追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第百十二話 武術大会

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5日間眠っていた所為か、リオが過保護になりました。
ずっと付き纏われています。
エイベルは私の頭を叩いたのでビアード公爵夫人に怒られました。そろそろ人の頭を叩くのは卒業すべきなので庇いませんでした。
目覚めない私を心配して極秘でルーン公爵が呼ばれました。
私の魔石を吸わせて生命維持をして目覚めるのを待つしかないという見立てでした。
役立たずとビアード公爵夫人が追い出した話を聞いて、後日謝罪に伺うことを決めました。家格の高いルーン公爵になんてことを・・。報復されたりしませんよね・・?ルーン一族は矜持の高さは王国一ですよ。ルーン公爵はお忙しいので、エイベルの修行に同行した時にエドワードとルーン公爵夫人に謝罪から始めましょう。
目覚めない私に王宮での儀式の副作用等憶測が飛び多大な心配をかけました。すぐ起きるはずだったんですが・・。でも多大な心配をかけたことは反省します。次はもう少しうまくやりましょう。
生徒会はなかったんですが、教室に迎えにきたリオに捕まりずっと抱きしめられています。
リオは不思議です。私が何を言っても動じません。
動揺して、私がビアードに生まれるべきでなかったことを話しても優しく慰めてくれました。

「リオ様は私が頭がおかしいと思っていますか?」

優しい顔で笑う顔に不審はありません。
私だったら頭がおかしいと疑います。生前の記憶があるなんて信じられません。治癒魔法をかけて休息を勧める自信があります。まぁ体験したので今の私は信じますよ。でもこのリオは違います。

「危機感の欠如や時々抜けてるけど、武門貴族の価値観自体おかしいからなぁ。俺はレティシアが笑っててくればそれでいいから気にしないよ。嘘は苦手そうだしな」

おかしいと思われてました。
ビアードの価値観が変なのはよくわかりますが私への不審は感じられません。

「不思議ですわ」
「眠ったまま起きないのは勘弁してほしいけど。5日も。次からは俺も連れてってよ。どこに行ってきたか知らないけど」
「どこにも行ってません。不思議な夢を見ていただけです」
「俺は出てきた?」

銀の瞳を細めて楽しそうに話す顔に笑ってしまいました。このリオはお説教しません。されても聞く気はありませんが。

「はい。リオのあんなに怒った顔は初めて見ました。ルーン公爵令嬢がクロード殿下と結ばれるまで終わらない夢でした。腑抜けた私を何度も叩きましたが、すり抜けてしまい幽体は不便でしたわ。触れられ、声が届くことがありがたいことだと実感しました。」

突然不機嫌そうな顔をしたリオの手が頬に添えられ、軽く口づけられました。

「殿下に渡さないけど」

今のクロード殿下とは違います。夢の世界と現実を混同させるリオはおかしい人です。リオにとっては知らない世界です。私のリオも生前の知らない世界を受け入れてくれました。

「私はリオ様の婚約者なので違う世界のお話です」

不機嫌そうな顔が嬉しそうに笑いました。このリオはあまり頼りになりませんが、表情豊かです。
上機嫌に私を抱きしめ髪を撫でるリオにも慣れました。撫でられる手が気持ち良くて力が抜けます。

「武術大会、俺が優勝してもいい?」
「エイベルに勝てるとは思いませんが、優勝を目指してるんですか?」
「ビアードに婿入りするなら、必要だろう?」

ビアード公爵令嬢としてはビアード家門の優勝が一番喜ばしいですけど…。

「強さを示し、羨望の眼差しを集めるのは望ましいですわ。サイラス様と組むなら可能性はあります。サイラス様が欲しいですがグランド伯爵が手放してくれませんものね・・。でもサイラス様が優勝するなら、グランド伯爵家に流れますか・・。私も出たいのに許可が出ません。水魔法のアピールしたいのに。フィルとステラと組んで優勝を」

頬に手を添えられリオの瞳と目が合いました。思考の海に溺れそうでしたわ。

「ビアードの宣伝してくるけど、君の兄を倒してもいい?」

リオはビアード家門ではありませんが、答えは決まってます。
優雅な笑みを浮かべ意思の強い瞳を見つめ返します。

「情けはいりません。ビアードは正々堂々とした戦いを望みます。エイベルは負けません。本気でどうぞ。今年は観戦できるでしょうか・・。一度もしっかり観戦したことありませんわ」
「単独行動は禁止な。優勝したら1日俺と二人っきりで過ごしてくれる?」
「いつもと変わりません。強者は大歓迎です。敬意をしめしてビアードで精一杯おもてなししますわ。エイベルが忙しくて未だにおもてなし権が使えませんが。強い騎士はいつでも大歓迎です」
「出かける場所は俺に任せてよ」
「わかりました。ご武運を」
「当日はこのリボンをつけてくれるか?」

リオに紺色に銀の刺繍の入ったリボンを渡されました。頷くと嬉しそうに強く抱きしめられました。
夢の世界のクロード殿下に甘える腑抜けた私が少し羨ましかったです。
ありえないほど甘い瞳で私を見ていたクロード殿下に陥落させられるでしょう。
恋か依存かはわかりません。優しい笑みと蜂蜜で警戒心を解かせ、甘い言葉で思考を奪い、暖かい腕に抱かれて一心に大事にされれば、弱った私はイチコロでしょう。クロード様は私の思考が読めるので、求める言葉を与えるなんて簡単ですから。吹っ切れたクロード様の破壊力は凄まじかったです。
抱きしめてくれる腕の温もりに甘えて、目を閉じました。少しだけ疲れたので休ませてもらいましょう。

***

今年の武術大会は雰囲気が違います。
国王陛下が来られます。
国王陛下の前で無様な姿は見せられません。
護衛としてビアード公爵も同行します。
今回は予選は前日に終えて、国王陛下のために午前中は在学している嫡男のいる武門名家3家で宝取りをします。
もちろんビアードも参加します。

開会式の前にビアード傘下の選手達を集めてます。

「お集まりいただきありがとうございます。今日は国王陛下が見ております。ビアードの者として恥じない姿を見せていただけると信じています。勝利も名誉も我らのものです。ご武運をお祈りします。お兄様」
「ビアードの雄姿を」

エイベルが剣を掲げると、選手達も剣を掲げました。
レオ様に頼まれたパフォーマンスです。陛下が好まれるそうです。
観客席から歓声が聞こえました。

「盛り上がっているけど、優勝はうち。スミス公爵家の参加がないのが残念だけど」

「すでにご卒業されてますから。うちはどこが相手でも負けませんわ。良い戦いを」

握手を求められたので応じると強く握り返されました。スミス公爵家はビアードの次に力のある武門名家。パドマ様やユーナ様の派閥ですが、すでに卒業されているので今回は不参加です。ライバルですが、年が離れているのであまりお会いする機会はありません。強さに貪欲な気持ちのよいスミス公爵家の三兄弟は令嬢達に人気があります。
いないお家の話はやめましょう。
武門貴族は負けず嫌いなので気合いが入っています。普段は親しい令嬢達も今日は敵です。

「本当に出るのか?」

隣で眺めていたリオに不満そうに見られてますが優雅な笑みを浮かべます。リオはうちの家門ではないので選手に選んでいません。

「ビアードの陣の宝を守るのは、ビアード公爵令嬢の役目です。国王陛下の指名です」

国王陛下から要望がありました。
選手は10人。宝の守り役は家門の令嬢。騎士達が外で戦い、女は家を守るという役割を示すようにと。
宝を敵陣に持ち込まれたら負けです。令嬢ごと攫うか宝剣を奪うかです。
指揮をするのはエイベル。作戦はリオが考えたんですが、ビアードらしくなく実行するか迷いましたが、仲の悪いリオとエイベルが相談して決めたので採用しました。実は二人が乗り気だったので私の反対意見は無視でした。

私は宝剣を持ち本陣に控えるのが役目です。自身を結界で包み何もしなくていいと言われました。
水魔法を見せつけたかったんですが、残念です。

始まりの合図とともに選手達が動き出しました。
3家で争うので、2家が手を組み、ビアードを潰しにくるのは読み通りです。
私の護衛が一人だけ共に結界内に待機してます。
結界の周りには罠が設置されています。もちろん敵陣からうちに来るまでもたくさん。
この作戦はビアードしてどうかと思いますが何度確認してもエイベルが賛成したので、決行しました。
うちの選手達は囮班と隠密班に分かれています。
隠密班の二人が敵陣の宝を狙いに動き、エイベルや有名な選手は全員囮に動いてます。

「レティシア様、よろしいのでしょうか?」
「力を見せつけたかったんですが、エイベルが決めたなら仕方ありません」

私はのんびりと結界の中で観察しているだけです。
罠にかかり敵の選手が自滅しています。私は攻撃を跳ね返す結界で待機するだけなのでつまりません。楽しそうに戦っているエイベル達が羨ましいです。
全くうちが揺るがないので敵は本陣の護衛を減らしてこちらに送ってきました。
竜巻の罠に引っかかり場外になりました。
隠密担当が宝役の令嬢を魔法で眠らせて剣を奪って帰ってきましたわ。
宝も手に入ったので、選手達に癒しの雨を降らせます。
雨に気付いたら本陣に帰ってきます。
ようやく敵の選手達は宝が奪われたことに気付いたようです。
静かに攫うように影の薄い風使いの隠密を手配しましたので。
帰ってきた選手達が整列し跪きました。

「御苦労様でした。ビアードの名にふさわしい雄姿を誇りに思います」

エイベルと一緒に国王陛下に向き直り礼をすると歓声と拍手が響き渡りました。
審判の声で試合の終了とビアードの勝利が告げられました。
国王陛下は穏やかな顔で微笑んでいます。
ビアード公爵は護衛中のため無表情です。
国王陛下からお褒めの言葉をもらいました。
私は本戦の準備を始めましょう。
控え室に行こうとするとリオに手を引かれて食事をとらされました。
打ち合わせもせず、試合以外はずっと私の傍にいるリオは大丈夫なんでしょうか。
選手なのに、私の仕事を手伝っています。
控え室担当のおかげで、ずっと傍にいられて幸せだよと上機嫌に抱きしめるリオは放っておくことにしました。
こんなので優勝できるのかと思っていましたが、本当に優勝しました。
リオの意地悪な作戦と強いサイラス様達が組むと恐ろしく強かったです。
ビアードとして優秀な参謀を歓迎すべきでしょうか・・・。
初めて不正もなく終わった武術大会にほっとしました。
エイベルは3位でした。フィルが準優勝したのは感激しました。ラマン様と契約してからは魔力量があがり、魔法の操作のうまいフィルは一段と強くなりました。
個人戦はサイラス様が優勝しました。エイベルは3位、まだまだ個人戦は実力が追いつかないと悔しそうにしてました。来年こそは優勝すると意気込んでいるので応援しましょう。
リオの優勝よりフィルの準優勝に感動した私に拗ねたリオの頭を撫でると複雑そうな顔をしました。
頼りになるのかポンコツなのかわかりません。
仕方ないので武術大会の後の時間をリオと過ごすと話すと機嫌が直りました。
フィルのお祝いは後日にすることに決めました。
お疲れ様でした。鍛錬に励み強くなろうとする姿は素敵です。フラン王国の未来は明るいです。騎士達の強さの理由を知れたのはビアードに生まれたおかげです。
誇りある騎士達が力を発揮できるようにビアード公爵令嬢として励みましょう。
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