために対価を求め、遺体引き渡し書を書かせたことも。
公にできなくても、褒章を与えるだけの成果をレティシア様は残しています。冤罪で王族の断罪など許されません。
「臣下に命じるなと?」
「拒む権利をください。レティシアへの命令はビアード公爵夫妻と伴侶と本人の4人の同意がなければ認められないと制約を」
「陛下、落としどころを。忠誠には報いるものでしょう」
ビアード公爵の差し出した書類を陛下は嫌そうな顔で見ています。
「これはビアードが考えたのか」
「ビアード公爵家として考えました」
「レオか・・・。目覚めるかわからないからいいか」
陛下は原因不明で眠っているレティシア様のためにもめる気はおきなかったようです。悪巧みが終わって良かったです。
ルーン公爵に差し出されたペンでサインをした陛下にビアード公爵は笑みを浮かべました。
「国王の御璽もお願いします。王家との誓約でお願いします」
陛下とビアード公爵の誓約ではなくビアード公爵家と王家の誓約だと事情が変わります。
次代が即位しても破棄されない誓約です。
「レオめ」
ここまで陛下が不機嫌なのは珍しいです。最高級のワインの味を楽しむ様子もなく一気に飲み干した。ビアード公爵は退室され、ルーン公爵は陛下と共にワインを飲んでいます。無表情のルーン公爵と国王陛下は最高級のワインを水のように飲まれています。香りも味も楽しまない飲み方にワインの作り手に謝ってほしいです。
****
レティシア様が儀式を行い5日目にルーン公爵がビアード公爵邸を訪問しました。私は連日のストレスで胃が痛くてたまりません。そして最悪の組み合わせです。
ルーン公爵はビアード公爵夫人に頭を下げて遺書とレティシア様のサインのある遺体引き渡し書を差し出しました。
「すまない」
ビアード公爵夫人は遺書を読んでいます。
14歳の娘の自筆で王家に都合のよい内容が綴られています。
遺体引き渡し書は自筆で死亡の時間以外の全ての項目が記載され、自身の意思であることと備考に記載され、非人道的な行為への同意にもサインがされています。王家はレティシア様に何を求めたんですか!?ビアード公爵夫人が冷笑を浮かべました。寒気がしました。これはまずいですよ。怒る気持ちはわかりますけど。
「事情を話してください」
「それはできない」
「王族の暗殺未遂は慎重に動くものなのに調査もせずに処刑など貴方なら止められました。14歳の娘に死を覚悟させて、遺体まで家族のもとに帰れない苦渋の決断をさせて。国王陛下の御身に危険はなかったでしょうに」
声を荒げるビアード公爵夫人にルーン公爵は頭を下げたままです。ルーン公爵、ビアードの諜報部隊が調べあげますから正直に話したほうが身のためですよ。陛下の箝口令なんて無視してください。
「レティシアではなく貴方がやればよかったのよ。処刑を延期する方法もいくらでもあった。陛下のことだから殿下の成長のためとおっしゃるんでしょう。利用価値のない命など不要と。何も思わなかったの!?エドワード様でも耐えられた?あの子が知るはずのない儀式の話を聞かせて、誘導して、どこまで利用するのよ。サラの時も思ったわ。宰相なら止めなさいよ。人には心があるのよ。レティシアが死んだら私が貴方を殺すわ。許さない」
ビアード公爵夫人の怒声にエイベル様が飛び込んで来ました。
「母上、落ち着いてください!!レティシアは生きてます。そのうち起きます。怪我もしてません。どうか、ルーン公爵お帰りください」
エイベルの懇願にルーン公爵は礼をして立ち去りました。この二人は仲が悪いんですよ。サラ様が側妃として指名を受けた時も、陛下に協力したルーン公爵を罵りました。ルーン公爵夫人が気絶させ、ビアード公爵邸に送り届けたのは懐かしい記憶です。王宮に乗り込むのはターナー伯爵が止めました。サラ様が大事なら落ち着くようにと。
「母上、休んでください。帰ってきたときに母上のやつれた姿を見たら心配しますよ。自慢の綺麗で優しいお母様で迎えてあげてください。殿下達のために必死に頑張ったレティシア褒めるのは母上の役目でしょう」
エイベル様は机の上にある遺書と遺体引き渡し書を見て眉間に皺を寄せました。
「レティシア、いい加減起きろ。母上、落ち着いてください。は?また来たのか?追い返せ。決して邸に入れるなよ」
エイベル様は必死にビアード公爵夫人を宥め、レティシア様を勧誘に来る神官や王宮魔導士を追い返す日が続きました。門前払いするように命じるエイベル様に騎士達は力強く頷き動いています。
ビアードの騎士はレティシア様を奪おうとする者達をビアード公爵邸に踏み入れさせることは決してないのですが、これ大丈夫なんですか!?ビアードと王家の対立に捉えられません!?
執事長だけが長いため息をつき、ビアード公爵邸は戦準備のように緊迫した空気が流れています。胃が痛い。
*****
上司に命じられリオ様の監視をしています。王宮の抜け道を知っているとはさすがです。リオ様が帰宅すると執事が礼をして迎えました。
「お帰りなさいませ。なにかありましたか?」
「寄り道してきただけだ。食事はいらない。しばらく休むから部屋には誰も近づけないでくれ」
「かしこまりました」
リオ様はマール公爵の執務室を調べています。物凄く手の動きが速いです。
マール公爵夫妻が留守の為、屋敷の管理はリオ様が任されているようです。
リオ様は目的の物を見つけたのか手の動きが遅くなりました。
手紙や書類を持ち、自室に戻りました。
アリア様とマール公爵のやりとりです。
新しい侍女を欲しがる手紙ばかりで、特に怪しい情報はありません。
翌日、リオ様はアリア様に紹介した侍女達に会いにいきました。元侍女達はリオ様の話術に嵌まりました。
アリア様に命じられレオ殿下やサラ様への嫌がらせをしてやり返されてやめた侍女達の話を笑みを浮かべて聞いていました。
物的証拠はありませんが中々の数の証言が集まりました。アリア様や陛下の本性を知るのは影と一部の家臣だけですがリオ様は動揺することなく報告書をまとめていました。
叔母なのに容赦なくアリア様がサラ様を憎んでいたことの立証のための報告書を。家が裁かれるのを恐れずに忠義を選ぶ姿勢はさすがです。
リオ様は執務室を調べていることが見つかりマール公爵に呼び出されました。
「リオ、何を調べている?」
「なんのことでしょうか?」
「執務室の書類の位置がずれていた。」
「個人的に気になったのでアリア様とのことを調べていました。レオ様が嫌がらせをされていたので事実なのかと」
マール公爵は涼し気な顔のリオ様の言葉に無言です。
「もし事実でしたらマールとしてはどうしますか?」
「確証があるようだな。陛下の判断に従う。隠せることではない」
「わかりました。ありがとうございます」
マール公爵も気づいているのかもしれません。アリア様が変わってしまったことを。
王宮の閉鎖が解除されるとすぐにリオ様はクロード殿下に謁見願いを出しました。
参内するとリオ様を迎えたのはクロード殿下の侍従でした。案内された部屋に行くと眠るレティシア様と手を握っているレオ殿下がいました。
レオ殿下がレティシア様の手を解き、椅子から立ち上がりました。
「魔力切れだ。無茶をする」
「レティシアですから。レオ様がご無事で良かったです」
「ありがとう。神官や魔道士に目をつけられた。一人歩きはさせないほうがいい」
「わかりました」
レオ殿下は出て行き、リオ様はレティシア様の頬に手を添えられました。
「待っててって言ったのに。無事で良かったよ。もう少し自分を大事にしてよ。頼むから」
リオ様がレティシア様に口づけてますが、私は止めるべきでしょうか!?婚約者だからいいのでしょうか!?しばらくすると椅子に座って手を握られました。すぐに扉が開いてクロード殿下が入ってきました。そして空いているレティシア様の手を握りながら、リオ様と二人で話をされています。
クロード殿下が箝口令を敷いても、レティシア様が神事を行った日に王宮に滞在した者によりすでに噂は広まっていました。
公にされていることはアリアが病のため離宮で療養とサラが王族位を返上したことだけです。
「甘いよ。命の危険をおかしたのに。本当に目が離せない」
リオ様は連日眠っているレティシア様を訪ね、二人っきりのときには長い口づけをされます。つい赤面してしまいそうになります。その後は手を握って話しかけています。
訪問されたロダ様と何か話して頭を抱えていましたが防音の結界で聞こえませんでした。
「教えてくれて感謝するよ。次は絶対に目をはなさない」
「レティシアをずっと見ているのは無理だと思うけど。レティシアの体を研究者達が狙っているから気をつけて。あれらは言葉が通じない」
「マールに連れて帰りたい」
無表情のクロード殿下が来られました。
「礼はいらない。リオ、ビアード公爵邸に行ってほしい。王宮魔導士とビアードで揉めている。大きくなる前におさめてほしい」
「かしこまりました。護衛だけはお願いします」
「ロダ、頼むよ」
リオ様はレティシア様の顔を見て頷き、ビアード公爵邸を目指しました。
ビアード公爵領に行くと騎士と魔導士達が戦っています。
「お嬢様は渡しません」
「国のためです。貴方にわからなくても逸材です」
リオ様は冷たい笑顔で近くの騎士に声を掛けました。
「これはよくあることか?」
「お嬢様が生贄にされてからはよくあることです。連日押しかけてきます」
リオ様は仲裁し王宮魔導士と神官の幹部に圧力をかけました。
それでも勧誘に来るものはリオ様が相手をするので先触れを出し、マール公爵家で面会すると伝えるように話した。
門前払いの命令を出したのがエイベル様と知り、呆れた顔をされたリオ様はレティシア様が戻るまではビアード公爵邸に滞在を決めました。げっそり痩せた先輩が忍んでいるんですけど、監視を代わってほしいと言われたのでリオ様が滞在中でしたらとお引き受けしました。
「リオ様、申しわけありません」
「レティシアが帰宅するまで滞在するよ。執務は?」
「こちらに」
「魔導士や神官は俺が引き受けるよ。ビアードはビアード公爵夫人達の対処だけでいい」
「私事ですが初めて婚約していただいたことに感謝申し上げます」
「認めてもらえるように努力するよ。マールとは違うから、支障があれば遠慮なく」
リオ様は執事長の指導を受けながらビアード公爵家の執務を進めていきました。
ビアード公爵夫人が荒れておりますが、私には関係ありません。ただ監視するだけですから。先輩によく冷静に見てられるなと呆れられました。
ビアード公爵夫人が荒れてステラ様が加わり炎上し、フィル様が混ざった結果、神官がまる焦げになったからですか?回復薬と水の魔石で治癒してますし、問題ないでしょう?
リオ様の留守中にビアードに来たんですから仕方ありませんよ。
レティシア様が戻りようやく帰還命令が出ました。
今回の件を任された諜報部隊が集められました。上機嫌の先輩と私以外の皆様は疲労が貯まっているようですね。私は一番下っ端なので楽な監視を任されたからでしょうか。
確かに先輩方に比べたらリオ様の監視は楽でしたよ。私の尾行に気付いていないので。
「陛下の悪巧みは失敗なら報告書はいらないのでは?」
「レオ殿下の側近候補は資質に問題なしと書き上げましょう。私は木っ端みじんに陛下の策を壊したレティシア様達を尊敬します」
「私はもう辞めたい。ビアード怖い」
「エイベル様を勧誘したい。あの感情に流されない立ち振る舞いは立派だった」
「目が曇ってますよ。ビアード公爵邸では駄目でしたよ。リオ様がいなければ反逆の疑いをかけられましたよ」
「報告書にはありのままを記載しましょう。そして陛下に突きつけてきましょう。陛下の顔が歪むのが楽しみ」
「ルーン公爵が頭を抱える案件だな。さて無事の任務の終わりを祝して一杯だな」
「すでに飲んでるやつが言うなよ。次世代は期待が持てる」
私達は気付いていませんでした。期待している次世代は国王陛下よりも人使いが荒く容赦がないことを。影の質の向上をと定期的に徹底的に鍛えられる未来が待っているとは気づきませんでした。
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婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
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