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兄の苦労日記33
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妹が意識不明と報せが届きビアード公爵邸に帰ると暗い雰囲気が漂っている。
休養日はリール公爵家の演奏会に招待され帰省していたはずだ。
妹の部屋に行くと結界に覆われている。
また何かやらかしたんだろうか。
母上とマールが真顔で結界の前に立っている。
「エイベル、昨日までは元気だったのに…。結界も解除できないわ。声を掛けても反応が」
ベットで眠る妹が水の結界で覆われている。
母上やマールが解除できないなら、ディーネの結界か。
「母上、結界解くのでレティシアと二人にしてください」
母上とマールを追い出して、部屋を防音の結界で覆う。
「ディーネ、何が起こっている?」
俺が呼んでも出てこないよな。ディーネは妹が声を掛けなければ反応しない。ラマンのほうが気さくに話してくれるんだよな。契約者に似るんだろうか?
「眠っていても生命維持がいる。体を医務官に見せたいから結界解除してくれないか?」
「結界を解けば危険よ。意識が戻るまで、レティの体は狙われるわ」
ディーネの声が聞こえた。事情を知っているのか。ディーネが反応するなら大丈夫だろう。
「部屋全体を俺の結界で覆う」
「ストームの力にして。エイベルの結界は脆い。一番高度なものを」
「わかった。ストーム、ディーネの願い通りに頼むよ。俺の許した者以外は中に入れるな」
部屋をストームの風が覆った。ディーネが結界を解除すると脳天気に眠ってる妹の額に手を当てると冷たい。
母上を呼ぶとマールと医務官を連れてきた。
医務官を入れるとディーネが顕現して睨んでいる。空気が冷たくなったから警戒する何かあるんだろうか…。医務官が診察してもやはり原因不明だった。
しばらくするとルーン公爵が騎士と共に現れた。
母上、宰相を呼び出したんですか!?国で一番の治癒魔道士と言われるのはルーン公爵だけど・・。
「馬鹿なことしたら、タダでは帰さないわ」
冷たい空気を纏った母上がルーン公爵に言うと、頷き妹の手を握り、目を閉じて診察を始めた。
ディーネがルーン公爵を睨んでいる。
しばらくするとルーン公爵は手を離して首を振った。
「眠っている。体に異常はない」
「は?」
「原因はわからない。魔石で生命維持をさせる他ない。儀式の影響だろうか」
「まさか、この子の体を」
母上が眉を吊り上げてルーン公爵を睨んでいる。
「ありえないよ。魔石は」
レティシアの溜めている魔石を引き出しの中から取り出す。何かあれば使えと言われていたが、まさか必要になるとは思わなかった。
魔石を見せると、ルーン公爵は頷いた。
「食事の代わりに吸収させなさい。足りなくなれば声を」
「余計なことすれば覚えてなさい。更地にするわ」
母上が目を吊り上げて睨んでいる。母上がルーン公爵を嫌いなのは気づいていたけど無礼は気にしないのか!?礼儀に厳しい母上が…。
「私はこれで」
「役立たずが」
吐き捨てた母上の言葉にルーン公爵が出ていくので、慌てて追いかけた。
「ルーン公爵、申し訳ありません」
「構わないよ」
騎士に送る手配をして、頭を下げて見送った。
母上が心配だから目覚めるまでうちにいるか。ディーネの結界が解けてからずっと妹の部屋にいるマールに声を掛ける。
「マール、レティシアは俺が見てるから帰れ」
「坊ちゃん、面会が。王宮魔道士が」
魔道士達はうちに何か仕込んでいるわけじゃないよな。
マールが立ち上がった。
「追い返してくるよ」
冷笑を浮かべたマールが出て行った。
「レティシア、何してるんだよ。」
多忙な妹は体力の限界を迎えたのか。
能天気にただ寝てるようにしか見えない。冷たい体に触れなければいつもと何も変わらない。
「ストーム、何かわかるか?」
「レティ、いない。迷ってる」
精霊の言葉がよくわからないのはいつものこと。
迷子?
「帰ってくるために何か手伝えるか?」
「わからないけどやってみる。レティは風の匂いが強いから」
「頼むよ」
相変わらず意味がわからないが、できることがあるなら頼むか。迷子かよ…。
マールは何を言っても帰らないから好きにさせた。うちにくる魔道士達の相手を率先して対応するからいいか。母上が荒れ、今の母上は何をするかわからないから…。執事長にマールの滞在を頼まれたのが一番の理由だけど。
妹が眠って4日目にステラとフィルが訪問した。
登校しない妹を心配したらしい。眠る妹に動揺するステラをフィルが宥めた。ステラは妹の体を寄越せと乗り込んできた魔道士への報復を母上と共に計画している。マールは神官の相手をしていたため留守だった。なんで意識不明の情報が漏れてるんだ…。
部屋にはフィルと二人だけ。
「ラマン、何が起こっている?」
フィルの肩にトカゲ姿のラマンが現れた。
「体に魂がない。時の精霊の関与か?」
「レティに触れたら消すわよ」
不機嫌な顔のディーネが出てきた。ラマンとディーネは絶対に喧嘩させるなと妹に言われている。
「時の精霊?」
「フィルは何も知らんな」
「ラマンは物知りだな。精霊のこと教えてくれないか」
フィルがラマンを褒め始めた。ラマンは褒められるのに弱い。得意げな顔をしたラマンが笑っている。
ストームは何も食べないのにラマンは食事をするのか。フィルが干し肉を与えている。妹がラマンとうまく付き合えるのはフィルだけと言っていたがディーネと付き合うほうが難しいとは口には出さない。
「フィルの頼みじゃ答えてやろう。
この国には5精霊が住んでおる。
創造神により力を与えられし5大精霊
時を司るクロノス様。
地を司るノーム様。
火を司るサラマンダー様。
水を司るウンディーネ様。
風を司るシルフ様。
我等がサラマンダー様が一番じゃがな」
「嘘よ。ウンディーネ様よ」
ディーネが不愉快そうに呟いたのをフィルが宥めている。仲裁の上手さは感心するよな。ディーネには菓子を与えている。ディーネを宥めてラマンをおだてて、続きが始まりそうだ。
「創造神は我等の主に力を与えた。クロノス様は世界を作る力。ノーム様は命を生み出す力。我等がサラマンダー様は命を燃やし輪廻に戻す力。ウンディーネ様は命に干渉する力。じゃがシルフ様は力を望まず自由を与えられた。
我等の主は気まぐれに干渉するが、理は守る。
我等の主は力を注ぎ、我等を作った。
じゃがクロノス様が作ったのは時の精霊の三兄弟のみじゃ。
主の名前を与えられた我等は他の精霊より強い。我等の声に下位精霊も従う。フィルの世界なら公爵じゃな。
ストームは騎士じゃな。
ストームは我等と違い制約が多い。主の願いに絶対に忠実じゃが、我等上位の精霊に逆らうことは許されん。我等は命令はせぬがのぅ。時折、興味深い人間がいるなら力を貸すだけじゃ。
精霊と人が結ぶは契約は2つ。
我等主の名を持つ上位精霊は契約者と常に対等の契約を望む。
その者に加護を与え、命尽きるまで側におる。契約者の意向にそうかは気分次第じゃ。じゃが契約すると、対価なく力が与えられる。精霊の力を借りるには対価が必要ゆえな。
ストームや下位精霊は主従契約じゃ。力の弱き精霊は主の魔力を対価に仕える。魔力は自然から吸収できるが人からもらうのが効率が良いのでな。自由を好む者が多く契約する奇特な者は少ないがな」
だからストームはディーネに従うのか。他の精霊の存在は教えられないがディーネは特別と言っていたのはそういうことか。
「俺は幸運なんだな。ラマン、時の精霊について教えて欲しい」
「そうじゃ。我と契約できるとはのう。時の精霊か。時の三兄弟は力が強い。世界を創造する力、時を操る力、魂を操る力を持つ。レティシアの魂は時の精霊の悪戯にあっておる。時の精霊が満足すれば返ってくる。時の精霊の世界に囚われなければ。ディーネが行かせたなら勝算はあるんじゃろう」
「時の精霊の悪戯?」
「時の旅に出ている。時の精霊は自由に時を渡り歩く」
「レティシアが無事に帰ってくるためになにかできるか?」
「我等はできん。自由な風なら入り込めるかも知れぬが。風の精霊は力がない分制約もない。どこの世界も思うまま。干渉できるかはわからん。すでにストームが動いているがな」
よくわからないが、たぶん大丈夫だろうか。
「そうじゃな。あとはあやつ、誰じゃったか。レティシアとよくおる濃紺の風使い」
「マール様?」
「そうじゃ。魔力を送らせろ。レティシアの魂はやつの魔力に馴染んでおった。魂は似た魔力に惹き寄せられる。帰る道を照らすかも知れん。過剰な魔力は駄目じゃがディーネがおる。あやつは真面目じゃ。契約者に害するなら力づくでも」
ディーネは物騒な性格なのか。フィルが出て行き、しばらくするとマールを連れて戻ってきた。
マールが妹に魔力を送っている。ほんのり顔色が良くなった。魂を魔力で染める?
ストームが戻ったら聞いてみるか。
いつの間にか戻ってきたステラが顔を曇らせて見ている。
「ステラ、大丈夫だよ。疲れて寝てるだけだ。狩りでも行くか」
「フィル様?」
「起きたら三人でビアードの森に行くか。それまで訓練な。夜はレティシアと眠ればいい。ビアード公爵夫人に頼んでやるよ。ステラの顔色を見たらレティシアが騒ぐよ」
「レティシア様はいつも先に行ってしまいます」
「俺と一緒に後ろを守ろうよ。前はエイベル様が守る。隣は未定だけどな」
ステラがフィルに連れられて出て行った。フィルはステラとレティシアに甘い。
マールがびしょ濡れになっている。ディーネは気が立ってるな。
「マール、魔力はもういらない。帰っていいよ」
「本当に起きるんだよな?」
「レティシアは約束は守るから大丈夫だ」
「なんで、いつも自信があるんだよ」
「長い付き合いだ。コレは俺の期待を裏切らないから信じるだけだ」
弱った顔で妹を見つめているマールは大事にしてるのかもしれない。妹に付き纏っているけど他の女の影はない。妹は呆れながらもマールの側で笑っている。
「妹の婚約者ならその顔はやめろ。起きたら心配する」
苦笑するマールを見ながら、可愛いところもあると笑っていた趣味の悪い妹を思い出す。
「レティシアとの婚姻は俺と父上に勝てないと認めないから」
「俺はすでにお前に勝ってる」
「認めるか!!」
ニヤリと笑ったマールが部屋から出て行った。訓練に混ざるんだろう。
「レティシア、お前が眠ると面倒なんだよ。いい加減起きろよ」
気持ち良さそうに眠っている妹の頭を撫でる。昔からフィルの部屋は用意してある。最近はマールとステラの部屋を母上は用意した。将来、ステラが侍女でフィルが護衛騎士として紛れるかもしれないな。カーソン伯爵家嫡男夫妻がな…。楽しそうだからいいか。
母上を慰めながら妹の目覚めを待っていた。妹に魔石を吸収させるのはステラに任せた。フィルの頼みでステラに妹の世話を頼んだら元気になった。ステラも単純だったのを忘れてた。
***
妹が目覚めたとマナの叫びに顔を見に行くと母上が妹を抱きしめていた。
きょとんとしている妹は5日も眠っていたと聞いて、能天気な顔で笑った。
「疲れてたんですかね。もう大丈夫ですわ。心配おかけしました」
あまりの能天気さと言葉の軽さに頭を叩く。
どこだか戻れるかもわからない世界に散歩に行ってきたくせに。この様子なら好奇心に負けたんだろうな…。調子が悪くても遊びに出かける昔の妹の姿が脳裏に重なった。
「調子が悪いなら言え。遊びよりも体が優先って昔から言ってるだろうが」
妹の顔から表情が抜け落ち突然涙が溢れ出した。
頭を撫でようとするとすでにマールが頭を撫でていた。
怖い顔の母上に腕を取られて連れ出され説教を受けた。
母上の説教が終わり部屋から出るとフィルが待っていた。ステラはレティシアの好物を作りに厨房に行ったらしい。
「エイベル様、マール様に任せましょう」
「フィルが気に入るとはな」
「危なっかしいレティシアには執念深いマール様がいいかもしれません。学園では女遊びしてませんし。レティシアが話さないなら何も聞きません」
「世話をかけるな」
無事ならいいか。話したいなら勝手に話すだろう。
フィルと別れて学園に戻ることにした。レティシアが目覚めたらもう大丈夫だろう。寮に帰ってふと思い出したので、ストームを呼び出した。
「ストーム、魂を染めるってわかるか?」
「稀に魂まで染める人がいるよ。自分の魔力で人を染めれば居場所もわかる。子供を作る以上に魔力を注ぎ込まないとできないよ。相手の魔力を上回らないといけないから」
「魔力で染める方法は?」
「子孫繁栄と同じだよ」
子孫繁栄?そういえば、押し倒されてたよな…。
マールは手が早い。マールは寮に戻っていなかった。後日、妹と登校してきたマールを捕まえた。
「マール、妹に手を出してないよな!?」
「最後までは」
「婚姻前に手を出せば斬るからな」
妹に睨まれている。待てよ。お前、なんでいるの?
「エイベル、何してるんですか!?」
「休んでなくていいのか?」
「ステラ達が離れませんでした。眠っていただけですから体に異常はありませんわ。声を荒げるなんてやめてください」
「マールに手を出されたら笛を吹けよ」
「職権濫用ですわ。いざとなれば綺麗に投げ飛ばします。心配無用です。眠り過ぎただけなのに大げさですわ」
呑気に笑う頭を叩こうとすると腕をマールに取られた。
「いい加減レティシアを叩くのやめろ」
「少しは仲良くしてくださいませ。私は失礼しますわ。ステラ行きますよ」
ステラと手を繋いで立ち去る妹を見送った。
妹を見て笑っているマールに苦笑した。
マールは妹がいると顔が変わる。多少は信じてもいいだろうか。
休養日はリール公爵家の演奏会に招待され帰省していたはずだ。
妹の部屋に行くと結界に覆われている。
また何かやらかしたんだろうか。
母上とマールが真顔で結界の前に立っている。
「エイベル、昨日までは元気だったのに…。結界も解除できないわ。声を掛けても反応が」
ベットで眠る妹が水の結界で覆われている。
母上やマールが解除できないなら、ディーネの結界か。
「母上、結界解くのでレティシアと二人にしてください」
母上とマールを追い出して、部屋を防音の結界で覆う。
「ディーネ、何が起こっている?」
俺が呼んでも出てこないよな。ディーネは妹が声を掛けなければ反応しない。ラマンのほうが気さくに話してくれるんだよな。契約者に似るんだろうか?
「眠っていても生命維持がいる。体を医務官に見せたいから結界解除してくれないか?」
「結界を解けば危険よ。意識が戻るまで、レティの体は狙われるわ」
ディーネの声が聞こえた。事情を知っているのか。ディーネが反応するなら大丈夫だろう。
「部屋全体を俺の結界で覆う」
「ストームの力にして。エイベルの結界は脆い。一番高度なものを」
「わかった。ストーム、ディーネの願い通りに頼むよ。俺の許した者以外は中に入れるな」
部屋をストームの風が覆った。ディーネが結界を解除すると脳天気に眠ってる妹の額に手を当てると冷たい。
母上を呼ぶとマールと医務官を連れてきた。
医務官を入れるとディーネが顕現して睨んでいる。空気が冷たくなったから警戒する何かあるんだろうか…。医務官が診察してもやはり原因不明だった。
しばらくするとルーン公爵が騎士と共に現れた。
母上、宰相を呼び出したんですか!?国で一番の治癒魔道士と言われるのはルーン公爵だけど・・。
「馬鹿なことしたら、タダでは帰さないわ」
冷たい空気を纏った母上がルーン公爵に言うと、頷き妹の手を握り、目を閉じて診察を始めた。
ディーネがルーン公爵を睨んでいる。
しばらくするとルーン公爵は手を離して首を振った。
「眠っている。体に異常はない」
「は?」
「原因はわからない。魔石で生命維持をさせる他ない。儀式の影響だろうか」
「まさか、この子の体を」
母上が眉を吊り上げてルーン公爵を睨んでいる。
「ありえないよ。魔石は」
レティシアの溜めている魔石を引き出しの中から取り出す。何かあれば使えと言われていたが、まさか必要になるとは思わなかった。
魔石を見せると、ルーン公爵は頷いた。
「食事の代わりに吸収させなさい。足りなくなれば声を」
「余計なことすれば覚えてなさい。更地にするわ」
母上が目を吊り上げて睨んでいる。母上がルーン公爵を嫌いなのは気づいていたけど無礼は気にしないのか!?礼儀に厳しい母上が…。
「私はこれで」
「役立たずが」
吐き捨てた母上の言葉にルーン公爵が出ていくので、慌てて追いかけた。
「ルーン公爵、申し訳ありません」
「構わないよ」
騎士に送る手配をして、頭を下げて見送った。
母上が心配だから目覚めるまでうちにいるか。ディーネの結界が解けてからずっと妹の部屋にいるマールに声を掛ける。
「マール、レティシアは俺が見てるから帰れ」
「坊ちゃん、面会が。王宮魔道士が」
魔道士達はうちに何か仕込んでいるわけじゃないよな。
マールが立ち上がった。
「追い返してくるよ」
冷笑を浮かべたマールが出て行った。
「レティシア、何してるんだよ。」
多忙な妹は体力の限界を迎えたのか。
能天気にただ寝てるようにしか見えない。冷たい体に触れなければいつもと何も変わらない。
「ストーム、何かわかるか?」
「レティ、いない。迷ってる」
精霊の言葉がよくわからないのはいつものこと。
迷子?
「帰ってくるために何か手伝えるか?」
「わからないけどやってみる。レティは風の匂いが強いから」
「頼むよ」
相変わらず意味がわからないが、できることがあるなら頼むか。迷子かよ…。
マールは何を言っても帰らないから好きにさせた。うちにくる魔道士達の相手を率先して対応するからいいか。母上が荒れ、今の母上は何をするかわからないから…。執事長にマールの滞在を頼まれたのが一番の理由だけど。
妹が眠って4日目にステラとフィルが訪問した。
登校しない妹を心配したらしい。眠る妹に動揺するステラをフィルが宥めた。ステラは妹の体を寄越せと乗り込んできた魔道士への報復を母上と共に計画している。マールは神官の相手をしていたため留守だった。なんで意識不明の情報が漏れてるんだ…。
部屋にはフィルと二人だけ。
「ラマン、何が起こっている?」
フィルの肩にトカゲ姿のラマンが現れた。
「体に魂がない。時の精霊の関与か?」
「レティに触れたら消すわよ」
不機嫌な顔のディーネが出てきた。ラマンとディーネは絶対に喧嘩させるなと妹に言われている。
「時の精霊?」
「フィルは何も知らんな」
「ラマンは物知りだな。精霊のこと教えてくれないか」
フィルがラマンを褒め始めた。ラマンは褒められるのに弱い。得意げな顔をしたラマンが笑っている。
ストームは何も食べないのにラマンは食事をするのか。フィルが干し肉を与えている。妹がラマンとうまく付き合えるのはフィルだけと言っていたがディーネと付き合うほうが難しいとは口には出さない。
「フィルの頼みじゃ答えてやろう。
この国には5精霊が住んでおる。
創造神により力を与えられし5大精霊
時を司るクロノス様。
地を司るノーム様。
火を司るサラマンダー様。
水を司るウンディーネ様。
風を司るシルフ様。
我等がサラマンダー様が一番じゃがな」
「嘘よ。ウンディーネ様よ」
ディーネが不愉快そうに呟いたのをフィルが宥めている。仲裁の上手さは感心するよな。ディーネには菓子を与えている。ディーネを宥めてラマンをおだてて、続きが始まりそうだ。
「創造神は我等の主に力を与えた。クロノス様は世界を作る力。ノーム様は命を生み出す力。我等がサラマンダー様は命を燃やし輪廻に戻す力。ウンディーネ様は命に干渉する力。じゃがシルフ様は力を望まず自由を与えられた。
我等の主は気まぐれに干渉するが、理は守る。
我等の主は力を注ぎ、我等を作った。
じゃがクロノス様が作ったのは時の精霊の三兄弟のみじゃ。
主の名前を与えられた我等は他の精霊より強い。我等の声に下位精霊も従う。フィルの世界なら公爵じゃな。
ストームは騎士じゃな。
ストームは我等と違い制約が多い。主の願いに絶対に忠実じゃが、我等上位の精霊に逆らうことは許されん。我等は命令はせぬがのぅ。時折、興味深い人間がいるなら力を貸すだけじゃ。
精霊と人が結ぶは契約は2つ。
我等主の名を持つ上位精霊は契約者と常に対等の契約を望む。
その者に加護を与え、命尽きるまで側におる。契約者の意向にそうかは気分次第じゃ。じゃが契約すると、対価なく力が与えられる。精霊の力を借りるには対価が必要ゆえな。
ストームや下位精霊は主従契約じゃ。力の弱き精霊は主の魔力を対価に仕える。魔力は自然から吸収できるが人からもらうのが効率が良いのでな。自由を好む者が多く契約する奇特な者は少ないがな」
だからストームはディーネに従うのか。他の精霊の存在は教えられないがディーネは特別と言っていたのはそういうことか。
「俺は幸運なんだな。ラマン、時の精霊について教えて欲しい」
「そうじゃ。我と契約できるとはのう。時の精霊か。時の三兄弟は力が強い。世界を創造する力、時を操る力、魂を操る力を持つ。レティシアの魂は時の精霊の悪戯にあっておる。時の精霊が満足すれば返ってくる。時の精霊の世界に囚われなければ。ディーネが行かせたなら勝算はあるんじゃろう」
「時の精霊の悪戯?」
「時の旅に出ている。時の精霊は自由に時を渡り歩く」
「レティシアが無事に帰ってくるためになにかできるか?」
「我等はできん。自由な風なら入り込めるかも知れぬが。風の精霊は力がない分制約もない。どこの世界も思うまま。干渉できるかはわからん。すでにストームが動いているがな」
よくわからないが、たぶん大丈夫だろうか。
「そうじゃな。あとはあやつ、誰じゃったか。レティシアとよくおる濃紺の風使い」
「マール様?」
「そうじゃ。魔力を送らせろ。レティシアの魂はやつの魔力に馴染んでおった。魂は似た魔力に惹き寄せられる。帰る道を照らすかも知れん。過剰な魔力は駄目じゃがディーネがおる。あやつは真面目じゃ。契約者に害するなら力づくでも」
ディーネは物騒な性格なのか。フィルが出て行き、しばらくするとマールを連れて戻ってきた。
マールが妹に魔力を送っている。ほんのり顔色が良くなった。魂を魔力で染める?
ストームが戻ったら聞いてみるか。
いつの間にか戻ってきたステラが顔を曇らせて見ている。
「ステラ、大丈夫だよ。疲れて寝てるだけだ。狩りでも行くか」
「フィル様?」
「起きたら三人でビアードの森に行くか。それまで訓練な。夜はレティシアと眠ればいい。ビアード公爵夫人に頼んでやるよ。ステラの顔色を見たらレティシアが騒ぐよ」
「レティシア様はいつも先に行ってしまいます」
「俺と一緒に後ろを守ろうよ。前はエイベル様が守る。隣は未定だけどな」
ステラがフィルに連れられて出て行った。フィルはステラとレティシアに甘い。
マールがびしょ濡れになっている。ディーネは気が立ってるな。
「マール、魔力はもういらない。帰っていいよ」
「本当に起きるんだよな?」
「レティシアは約束は守るから大丈夫だ」
「なんで、いつも自信があるんだよ」
「長い付き合いだ。コレは俺の期待を裏切らないから信じるだけだ」
弱った顔で妹を見つめているマールは大事にしてるのかもしれない。妹に付き纏っているけど他の女の影はない。妹は呆れながらもマールの側で笑っている。
「妹の婚約者ならその顔はやめろ。起きたら心配する」
苦笑するマールを見ながら、可愛いところもあると笑っていた趣味の悪い妹を思い出す。
「レティシアとの婚姻は俺と父上に勝てないと認めないから」
「俺はすでにお前に勝ってる」
「認めるか!!」
ニヤリと笑ったマールが部屋から出て行った。訓練に混ざるんだろう。
「レティシア、お前が眠ると面倒なんだよ。いい加減起きろよ」
気持ち良さそうに眠っている妹の頭を撫でる。昔からフィルの部屋は用意してある。最近はマールとステラの部屋を母上は用意した。将来、ステラが侍女でフィルが護衛騎士として紛れるかもしれないな。カーソン伯爵家嫡男夫妻がな…。楽しそうだからいいか。
母上を慰めながら妹の目覚めを待っていた。妹に魔石を吸収させるのはステラに任せた。フィルの頼みでステラに妹の世話を頼んだら元気になった。ステラも単純だったのを忘れてた。
***
妹が目覚めたとマナの叫びに顔を見に行くと母上が妹を抱きしめていた。
きょとんとしている妹は5日も眠っていたと聞いて、能天気な顔で笑った。
「疲れてたんですかね。もう大丈夫ですわ。心配おかけしました」
あまりの能天気さと言葉の軽さに頭を叩く。
どこだか戻れるかもわからない世界に散歩に行ってきたくせに。この様子なら好奇心に負けたんだろうな…。調子が悪くても遊びに出かける昔の妹の姿が脳裏に重なった。
「調子が悪いなら言え。遊びよりも体が優先って昔から言ってるだろうが」
妹の顔から表情が抜け落ち突然涙が溢れ出した。
頭を撫でようとするとすでにマールが頭を撫でていた。
怖い顔の母上に腕を取られて連れ出され説教を受けた。
母上の説教が終わり部屋から出るとフィルが待っていた。ステラはレティシアの好物を作りに厨房に行ったらしい。
「エイベル様、マール様に任せましょう」
「フィルが気に入るとはな」
「危なっかしいレティシアには執念深いマール様がいいかもしれません。学園では女遊びしてませんし。レティシアが話さないなら何も聞きません」
「世話をかけるな」
無事ならいいか。話したいなら勝手に話すだろう。
フィルと別れて学園に戻ることにした。レティシアが目覚めたらもう大丈夫だろう。寮に帰ってふと思い出したので、ストームを呼び出した。
「ストーム、魂を染めるってわかるか?」
「稀に魂まで染める人がいるよ。自分の魔力で人を染めれば居場所もわかる。子供を作る以上に魔力を注ぎ込まないとできないよ。相手の魔力を上回らないといけないから」
「魔力で染める方法は?」
「子孫繁栄と同じだよ」
子孫繁栄?そういえば、押し倒されてたよな…。
マールは手が早い。マールは寮に戻っていなかった。後日、妹と登校してきたマールを捕まえた。
「マール、妹に手を出してないよな!?」
「最後までは」
「婚姻前に手を出せば斬るからな」
妹に睨まれている。待てよ。お前、なんでいるの?
「エイベル、何してるんですか!?」
「休んでなくていいのか?」
「ステラ達が離れませんでした。眠っていただけですから体に異常はありませんわ。声を荒げるなんてやめてください」
「マールに手を出されたら笛を吹けよ」
「職権濫用ですわ。いざとなれば綺麗に投げ飛ばします。心配無用です。眠り過ぎただけなのに大げさですわ」
呑気に笑う頭を叩こうとすると腕をマールに取られた。
「いい加減レティシアを叩くのやめろ」
「少しは仲良くしてくださいませ。私は失礼しますわ。ステラ行きますよ」
ステラと手を繋いで立ち去る妹を見送った。
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