追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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閑話 精霊の日記 クロノ視点

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創造神により世界は作られた。
創造神はフラン王国に最高位精霊の5体を生み出した。
地の精霊は命を育み生を司る。
火の精霊は命を燃やし死を司る。
水の精霊は命を包み、運命を司る。
風の精霊は自由自在。
時の精霊は新たな世界が作り出す。

魂はサラマンダーの火で浄化され、ノームにより育まれ新たな魂をとなり蘇る。
生まれた世界で傷つけばウンディーネが癒やし運命を真っ当できるように導く。
運命に選ばれた者のみ治癒魔法の恩恵が享けられる。
自由を愛するシルフの風をどう受け止めるかは受け取りて次第。

時の大精霊クロノスに仕える時の精霊の三兄弟は制約がある。
時の精霊は本を作り新たな世界が作る。
干渉できるのは登場人物を増やすことだけ。
ありのままを愛するクロノスは生まれた魂を操ることは許さない。
ただ例外がある。
時の精霊に授けられた魂。
願いを叶える代償の魂。
フラン王家に授けた時の魔導書を使った王族の魂。
これらは時の精霊の自由にすることを許している。
これは時の精霊のクロノの物語。

***



私はクロノ。
クロノス様に仕えている。

長兄は儀式の間に住み趣味の魂集めに夢中なノルダ、次兄は姫と契約し旅を続ける変わり者のローグ、私はクロノス様の書庫の整理をしながら王家を見守るクロノ。

自由で変わり物の兄達の代わりに役目を押し付けられた可哀想な妹よ。クロノス様は気まぐれでほとんど姿を見せない。私達の作った本をクロノス様の書庫に並べるのが時の精霊の役目。
本の整理も終わったので最近のお気に入りの本を手に取り中の世界に入り込む。
私が見守るフラン王家に時々綺麗な魂を持つ子が生まれる。王家の魂は淀んだ魂が多いから、綺麗な子を見つけるとついつい側で見守りたくなるの。

生まれた時から綺麗な魂を持つクロードはレティシアと出会ってさらに魂が綺麗になった。王家で変化を望むものの魂は美しい。レティシアも穢れのない綺麗な魂を持つから二人を見ているのは有意義。
クロードは私のお気に入りだから、時の魔導書を贈った。使うかどうかはクロード次第。
時の魔導書の魔法を使うには代償がいる。もし使ってあの美しい魂が手に入るなら儲けもの。私は美しい魂を見ていられれば満足だけど手に入るなら飾って大事にするわ。
残念ながら、目論見は外れた。
ある時を境にクロードの魂が淀んでいく。

魂を生贄に時戻しの魔法を使っている暗い顔をするクロードの前に姿を現し声を掛ける。

「クロード、貴方の望みは?」
「私のレティと共にいたい。それさえ叶えば何もいらない」

クロードの魂の輝きはレティシアのおかげなのか・・。
時戻しの魔法を使うとこの本は完結。先が消えるものなら好きにしてもいいわね。
クロノス様に禁止されても見つからなければいいもの。消えるなら見つからないわ。
この本の世界が終わりを迎える前にレティシアの体から魂を抜き出した。念のため見失わないように私の髪を魂に縛り印をつけた。これで、落としても私の所に帰ってくるわ。
クロードの魔法が完成したから、ノルダが作った新しい本の世界に移動しよう。
ノルダが生贄の魂を本に収め、新たな本を作ったわ。ノルダが新しい本の中に消えて行ったので私も行こう。表紙を開き中に入りまずはレティシアを探さないと行けないわ。

世界を巡っていると見つけた。精霊に囲まれ、水遊びをしているレティシアを見つけた。相変わらずレティシアの魂は綺麗。昔のクロードほどではないけど。レティシアに近づいて持ち出した魂を体に入れて、同化させる。同じ魂だから拒絶なく、馴染む。多少の痛みは伴うけど一瞬よ。

「う!!」

倒れるレティシアを水の精霊が抱きとめた。水の精霊が睨んでくるのは気に入らない。でもウンディーネに見つかれば面倒だから、今は許してあげる。

「シア!?」

少年が走ってレティシアに近づいてきたわ。痛みで意識を失ったけど魂が同化したし私のやることは終わったからクロードの所にいこう。もし痛みで亡くなっても私のもとに魂が帰ってくるもの。
ノルダはこの世界の儀式の間に住み着いてる。
ノルダは魂ならなんでもいいみたい。私には美しくない魂の価値がわからないわ。
この世界のクロードの魂は淀んだままだった。
私はレティシアとクロードが出会って幸せになりクロードの美しい魂を自分のものにするつもりだったのにこのお話はおかしい。
レティシアとクロードが婚約せず、最後まで二人は結ばれない。
息を引き取る間際のクロードに会いに行く。

「会いに来てくれたのか。最期はレティに会いたかったな。レティ、幸せに」

微笑んで息を引き取った。
クロードの魂がノルダに回収されるまえに保護した。時の魔術に手を染めたクロードの魂は時の精霊が自由にすることを許される。
クロードの魂の記憶を見るとレティシアばかりだった。

「レティ、私はずっと待っているよ。これを受け取ってくれないか」
「クロード様?これは?」
「危険はないよ。私が恋しくなったらここに来て。どうか傍に置いてくれないか。私は行くよ」

クロードの懇願に負けて、レティシアが魔石と魔法陣を受け取っている。レティシアは昔からクロードの願いに弱かったわ。

「行ってらっしゃいませ。御身を大事にしてください」
「もう退位して随分たつけど」
「どんな立場でもかわりません。お気をつけて」
「行ってくるよ」

クロードがレティシアを抱きしめてしばらくして離れ転移魔法で消えた。
クロードは後継に全てを任せて、王家の隠れ家で過ごしていた。役目を終えた王族が転移魔法で消えるのはよくあること。
このレティシアとの別れを最後にクロードは姿を消した。
姿を消す用意は整えていたから誰もクロードを探さなかった。


クロードの魂は生まれた時の美しさを取り戻したけど、全盛期の美しさはない。物足りないから新しい世界を作ろう。クロードの願いはクロードのレティシアと共にいることだから彼女の魂を回収しないといけないわ。
クロノス様と約束したのはノルダだし、きっと今度も見つからないわ。私は直接命じられてないもの。

レティシアを訪ねると家に入れなかった。
家には魔封じや精霊避け、数えきれない程の魔法が張り巡らされている。
王宮よりも凄いわ…。
中に入れないなら、外に出るまで待てばいいわ。
しばらくするとレティシアが馬車で出かけたので追いかける。
家族と共にピクニックかしらね。
これなら近づけるわ。レティシアに近づき魂を抜こうとするけど、抜けない。
胸を抑えたレティシアが座り込んだ。

「レティ!!」

ディーネに気づかれた。ディーネには私の姿は見えるわね。レティシアの魂を掴めているのに、抜き出せない。

「リオ、フウタと風の魔力最大でレティを包んで。レティが危ない!!」

ディーネの水が襲ってくる。防御すると爆風に吹き飛ばされる。手の中に小さい魂のカケラは銀と青が複雑に絡み合っている。レティシアの魂は深くて青い水の精霊に愛される色をしていたわ。
レティシアを抱きしめている風の坊やは、もしかして、マール一族!?
マールの魔力に染められたらマールから離れられない。マールの血と魔力に体を犯されればマールなしで生きれなくなる。自由を愛する風は精霊の中で一番力を持つ。そしてシルフ様が気まぐれに力を与えた一族は執着のマールと忠臣のビアード。
魂は体に縛られ、体はマールに捕らわれる。これ以上は持ち出せない。魂まで染め上げるとはシルフ様の関心を引いた執念の一族ならでは。
でもこのカケラを育てれば記憶は受け継がれるからいいか。
この世界に用はないから最後にクロードの顔を見に行こう。
フラン王家でも屈指に入るほど民に最も慕われた王なのに最期は一人を選んだクロードを。
眠っているクロードの願いは変わらない。この場の時は止めたから体が腐敗することはない。

精霊の時間は人とは違う。
クロードの魂を見ていると魔力の発動を感じた。
現れたのはレティシアと騎士と私を吹き飛ばした風の坊や。
眠っているクロードに3人が駆け寄った。

「クロード様!?嘘でしょ!?どうして」

レティシアがクロードに手をあて魔法を発動するも効果はない。
涙を流すレティシアの肩を風の御曹司が抱いている。

「どうして一人で。エイベル、何をしてたのよ!!あなたが付いていながら」
「前々から一人で旅に出たいと準備を進められていた。王宮の鐘が・・・」

顔を顰める騎士をレティシアが泣きながら睨んでいる。
王宮には王族の死を知らせる鐘がある。王族が亡くなれば、鐘が鳴り響き、民のために全てを捧げた王族のために祈りを捧げる風習がある。

「クロード様、どうして教えてくれなかったんですか。あの時もっと話を聞いていれば。一人で」

レティシアがクロードの手を握って泣き崩れている。ディーネが私に気付いて睨んでいる。気に入らない。

「レティ、ここは危ないから移動しないと。嫌な魔力の匂いがする」
「シア、ビアードに任せよう。俺達の役目はここまでだ。偉大なる王族の旅立ちは任せていいよな?」

騎士がクロードの髪を一房切り、レティシアに渡す。

「ああ。ビアードの名にかけて。レティシア、これだけ傍に置いてくれないか。クロード様はお前の側にいるのが好きだったから」

「クロード様の旅の夢は私が責任もって叶えます。ティアとリアムに預けて世界を回らせて」
「いや、お前が持っていろ。」
「リオのほうが」
「レティシア、頼むからお前が持っていてくれ。それがクロード様は一番喜ばれる」

風の御曹司がレティシアを抱きしめて涙を拭っている。

「落ち着いたら出かけようか。4人で」
「そうですね。エイベルも付き合ってください。4人で懐かしい話をしましょう。そんな嫌そうな顔をしないでくださいませ。クロード様が寂しがりますわ。完璧なのに仕方のない方ですわ。クロード様、誰よりも偉大な王族に敬意を。レティシアは貴方の御代に生を受けて幸せでしたわ」
「偉大なる王に敬意を。どうか安らかな眠りを」

レティシアと風の御曹司が礼をすると騎士が苦笑した。
クロードを抱き上げて、3人が消えて行った。
そういえば1冊目の物語では昔はよく一緒にいた4人だったわ。


ノルダの世界を抜け出して、新しい本を作り新たな世界に入り込んだ。
クロードの魂はクロードの体に埋め込んだ。

レティシアはまだ産まれていない。このままならルーンに生まれる。前は風の御曹司の所為で台無しだった。魂まで染め上げた風の御曹司がまた邪魔するかしら。
それなら風の御曹司と出会わない家に産まれさせればいい。禁忌の力を使うから当分動けなくなるけどクロードの美しい魂のためなら仕方ないわ。

マールと関係のない夫婦に銀髪の娘を作りレティシアの魂のカケラを埋め込んだ。体を作ると魂もできてしまう。レティシアの魂のカケラが育ったら消せばいいか。
レティシア・ルーンの魂は消したので、この世界にレティシアは一人だけ。登場人物は増えないわ。
運命を歪めるのは禁忌。力を使いすぎたので少し眠ろう。

目が覚めると、クロードの魂は産まれたままの美しさなのに私の知るクロードではない。時を渡り眠っていた時間を遡る。育ち始めたレティシアの魂のカケラに力を与えて、誤差でできた魂を抜き取ろうとしたけどやめた。この小ささならいずれ消えるわ。余計な力を使いたくない。
クロードには記憶が伝承されてない。
この世界も失敗か・・・。今は消耗しているので、新しい世界を作りだし、干渉するには時間が必要だわ。
本の世界を抜け出しクロノス様の書庫に戻った。ここは時の魔力に溢れているから力の回復には一番。力が回復したら新しい世界を作ろう。
時戻しの魔法で完結した本が光っていた。本を開けるとページが増えているけど、まさか兄さんが干渉してる?
本の世界に入るとクロードの魂が輝きを取り戻していた。動くはずのない時が進んでる。

兄さんの魔力の残り香を辿ると私が作った世界のレティシアがいた。クロードは時戻しを使っていない。幸せそうに笑うクロードの腕の中にはレティシアがいた。時戻しをしていないならこの世界の魂は私の手には入らない。ただクロードの魂は淀みが消え昔に気に入っていた魂の色だった。

「まさかこんな簡単に叶うなんて・・・・」

肩を掴まれて振り向くと呆れた顔のローグ兄さんがいた。

「クロノは強引なんだよ。違う世界に魂を送って、うまくいかないならやり直しって」

呆れる声にイライラした。好き勝手しているのにローグ兄さんはクロノス様のお気に入り。いつも全てを思いのままに動かす。

「2度目で上手くいくはずだったの!!邪魔した風の坊やを遠ざけたのに3度目は記憶の継承を失敗したわ。4度目にやり直させるには力が足りなかったから時を待っていたのよ」

「王族以外を巻き込まないと誓約が」


ノルダはフラン王家と誓約を交わした。クロノス様から預かった時の魔導書を授ける代わりにフランの血族の魂を自由にしていいと。自然のありのままの流れを好み、干渉を嫌うクロノス様がいくつかノルダに命じた。
魂を集める条件を。
時の魔導書はフラン王国の宝具として祀られている。ただその魔導書の場所は隠されている。
時の精霊の興味を持った王族しか読めない。

ローグは生贄に差し出された王族の姫の魂に魅入られた。
本の世界に干渉し姫と契約をした。
生贄に捧げられた姫の魂と代償に転移魔法を授けた。時の魔導書の魔法を手に入れるためには生贄がいる。
それからローグは役目を放棄し姫と共に時の世界を渡り歩いている。

私はマトモな時の精霊だからクロノス様の書庫を整理しながら、綺麗な王族の魂を見つけて見守るだけ。今まで見た中で一番綺麗な魂を持つのがクロードだった。

「誓約を交わしたのはノルダよ。クロードの美しい魂を傷つけたくないもの。レティの魂を削って新しい世界に送っただけよ。クロードはレティと結ばれることを願った。彼が望むレティじゃないと駄目だもの。兄さんの干渉で一発なんて」

「時の精霊一族の誓約だ。これ以上は巻き込むなよ。私達は帰ろうか」

ローグ兄さんには通じないか。レティシアの魂をいじったのは禁忌だとは気づいていた。

「そうですか・・。クロノ様、この体の持ち主はどこでしょうか?」

レティシアに強い瞳で見つめられた。私の作ったレティシアの銀の瞳が青に変わった。

「いないわ」

「はい!?」

驚いた顔で間抜けな声をあげている。クロードのレティだったら決して浮かべなかった顔で。2度目はクロードは寂しそうにレティを見ていた。
レティの近くに転移していつも寂しそうに見ながら微笑んでいた。魂は綺麗なのに翳っていた。
ローグに咎める視線を向けられている。

「クロードが魔法を使い、時を巻き戻したでしょ?クロードのレティと結ばれることを願ったから二人の魂を抜き取って、時が戻った体に定着させた。
記憶を思い出すまで時差があったのと、風の坊やが動いたから上手くいかなかった。巻き戻しの世界でもクロードの願いは叶わなかった。
だから新たな世界を作ったわ。
二人の魂を抜き取りたかったけど、レティの魂は風の坊やの魔力に包まれていたからカケラしか抜き取れなかった。魔力で魂まで染め上げたのは坊やだけよ。風の坊やは私の邪魔ばかりするわ」

「さすが執着の塊の風の御曹司・・」

座ってお茶を飲みながら呑気に私達を見ていた姫の呆れる顔に私も同じ気持ちだった。

「だから次は風の坊やの干渉が入らない家に産まれさせた。無理矢理運命を捻じ曲げたから、世界が変わってしまった。

新たに作ったレティの体に抜き取った魂を定着させて、徐々にカケラを育てていった。レティのカケラが育ち、魂と体を侵食し同化して記憶が戻った。クロードの魂は新たな体に移したけど、うまく記憶が継承しなかったわ。」


想定外すぎたわ。
まさかここまで世界が変わるなんて。私の作った世界は歪みだらけだった。幼いレティシアとクロードが出会わない運命はなかった。

「魂を抜き取るって御身に危険は?」

レティシアに真顔で睨みつけられている。魂だけなのに魔力が漂っているのは何・・?

「クロードが息を引き取り輪廻に戻る前に魂を捕まえたから危険はないわ。クロードの美しい魂を傷つけたりしないわ。同じ体の魂は反発せずに同化するもの。魂なくして体は心を亡くし死を待つだけだもの。」

「もともとあったこの子の魂は?」

詳しく説明するのは面倒よね。クロードの魂以外は興味がないし。

「レティの魂に侵食されて消滅。もともと誤差で生まれた魂よ」

「なんてことをしたんですか!?」

どうして怒るのかしら。何も関係のないものを。

「精霊は気まぐれよ。私の作った世界で自由にしてもいいでしょ?」

もううまくいったからいいかな。私はクロードの魂さえ綺麗なままならこの世界に興味はないわ。

「クロノ、お詫びしなさいよ。関係のない魂を二つも巻き込んだ。貴方の寵児の願いを叶えたのはルリよ」

お茶を飲み終えた姫がため息をこぼした。

「精霊に理を解くなんて風情がないわ。でも馴染み過ぎたレティの魂を抜き取れば体は死ぬわよ」

「新たな体を作り埋め込めばいい。魂のカケラなら育てられるだろう?」

ローグ兄さんの提案は面倒。興味のない魂のために力を使いたくない。

「ビアード公爵夫妻の子供としてお願いします。あるべき形に戻してください」

レティシアの願いを叶えるためなら新たな本がいる。

「あるべき形ならルーンの子供よ。レティシアはビアードになる運命じゃないもの。でも新たな運命が紡がれているからレティシアをルーンに戻すなら、一度壊して世界を作り直さないと」

「世界を壊すよりも体を二つ作ればすむわ。どうせすぐできるんだから。ルーンとビアードに登場人物を増やすために干渉するのは簡単でしょ。ローグに手伝わせてもいいわ。そろそろ帰らないと、帰れなくなるわよ」

どうして人は欲深いのかしら。
面倒だわ。

「クロノ、魂は消滅してないだろう。レティからその子の魂のカケラを抜き取りなさい」

ローグ兄さんは気付いているのか。面倒なんだけど・・。
でもクロードは幸せそうに笑っている。この興味深い濃く変わり始めた魂の色も綺麗なのよね。
レティシア達のおかげか・・・。
クロードの欲した物が腕の中にある。そして今のありのままのレティシアと話すのもクロードの願いの一つだった・・。
欲深い王族なのに何一つ願いを叶えられなかったクロード。
クロードと話していたレティシアの願いを叶えてあげるか。

「クロノ様よろしくお願いします」

目の前に立ったレティシアの魂に手を伸ばし風の魔力に馴染んでいない魂を探り出す。
苦痛に顔を歪めるレティシアがうずくまった。魂の操作は痛みを伴う。痛みに耐えられず、正気を失うことも。
まぁレティシアが消えるなら面倒なことはしないですむかな・・。
目を閉じてうずくまってうめき声をあげるレティシアの体が風に包まれた。
風の魔力が上がり、馴染んでいない魂が見えた。

「ルリ、心を強く持ちなさい。ディーネと約束したでしょう。あの執着の塊は手放さないわ。リオのしつこさは貴方が一番良く知ってるでしょ?」

魂をここまで染め上げた者は風の坊やだけ。

「レティ、帰ってこいって主が」

風の精霊が紛れ込んだわ。レティの魂に馴染む魔力と似ている。
レティシアの顔が和らいだ。誤差で生まれた魂を抜き出すとレティシアは意識を失った。

「兄さん、私は力の限界なんだけど」

ローグ兄さんに抜き取った小さい魂を渡す。

「クロノス様の書庫で待っている」

レティシアを抱いた兄さん達が消えると、不機嫌な顔のノルダが出てきた。

「余計なことをしおって。手に入る魂が減った」
「クロードの魂に目をつけたのは私よ。ノルダと違って」
「ローグが干渉するとはな。幾つ禁忌を犯した」
「さぁ。興味ないから忘れた。自由な兄に囲まれて苦労するわ。どうせ魂なんてたくさんあるんだからいいじゃない」

悪趣味なノルダに付き合うのも面倒。力が回復したらまたこの世界でクロードの魂を眺めに行こう。この世界のクロードの魂が一番好みの色をしているもの。
クロノス様の書庫に戻るとローグが待っていた。

「レティの望み通りにしたよ。感想は?」
「クロードの魂が美しくなってよかったわ」

呆れた顔を向けられた。

「楽しい時間の始まりね。私は忠実なる家臣に手を出したことは許さないわ。もちろんクロノス様に許しを得たわ」

楽しそうな笑い声と共に姫が現れた。

「クロノス様は流れを変えるのを嫌われている。我らに望まれたのは本を増やし、世界を見守り整理するのみ。力を与えるのは望んだ者にのみ。罪のない者の時を操り運命を歪めた罰を与えよと」
「私とローグの力で体を作るわ。世界を渡る力は残してあげる。自分の罪がわかるまで戻らなくていいそうよ。書庫の整理は私達が責任もって請け負うわ」
「え?」
「本の登場人物になってきなさい。貴方が歪めたレティシアの善行を超えたら戻してあげる。貴方のお話は私達が見守ってあげるわ。記憶と力は封印するけど多少は残してあげる」
「どうして貴方が決めるのよ」
「レティシアは私の臣下。王族には臣下を守る義務がある。誓約を破って手を出したなら罰を求めるのは当然の権利よ。王家と時の精霊は誓約を交わした。誓約を破ったからには罰を受けるのは精霊も同じ。貴方の意見は聞かないわ。ノルダもローグも同意したわ。文句は言わせないから」

ノルダは物語を歪めて手に入るべき魂を手放させたクロノの行為が不愉快だった。クロノの干渉がなければ貴重な魂が2つ手に入る予定だった。
ローグも妹の奔放さに呆れていた。禁忌を犯しすぎていた。他の精霊と契約している者に手を出したのが一番の禁忌だった。
ウンディーネが自分の眷族の愛し子に無理矢理干渉したことをクロノスに苦情を言った。契約者の魂は契約した精霊のもの。二人の同意なしの干渉は許されない規則だった。

クロノは呆れた顔のローグと笑顔の姫の記憶を最後に目覚めると簡素な小屋にいた。

「目覚めたかい。魔力を秘めた孤児を弟子に取れと押し付けられた。確かに素質はありそうだね。新たな大魔導士を育てるのも愉快」

目の前の老婆。頭の中には善行をつめと笑う女の顔が過った。
何もわからない私は老婆の弟子としての生活が始まった。

****

クロノスの書庫には新たな本が一冊増えた。
人の身に宿った時の精霊の末っ子の物語が。

「クロノはどうするかな」
「1冊の本が終わるのは精霊にとってあっという間だ。」
「どこまで厚い本になるかしら。まさかクロノが私の妹弟子とは。師匠から魔導を学んで善行を積めばすぐでしょう。レティシアは2冊目まででもたくさんの善行を積んでるからら多少は時間がかかるかしら。私の臣下でディーネの契約者に手を出すなんてバカな子」
「精霊に善行か。酷い罰だ」

クロノは魔導士になった。ただ善行は中々つめなかった。クロノには人を理解するのは難しかった。
大魔導士のクロノの物語はどんどん分厚くなっていく。たくさんの善人と出会ってもクロノが善行を理解できるとは思えないローグだった。
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