追憶令嬢のやり直し

夕鈴

文字の大きさ
213 / 362

第百十一話 時渡り3

風に包まれると場所が変わりクロード殿下の執務室でした。
クロード殿下と離れすぎると傍に引き寄せられるようです。魔法の原理については考えても無駄なのでやめましょう。

「殿下、ルーン嬢はふさわしくありません。王家への裏切りです」
「確証がない。私はレティシアを信じている」
「ですが、レオ殿下と行方不明など」
「憶測で物を言うべきではない。王太子の婚約者への不敬で裁かれるかい?」

クロード殿下は笑顔で怒っています。
大臣が真っ青な顔で礼をして立ち去ったことに安堵しました。
殿下、冷静になってください。大臣の進言を不敬罪にするなんて横暴です。いつも優しく諫める姿はどうされたんですか!?
人払いして傷ついた顔で書類を見つめています。
いつも笑顔の殿下が表情豊かですが全然嬉しくありません。無理して笑わないで欲しいって言ったけどこんなお顔を見たくありません。

眺めているのは婚約解消の書類。
クロード殿下が私に興味があるなんて全く知りませんでした。
利がなくなれば、迷いなく婚約破棄の書類にサインすると思ってましたわ。
私が死んでも新しい婚約者探すの面倒だなくらいにしか思わないと・・・。
この頃の私はクロード殿下のことをわかっているつもりでしたが、何も知りませんでしたのね。
クロード殿下は臣下の前では穏やかな顔で過ごしてますが、一人になると暗い顔をして執務をしています。休んでほしいのに、全然休んでくれません。食事もほとんど食べていません。

ルーン公爵がクロード殿下を訪問しました。

「殿下、レティシアのことは気にしないでください。あの子は醜聞に負けるような弱い娘ではありません」

「ルーン公爵、すまなかった」

殿下が頭を下げることではありません。国王陛下の横暴は気にしないでください。きっと新手の冗談ですよ。そうあって欲しいです。お願いですから眠ってください!!

「頭を上げてください殿下。不肖の娘を大事にしてくださりありがとうございます」
「私は、彼女以外を妃に迎える気はない」
「おやめください。それこそレティシアが悲しみます。娘は誰よりも王となる殿下を支えたいと思っていましたから。自分が殿下の足枷になるなら迷わず自害するでしょう」

自害はしませんよ。いえ、この頃の私なら否定できません。
すべてはクロード殿下のためと教わった私は殿下のためなら自害も迷いなくできますわ。

「ルーン公爵もこの婚約に反対?」

「はい。一度でも醜聞を持った娘を後宮にいれることはできません。陥れられたとしても防げなかったのはレティシアの失態です。娘には正妃の座は重たかったのかもしれません。私の教育不足で、殿下のお手を煩わせて申しわけありません」

私がうっかり見慣れない侍従に付いていった所為で・・。リオにも気をつけるように忠告されたのに。
私の迂闊さに申しわけないですわ。
お父様に頭を下げさせるなんて・・。お父様、ごめんなさい。聞こえないのがもどかしいですわ!!

「頭をあげてくれ。私がこの書類にサインをしたら彼女はどうなる?」

「ルーン公爵邸で目覚めるのを待ちましょう。恥ずかしながら私も娘が可愛いので投獄や追放などは許しませんよ」

お父様の言葉に不謹慎でも嬉しくなってしまいました。
悲痛な殿下のお顔を見て現実を思い出しました。

「もし目覚めたら?」
「レティシアを後宮にいれることはありません。陛下が許さないでしょう。醜聞があってもルーン公爵令嬢ですから縁談には困りません。レティシアのことはお忘れください」

出て行くルーン公爵の背中を殿下は無表情で見つめていました。
クロード殿下が転移魔法を発動してます。風に包まれて、移動したのは私の部屋。
殿下は眠っている私の手を握ってます。

「レティ、王宮には君以外に私の言葉を聞いてくれる人間はいないんだよ。
レオと逆の立場に生まれたかった。
王位なんていらない。レティが国のことを大事にするから、よい国を作ろうと思った。
私のために努力するレティに恥じない王になろうって。
レティがいないなら王位も国もいらない。失望する?怒ってもいいよ。ずっと好きだった。リオに嫉妬してた。こんな情けない私を知ったら嫌いになるかい?起きてくれないか。話したいことがたくさんあるんだ。お願いだから」

悲痛な顔で懇願するクロード殿下に気付かない私の頭を叩いてもすり抜けました。
いい加減起きてくださいよ。殿下にこんな顔させるなんて許されませんよ!!
レティシア、お願いだから起きてください。
失望しません。どんな殿下でもお傍にいますって答えるのがわかっているのに。
クロード様、ごめんなさい。私はこんなに苦しませたなんて知らなかった。レティシア、お願いだから殿下にこんな顔させないで。
いつも笑っていたクロード様の苦しみを私は気付かなかった。
顔を上げたクロード殿下が転移魔法を発動しました。扉が開くと同時に風に包まれて王宮に戻ってきました。人が来たから転移魔法で去ったようです。護衛をつけてくださいとは言える雰囲気ではありません。

このままだとクロード殿下が壊れてしまいます。
ほとんど睡眠も食事もとってません。
今は殿下は魔導書を手に取って、真剣に読んでいます。
王位に興味がないって・・。
今は眠っている私への怒りは抑えて冷静に考えましょう。
国王陛下が企む?

「大魔導士様、国王陛下は私が力不足なら強引に婚約破棄か新しい妃を迎えれば良いのに、どうしてこんな面倒なことしたんですか?」
「王族の男は狂っているわ。聞いてみたら?」

狂っている?レオ殿下だけですよね・・?

「見えませんわ」
「あの男には時の精霊の寵愛がないから夢を渡るならできるわ」
「是非、お願いします。私の瞳の色を青くできませんか?」
「わかったわ。行ってらっしゃい」

風に包まれ目を開けると真っ白な世界にいました。
国王陛下が椅子に座ってました。

「ごきげんよう。国王陛下」
「レティシアか。久しぶりだな。最後の挨拶か?」

確かに今の私が陛下にお会いするのは最後でしょう。笑みを浮かべます。

「はい。私の力不足ゆえ申しわけありません。最後に教えていただけませんか?国王陛下の思い描くものを」
「恨み言も言わないか。そなたなりによくやっていたがな。優秀な者が王位を継ぐ。クロードは甘い。国よりもレティシアが大事だ。レティシアが大事にした国なら尽くすだろう。思い出は糧となり力となる。クロードのためになれて本望だろう?クロードが駄目ならレオがいる。レオも資質はある」

全然本望ではありません。
突っ込むことは我慢して笑みを浮かべます。
殿下が駄目ならって・・。

「レオ殿下の資質とは?」
「シオンの血は優秀だ。王族に組みこむのも悪くない」
「レオ殿下には継承権はありません」
「継承権など私の命令一つで代わる」
「陛下はクロード殿下を認めていたのでは?」
「認めてない。二人の成長を見てどちらが相応しくなるかだ」

優しく微笑む国王陛下に寒気がしました。
血筋だけで、レオ殿下を認める?
あの遊んでばかりで変態で王族の務めを果たさないレオ殿下を?
心の中で何かが切れる音がしました。あんなに幼い頃から頑張ってたのに。
それなら、教えてくれれば良かったのに。
いつもお優しい国王陛下がこんなことを思っていたなんて。
私達はなんのために必死に学び、公務に励んでいたんでしょう。
やりたいことも我慢して国のために捧げていたのに。
私だって木の上でお昼寝したかったですよ。好物の蜂蜜だって顔に出るから我慢して食べなかったのに。
お忍びに誘ってくれるクロード殿下の手を取れば良かった。
王太子という責任ある立場を命令一つで?王太子であるがゆえにクロード殿下がどれほど・・・。
いつも無理をしていた殿下を思い出すと視界がどんどん歪みます。陛下の迷いのないいつもと同じ笑みがさらに涙腺を崩壊させました。あんなに必死だったのに・・。
風に包まれました。
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

悪役令嬢と転生ヒロイン

みおな
恋愛
「こ、これは・・・!」  鏡の中の自分の顔に、言葉をなくした。 そこに映っていたのは、青紫色の髪に瞳をした、年齢でいえば十三歳ほどの少女。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』に出てくるヒロイン、そのものの姿だった。  乙女ゲーム『タンザナイトの乙女』は、平民の娘であるヒロインが、攻略対象である王太子や宰相の息子たちと交流を深め、彼らと結ばれるのを目指すという極々ありがちな乙女ゲームである。  ありふれた乙女ゲームは、キャラ画に人気が高まり、続編として小説やアニメとなった。  その小説版では、ヒロインは伯爵家の令嬢となり、攻略対象たちには婚約者が現れた。  この時点で、すでに乙女ゲームの枠を超えていると、ファンの間で騒然となった。  改めて、鏡の中の姿を見る。 どう見ても、ヒロインの見た目だ。アニメでもゲームでも見たから間違いない。  問題は、そこではない。 着ているのがどう見ても平民の服ではなく、ドレスだということ。  これはもしかして、小説版に転生?  

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。