追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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元夫の苦難35

レティシアは思い込みが激しい。

王宮から帰ってきたレティシアはビアード公爵夫人やグレイ嬢、ロキ達が離れず、中々二人になれなかった。多忙なレティシアと王宮への移動中の馬車だけが貴重な二人だけの空間だった。
向かいに座るレティシアを抱き上げて抱きしめるといつも不思議そうな顔で体を預ける。

アリア様の様子を聞くと記憶さらしが行われただろう。レティシアには教えるつもりはない。
夫婦の営みのイタズラで片付いたとレティシアは思い込んでいるけどそう思っているのはレティシアだけだ。箝口令が敷かれても、憶測が囁かれている。
アリア様に会いにいこうとしていたのを、療養中のため面会を避けてほしいとクロード殿下が止めた。父上はアリア様に面会し複雑な顔で帰ってきたけどどこまで知っているのかはわからない。

王宮に行くと魔導士や神官や研究者達が獲物を狙った目でレティシアを見ている。
王宮には護衛を連れて行けないので、常に一緒にいる。
あの時レティシアの傍を離れたのを後悔していた。国や家の為に弱いレティシアが攫われ、利用されないようにできるだけ傍にいないと不安で堪らない。母上に頼んでマールの社交もレティシアと一緒に予定を組んでもらった。おかげで多忙のため自由時間はほとんどない。

「レティシア、多忙だけど体は平気?」
「多忙?はい。大丈夫です」

不思議そうな顔をするレティシアにとってこれは多忙ではないのか。
そういえば、生前はクロード殿下の婚約者って言ってたからこれくらい楽なのだろうか?
ルメラ嬢に王妃教育の過酷さを語ってたよな・・。あの時は動揺して気付かなかったけど思い返すと凄いことを言っていた。

「王妃教育って大変なのか?」
「はい。ずっとお勉強です。遊ぶ時間なんてありませんわ。今から受けろと言われたら逃げ出します。私は頭が良くないので苦労しましたわ。クロード殿下が婚約者を選ばれれば楽になると思うんですけど・・。アリア様が回復されるまでどうするんでしょうか・・」

レティシアの頭が悪かったら他のやつらはどうなんだろうか・・。彼女の学園での成績は武術の授業が足を引っ張っているけど、武術さえ選考しなければ常に試験は首位だろうに・・。

「王家のことだから。いざとなれば母上達が動くだろう」
「そうですね。私はできることをするだけですわ」

髪を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる姿が堪らなく愛しい。
生きてて良かった。
抱きしめていたレティシアの手に頬を包まれ銀の瞳と目が合うと優しい笑みを向けられた。

「リオ様、安心してください。方法を探してみますわ」
「え?方法?」

この会話のやりとりは二度目。絶対に勘違いしている。

「ご安心ください」
「アリア様のことは何も思ってない。関わりないし、話すこともない。俺は君と過ごしたい。心配するのは君だけだ」
「誰かに話したりからかったりしないから安心してください。私は抱っこはしてあげられませんが」

この無防備さはなんだろう。前も言ったけど子供に見られるのは簡便してほしい。
意識して欲しくて、強引に唇が重ねた。馬車の中なので見つからないように触れるだけの口づけをすると目を丸くして驚いている。

「子供じゃない。好きだから触れたいんだ。触れたいのは君だけ。母上に抱きしめられたい年じゃない」
「意地を張らなくても」
「俺が触れられたいのはレティシアだけだ」

楽しそうに笑ってる顔に自分が情けなく思えた。全く意識してもらえない。こないだは可愛いと言われ、マール公爵邸に送られ、ベッドに誘導されて寝かしつけられた。寝るまで頭を撫でられ優しい声で昔語を聞かされ、ある意味美味しい思いはできたけど。

「格好悪い」
「リオ様は可愛いから安心してください」

自己嫌悪の言葉に返された慰めは全く嬉しくない。
頼りない方が傍にいてくれるんだろうか。ビアードもレオ様も頼りないから彼女が世話をやいているんだよな。
情けない。でも甘やかされるのも羨ましい。
まだ門限まである。せっかくだから甘えてみるか。

「寄り道しようか。俺はレティシアのことが心配でおかしくなりそうだから慰めてくれる?」

きょとんとされ、肩を震わせて笑う顔が可愛い。

「チョコレートを食べにいきましょうか」
「チョコを食べても気分は上がらない」
「嘘はいけません。マール公爵邸でマール公爵夫人とお茶するほうがいいでしょうか?」
「その選択肢はないから。俺が一緒にお茶をしたいのはレティシアだけだ。今日はうちに泊まる?」
「お戯れを。許可がありませんわ。ふざけるのは、ほどほどにしてください。でもマール公爵夫人は多忙ですものね。なら私が代わりをしてあげましょう。少々お待ちくださいませ」

レティシアが深呼吸して息を整えている。笑いを止めているのか・・。
真剣な顔をしたレティシアに見つめられた。

「リオ、大丈夫です。貴方は強くなります。自分の信じた道を進みなさい」
「それは母上の真似?」
「ターナーの教えではありませんか?似てませんか?」

きょとんとするギャップが堪らなく可愛かった。慰めるのに母上の真似って。
腕の中のレティシアにもう一度触れるだけの口づけを落とす。

「たまにはレティシアからしてくれてもいいけど?」
「お戯れを」
「せめてリオって呼んでよ」
「家格の高いリオ様への無礼は許されません」

これ以上、拗ねさせたらまた避けられるか。
せっかくなので、馬車を止めて蜂蜜が食べられる店に寄ることにした。
上機嫌で蜂蜜ケーキを頬張っているレティシアが心配になってきた。いつか蜂蜜につられて攫われたりしないよな。
機嫌は直ったからいいか。
単純だよな。まさかレティシアが短気だとは知らなかった。
知っていることが増えるのは嬉しいが、彼女を知るほど不安で堪らなくなる。
どうすればずっと傍にいられるんだろうか・・。
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