追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第百二話 勘違い

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アリア様は療養中のため連日クロード殿下の執務室でお手伝いをしています。クロード殿下は無表情です。

「クロード殿下、アリア様のお加減は」
「気にしなくていい」
「私にできることはありますか?」

書類を渡されました。私は書類仕事しかお役に立てないようです。
よく考えれば王宮には優秀な医務官もいるので私にできることはないですね。
ペンを走らせているとクロード殿下の手が遅くなったので侍女にクロード殿下の好む茶葉とお菓子を命じて用意させました。
私がお茶の用意に立つとリオが付いてきて書類の処理要員が減ってしまうので、侍女に好きに命じていいと許しをもらいました。
お茶を飲んでいるとクロード殿下に無表情で見つめられました。

「レティシア、レオやサラ様は不調はないか?」

お二人に直接聞けないため私に質問されます。気にされるだけ進歩ですわ。

「体調が悪いというお話は聞きません」
「呪いや怪しいものに侵されていないか?」
「お二人は目に見えないものに興味を向ける方々ではありませんので手を出しませんわ」
「殿下は二人に呪いがかかってないか心配されている」

昔、呪いがかけられてましたが口外しないと約束しました。
二人を心配しているなんで今までの殿下でしたらありえませんわ。嬉しくて笑みが零れます。

「レオ様にお聞きくださいませ。私の口からは何も」
「そうか」

クロード殿下が無言でお茶を飲みました。
この殿下も作り笑顔以外は無表情です。今日は冷たい空気がないので機嫌は悪くありません。今世の殿下のお嫁さんは大変そうです。公務の時は作り笑いは完璧なのに、普段は表情筋が死んでるかもしれません。

「なにか?」
「なんでもありません」

心を読めるところは変わってません。お茶を飲みながらごまかしましょう。
ここで機嫌を損ねたら恐ろしいです。
レオ様とエドワード様は視察に行ってます。私も視察が良かった・・・。
無関係の私が視察にはいけないので、内務しか手伝えません。
殿下、そろそろ婚約者を選んで、お手伝いしてもらったほうが良いと思いますよ。
手伝いも一段落したのでリオと一緒に退室しました。

「ビアード様、よければお茶でもいかがですか?」
「彼女への面会はビアード公爵家を通してください」

王宮魔導士様に声を掛けられ足を止めるとリオに抱きしめられました。
無言で王宮魔導士様はいなくなり、王宮で抱き寄せたリオを笑顔で睨むと頭を撫でられ、手を繋がれ歩き出しました。
儀式をしてから神官様や魔導士によく声を掛けられます。いつもリオが間に入ってくれることは感謝してます。私の声は聞こえないのにリオの声は聞こえるみたいです。執務室を出ると聖女になって欲しいと怖いお顔の神官様に追いかけられた時もリオが追い払ってくれました。
ようやく馬車に乗ると、なぜか隣に座るリオに真顔で見つめられ両手で手を握られました。

「婚姻しようか。そうすれば聖女にはなれない」

頼りになると少しだけ見直したのは勘違いでした。やはり頭がおかしいんでしょうか。

「リオ様、それを決めるのはお父様達です」

手が解かれ、抱き寄せられリオの胸に顔が埋まりました。

「どうしたら生きてくれる?」
「生きてますよ。死ぬつもりはありません」

弱った声を出すリオの胸から顔を上げるとしょんぼりした顔をしていました。
生前のリオにそっくりだった可愛い息子が思い浮かび、頬を手で包み、にっこりと笑います。

「リオ様、笑ってください。悲しいお顔は似合いません」
「俺は君がいないと生きられない」

弱気なリオに笑いがこみあげてきました。うちの息子よりも頼りないですわ。

「大げさですわ」

強く抱きしめる腕は解けなさそうですわ。温もりが心を落ち着かせるのは良く知っているので胸に顔を預けたまま静かにしましょう。
リオはエイベルとは仲が悪くても、ビアードでは好かれています。
ビアードになるなら、強く頼もしくなってほしいですがまだ子供ですものね。
私の知るリオは幼い頃から強くて頼もしかったのにどうして違うんでしょうか。
強くて・・・。
!?
思い出しました。リオ達と手合わせをしたとき私の結界はリオの魔石に破られました。次は負けない対策を立てないといけません。

「リオ様、本気で作った魔石を見せていただけますか?」

リオの手の中の魔石を見ると、純度が上がってます。
平常時の私と同じ純度です。これなら結界が破られても仕方ありません。もう少し高度な結界を瞬時に構成して維持できるようにならないといけません。
顔をあげるとリオの瞳に不安の色が浮かんでいます。
最近さらによく抱きしめられるのは不安だからでしょうか。
不安・・・?
アリア様のことを心配されてたんですね。
リオにとっては叔母様ですものね。

「リオ様、安心してください。方法を探してみますわ」
「え?方法?」
「配慮が足りずに申しわけありません。王宮には別々に行きましょう。私のことは気にせずゆっくりお話してきてください」
「レティシア、ゆっくりって誰と?」
「アリア様です。内緒にしますわ。叔母様が療養中なら心配でたまりませんわ。不安な時にぬくもりが欲しいのはよくわかります。マール公爵夫人はお忙しいでしょう」
「違うから。ありえないから。心配しているのは」
「いいんですよ。私は大人ですから。どんなに大きくなっても甘えたくなる気持ちはわかりますわ」
「勘違い。俺が甘えたいのは君だけ、いや、甘えたいより甘えてほしい。勘違いだよ。アリア様のことなんて気にしてない。俺のことを考えてくれるなら離れないで傍にいてくれるだけでいい。」

照れて頭を掻いているリオに笑いが堪えられず笑みを溢してしまいました。

「誰かに話したりからかったりしないから安心してください。私は抱っこはしてあげられませんが」

リオの腕が解けましたわ。きょろきょろと周囲を見渡して、情緒不安定を心配しているとじっと見つめられ顎を押さえられ、唇が重なりました。突然の深い口づけに驚いて胸を押すと真っ赤な顔のリオがいました。

「子供じゃない。好きだから触れたいんだ。君が欲しくてたまらない。親子ではなく夫婦になりたい。少しでいいから男として見てくれないか」
「はい?」
「君に触れるのは俺だけでありたい。格好悪い」

肩に真っ赤な顔を押し当てられ、可愛く見えてきました。

「リオ様は可愛いから安心してください」
「格好良くて頼りにされたいのに」
「クロード殿下がリオ様が手伝ってくれて助かると」
「レティシアにとってだから。他の評価はどうでもいい」

拗ねた声が聞こえます。殿下からの最上級の評価をどうでもいいとは贅沢ですが従兄弟ゆえの気安さでしょうか。
格好よくて頼りになるかと言われると・・・。
このリオはあまり頼りになりません。でもまだ子供ですもの。

「まだまだこれからですよ。頑張ってください。きっとリオ様なら、たぶん大丈夫ですわ」
「頼りにもならない格好悪い俺でも傍にいてくれる?」

情けないリオが愉快でたまりません。もともと全く頼りにしてなかったので気にしなくていいのに。

「婚約者ですからどんなリオ様でも傍にいます」
「一人でどこか行かないか?」

まだ置いていったことを根に持ってるんですか。中々しつこいです。

「護衛騎士をつけますのでご安心を」
「俺から離れない確証がほしい」
「両公爵の意思次第です。婚約者でなくても守ってあげますよ」
「国外逃亡するなら連れてって」

今のところは予定はありません。準備はしてますが、知ってるわけないですよね・・。笑みを浮かべます。

「逃亡する予定はありません。」
「君がいなくなることが怖いんだ」

この不安というか情緒不安定な感じはもしかして・・・。
子供ですわ。許してあげましょう。優しい顔を作ります。

「リオ様、マール公爵夫人には私が謝ってあげます。そんなに不安にならないでください。何をしたんですか?大事なものを壊しましたか?」
「母上に怒られるようなことはしてない」

拗ねてます。部外者の私が無理に聞き出すのは無粋ですね。
予定変更しましょう。

「マール公爵邸に行きましょう。今日は休まれたほうがいいですわ。お母様は晩餐を断っても気にしませんわ」
「具合は悪くないから」
「一人ぼっちが寂しいなら眠るまで傍にいてあげます。今日は帰って休みましょう」

アリア様が心配なのか体調が悪いのか、気まずいかはよくわかりません。
治癒魔法は効かないので休ませるために御者にマール公爵邸に向かうように伝えました。
リオの部屋に行き、ベッドに入ってもらいお話をしました。
弱ってるので、希望のお話をしていると、しばらくすると寝息が聞こえました。
リオを寝かしつける日がくるとは思いませんでした。
マール公爵夫人の不在が寂しかったんでしょうか。今世のリオは手がかかります。

「リオ様、ゆっくり休んでください。怖いことはありませんわ。どうか良い夢を」

ぐっすり眠るリオに小声で声をかけ礼をしてビアード公爵邸に帰りました。
私が消えてもエイベルが困らないように少しずつ準備は進めていますが、中々終わりは見えません。
領地経営はまだ勉強途中ですので・・・。
晩餐の席でビアード公爵夫人に定期的に刺繍をしているのかと聞かれて笑ってごまかしました。
全く刺繍の練習はしていませんでした。
せっかく刺繍するなら役立てたいですよね。刺繍入りのハンカチは騎士達がもらってくれます。ハンカチはすぐに駄目になるので何枚も欲しいそうです。
ハンカチに魔法陣を刺繍したら反応するんでしょうか。
せっかくなので簡単な魔法陣を刺繍してみましょう。
ビアード公爵夫人が私の刺繍を物言いたげに見てる理由はわかりません。
どんなに頑張っても上達しない私の腕を心配されてるんでしょうか。
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